七夕のラプソディー
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第一章
第一章
七夕のラプソディー
茶色にした髪で耳まで隠して女の子でいうショートにしている。黒い眉は見事に斜め上にそれぞれ細く伸びているがその下にある強い光を放つ目はやや垂れている。大きめの鼻にこれかた大きめの引き締まった口元。背も高く外見だけ見れば実にいい感じでる。
この彼薬師弘樹は学校ではそこそこ美男子で通っている。しかしそれ以上に奇人変人として学校内でその名を轟かせているのである。
「私の何処が奇人変人なのだ」
「まずはその一人称何とかしろ」
「高校生で私なんて使うな」
クラスの中でいきり立っているとすぐにクラスメイト達に突っ込まれる。
「大体御前の喋り方が変なんだよ」
「しかも何だ?おかしなことばかりするだろ」
「おかしなこととは」
「行動自体がだよ」
それがそもそもおかしいというのである。
「何をするにしてもな。突拍子もないしな」
「そんなのだから歩く時限爆弾って言われるんだよ」
「むう、私は時限爆弾だったのか」
腕を組んでそのことについて考える。自覚なぞ全くしていなかった。
「それは心外だ」
「心外じゃあねえだろ」
「顔はいいし成績も上々なのにな」
「しかも性格自体も悪くないしな」
そういうところは別に何の問題もないのだ。ただ奇人変人であるというだけである。
「これで普通人だったらな」
「学校も平和だったのにな」
「私が学園の平和を守っているのだ」
こんなことを言うこと自体がおかしいということには気付かない。
「その為に日夜分かたずだな」
「大騒動起こしてるんだな」
「昨日は掃除しててあれだったよな」
クラスメイト達はまた彼に突っ込みを入れる。
「猫が魚を咥えていたとかいって盗まれたものを取り戻すとか言ってな」
「校長室に飛び込んで大立ち回りやっただろ」
「あれはだ」
彼はクラスメイト達が言う昨日のことについて釈明をはじめた。
「あの猫が校長室に逃げ込んだからだ。だから私はあの猫をモップで成敗しようとしてだ」
「で、そこにいた校長先生の頭にモップやって」
「鬘を吹き飛ばしたんだな」
「まさか鬘をしているとは思っていなかった」
とはいってもその顔は平然としたものである。
「しかしよく飛んだものだ、あの鬘も」
「それで猫は逃げて」
「校長先生の鬘疑惑が皆の確信になったな」
この話は前からあったのである。しかしそれを公にしてしまったところに彼の罪がある。流石にこれは洒落にならない話である。
「大体お魚咥えたドラ猫ってよ」
「サザエさんか?」
国民的ドラマの一つである。
「しかも校長室まで飛び込んでよ」
「無茶苦茶になったな」
「それで五日前は」
まだあるのであった。
「何でプールに飛び込んだんだ?」
「それでよ」
彼等はその時のことも言うのだった。
「一応聞くけれどよ」
「何でなんだ?」
「あれはだ」
そのプールに飛び込んだ理由を自分から話す弘樹だった。
「プールの中に何かが見えたからだ」
「何かって何だよ」
「それが問題なんだけれどな」
「ミズカマキリがいたのだ」
それがいたというのである。所謂水棲昆虫である。
「タイコウチもいた。貴重な水棲昆虫がこのままでは子供達に捕まりいじめられると思ってだ」
「それで保護する為にか」
「プールに飛び込んで逃がそうと思ったんだな」
「左様」
まさにその通りだというのである。
「結果としてそれは成功に終わった」
「それで濡れ鼠で授業を受けたのかよ」
「全く」
「風邪はひかなかったぞ」
胸を張って言う。
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