ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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DAO:ゾーネンリヒト・レギオン~神々の狂宴~
第二十六話
「セモン! どうしたんだ!?」
「悪い、ハザード! 刹那! 耐えてくれ!! できるだけ俺の方に攻撃が来ないように!」
《自我の太陽》の二対巨剣をひたすら避け続けるハザードと刹那に駆け寄ったセモンは、二人に向けて叫んだ。
その内容はひどくめちゃくちゃだ。セモンは、いわば二人に、自分が事を起こすまで、それを守る壁になれと言っているのだ。しかも作戦の内容を伝えもせず。
だが。
「分かった!」
「了解しました!」
二人は何の迷いもなく、即座に言い切った。
「何を考えているのかは知らんが、シャノンを助けるんだろう?」
「ああ」
「なら、絶対に成功させろ!」
「……ありがとう!!」
ハザードの激励を受けて、セモンは二人から……ひいては《自我の太陽》から距離を取る。
本当に、良い親友を持ったと思う。ハザード……秋也は、十年以上の間、自分を信頼して共に戦ってくれていた。浮遊城の最終決戦や、《白亜宮》での激闘を含めて、何度か喧嘩はしたけれど、それでもお互いに得る物を得て、それから仲直りして――――そして今日、ここに居る。
そしてセモンは、陰斗に伝えなければならない。
彼もまた、自分達にとってかけがえのない親友なのだということを。
「さぁ……始めようか!」
かつて浮遊城で、大勝負の前にシャノンがよく口にしていたセリフを声に出してみる。
するとすっと気が和らぎ、集中力が上がってきた。なるほど、気が散りやすいシャノンが、戦闘に集中するために言っていたのもよく分かる。
決意表明をすることで、目標達成に対する集中力が上がるのだ。シャノンの心意は桁違い。一つの言葉だけで、セモンよりもはるかに強大な結果を得られただろう。
だが、今のセモンもまた、当時の彼に迫るほどの心意力を手に入れている。
故に――――願う。
祈る。
思う。
想う。
『映し出す』。
『移し出す』。
『写し出す』。
『遷し出す』―――――
「……これで、どうかな?」
そうして全ての《変遷》が終わった時。
セモンは――――SAO時代のシャノンと、同じ容姿になっていた。それを見て、《自我の太陽》の動きが止まる。
「どう? びっくりしたでしょ? 僕は君と同じさ」
全力で。精一杯に、『演技をする』。記憶の中のシャノンそっくりに。彼と同じような喋り方で、《自我の太陽》に語りかける。
セモンが思いついた作戦。その内容は、いたって単純である。
セモンの能力である『可能変遷』は、対象範囲が『自己』である。そしてその性質は『変遷』。『変化』の最上位である。
そこに積み重なった強大なイメージ力と、セモンの経験が加われば――――
『ルォォオオオオオ――――――――……ン!!?!?』
『自分は絶対唯一』という、シャノンの『世界願望』をゆがめるほどそっくりに、化けることができる。
その存在の根源を揺らがされた《自我の太陽》の表面が揺らぎ始める。今なら、攻撃が通るはず!
「ハザード! 刹那! 今だ!!」
「応!」
「了解」
ハザードが龍翼を広げて《自我の太陽》に肉薄する。苦しげに振り回される巨剣を躱し、ファイアブレスで弾き飛ばし、そして大剣を構えてソードスキルを発動させる。
「陰斗ぉ……目を覚ませぇぇェェェッ!!」
《獣聖》大剣用重突ソードスキル、《アスタ=ロット》。漆黒のエフェクトライトと、甲高いサウンドをとどろかせて、《カラドボルグ》の刀身が《自我の太陽》に突き刺さる。
『ルォォオオオオ……ン!!!』
「お兄様……すぐに元に戻してあげますから……」
沈鬱な表情ながらも、刹那が白銀の鎌――――《ラティカペインR2》を振りかざす。刀身に宿っているのは黄金のエフェクトライト。ソードスキルのモノではない。心意だ。
踊るように振りかざされた刀身が、ざしゅり、ざしゅり、と切り裂いていくたびに、《自我の太陽》は苦痛の悲鳴を上げる。
「あと少しか……!?」
希望が、見える。
その時だった。
「いやはや、実にすばらしいよ」
今までずっと黙って、にやにや笑いながらこちらを見ていた元凶が、嫌味たっぷりに口を開いたのは。
「――――!?」
「往年の代替に迫る心意力。何よりそれを実現させて見せるだけのイメージ力。さすがはセモン、と言ったところか? まぁいいや。とにかく、その力に敬意を表して――――」
《主》は上機嫌に笑って、鷹揚に両手を開く。
指揮者の如く、その腕を掲げて。
「次のページを捲ろう」
――――僕の力の一端を、見せてあげよう。
と。
「『כל מה שאני חוזר להתחלה. כי זה אמת.
” ש””ל””ג ”
מה שזה לא כך ”THE-REVERSE”』」
――――それは、奇妙な言語だった。
始まりの言葉より一つ後。
それは誕生した言葉であり、再誕した言葉である。
それ故に、司るは『再誕』。もう一度、力をもたんと、『回帰』する――――
全ては始まりに帰る。 それが真実なのだから。
故に――――
それ故に、『再誕』せよ、と。
『ルォオォオオオオ――――――……ン!!』
突如として、《自我の太陽》が絶叫する。
だがそれは、先ほどまでの悲鳴でも、慟哭でもない。そこにふくまれた感情は、膨大なまでの戦意。破壊欲。
遍く否定する。
《拒絶》。
「どういうことだ……っ!」
ハザードの苦悶の声で、セモンは現実に引き戻された。
彼の大剣は、先ほどまでは《自我の太陽》にダメージを与えていたはずだった。だがどうしたことか。今やそれは、傷を与えるどころかその肌に触れることすらできていないではないか!
隣の刹那も同じような状態だった。心意の光がどれだけ強くなっても、《自我の太陽》にその刃が届かない。
「くっ……」
シャノンに化けたセモンは、《自我の太陽》の前に躍り出る。視界に入れば、多少は注目を――――
だが。
《自我の太陽》は、そもそも目に対象を移していなかった。そこに渦巻いているのは、《拒絶》の心意のみ。
「これは……っ!」
「今のは単純な《自在式》だよ。それも既存の。『世界願望』の強化は、キミ達が《神座大戦》に挑むころには概念対策、時間対策と共に必須となる要素の一つだ。『世界願望』が占めるその存在の内面を増大させることで、それ以外の影響を受けなくさせる。
今僕の惟神は、その無数の『世界願望』の中から『拒絶する』というワンフレーズに特化したそれを選んで、それだけに目を奪われている。
故に単純に君たちの攻撃は一切通用しないよ」
「そ、んな……」
つまり、道は閉ざされた、という事だ。
今までセモンは、シャノンの『自分は唯一』という心意を揺るがすことで、彼の防御を崩そうとしていた。だが今、他の存在を『拒絶』した《自我の太陽》には、そもそも周囲が見えていない。
つまり彼に、ダメージを与える手段はない。
それは即ち――――《詰み》。自分たちの負け、という事に他ならなかった。
セモンの擬態が溶けた。心意が弱くなって、形成を保てなくなったのだ。
同時に、視界が暗くなっていく。前に進んでも、後ろに進んでも、結局結果は《敗北》から変わらない。それじゃぁ、無意味じゃないか、と――――
その時。
《主》が、やけに優しい声で言った。
「そこでセモンに提案だ。
――――この状況を打破する力を与えよう。すなわちは究極の《変遷》だ。遍く全てを変貌させる、究極の自在式を与えよう。
この力があれば、《自我の太陽》を封じるだけでなく、キミの友人たちを現実世界に帰還させることも――――人々が君や他人に向ける感情や、そもそも彼らの存在自体を改変する事すら可能だ。
願ったことはないか? もっと強い力が欲しいと。祈ったことはないか? もっといい手を打ちたかったと。
この力があれば、その全てが可能になる――――やり直したかった時間を《変遷》させればいい。消したい存在は抹消できる。
代償はただひとつ。『栗原清文』という存在が消滅し、キミは完全に《白亜宮》に取り込まれることになる。それだけ。だがそのキミというたった一つの犠牲で、世界は全て救われる。
どうかな?」
ああ、それは――――勝利するための、可能性だ。
なるほど、この提案を受け入れれば、セモンは敗北する。だが、他の人々は勝利するだろう。VRワールド全てから《白亜宮》の爪痕を抹消して、まっさらな状態に戻すことすら可能なはずだ。
それだけではない。SAO事件で死んだ全ての人の死を『なかったこと』にできるかもしれないし、そもそもSAO事件自体をなかったことにできる。
これがあれば――――世界を、救える。
「清文……駄目だ! 選ぶな!」
「セモンさん……」
遠くで、ハザードと刹那が叫ぶのが聞こえる。
だが、その声はセモンには届いていなかった。
全てをもとに戻せる。その可能性が、今、目の前にある。それをして、迷わずにいられる人間がいるだろうか――――?
いや、きっといないだろう。
だが。
「……いらない」
「ほぅ?」
それを振り払う人間なら、無数にいるはずだ。
「いらないよ。だってお前の言うそれは、《停滞》じゃないか。《回帰》じゃないか。結局、後戻りしてるだけだろ?
昔あったことを、ぐちぐち言ってても、結局は何も変わらないんだ」
それは。
ずっと昔に、シャノンがポツリ、と呟いた言葉だった。
『ずっと、停滞する事が最善だと思ってた。けどさ、そんな事きっとないんだよね。
昔あったことを、ぐちぐち言ってても、結局は何も変わらないんだ。
それよりも――――』
それで彼はPK業に手を染めても自分の罪を顧みなくなったのだが。
どれだけ皮肉があっても、セモンはその言葉が、大切な言葉だと信じている。
「それよりも、前に進む」
《主》の顔が、初めて歪んだ。悔しそうに、けどどこか楽しそうに、歪んだ。
「確かに、俺達は変わらなければいけない。全ての人を、変えなくちゃいけない。変えたい過去もある。掴み取りたい未来もある。
でもそれを、『過去を変える』ことで実現させちゃだめだ。それを超越して、未来に進まなくちゃいけないんだ。
人は変わる。人は変われる。世界も変わる。世界も変われる。
けどその変化は、きっといつだって、良い方向にいかせられるように努力しなくちゃいけない」
それは、本心だった。
セモンの中に、ずっとずっと昔から――――それこそ、生まれる前から存在している、《起源》。
セモンの起源とは《変遷》である。そして変遷とは、『移り変わる』ことである。それは己も、世界も。
ただ単に、強引に変化させるだけではいけないのだ。自然に――――変化を、促さなければいけない。
だから願う。だから祈る。だから――――知らせる。陰斗に。親友に。もしかしたら、彼と同じことを考えているのかもしれない《主》に。
「『俺達は無限ではない。
俺達は永遠ではない。
俺達は完璧ではない。
俺達は欠けている――――否、いなければならない。
そこに『誰か』が埋まって、初めて『完成する』のだから。
俺達は、一人では生きていけない。
『セカイ』は――――みんながいないと、完成できない。
故に作ろう。
お前とも、手を取り合って。
此処は、俺達の世界。
世界は――――俺達のために在る。
――――《惟神》――――
《《セイヴァー・オブ・ゴッドフリード》》』」
その名。
かつてどこかの世界で、その世界を生み出した聖剣と、同じ名。
その名。
セモンの知らない、《神話剣》の最上位ソードスキルと、同じ名。
セモンの手に握られた、《雪牙律双》が姿を変えていく。両剣から、形無き光の剣へと。そして再び、全く違うデザインの両剣へと。
「俺達は――――俺達は《停滞する》ために『変化する』んじゃない。《前に進む》ために『変化する』んだ!!」
――――Happy‐Birthday,MyWorld.
***
その声は――――
世界中に響いたという。
あらゆるVRワールドに。
現実世界に。
《白亜宮》で戦っている人々の元に。
現実世界へと帰還してしまった人々の元に。
そしてもちろん、栗原小波の元にも。
「……清文……」
弟のその声を聴いて。
彼女の中で、何かが変わったという。
そして目に涙を浮かべて――――《ボルボロ》初代局長は、それでも笑って、呟いた。
「姉ちゃんに、かっこいい所見せてくれ」
後書き
はいどーも、Askaでーす。
今回はVSシャノン回二回目。そして高速展開。やっぱりデウスエクスマキナは捨てきれない。
刹「もう貴方の特性ということで諦めます」
そうしてくれ。多分治せない。
セモンの《自在式》なんですが、最初は《国生み》っていう名前だったんですよね。何だけどどうしても『セイヴァー』っていう文字が使いたかったのと、物語を以て《神話》、セモンを《勇者》、そして『ゴッドフリード』を以て《聖剣》とする、っていう案があったから、この二文字が外せなかった。そんなわけです。
刹「考えられているような考えられていないような……?」
まぁいいや。
さてさて、次回の更新は明日、クリスマスコラボ最終回です!
刹「お楽しみに!」
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