魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Myth20生命の源なる海の中で・・・~Drachen des OzeanE~
前書き
Drachen des ozeane/ドラッヘン・デス・オツェアーン/大海の竜
VSアンナ・ラインラント・ハーメルン・????戦イメージBGM
Tales Of Destiny : Director's Cut『Lion - Irony of fate -』
http://youtu.be/3Txdb8CZdB4
†††Sideオーディン†††
「ごぼごぼごぼ・・・・!」
『マイスター!』
アンナが引き起こした海水を利用した攻撃によって海中に引き込まれてしまっていた。荒れ狂い流れる水流に必死に抗い、心配してくれたアイリに『問題ない、アイリ。心配するな』と応じ、酸素を求めて海上に上がろうとする。が、それを妨害するのは変わり果てた姿となってしまっているアンナだ。今のアンナは体は、上半身は彼女自身のもの。
(裸だが、バストトップだけは申し訳程度に鱗で隠れていて・・・助かる)
しかし下半身は人の足ではなく3m近い竜の尾で、透き通るような白さの鱗で覆われている。背には天使と悪魔の翼がそれぞれ2枚ずつの計4枚――と言う姿だ。竜の尾を魚の尾びれのように使って海中を高速移動し、私の頭上へと移動してきたアンナ。海面へ上がるのは無理だと判断し、私とシェフィの2人で生み出した水流系の術式を発動。
『(これで溺死・圧死は免れるな)アンナ! 自我があるなら、返事をしてくれ!』
水中でも外界のように自由に動ける魔力コーティングを施し、アンナに念話を繋げる。しかし返答は、
――ヤコブの荒流――
海中で起こる強烈な水流。成す術なくその荒い水流に飲まれ、視界がグルグル回る。その中でも『アンナ!』呼びかけるが、アンナからは「ΠИЮ⊆Ω∧Д」という、普通の人間では聞き取れない、理解できない言語を言うだけだ。しかし私は理解できる。知り合いにこの言語を扱っている者が居るからな。
『(ΠИЮ⊆Ω∧Д――斃さないと、か・・・。私の事だろうな、やはり。とりあえず・・・)私は大丈夫だ。アンナは私に任せ、各騎はそれぞれの戦いに集中してくれ!』
私を助けようとするかもしれないシグナム達に、助け無用の思念通話を入れておく。海中に入れば、間違いなく何をする事も出来ずにアンナに潰されるだろう。正直私でも勝てるかどうか判らない。何せアンナのあの体は・・・・
『いま助けるからな、アンナ!』
VS◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦
其は大海統べりし海竜の血族アンナ
◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦VS
荒れ狂った水流も収まり、体勢を整えた時にはさらに海底へと押し込まれてしまった。アンナはおそらく無理やり魔族化されてしまっているはずだ。自然で発現するものじゃないからだ。そんな事が出来るのは、魔族を知り、神秘を扱える奴――それは“堕天使エグリゴリ”だけだ。
居る。今、間違いなくイリュリアに“エグリゴリ”の誰かが居る。今すぐ飛んで行きたい。だが今はその思いを理性で封じ込める。アンナを救い、エリーゼ達の元へ連れ帰る。まずはそれからだ。だから・・・・
――静穏なる碧色の瀑雷――
「少々痛いと思うが辛抱してくれ!」
未完成な術式である下級の水流系術式を発動。アンナの周辺の水圧を操作して機雷を作り出し、包囲する。この時代にはまだ存在しない非殺傷性を追加付与。これで間違ってやり過ぎる事はない。魔力ダメージと、魔族に通用するよう神秘を今まで以上に上乗せした一撃だ。
魔力ダメージで昏倒させ、ゆっくりと魔族化を解く。これがセオリーだろう、今のところは「なっ!」機雷を炸裂させる。アンナが機雷の爆発によって発生した泡で見えなくなるが・・・・まぁ当然「これくらいで昏倒しないよな・・・!」アンナは無傷の姿で現れた。
「斃さないと、斃さないと・・・」
魔界の言語を発するアンナ。虚ろな灰色の瞳は銀色の光を放ち、両腕を大きく広げた。身構える。「っ・・・?」私とアンナの周囲半径300m圏内の水流が自然のものではなく、操作されたように不自然な流れとなったのに気付いた。さっきと同じ水流操作か? アンナは広げていた腕を私へと向けた。来る。そう思った瞬間に、「あなたを斃さないと!」アンナがそう叫び・・・
――ゼルバベルの叱責――
「水流造形の術式か・・・!」
数えるのも億劫なほどに生み出された水人形。それらが一斉に襲かかってきた。私も水流を操作し、海中を高速移動。向かってくる水人形を起動した“エヴェストルム”を振るって真っ二つにするが、『マイスター、すぐに再生しちゃうよ!』アイリの言うとおり水人形の素材は海水だ。
海水真っ只中でどれだけ水人形を潰そうとすぐに再生され、また新しいのが生み出される。アンナ・ラインラント・ハーメルン。彼女のずっと遠い祖先の中に、魔界最下層の一国・海国シュゼルヴァケティアの一員がおそらく居たんだろう。
――激動する水霊の歯牙――
――ギデオンの咆哮――
私は水流砲撃を放つ。砲撃はアンナと私の間に居る水人形を粉砕、巻き込みながら突き進み、アンナに着弾する寸前で彼女も水流砲撃を放って相殺した。そこからは砲撃の撃ち合いだ。アンナはただ砲撃を撃つだけだが、私は砲撃と水人形の両方に注意しなければならない。
やはり水中戦が出来るとは言え、向こうは水の魔族だ、どうしても差が生まれてしまう。しかも問題はアンナだけじゃない。海上――正確には島の上に在るミナレットから膨大な魔力が放たれたのを感知。
(カリブルヌスか・・・!)
海上に居ればどうとでも対処が出来るが、残念ながら今は海中、しかも戦闘中。そして海中にまで届くカリブルヌスの閃光。放たれてしまったな。ミナレットを潰すための魔道エーギルを使いたいが、海中に居ては発動できない。やはり早々にアンナを助けないといけないな。
『アイリに何か出来る事ない? 何でもやるよ!』
アイリが頼もしい事を言ってくれるが、今のアイリに出来る事はそうない。いや、氷結か。やってみるか。『アイリ、行くぞ』と術式補助を任せる。アイリからは嬉々とした『アイリはもう準備万端だよっ♪』という返事が。とりあえず吹雪関連は散らされる可能性があるな。個体としての氷雪術式が良いだろう。
――舞降るは、汝の麗雪――
手始めに氷の槍シャルギエルを7基展開、アンナへ向け射出する。アンナは悠々と高速で泳ぎ、余裕で回避。直線的ではどれだけ速度があっても避けられるな。
――瓦解せる喰飲の龍咆――
まずは布石だ。海水の龍を13頭と作り出し、一斉にアンナへと突撃させる。海龍は水人形を次々と食らっては吸収し、回避に入ったアンナを追い縋る。その間に、周囲の海水を弾丸状にした下級術式――拡散する穿滅の弾幕アールデンレウスを発動。海龍を操ってアンナを誘導しつつ水人形を殲滅し終える。今まで見た機動力、防御力、迎撃力――さらにその上方予測値を計算に入れ、アンナの回避場所を予測する。
「斃さないと、斃さないと・・・!」
――ギデオンの咆哮――
海龍の迎撃に移ったアンナ。高速遊泳しながら的確に海龍を砲撃で潰すその腕には舌を巻く。一度海龍のアンナ追撃を中断させ、アンナの移動をやめさせると同時に「行けッ!」水弾をまず11発を間隔を開け発射。水弾の接近に気付いたアンナは再度回避を開始し、それに合わせて第二波――8発を放つ。アンナが向かった地点に海龍を3頭突撃させる。水弾と海龍の挟撃だ――が、アンナは両方に手の平を翳す。
――ダビデの星盾――
すると水流が六芒星の形で力強く流れ、迫り来ていた海龍と水弾を粉砕した。なるほど。だったら動きを封じられている今のうちに全ての海龍と水弾を向かわせる。
――ゼルバベルの叱責――
また生み出される水人形、その数は数えるのが果てしなく面倒なほど。しかしもう私の魔道の前に水人形は役に立たない。私の背後に現れた水人形数体に“エヴェストルム”を叩き込み寸断、間髪入れずに『いくよっ!』アイリの冷気で氷結し、出来た破片を“エヴェストルム”で殴打してアンナの元へとかっ飛ばす。アンナは背に在る4枚の翼で身を包み・・・すべての攻撃が着弾する寸前で大きく広げた。
――ネヘミヤの剣――
「がはっ・・・・しまっ――ごぼごぼっ!?」
『マイスターっ!?』
剣状の水圧×120ほどが目にも留まらない圧倒的な速度で放たれ、それらは私の魔道――海龍と氷弾を粉砕し、私に直接ダメージを与えてきた。魔力コーティングが破かれ、この身を海中にさらし溺れかけてしまったが、すぐに魔力コーティングしなおす。とりあえず『大丈夫マイスター!?』そう心配しまくるアイリに『大丈夫だよ』と答え、再び翼で自分を包んだアンナより高速離脱。
(物量攻撃で魔力コーティングを破壊されるとは・・・・今の攻撃は要注意だな)
――ネヘミヤの剣――
再度放たれてきた剣状の水圧。紙一重で回避し続ける中、ミナレットがまた魔力を充填し始めたのが判った。仕方ない。これで止める事が出来るか判らないが・・・・。
『各騎! ミナレットの近く、島に降り立っている場合はすぐに避難してくれ!』
グラオベン・オルデンのみんなに念話で指示を出す。そう間もなく『各騎、問題ありませんっ!』シュリエルから返答が来た。即座に水流系中級術式を発動する。
――押し流せ、汝の封水――
ヒュドリエルは大津波を発生させる術式だ。この魔道で島の上に在るモノ全てを押し流してやる。ヒュドリエルの影響で海中が大きくうねり出す。島から結構離れているこの地点にも島の上に在った建造物の瓦礫や木々の破片が流れてきた。
私とアンナは共に水流操作でうねりに飲まれないよう姿勢制御。互いを見失わないように注意する。問題のミナレットはおそらく無事だろう・・・が、「よしっ」魔力充填は防げたようだ。次弾発射までにアンナを助けないとな。その問題のアンナは尾と3枚の翼で水を掻き高速遊泳、あろう事か接近戦を挑んできた。いや、元より水の魔族だ。戦術レンジなど関係ないか。
――瓦解せる喰飲の龍咆――
迎撃のための海龍を15頭突撃させる。アンナは海と一体と化しているかのように一切無駄のない流れるような動きで回避、そのままの勢いで突っ込んで来る。“エヴェストルム”を二剣一対のツヴィリンゲン・シュベーアトフォルムヘ変え、「あああああああああああああッ!」叫び声を上げながら向かってくるアンナの迎撃態勢に入る。
間合いに入り、左の“エヴェストルム”を横薙ぎ一閃。対するアンナは右手で刃を鷲掴んで止めた。しかも握力のみで穂を粉砕した。アンナは「斃さないと!」またそう叫んで、左拳打を繰り出してきた。咄嗟にもう片方の“エヴェストルム”を掲げて盾にした――のが失敗だった。鷲掴んででさえ余裕で破壊できるんだ。拳打となれば・・・・
「ぁが・・・っ!」
やはり破壊された。その威力は止まらず頬を殴られた。場所が海中と言う事もあり、踏ん張りなど出来ずに海底に叩き付けられてしまった。幸いなのは魔力コーティングを突破されなかった事か。この深度でコーティングを破れる事があれば、水圧でグシャッと肉体が潰されてしまう。まぁ奥歯が折られてしまったが、歯の一本くら安い代償だ。奥歯をペッと吐き捨てる。
アンナの追撃が来る。高速突撃。“エヴェストルム”を待機形態の指環に戻し、リカバリーさせつつ海底を蹴って全力離脱する。直後に海底を殴りつけたアンナ。とんでもない爆発が起きる。直撃していれば確実に殺されていた。発生した衝撃波で弾き飛ばされ、舞い上がる砂塵で視界を潰される。
『マイスターっ、海の上に出て! このままじゃ死んじゃう!』
判ってはいるが、「斃さないと、いけないの!」アンナがそれを許してくれそうにない。砂塵より飛び出してきたアンナが携えているのは、彼女のデバイスである“アインホルン”だ。刺突に特化したレイピア型の武装。直接斬撃による決定打は受ける事はないと思う。しかしまぁ水圧の刃を刀身に付加すれば、レイピアであろうと斬撃は打てるだろう。
――激動する水霊の歯牙――
水流砲撃を3本と放って迎撃。アンナは“アインホルン”を薙ぎ払って水圧の刃を生み出し、砲撃全弾を斬り消した。そして天使のごとき純白の翼2枚の先端だけをこちらへ向け、
――アルバア・ハ=イマホットの滅弾――
弾丸のように羽根を扇状に放ってきた。海面に向かって飛びつつアンナから距離を取る。扇状に放たれてくると、距離を開ければ開けるほど羽根と羽根の間隔が大きくなって回避しやすい。回避している最中、『あの人の周囲、一気に凍結させてもいいよね?』アイリから少しばかり怒りの含んだ念話が。
しかし『凍結、か・・・』水流系の射砲撃に拘るのはもうやめた方がいいのは確かか。魔族、しかも魔獣属・竜種・海竜系の血族たるアンナに、水流系の魔道の威力は半減される。下級術式ならばなおさらだ。だから必要以上のダメージを与えてしまう心配はないんだが・・・攻略する前にこちらが墜とされる可能性が高い。
『(仕方ない)・・・アイリ、アンナに突っ込む』
『・・・それってつまりアイリの案を・・・?』
『ああ、君の案を採用する。零距離でアンナを凍結させ捕縛、解凍と同時に元に戻す』
元より動きを止めるために戦っているんだ。中遠距離からチマチマ撃ち合ってジリ貧になるくらいなら、ハイリスク・ハイリターンで一気に決めてやろうじゃないか。アイリは『了解ですっ。氷結魔導、補助するね♪』嬉々として応じてくれた。
――アルバア・ハ=イマホットの滅刃――
悪魔のごとき漆黒の翼(早い話がコウモリっぽい羽)2枚を高速で払って水圧の斬撃を飛ばしてきた。紙一重で避けつつ接近を続行。アンナは私の行動に疑念を抱いたようで、距離を取り始めた。水中における機動力では向こうの方が圧倒的に上だ。ならば今度はこちらが君の動きを封じよう。
――静穏なる碧色の瀑雷――
アンナの逃げ道の先に機雷を80と発生させる。上、下、左、右、どちらへ方向転換する? それとも構わず突撃するか? まぁ結局は「爆散粛清!」どの選択も意味はないけどな。機雷を全発炸裂させ、アンナを衝撃波で覆い包む。視界潰しと衝撃波による昏倒を狙った。
体勢を整えられる前に接近する。魔力探査を行い、水泡の幕の中に居るアンナの居場所を探す。「見つけたぞ!」アンナの居る地点へ高速移動。水泡の幕の中にアンナの影を見つけた。アイリの力を借りて、両手の平に冷気を閉じ込めた魔力球を発生させる。
『マイスターっ!』
「行くぞッ!」
――凍牙霜雪 氷帝 双冷掌――
全てを凍結させる冷気の魔力球を双手の平に乗せてアンナに繰り出した。本来の双冷掌であれば冷気を両手に直接纏うんだが、海中でそれをやるとヒットさせる前に私の周囲を凍結してしまうため、魔力球に冷気を閉じ込めるという手を取った。
そんな魔力球は確実にアンナの胴体を捉えた。魔力球が破裂し冷気が溢れ出す。一瞬にして凍結されたのは・・・「やられたっ、デコイだ!」アンナそっくりの水人形。冷気は私たちの周囲を凍結、私は魔力コーティングで凍らないが・・・。にしても「一体どこへ・・・?」周囲を警戒。
「どうしてこんな事に・・・?」
耳元でそう囁かれた。明らかに敵意ではなく悲嘆的な声色。「アン――うぁっ?」振り返ろうとしたんだが、後ろ髪を思いっきり引っ張られ無理やり仰がされた。次にアンナはそのまま私の後ろ髪を引っ張り、私は再び海底へと連れ戻されてしまった。
髪を引っ張られる痛みに耐えながらも「アンナ!」呼びかけるが、アンナは返事をしない。そして「ぁぐ・・・っ!」海底に叩き付けられた。それだけで終わらず、あろう事かアンナは私を海底に擦り付けながら移動開始。
ガリガリと顔を砂で削られる。やる事が結構キツイな、君。そして私を頭から岩礁に叩き付けた。額から血が流れる。頭蓋骨陥没にならずに済んだ。アンナがもう一度私を岩礁に叩き付けようとする。さすがにそれは遠慮したい。だから魔道を、というところで・・・・
『この・・・マイスターを放せ!』
――フリーレン・ドルヒ――
アイリが放つ氷の短剣がアンナの白翼の1枚を貫いた。引き千切れた何十枚という羽根が海中に漂う。私の後ろ髪を手放すアンナは一気に私から距離を取り、「なんで、こんな事に・・・!」悲しげな表情を見せてきた。自我を取り戻しているのか、それとも初めからアンナとしての意識があったのか・・・。
「意識があるなら止まってくれっ、アンナッ!」
戦闘行為を中止するよう呼びかける。だが「・・・らない・・・」ボソッとそう呟き、“アインホルン”を振るって突撃してきた。回避行動をとる。アンナの意識がハッキリとしているなら、説得で何とかしたい。“アインホルン”の先端が岩礁に当たり、根こそぎ吹っ飛ばした。とんでもない威力の刺突だな。
「アンナ!」
「・・・止ま・・・ない・・・」
――アルバア・ハ=イマホットの滅刃――
――アルバア・ハ=イマホットの滅弾――
黒翼を払って水圧の斬撃を、白翼の先端から羽根の弾丸を放ってきた。弾幕で私の動きを鈍らせ、水圧の斬撃で決めにかかるという手だな。ならば私は真っ向からの相殺といこう。周囲の水流を操作、砲撃ヴァダーヒスモスを12本と放つ。
相殺しきれなかった斬撃が掠めていく。その間に海面へと向かう。せめて深度50mまで上がらないと。コーティングが破れても死なないためには、コーティング破壊イコール一発死を免れる事の出来る海面近くまで上がらなければ。
――ギデオンの咆哮――
真下から砲撃を放ちながら追泳してきたアンナ。様子を窺うために僅かに視線を真下に向け、気づく。
「アンナ・・・!」
海中でもハッキリと判るほどに彼女は泣いて、涙を流していた。アンナはクシャっと顔をゆがめ「止まらないの! オーディンさん!」悲鳴を上げた。
(止まらない? 魔族としての“力”がアンナの意識を邪魔をしているのか・・・?)
「私の体なのに・・・止まってくれないのっ!」
遊泳速度が一気に跳ね上がり、アンナの姿を見失ってしまった。
「水中戦で敵の姿を見失うのって・・・最下層魔界で試合ったヤツ以来だな・・・」
あの時は、ボロクソに負けたよな・・・。あぁそうだ、負けたんだよ、アンナ。君と同じ姿をした魔族に。
「アルベルトゥス・フォカロルの血族、そうなんだよな君は・・・!」
「っ・・・!」
私の目の前に突如として現れたアンナの目が大きく見開らかれた。君の体に流れている血、その持ち主である魔族の名はアルベルトゥス・フォカロル一族。私が戦ったのはエレウシス・アルベルトゥス・フォカロル。アンナ、君の血族の主の名だ。するとアンナは「やっぱり・・・あなたの正体は・・・」そう信じられないが信じるしかないといった複雑そうな表情を見せた――のも束の間。
「ダメっ!」
――ミリアムの聖歌――
「LAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA !!」
アンナが大きく口を開け、「ぅぐ!」『ひゃう!?』超音波を叩き込んできた。私だけでなく融合状態であるアイリにまでダメージが通った。それが原因なのかアイリとの融合を強制解除されてしまう。すると当然のごとくアイリが「ごぼごぼっ『く、苦しいマイスター!』」溺れだす。すぐさま魔力コーティングをアイリに施す。その隙をアンナは的確についてきた。“アインホルン”の刺突。私は咄嗟にアイリを胸に庇う。
「オーディンさん!?」「げほっごほっ、マイスターっ!」
超音波によるダメージもあって魔道発動や回避すらも出来ず、“アインホルン”の刺突を右肩に受けた。私の右肩を貫く“アインホルン”を持つアンナの手が震えているのが判る。アイリが「よくもっ!」と殺気を漲らせ、「落ち着けアイリ」と宥めるが、聴きそうにない。
アンナは「もう嫌、こんな事、したくない・・・!」首をフルフルと横に振る。先の次元世界での契約を思い出す。フェイトたち“機動六課”が“霊長の審判者ユースティティア”の先代・終極テルミナスに精神操作され、私と先代3rd・テスタメントのシャルと否応なく戦わされたあの事を。
(あの時も、みんなを泣かせてしまったよな・・・)
「お願いです、オーディンさん・・・私を・・・」
空いている左手を握り拳にし、アンナは振りかぶった。こっちも動く左手で右拳打を受け止める。そしてアイリが「マイスターから離れてよねっ!」飛び出して、アンナの顔面にダブルパンチ。見事に鼻っ面に直撃して、アンナの鼻から血が流れ出る。
それでもアイリの攻撃は止まない。頬に額と殴る蹴る。さすがにアンナ――と言うより魔族の意思は離脱を考えたようだ。私がアンナの左拳を放すと「オーディン・・ふぁん・・・」彼女はその空いた左手で鼻を押さえつつ離れた。
「ぐ・・・っ」
“アインホルン”が抜かれた痛みに苦悶を漏らす。しかしレイピア型と言う細身の剣で助かった。幅のある刀身で貫かれればそれだけ回復が遅れるからな。治癒の魔道ラファエルで傷口を治す。アイリが「マイスター、大丈夫なの!?」そう心配してくれ、「大丈夫だ」と微笑みかける。そしてアンナは“アインホルン”の細身の刀身に付着した私の血を、海中に溶けて消える涙を溢れさせす目で見、
「お願い・・・私を・・・殺して、下さい・・・!」
そう苦しそうに呻いた。馬鹿を言うな、誰が殺すものか。君をエリーゼ達の待つアムルへ絶対に連れ帰る。それは誓いだ。だから「生きる事を諦めるなッ」そう怒鳴りつける。私とて自分を殺してやりたいという苛立ちを、“堕天使エグリゴリ”を助けるというシェフィとの約束を果たす、その思いで捻じ伏せて・・・今も生きている。約束を果たすその時まで、私は無様でも何でもいい、生き抜いてやる。
「諦めたくなってしまっても仕方がないじゃないですか!」
「何故そんな事を言う! 諦める必要がどこに在る!」
――ヤコブの荒流――
私とアンナの間に巨大な渦が発生した。海底の砂を巻き上げ、沈殿していた大木やら瓦礫をも巻き込んだシャレにならない大渦だ。しかも「まずい、引っ張り込まれる・・・!」渦に巻き込まれそうになるのを必死に耐え、距離を取ろうとしたとき、「ダメ!」アンナの悲鳴。
アンナは渦に向かって水人形十数体を吶喊させ、あろう事か瓦礫にタックル、私へ向け突き飛ばした。渦の水流を利用した事で瓦礫は高速で飛来してくる。直撃すると圧死だな。こちらも水流操作を行い瓦礫の速度を鈍らせたあと、水圧の砲弾を打ち出す拳打ルゴナラークで迎撃。瓦礫を跳ね返す。その瓦礫は渦に巻き込まれている他の瓦礫や木々にぶつかり、拡散させた。
「私は人間じゃなかったんですよっ! 見てください、この化け物の体を!」
泣き笑いの表情を浮かべ、未だに渦に残っている瓦礫のいくつかを飛ばして来た。だが、どれも私に向かう事のない明後日の方へと飛んで行ってしまいそうだ。
「もうエリー達のところへ帰れない! 私の体なのに自由に出来なくて! オーディンさんを苦しめる!」
――ギデオンの咆哮――
アンナが瓦礫の数だけ砲撃を放ち、なんとそれで瓦礫の軌道を変更させ、私を包囲させた。回避か防御か迎撃か。取れる選択は・・・防御だけだった。アンナは瓦礫をさらに水圧の刃でバラバラにし、回避できないほどの瓦礫数で包囲網を敷いてきた。もちろん迎撃するする事も出来ない事はないが、迎撃中にアンナからの直接攻撃が来ると対処しきれない。だから球体上の魔力結界を発生させ、襲い掛かってきた瓦礫をすべて防ぎ切った。
「オーディンさん!」『マイスター!』
瓦礫は防いだ。しかし「いつの間に・・・!?」魔力結界内にアンナが入り込んでいた。移動速度がさらに上がっている。額に向けられて繰り出された“アインホルン”の刺突を首を反らしてギリギリで避ける。刀身を鷲掴み、「アイリ!」アイリに目で合図を送る。アイリは「うんっ」そう頷いて“アインホルン”の刀身にしがみ付いた。
――竜氷旋――
アイリの全身から解き放たれた冷気が“アインホルン”を完全凍結。すぐさま粉砕する。少し痛いが「我慢しろアンナ!」アンナの鳩尾に拳打を撃ち込む。「ごふっ」体をくの字に折ったアンナの背中に生えている4枚の翼の根元を鷲掴む。結界内の水流を操作し、4枚の翼を刈り取る。これでアンナは高速遊泳は出来なくなった。
「ダメ、ダメダメ・・・ダメ・・・!」
「っく・・・!」「きゃう!」
拘束を後回しにしたのがちょっとミスったな。アンナに集束する龍のごとき水流によって弾き飛ばされた。結界の内壁にぶつかり、止まる事が出来た。よし、このまま結界を維持しよう。この直径100m内が最後の戦いのステージだ。
「さあアンナ。次は、その尾だ。大丈夫。元の姿に戻すから」
右手を差し伸べて笑いかけると、「オー・・ディン・・さん・・・」アンナが魔族の“力”に抗うかのようにぎこちなく右手を伸ばした。しかし「まだ止める事が出来ませんっ!」そう叫んで砲撃を撃ったが狙いが甘い。僅かに横移動するだけで回避できる。そのまま結界に着弾するが、貫通せずに掻き消えた。威力すらも落ちている。後に管理局が定めるランクで言えばS-辺りだ。もう決着は見えている。
「無理はしないでいい。私が止める。アイリ!」
「うんっ!」
再びアイリと融合を果たす。別に必要はないが、離れているとアイリが狙い撃ちされる可能性もある。私にとってはもう恐れのないアンナの攻撃だが、アイリにはまだ強すぎる威力だ。受けては危険。だからこその融合だ。結界内の水流を操作、アンナの四肢を拘束するために渦を発生させる。まぁなんの布石もなく発生時が丸見えな拘束に引っかかるほど、今のアンナはノロくなかった。
――ネヘミヤの剣――
「・・・助けて・・ください・・・私、死にたくないです!」
「ああ、助けるさ!」
そしてアンナは私を全周囲を包囲するかのように水圧の剣を何十基と展開し・・・「止まって!」叫んだ。剣の射出がピタッと止まったと思えばすぐに放たれてきた。リカバリーを終えた“エヴェストルム”を起動、二槍一対のツヴィリンゲン・ランツェフォルムにし、高速旋回させて剣を粉砕していく。
「・・・もう少しの辛抱だ、アンナ!」
私の言葉に「・・・はい!」そう強く頷いたアンナ。そしてアンナは槍投げ選手のような体勢を取る――と、「水圧の槍の投擲です!」これから放つ攻撃が何かを教えてくれた。案の定、アンナの手に圧縮された水圧の長槍が生まれた。
“エヴェストルム”の片方を剣形態にし、柄頭から魔力の縄を作り出し連結、鞭の形態パイチェ・フォルムにする。槍形態の“エヴェストルム”を手に、魔力縄の先端に繋がれた剣形態“エヴェストルム”をブンブン振り回す。
――オトニエルの海槍――
「もう勝手に私の体を使わないで!」
投擲された水圧の槍に向けて振り回していた“エヴェストルム”を繰り出す。先端同士が衝突。水圧の槍を潰し、そのままアンナの元へと突き進む。アンナの体が彼女の意思に反し横移動を行う。それでいいんだ、それが狙いだ。手にする“エヴェストルム”をクイッと動かす。それが魔力縄に伝わり、先端の“エヴェストルム”の軌道が変化。
「あ・・・っ!」
アンナを魔力縄で簀巻き状態にする。“エヴェストルム”をグッと引っ張り、アンナをこちらへ引き寄せる。魔力炉を限界ギリギリにまで稼働させ、アンナの魔族化を抑える術式をスタンバイ。
「少しキツイが・・・」
「耐えてみせますっ!」
強い意志の光を宿すアンナの瞳を見詰め、彼女の胸元――心臓付近に触れる。アンナは最初は呆然。しかし男である私が、少女である自分の胸に触れられたと理解したところで顔がボンッと真っ赤になった。辛さ、悲しさ、悔しさで泣いていたアンナだったが、今は恥ずかしさ――羞恥で泣きそうだった。とりあえず「すまない。血液が集中する心臓でないとダメなんだ」頭を下げて謝る。
「ひぅ、い、いえ、大丈夫です、お願いしま――あん❤・・くすぐった・・・」
「・・・爪を立てるぞ、痛むだろうが・・・必ず傷は治すから」
「お、お願いします!」
右手の五本の指の爪を立て、アンナの肌に傷をつけ血を流させる。魔力を放出。流れる血を介してアンナの体内に魔力を流していく。ビクンと体を跳ねさすアンナが「んぁ・・・」息を漏らす。
――NYD(ニード)――
アースガルド王族にのみ扱える原初の魔道ルーンを発動。ニードは束縛・抑制のルーンだ。これで魔族の血を抑えつける。今のアンナは、“エグリゴリ”の誰かの神秘によって、魔族の血を無理やり覚醒された状態だ。
先祖返り。ラインラント・ハーメルン家の先祖の誰かがアルベルトゥス・フォカロル一族と関係を持ったんだろう。魔族と人間が交配した場合、その子供の外見や中身は十中八九人間になる。現実の人間と幻想の魔族。どちらの存在が強いかは考えるまでもないんだが・・・。アンナは特に血が濃かったんだろう。
「ぅあ・・・ぅぐ・・・!」
――ネヘミヤの剣――
水圧の剣が10基と展開される。だが心配はない。何故なら『アイリが迎撃するからね!』頼もしい相棒が居るんだから。
――フリーレン・ドルヒ――
倍の20基の氷の短剣が作り出され、射出される直前の剣へ向かって行き、相殺していく。威力がほとんどない。それにアンナの下半身にも変化が起き始める。鱗が徐々に消えて行っている。というかバストトップを覆う鱗もだ。慌てて「我が手に携えしは確かなる幻想」と詠唱、術式や能力などを保管している“英知の書庫アルヴィト”から、
「変化せしめし乱音」
ある術式を発動させた。それは対象を強制変身させる術式だ。外見や服装とか。アンナに着せたのは何てことはない普通のロングワンピース。これでアンナが裸体を晒すなんて悲しい事故は起きない。
――EOLH(エオロー)――
次に保護・防御策構築・庇護のルーンを発動。魔族の血を封印レベルにまで防御し、2度とこのような事が起きないようにアンナの人間としての血を保護。
「・・メ・・・ダメ・・・来ないで・・・来ないでっ! 私は・・魔族なんかじゃ・・・ないっ!」
“エヴェストルム”の魔力縄の拘束を引き千切らんばかりに暴れるアンナ。アンナの背後に回り、「ああ、そうだっ、君は人間だ!」強く抱きしめる。
「っ!・・・あぅ・・ぐ・・オーディ・・ンさん・・・!」
「もう少しだ! がんばれ、アンナ!」
――IS(イズ)――
最後に、望まれない活動力の制御と封じ込めのルーンを仕掛ける。ルーンによる三重封印結界。これを打ち破る事が出来る奴はそうはいない。今のアンナなら特にだ。アンナがブルッと大きく体を振るわし、「ぅああああああああああ!」魔族の血の、最後の抵抗とも言える魔力放出を行った。
――女神の救済――
しかし残念。その魔力、頂こう。消費した魔力を一気に回復させる。我ながら最高の術式を生み出したものだ。アンナの魔力放出も収まり、彼女は項垂れた。よし、完全に人間に戻る前に魔力コーティングをしておかないとな。せっかく助け出せたのに水圧による圧死と溺死で死なせてしまっては意味がない。
『・・・・マイスター・・・?』
『・・・・ああ、もう大丈夫だ。アンナは元通りだ』
私が抱きしめているアンナの姿形は、私やみんながよく知る人間そのもの。スカートの裾から出ているのも人の両足だし、背中にも断たれた翼の根元も存在していない。
「さてと、次はミナレットの破壊だな」
エーギルを発動するために必要な魔力も確保できた。海上に上がり、アギト達と合流、そのままミナレットを破壊し、一度エリーゼの元へ帰らないといけないな。アンナを預けてから、イリュリア王都へ攻め込む。そして・・・
「待っていろ、エグリゴリ・・・!」
“堕天使エグリゴリ”を全機救い出す。それで、私の最後の契約は終わりだ。ベルカで過ごした時間を思い出しながら海上へ出る。久しぶりと錯覚してしまうほどの空。一番に目に飛び込んできたのは、ヴィータのギガントシュラーク、そしてそれを粉砕する女騎士の姿だった。
後書き
ドヴロ・ユトロ、ボーク、ドーブロ・ヴェーチェ。
にじファン終了から今日までストックしていたのを全て投稿です。
次回から、普通に一話ずつの投稿となります。一週間に一話か二話、投稿が出来ればいいんですけど。
仕事もあるし、テイルズオブエクシリア2もやりたいですし、次話投稿まで時間がかかるかもしれません。
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