剣の世界で拳を振るう
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現実と仮想
「ぐぁおあああああ!!!?」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
脳が焼けるような感触だ!
俺は訳もわからずにその原因だと思われる頭部の装着物を急いでとった。
「ぐぅ……が……っつぅ……」
じんじんと痛みが止まらない。
先程よりかはましなのだろうが、それでも痛みはまだある。
「……ここは…病院?」
痛む頭を押さえながら辺りを見回す。
薬品の臭いと、何処か清潔さを醸し出す様なそんな場所。
「俺…生きてんのか……」
俺は先程はずした装着物、ナーヴギアを手に取り見つめる。
いつの間にか頭の痛みは引いており、落ち着きが戻ってきていた。
しかしどうして生きて………あ
「神様ボディ…」
そうだった。
転生特典の一つ、神様ボディは外傷及び内傷、又は病気無効の性質を持つ。
だが、劣化品質なため、無敵ボディではないので傷はつく。病気はならない。
「…さて…と」
俺は立ち上がって病室から出る。
向かう場所はナースステーション。
そこでドライバーやらの器具を借りなくてはならない。
「ケン……ちゃん?」
向かおうとしたところで後ろからパサッと何かが落ちる音が聞こえ、振り替えると母さんがいた。
その顔は二年前とは違って少し窶れ、目の下にはうっすら隈が出来ている。
「ただいま母さん。悪いけど工具貸してくんない?」
「ケンちゃん!」
母さんは涙ながらに抱きついてきて頬を刷り寄せてくる。
「ちょ、母さん!落ち着け!」
俺は慌てて引き剥がし、肩をつかんで目を合わせた。
「母さん、俺は直ぐに向こうに戻らなくちゃならない。
だけどその前にやらなくちゃならないことが幾つかあるんだ」
「ひぐっ……なに?」
「俺のアバターデータの復元とナーヴギアの改良」
そう。俺が使っていたアバターは死亡と共に葬り去られた。
だから復元してもう一度あの世界に飛ばなくてはならない。
「ケンちゃ………分かったわ」
母さんは涙をぬぐい、仕事をするときの顔つきになって行動を開始する。
俺は病室にあるナーヴギアと、服を取りに行ってから研究所へと向かうのだった。
「……………拳士…」
そのころキリトは笑う棺桶の捕縛作戦を終わらせ、血盟騎士団の本部へと戻ってきていた。
椅子に座って項垂れ、何度もケンのリアルネームを呼ぶ。
「キリト君…」
アスナはその様子を悲しそうに見つめ、拳をにぎって目を伏せた。
「彼の事は………残念に思う。
かくいう私も、未だに信じられない…目の前で起こった事実だと言うのにっ!」
ドンッと机を叩き、悔しげな顔をするヒースクリフも、感傷に浸っていた。
その時、ピピッとキリトの脳内で音がなった。
「…メール…ケン!?」
「えっ!?嘘!」
「本当かね!」
キリトの言葉に二人は驚き、直ぐ様駆け寄ってくる。
「…読むぞ」
『俺が死ぬ死なない以前にお前達はやらなくてはならないことがある。
笑う棺桶のスパイである、クラディールを捕まえろ。
奴は笑う棺桶に情報をリークしていたかとが分かっている』
「クラディールが!?」
クラディール。
現在はアスナの護衛として日常付いて回る謂わばストーカーの様なプレイヤーだ。
「でもクラディールは緑で……!」
「潜伏するために懺悔クエを受けたんだろう…」
「キリト君、続きはあるかね」
「ああ…」
『一応分かっていることだが、このメールは俺が死んだ後にしか送られないように設定してある。
となれば、俺は死んだのだと思う。
とまあ、ここで俺の秘密を一つ明かそう』
「秘密…?」
『俺は過去、人を8人程殺している』
「なっ!?」
「嘘!?」
「っ……!?」
三人は衝撃の事実に驚き、まさかと続きを急ぐ。
『俺の体感時間で今から約40年前。
俺を庇った人がいてな…それに我を失った俺は親しかったその人を殺した奴を殺し返したんだ。
殺したことに後悔は無かったが、胸に穴が開いた気分だったよ。実際開いたんだけどな』
「40年前…?アイツは俺の一個上で18の筈だぞ……産まれてないじゃないか…」
「話を盛り上げようとしてるの?」
「続きを…」
『まぁキリト辺りは俺の年齢知ってるからおかしいと感じるだろうが事実だ。
俺は過去、二回死んでいる』
「二回死ぬって…え…?」
「どういう…」
『まぁそこら辺はどうでも良いとして、何が言いたいかと言えば、
お前達の誰かは笑う棺桶の人間を一人は殺したはずだ。
その時、後悔が生まれると思うがそれと同時に守った人間もいるのだと、考えなくてはならない。
俺の時は違ったが、お前達はそうだったはずだからな』
「……ケン」
「ケン君…」
『だから俺の事は忘れるよう勤めろ』
そこでメールは終わっていた。
キリトは椅子を叩いて立ち上がり、怒りの形相で叫ぶ。
「そんなこと出来るはずないだろう!」
「そうだよ!出来っこないわよそんなの!」
「二人とも、落ち着きたまえ…彼がそう言うなら、何かしらの考えあってのことなのだろう」
二人が起こるのを納めようと宥めるヒースクリフ。
その時、またキリトの脳内で音がなった。
その送信者がケンだとわかり!直ぐにメールを開いた。
『――――とは言わないぞ』
「ぶっ飛ばすぞ!!わざわざダッシュ書きやがってぇ!」
頭をガリガリとかき回して怒るキリト。
ヒースクリフは疲れたように額に手を当てた。
『悪いな。文字数オーバーだった。
それで………まぁ言うこと無いから一言。
クリア出来ることを祈っている』
「…ケン」
「一緒にクリアしたかったよ……」
「……まて、続きがあるようだぞ」
『――――死んだら祈れるか知らんけどっ☆』
「台無しだよ色々とぉ!!」
「もぉ~~~!!」
「ぶぇっきし!!」
「あら、大丈夫?」
母さん専用の研究所で、ナーヴギアを弄っていたときに大きなくしゃみをした。
「いや、この感じは和人辺りが噂してるな」
「そうなの…早く行って助けないとね」
「ああ」
こうして夜は更けていく。
次の日に作業を終えた俺は、茅場さんの身体が置かれているプライベートルームで、
茅場さんの顔に落書きをしてからフルダイブするのだった。
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