遊戯王デュエルモンスターズ ~風神竜の輝き~
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第1章 夢への第1歩
第1話 新たなる出会い
デュエル・モンスターズ。
それは今や、多くの人々の娯楽はおろか、国際競技にもなっているカードゲームの名前だ。
日本のとある町、アルカディアシティでも、人口のおよそ7割以上がこのデュエル・モンスターズのプレイヤーであり、ソリッドビジョンシステムを駆使し、セットしたカードが実体化するようになるデュエル・ディスクが開発されてからは、日夜、様々な場所でデュエルが繰り広げられるようになった。
この町に住む少年、『南雲 遊雅』もまた、デュエル・モンスターズの熱狂的なファンの1人であった。
そんな彼は今年から、市内の高等学校に入学する。
新たな環境で、新たな友人たちと出会い、そして、どんな楽しいデュエルが待っているのか、彼は心を躍らせながら入学式の日を迎えた。
「遊雅、友達たくさん作って来るのよ」
「ああ!デュエリストの友達ができれば、もっとたくさんデュエルができるからな!母さん、行ってきます!」
気合も十分に、遊雅は家を飛び出した。
自宅から少し移動した所で、遊雅はある人物と遭遇する。
「あっ、遊雅、おはよう!」
「よっ、亜璃沙!」
彼女は遊雅の幼馴染、『神原 亜璃沙』。
彼女もまたデュエル・モンスターズのプレイヤーであり、今春から遊雅と同じ翔竜高校に入学する事になっている。
「その様子だと、早く新しい人と出会いたくて我慢できないみたいね?」
「当たり前だろ!早くデュエルしたくてうずうずしてるぜ!」
「もう……昨日も私とデュエルしたって言うのに……ほんとにデュエル馬鹿なんだから」
「何と言われようと、俺は三度の飯よりデュエルが好きだからな!それに……」
遊雅は自分のデッキケースから、1枚のカードを抜き取り、じっくりとそれを眺める。
《フレスヴェルク・ドラゴン》。それは、遊雅が父親から譲り受けたカードだった。
「俺はこいつと、最強のデュエリストになるって決めたんだ!」
「はいはい、もう何度も聞いたわよ。あっ、ほら、そろそろ着くわよ」
「よっしゃ、腕が鳴るぜ!」
「あっ、ちょっと遊雅!」
遊雅はまだ見ぬ好敵手との出会いに期待して、いても立ってもいられずに走り出した。
他の生徒達の隙間を縫うように、素早く確認した自分のクラスの教室へ急ぐ。
そして、教室へ入るが否や、彼は教卓に立ってこの様に叫んだ。
「みんな!俺とデュエルしようぜ!」
突然の呼び掛けに、教室内の面々は一時驚き遊雅に視線を向けたが、すぐに大部分は彼への興味を失くして、各々の会話に戻ってしまった。
「あっるぇ~?何でみんな興味なさそうなんだ……」
「あっ、いたいた。もう、遊雅、いきなり走り出さないでよ」
「あっ、亜璃沙。お前ひょっとして同じクラスか?」
「ええ、そうよ。それよりどうしたの?不思議そうな顔して」
「あぁ、いや……デュエルしようぜ、って呼び掛けたんだけど、何かみんな興味なさそうでな」
「そりゃあ、たった今初めて会った人にデュエルしようって言われても、戸惑うでしょ」
「うーん、そっかなー……俺なら喜んでデュエルするけど」
「遊雅は他の人とは違うのよ」
言い捨てながら、亜璃沙は教卓のディスプレイに表示されている座席表に従って、自分の席に向かった。
遊雅もそれに倣い、座席表で自分の席を確認する。
どうやら、廊下側の後ろから2番目、亜璃沙の隣の席のようだった。
自分の席に向かい、腰を落ち着けた遊雅に、後ろから話しかけてくる人物がいた。
「君、デュエルするの?」
「えっ?ああ、大好きだぜ。お前は?」
「僕は『天藤 秋弥』。僕もデュエルが大好きなんだ。よかったら、放課後にでも、僕とデュエルしてくれないかな?」
「おっ、まじか!お安い御用だぜ!」
「それと、その……デュエルだけじゃなくて、僕と、友達になってくれないかな?」
「ああ、勿論だ!俺は南雲遊雅!よろしくな!」
「うん、よろしくね!」
2人のやり取りを見ていた亜璃沙も、その会話に参加する。
「私は遊雅の幼馴染で、神原亜璃沙って言うの。私の事もよろしくね、天藤君!」
「神原さん、だね。うん、よろしく!」
「亜璃沙もデュエルするんだぜ!まっ、俺にはかなわないけど、そこそこ出来るから、楽しみにしてろよ!」
「俺にはかなわない、は余計よ!」
「あはは、2人とも、仲がいいんだね」
3人で会話に華を咲かせていると、入学式の時間はすぐに訪れた。
上級生からの激励の言葉には多少胸を打たれる気もしたが、その後の理事長の長ったらしい演説には、辟易せざるを得ない新入生一同であった。
しかし、遊雅にとってはその後、個人的に入学式よりも大事なビッグイベントが待っている。
高校での最初の友人とのデュエルだ。
いよいよ、その瞬間が訪れようとしていた。
LHRにて担任教師からの連絡事項を聞き終えた遊雅は、秋弥と亜璃沙を引き連れて、昇降口の目の前の噴水広場に陣取った。
「よし、秋弥!早速始めるぞ!」
「うん、よろしく、遊雅!」
お互いに左腕にデュエル・ディスクを装着し、起動させる。
最初はただの長方形の機械でしかなかったデュエル・ディスクは一瞬の内に変形し、各種カードをセットするためのアームがその姿を現した。
デッキホルダーに自分のデッキをセットした2人のデュエリストは、声を揃えてこう叫ぶ。
「「デュエル!!」」
これがデュエル開始の意思表示だ。
次第に、噴水広場にこのデュエルを観戦しようと人が集まり始めた。
「先攻はもらうぜ!俺は手札から《クラスターズ・ファルコン》を召喚!」
デュエル・ディスクにセットされたカードがソリッドビジョンシステムによって実体化する。
鮮やかなエメラルドグリーンの羽毛に身を包んだ巨大な鳥のようなモンスターが、2人の間に姿を現した。
《クラスターズ・ファルコン》
☆☆☆☆ 風属性
ATK/1600 DEF/1200
【鳥獣族・効果】
このモンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、自分の手札に《クラスターズ・ファルコン》が存在する場合、そのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
「《クラスターズ・ファルコン》の効果発動!召喚、反転召喚、特殊召喚に成功した時、手札に《クラスターズ・ファルコン》がある場合、そいつも特殊召喚できる!来い!《クラスターズ・ファルコン》!」
遊雅がデュエル・ディスクにもう1枚の《クラスターズ・ファルコン》を置くと同時に、フィールド上にもう1体の《クラスターズ・ファルコン》が姿を現す。
「先行は攻撃できないからな。俺はリバースカードを2枚伏せて、ターンエンドだ!」
遊雅の足元に、表が下を向いた状態のカードが実体化する。
これが、リバース状態のカードのソリッドビジョンだ。
「よし、僕のターンだね、ドロー!」
今ドローしたカードを含めた6枚の手札を確認して、秋弥は最初の一手を打つ。
「僕は《俊足のギラザウルス》を、手札から特殊召喚!」
獰猛な爪と牙を持った二足歩行の恐竜が、秋弥のすぐ隣に姿を現した。
《俊足のギラザウルス》
☆☆☆ 地属性
ATK/1400 DEF/400
【恐竜族・効果】
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚に成功した時、相手は相手の墓地に存在するモンスター1体を選択して特殊召喚する事ができる。
「特殊召喚する効果を使った時、相手は墓地からモンスターを特殊召喚できるけど、遊雅の墓地にはまだ何もないよね?」
「ああ、まだないぜ」
「それじゃあ、何も起こらないよ。そして僕は、《ジュラック・ガリム》を召喚だ!」
今度は、炎に包まれた一見すると鳥のような姿をした恐竜型のモンスターが現れた。
《ジュラック・ガリム》
☆☆ 炎属性
ATK/1200 DEF/0
【恐竜族・チューナー】
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時に発動する。
相手は手札を1枚捨ててこのカードの効果を無効に出来る。
捨てなかった場合、このカードを破壊したモンスターを破壊する。
「そして僕は、レベル3の《俊足のギラザウルス》に、レベル2の《ジュラック・ガリム》をチューニング!」
「チューニングって……まさか、いきなりシンクロ召喚!?」
《ジュラック・ガリム》が光の輪に変わり、《俊足のギラザウルス》がその輪の中を駆け抜ける。
すると、《俊足のギラザウルス》もまた眩い光に包まれた。
「来い!レベル5、《ジュラック・ヴェルヒプト》!!」
《俊足のギラザウルス》を包んだ光が消えた時、その姿は全く別の物に変わっていた。
爪は更に鋭い物に変わり、その身に炎をまとった紫色の二足歩行の恐竜の姿に。
《ジュラック・ヴェルヒプト》
☆☆☆☆☆ 炎属性
ATK/? DEF/?
【恐竜族・シンクロ/効果】
チューナー+チューナー以外の恐竜族モンスター1体以上
このカードの攻撃力・守備力は、このカードのシンクロ素材としたモンスターの元々の攻撃力を合計した数値になる。
また、このカードが裏側守備表示のモンスターを攻撃した場合、ダメージ計算を行わず裏側守備表示のままそのモンスターを破壊できる。
「すげぇな秋弥!1ターン目からシンクロ召喚しちまうなんて!けど、攻撃力も守備力もそんなんじゃ、俺の《クラスターズ・ファルコン》は倒せないぜ!」
「それはどうかな、《ジュラック・ヴェルヒプト》の攻撃力と守備力はね、シンクロ素材にしたモンスターの攻撃力の合計と同じになるんだよ」
「シンクロ素材にしたモンスターの攻撃力の合計……と言う事は!」
「そう!素材にした《俊足のギラザウルス》と《ジュラック・ガリム》の攻撃力の合計は2600。よって、《ジュラック・ヴェルヒプト》の攻撃力と守備力は、2600になる!」
《ジュラック・ヴェルヒプト》
ATK/?→ATK/2600 DEF/?→DEF/2600
「バトルだ!ヴェルヒプトで、《クラスターズ・ファルコン》に攻撃!バーニング・スクラッチ!」
「残念だが、罠カード、《大旋風》を発動だ!」
遊雅の足元に実体化していた裏向きのカードの1枚が起き上がる。
2羽の鳥が激しく羽ばたき、巨大な竜巻が起きている様子が描かれたカードだった。
《大旋風》
罠カード
自分フィールド上に表側表示の鳥獣族モンスターが2体以上存在する場合のみ発動できる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。
「《大旋風》の効果で、《ジュラック・ヴェルヒプト》の攻撃は無効!《クラスターズ・ファルコン》には届かないぜ!」
2体の《クラスターズ・ファルコン》が激しく羽ばたき、強風を発生させる。
その風に煽られ、《クラスターズ・ファルコン》に向かって力強く走り続けていた《ジュラック・ヴェルヒプト》は、その突進を続けられなくなり、秋弥の元へ吹き飛ばされてしまった。
「くっ、やるね!それじゃあ僕は、カードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」
「よし、俺のターン!ドロー!」
遊雅が引いたのは、《フレスヴェルク・ドラゴン》だった。
「来たぜ!俺は、2体の《クラスターズ・ファルコン》をリリースして、手札から《フレスヴェルク・ドラゴン》をアドバンス召喚!」
2体の《クラスターズ・ファルコン》が旋風に包まれ重なり合い、1つの巨大な竜巻となる。
その強風を払い、群青色の鱗に覆われた美しい鳥のような姿をしたドラゴンが、甲高い雄叫びを上げながら姿を現した。
これが、遊雅のエースモンスター、《フレスヴェルク・ドラゴン》の姿だ。
《フレスヴェルク・ドラゴン》
☆☆☆☆☆☆☆☆ 風属性
ATK/2500 DEF/1800
【ドラゴン族・効果】
風属性モンスター2体をリリースしてこのモンスターのアドバンス召喚に成功した場合、以下の効果を得る。
●このモンスターは、1ターンに2回まで攻撃する事ができる。
●1ターンに1度、フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する事ができる。
「風属性のモンスター2体をリリースしてアドバンス召喚したこいつは、1ターンに1度、フィールド上のカードを1枚破壊する事ができ、1度のバトルフェイズに2回攻撃する事ができる!」
「えっ、そんな!」
「まずはその効果で、《ジュラック・ヴェルヒプト》を破壊だ!ジャッジメント・ストーム!」
遊雅がそう叫んだ直後に、《フレスヴェルク・ドラゴン》もまた雄叫びを上げ、その立派な翼を激しく羽ばたかせ始める。
その風は鋭利な刃となって、《ジュラック・ヴェルヒプト》をバラバラに切り裂いた。
「あぁ!ヴェルヒプト!」
「続けてバトルだ!《フレスヴェルク・ドラゴン》で、秋弥へダイレクトアタック!ゴッドバード・スラスト!!」
今度は《フレスヴェルク・ドラゴン》自体が旋風をまとい、秋弥に向けて勢いよく飛び出した。
「伏せカードオープン!《次元幽閉》!攻撃してきたモンスターをゲームから除外するよ!」
《次元幽閉》
罠カード
相手モンスターの攻撃宣言時、攻撃モンスター1体を選択して発動できる。
選択した攻撃モンスターをゲームから除外する。
《フレスヴェルク・ドラゴン》の進路に、禍々しい異次元空間が口を開けた。
「へっ、悪ぃがこのデュエルは俺の勝ちだ!伏せ魔法発動!《風神の加護》!」
《風神の加護》
速攻魔法カード
風属性モンスター1体を対象とする効果モンスターの効果・魔法・罠カードが発動された時に発動する事ができる。
そのカードの発動を無効にして破壊する。
また、このターン相手は、同じ対象に対して効果モンスターの効果・魔法・罠カードを発動する事はできない。
一際強い風を身にまとった《フレスヴェルク・ドラゴン》は、再び大きく吼えた。
進路上に口を開けていた異次元空間を物ともせずに突き抜け、秋弥に向かって飛行を続ける。
「このカードの効果で、《フレスヴェルク・ドラゴン》に対する《次元幽閉》の効果は無効!大人しく攻撃を食らってもらうぜ!」
「そんな……うわぁっ!!」
《フレスヴェルク・ドラゴン》の突進を受けた秋弥は、後方へ吹き飛ばされた。
しかし、ソリッドビジョンシステムによって衝撃はある程度緩和されている。
モンスターの行動などが現実にも少しばかり影響するようにしたのは、デュエルの臨場感を少しでも高めるための開発者の計らいだろう。
もちろん、安全を最前提に設計されているため、怪我人が出た事がないのは言うまでもない。
そして、《フレスヴェルク・ドラゴン》の攻撃を受けた事で、秋弥のライフポイントが削られた。
天藤 秋弥
LP/4000→LP/1500
「まだだぜ!風属性モンスター2体をリリースして召喚された《フレスヴェルク・ドラゴン》は、1ターンに2回攻撃できる!行け、《フレスヴェルク・ドラゴン》!追撃のゴッドバード・ストライク!!」
秋弥に突進した後に上空へ舞い上がった《フレスヴェルク・ドラゴン》は再び雄叫びと共に、倒れた秋弥に向けて急降下を開始する。
強風と共に鮮やかな群青色の光を撒き散らしながら、《フレスヴェルク・ドラゴン》は秋弥に激突し、再び舞い上がった。
「うわぁっ!!」
叫び声を上げてはいるが、プレイヤーに伝わるのは若干の衝撃のみで、痛みはない。
天藤 秋弥
LP/1500→LP/0
「よっしゃあ!勝ったぜ!サンキューな!《フレスヴェルク・ドラゴン》!!」
《フレスヴェルク・ドラゴン》は、最後にもう1度だけ雄叫びを上げ、遊雅のデュエル・ディスクへ群青色の光となって戻って行った。
高校生活最初のデュエルを、遊雅は勝利で飾る事ができたのだった。
「楽しいデュエルだったぜ、秋弥!」
「うん、僕もすごく楽しかった!遊雅って強いんだね!憧れちゃうよ!」
「よせよ、そんなの。って、おぉっ?いつの間にか人が……」
「おい、お前すげぇな!次、俺とデュエルしてくれよ!」
「俺も頼むよ!」
「俺も俺も!」
「お、おいおい、順番だって、順番!へへっ、よっしゃ、みんな相手してやるぜ!」
「あーあ、あんなに囲まれちゃって……これは私も、今日はしばらく帰れそうにないなぁ」
そんな事をぼやきながら、秋弥の手を掴んで起こした亜璃沙も、遊雅のデュエルを言葉には出さず応援するのだった。
そして、そんな様子を校舎の2階から眺めている人物がいた。
「そうだ……彼ならば、きっと……!」
デュエルを眺めながら、何かを閃いたこの男性は、この学校の教員。
この男性が遊雅と接触した時、彼が自分の夢を叶えるための最初の1歩を踏み出す事になるのを、今は誰も、知る者はいない。
後書き
追記
《大旋風》の効果を『鳥獣族モンスターが2体存在する場合』から『2体以上存在する場合』に修正しました。
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