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寄生捕喰者とツインテール

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“渇き”の乱入

 
前書き
オリジナルと原作の温度差をどうぞご覧あれ。 

 
 ラースの返答は本当に予想外だったのか、サーストの顔に僅かだが驚きの色が見えた。申し出を断ること自体は予想出来ていても、まさか向こうにも因縁が存在するとは思いもしなかったのだ。


 そんなサーストへと、ラースは憤怒を押さえて話す。



『だから協力なんて出来ねェヨ。クソ野郎に協力する奴等を全部ぶっ壊シ、俺が奴を粉々にするんだかラナ』

「そうか、だが……俺も譲れない理由がある。“協力”を得られないなら、俺は一人でもやるつもりだ……奴を倒すのは俺なんでな」



 サーストの声色にも怒りが含まれ、彼にも並々ならぬ事情がある事が窺えた。



『個人的な事で協力を求めるなンザ、俺にとっちゃ頭おかしいとしか思えねェヨ』

「……まあ、お前らを除いた全員は、碌に話も聞かなかったがな……行幸、幸運、運気が向いてきていただけでも満足だ」

『他の奴にも声かけてたんカイ……つーカ、理性ある奴の方が少ないんダゼ? それに何で協力求めンダ』

「戦闘、闘争、……争奪にならないならば、少しでも確率を上げたかった、それだけだ」

『そうじゃないナラ?』

「俺が先んじて融斬、惨殺、殺害、奴の命を絶ってやる」



 サーストの声に大きな怒りが乗ったのを感じ、ラースは呆れか傍また別の環状化を持って溜息を吐く。

 話はもう終わりなのかしばらく沈黙が続き、不意にサーストはグラトニーへ一歩近寄り、しゃがみこんだ。



『アア? まだ用があんのかよお前』

「……グラトニー、大食、暴食、食事に関わる言葉か……彼女は何をそこまで必死に食らいつこうとする」

『……前に大怪我負っテナ、俺も融合したし他の事情も込みでエネルギーが居るんダヨ。普通の奴らよりも喰わなきゃならねぇんダヨ』

「……正に食欲の塊だな」

『色んな意味デナ』



 グラトニーを暫くの間見つめていたサーストであったが、ふと立ち上がって思い出したかのように呟き始めた。



「……何故彼女の中に人間を感じるんだ?」

『そリャ、こいつは元々人間だかラナ。とはいっテモ、もう殆ど残っていないンデ、絶賛再生中ダガ』

「………そいつは奇妙だな」



 何がとラースが問う間もなく、サーストはハッキリとこう言った。



「人間の部分は空虚、虚空、空白……抜け殻のオマケに近く見えるんだが」

『あたりメーダ、たった一割ほどしか存在してないんからオマケに見えて当然だっツノ』

「……まあいい、俺にとってほとんど関係ない事だからな」

『とことん自分勝手だなオイ!?』



 意味深長な事を言うだけ言って、サーストはその場から去るべく背を向け……僅かにこちらを振り向いて、ラースへと言うよりグラトニーへ向けて呟いた。



「……侘びだ」

『ア? 何か言ったカヨ』

「……閉口、無言、空耳だろう……」

『デ、何処行く気だお前』

「俺の勝手だ……目的の為と、渇きを癒す為にな」

『ソウカイヨ』



 サーストは数かに傾けていた顔も戻して、大きく跳躍し今度こそこの場から立ち去った。後に残るのは凄惨且つ巨大な破壊跡と、気絶して倒れるグラトニーのみ。

 気絶したばかりだからか起きる気配が全くない彼女に、ラースは声はかけずに訝しげな声を出す。



『相棒が抜けがらとか何言ってんだカネ』



 深く大きく溜息を吐いてから、数分ほど時間を置いて今度はちゃんとグラトニーへ声をかけ始めた。


『オーイ……早く起きねーと記者に囲まれるかもしれないゼー。変身ヒーローじゃねぇんだカラ、気絶しようと時間経とうと元には戻らないからナー……』



 未だ起きないグラトニーに、ラースはせめて面倒事は起きないようにと願うのだった。






















 辺りには斬撃の跡が無数に付けられ、赤く熱せられた地面が時折躍るかの如く爆ぜる。


 何合もの剣と剣のぶつかり合い……せめぎ合う争いの中心に居るのは、小さな体に似合わぬ天をも焦がす大炎司る赤い戦士テイルレッドと、竜の風貌と歴戦を潜り抜けてきた風格漂わせる怪人ドラグギルディであった。



「そうか、お前の剣、その技は!」

「そのとおり、我が絶技は!!」



 二人は睨み合い、より強い一撃をぶつけあって飛びのき……下げていた顔をお互い同時に上げて咆哮を放つ。





「「ツインテールの剣技!」」


「うぼぃっ!?」



 ……なんだかえらく真剣な場の雰囲気に合わない、珍妙な発言が飛び出した様に聞こえたが……恐らく聞き間違いではない。
 その証拠に、今し方やってきたテイルブルーがつんのめってこけかけ、そして何とも言えない微妙な表情で佇んでいる。



 何が起きてこうなったのか分からない皆さまの為、なるべく簡単に説明しよう。



 今日この日、アルティメギルの襲来をレーダーで感じ取って、現場に現れた兎のエレメリアンを一刀のもとに叩き伏せたテイルレッドは、最近歯ごたえのある相手がおらず流れ作業になっていると感じ、同時に何でこんな山の中に現れたのかも疑問に思っていた。


 しかし、気にしていても仕方ないだろうと、一先ず帰ろうと踵を返した瞬間……宙空から突如としてドラグギルディが襲来。

 テイルレッドは今まで通り迎え撃とうとするも、今までのエレメリアンとは違う気迫を感じ、より気合いを入れていかなければとしっかり柄を握りしめ、また向こうも今まで倒された同法の為手心は加えないと大地を割れる程踏みしめ叫ぶ。


 そして戦いを開始し、テイルレッドはドラグギルディの神速の剣技に驚愕したものの……その剣のある秘密を解き、先のいまいちな台詞のシーンに至る、と言う訳である。



「な~るほどねー……今回はそーじ系って訳ね……なるほどねー……」
「ああ、気をつけろよ! 凄く手強いぞ!!」



 血気盛んに叫ぶテイルレッドではあるが、愛香が言いたい事がそんな事じゃあないのは皆さまもの分かりだろう。
 と言うか明らかに呆れている表情を見て、「お前も感じたのか……こいつの恐ろしさを」とでも言いたげな表情が何故に出来るのか。

 幾ら大袈裟に演出して見せても、中身が何処か残念な事に変わりは無い。



「恐るべきなりテイルレッド!! 我が妙技をこれほどまでに早く見破れるとは!!」

「舐めるなよ! 俺はいつも心にツインテールを想像(うつ)して生きているんだ! ツインテールは俺と何時もともにあるんだからな!!」



 詰まる所、身も蓋も無い事を言ってしまうと、「俺は四六時中、ずっとツインテールの事考えて生きているんだ! どうだ!」と言ってる事に他ならないと思う。……のだが、突き抜ければ案外格好良く……いや、やっぱり残念感はぬぐえない。

 そもそも年がら年じゅうツインテールの事を考えている等、ちょっと怖さを感じてしまう。極端な話、食事中も風呂の中でも授業中も運動中も、そして寝ている時にもツインテールが彼の心の中を支配している事になるのだから。

 別にそれ自体は本人の勝手だが、自信たっぷりに大きく叫ばないで欲しい……まあ、テイルギアがツインテール大好きという思いを力に変える以上、コレもまた避けて通れぬ道なのだろうが……。



「天晴れ! 実に天晴れな幼女よ!! ならば今一度、話が至高の剣技を受けてみるか!!」
「! ううっ!」



 地を爆ぜさせ隆起させる力で踏みだし、巨大な姿形に似合わないスピードで剣を振るう。言われてみれば、確かに彼の振るう剣は空中に光芒を描き出し、それはさながらツインテールを描いているかのようにも見えた。



「う、おおおおおっ!!」



 字面では馬鹿馬鹿しく思えようとも、威力は正に洒落にならない本物であり、テイルレッドはツインテール好きと言う特性を生かして剣閃を見事に見切って何とか捌き切り、小柄な体には不釣り合いな大きさの炎纏う剣を振るって、ドラグギルディへ突っ込んで行く。


 振るわれた剣はドラグギルディにより大きく弾かれ、しかしその勢いを逆に生かしてレッドは距離を取った。



「口惜しい、実に口惜しい!! それ程見事なツインテール! 敵として出会わなければどれほど良かったか!!」
「こっちの台詞だぜ……俺も、お前みたいに本気でツインテールを愛している奴に、ツインテールを愛せる厳かな心をもった奴に友達として出会いたかったよ」



 互いを認め合い、強敵を友と認め、それでもなおまだ剣を撃ちあい続けるべく、お互いに自らの得物を握り直す……と、大仰に説明はしたものの、本気でそう思っているらしい彼らには悪いが、残念な物はどうがんばってもやっぱり残念だ。

 ブルーなどは、色んなの意味で着いて行けないのか棒立ちになっている。


 大きく笑うドラグギルディの体を見て、ふとテイルレッドは幾つもの傷が付いている事に気がつく。どの傷も大きなもので、ソレは彼の防御が下手なのでは無く、幾つもの激戦を勝ち抜いてきた証だと言う事を示していた。



「気になるか? この傷が」
「なっ……らねぇよ」
「幼げな女子の背伸びか、ふふ、愛らしき事よ……しかし、これほどの傷をおってなお、我は今まで一度足りとて背中に傷を負った事は無い!!」
「敵に背を向けた事も、不意疲れて背後を晒した事も無いってか?」
「それもある……だが本当の理由は――――幼女に風呂で背中をゴシゴシしてもらう為!!! その為に綺麗な背中で痛いのだぁああーッ!!!」


 残念だ……実に残念でならない。せめてそちらがついでの理由であり、逃げ傷無しが本心であればどんなに良かったか……明らかに幼女にゴシゴシして欲しいという言葉の方に、いらないほど力がこもっていた。

 流石のテイルレッドも常識が働いたか、はたまたツインテール絡みで無いからガクリと来たか、呆れが混じった表情になっている。



「お前の今までの戦いって何なのよ、一体さ……」

「生涯を添い遂げる幼女と出会う為! 至高の幼女から属性力を得る為よ!!」



 至高の幼女とは一体何なのか聞いたら軽く一時間ほど語られそうだが……それでも彼等の台詞に違和感は感じる。
 属性力を得るとはそれ即ち、その人物の好きなものを一生涯奪うという事に他ならない。情熱は注げず興味も無くなり、よしんば興味が残っても関連が少しでもあればソレには手を付けられない体になる。


 殆ど征服と言える、随分と一方的な愛があったものだ。しかし、属性力から生まれた彼等は、それ以外の愛の形をとれないのだろう。


 知能を持とうとも、やはり人間とは違うのだ。 


 勿論、それを許してはいけないし、総二とて許すつもりもなかった。そして、剣を合わせた事から、彼の力の源も察したようだ



「愛香、こいつの強さの秘密分かったぞ」
「え……えっ? え、あ、はっ……な、何?」



 変態同士の入り込めない、入り込みたくない台詞と剣術の押収を前に、安全を守るため半分以上寝ていたらしく、テイルブルーはレッドの声かけに我に返った様な反応を返す。

 まあ、眼をそらしたい気持ちは非常に良く分かる。寧ろ分からない方がおかしい。


 ……それをみて、圧倒的強さを目の当たりにした反動だと、そう言いたげな真剣な表情を、何故テイルレッドは出来るのだろうか……。


 兎も角、秘密が分かったというテイルレッドは、ドラグギルディへ指を突きつける。


「今までは半信半疑だったけど、やっぱりそうだったんだ。ドラグギルディ、お前は……正真正銘、ツインテール属性を持つエレメリアンなんだな!!」
「然り!! 我が中心に位置する属性力はツインテールなり!! ……そして、ツインテール属性は共鳴し合うもの、この戦が起こるは運命だったのだ」
「共鳴……俺達が……!!」

「大袈裟に言ってるけど要するに “類は友を呼ぶ” ってことでしょ……何で、無駄に浪漫たっぷりに格好付けるのよ……」


 彼等としては酷く心外であろうが、しかし常識的に言うならテイルブルーの方が正しい、正し過ぎる。
 彼女の声から感じる不安は、敵の強大さに対してでは無いだろう。……呆れも混ざっているのだから。


 と、今まで目に入っていなかったかテイルブルーに気が付いた様に目線を動かし、彼女をマジマジと見やったドラグギルディは、懐かしげに口を開いた。



「なるほど、青の戦士が何処か既視感のある容姿かと思えば……間近で確認して確信を得た。あの世界より来たりし戦士の差し金であったか」

「……どういう事よ」

「その様子では何も聞かされておらぬと見える……良かろう、話してやろう。かつて、我々が最も追い詰められた戦があった。その時たった一人で我らに立ち向かったのが、青の戦士と同じ衣を纏っていたのだ。……身に纏う雰囲気、下品な乳の有無もあり、簡単には結び付かなんだ」

「同じ衣だって!?」



 ドラグギルディの言葉で、テイルレッドはある事を思い出した。それは、トゥアールの事である。


 彼女は滅ぼされた世界の仇を討つためにテイルギアを製作し、ソレをテイルレッドとテイルブルー……年総二と愛香に託したのだ。

 しかし、本人が戦ったという情報は、意外な事に初耳だったのだ。



「そしてまた同じ衣をまとうが故に……世界の結末も同じとなるか」
「世界の結末?」



 それまで強くは垂れていた殺気が急に息をひそめ、ドラグギルディは剣を肩に担いで思い返すように空を見上げる。



「あの世界にて舞い踊りし戦美姫……先代テイルブルーは我らの進行を恐るべき強さにて退け、世界の守護者として君臨していた」



 嘘を言っているようには見えない。つまり彼等は、前の世界で先代テイルブルー・トゥアールと闘っていたのだ。



「何で、何でそんな重要な事をアイツは俺達に今の今まで黙ってて……」
「私は逆に合点が言ったわ。アルティメギルにはテイルギアを持ってしても勝てなかった。ソレを知った人が律儀に戦い続けてくれると思う? 先の分かった戦いを続ける人なんかいないわ」


 最初から疑いを掛け、ずっと疑念を持ち続けていたのだろう。驚愕で顔をひきつらせるテイルレッドとは違い、坦々と言うテイルブルーに驚きは殆ど感じられない。



「先も言ったが、彼女は畏怖を抱く程に強かった。だがしかし、女神とも湛えられるほどの人気を誇り、誰しもがツインテールの美しさに魅せられる。結果、最初は僅かに芽吹くのみだったツンテール属性は、最終的に世界中を支配する程まで育った。その強さが逆に世界を滅ぼす結果を生んだのだ」



 瀧馬がかつて抱いた懸念は、どうやら大当たりだったらしい。

 テイルレッドもここ最近でツインテールにする女子達が増え始めてきた事を確りと感じており、またそれを喜ぶだけでなく不安感も覚えていた。

 世界の救世主として活躍していた筈が、その実破壊者としてアルティメギルにとっての理想的環境へと整えていたのだ。



「まさか、最近弱い敵ばっかりだったのは……」

「いたずらに仲間を失うのは割れとて望まぬ。勝利するならばそれも良し、寧ろそれを一番に臨んでいたのやもしれぬ」



 ドラグギルディの悲しげな声色は、ハッキリとその言葉が嘘では無い事を示している。



「勇んで出陣した部下達教え子達は皆、結果的に守護者の偶像を膨れ上がらせる事へ一役買ってしまったが……我は長では無く一将兵。効率の良い方法があるならばそれを粛々と実行するのみよ」



 ドラグギルディが最初に全世界へ向けてアルティメギルの襲来を伝えたのも、恐怖を煽る為では無くテイルレッドの“正義にヒロイン”としての存在を植えつける為のモノだったのだろう。

 送る仲間が弱かろうと強かろうと、結果的にツインテール属性は広がっていくのだ。



「なんで、何でそんな事態々全部説明したのよ。私達に話す義理なんてない筈よ」


 もう完璧に諦めているのか、失意しか感じない声でテイルブルーはドラグギルディへ問いかける。そんな彼女へドラグギルディは、上げていた顔を降ろして目線を向けた。



「テイルレッドのツインテール属性、そしてツインテールへの愛が本物であったからだ。心からツインテールを愛している者への、せめてもの手向けだ。絶望に暮れ自暴自棄に陥らぬようにな」



 ドラグギルディの言葉にはどこか慈しみが含まれ、テイルブルーでさえそれを感じたか眼を細めている。
 テイルレッドは俯き微動だにせず、この結果を憂いているか剣をだらりと下げている。

 そしてゆっくりと顔を上げて……



「礼を言うぜ」

「何?」



 にやりと笑った。少し嬉しそうに、にやりと笑ったのだ。

 その顔には、絶望など全くない。



「もう憂いも何も無い、あいつ全力で戦える」
「な、何言ってんのよあんた!? アイツには勝てないの! 何をやっても無駄なのよ!?」
「違うぜブルー、無駄なんかじゃない……こいつ等がこうやって奪いに来たって事はだ、ツインテール属性は世界中に芽吹いていて、且つソレは紛れも無い本物だって事なんだ」



 実の所、テイルレッド……総二が恐怖していたのはツインテール属性が奪われる事の他にもう一つあった。

 それは、一時的に膨れ上がったツインテールブームが、ある時を境に急速に低下していかないか、といったことであった。

 人気なのも今のうち、またマイノリティな、マイナーな髪形として廃れていき、殆ど見なくなってしまう……好きな物が見れなくなってしまうのが、総二にとっては何より恐ろしく、不安だったのだ。


 しかし、属性力が芽吹いていれば話は違う。

 ツンテール属性が芽吹いているという事、ソレは即ちツインテールを本気で好きになってくれた人が大勢居る、そういう事に他ならないのだ。



「今日ここであいつを倒せれば! ツインテールがメジャーになって得して終わる! 万々歳だぜ!」


 テイルレッドの言葉で場に沈黙が走り、その沈黙を破ったのはテイルブルーのの笑いだった。



「………ぷ、あはははははは!! あんたホントにツインテール馬鹿ね! いや、本物の馬鹿よ!」
「馬鹿で結構! 俺は好きな物に一直線で向かっていくだぜ!」



 希望を得たからか、思い込み強く向き合ったからか、テイルレッドは自身の中から大きな力がわき上がっているのを感じた。



「俺は俺の愛するもの(ツインテール)の為に戦う!! 世界が如何だの、そんな事は関係ねぇよ!!」
「己を、信念を貫く事、ソレを真に望むか! テイルレッドよ!!」
「ああ! 俺のツインテールはこの地球を―――」




「はーっはっはっはっはあ!! そこまでにして貰いましょうは幼女好きの変態さん!!」



「なんででてくんだよおおおおおっ!!??」
「自己紹介しながら出てくんじゃないわよぉオオオッ!!!」



 話している内容自体は兎も角、中々に盛り上がってきて此処だ! と言った所で……予想外の場所から予想外な横槍を入れられて、ツインテイルズは大きく叫んだ。

 何者かとドラグギルディは律儀に問い、その人物は名乗りを上げた……まあ、もう誰だか分かっているとは思う。



「我が名は仮面ツインテール!!」



 仮面ツインテール……もといトゥアールであった。

 ヘルメットに日本のジェット機の翼が付いている造形は、かなりひいき目に見ればギリギリでツインテールと言えなくも無い。

 だが、仮面から下はまんま私服で、知人から見れば丸分かりである。もうちょっと何かを羽負って、偽装するとかなかったのだろうか。



「ツインテール属性は愚か、際立った属性力も感じられぬが……その程度で加勢するつもりならば笑止!!」
「ハッ! 私の専門はバックアップ! 加勢に来た訳ではないんですよ! 勝手に早とちりしないでもらいたいですね!」


 ならこんな場所まで一体何しに来たのか。それと同じ事を、テイルレッドとテイルブルーも思っているようだ。



「私は口八丁でやりこめようとするドラグギルディに呆れ、叱咤激励する為にここまで来たのです……ですが、いらぬお世話だったようですね」


 登場するタイミングを思いっきり間違えて、テイルブルーでさえテイルレッドが言い終わるまで待っていたのに空気を読むこと無く、とっくに終わった問題を蒸し返して……もう本当に、本当ににいらないお世話である。


 ドラグギルディは兎も角、ツインテイルズは武器が消えてしまう程に気が抜けているが、そんな事お構いなしにトゥアールは真剣に語りだす。



 曰く、ドラグギルディの言った事は真実で、トゥアールはテイルギアの開発者であり同時に装着者でもあったのだとか。

 しかしそれに使われている属性力変換技術はトゥアールの独力で生み出した代物では無く、アルティメギルが意図的に流出させたものだったのだ。



 実は、彼らは侵略初日に強力なツインテール属性を求めていたのだが、それは糧として得るためでは無く、戦士として仕立て上げる為だったらしい。

 無敵の戦士という偶像をつくり上げさせるため……それはこの世界にも訪れている事であり、同時にトゥアールの世界が滅ぼされた手口と全く一緒、逆転の一手を打てるかもと期待を込めて技術を応用し、人々の為にと救い続けていたトゥアールは……利用されていた存在だったのだ。
 

 トゥアールのその発言から、例えトゥアールがあの日来なくても、何もしなくてもやがて総二か愛香が、ツインテール属性を持つ戦士として選ばれていた事が分かる。



「世界を渡ってきたというのか、あのツインテールを靡かせし戦美姫よ……だが何故だ!? お前からはあの溢れんばかりに輝いていたツインテール属性を全く感じない!」
「託したからですよ。総二様に」
「お、俺に!?」



 いきなり名前が挙がったので、テイルレッドはビックリして自分を指差した。トゥアールはゆっくりと頷いて、続きを話し始めた。



「私は、あの世界で闘い続ける内ふと疑問に感じたんです。何故ここまで敵が弱く、属性力奪取に精力的ではないのかと。……いま思えば、確信を抱いた時点でも止める術はきっとあった筈でした……でも、私にはどうしても、ツインテールを嫌いになる様にはふるまえなかった」



 ツインテールを捨てている今でさえ苦しそうなのだ。持っている時は本当に胸が張り裂ける思いだっただろう。



「忍びなかったんです……私に憧れた幼女たちが、あの可愛い幼女たちが、ツインテールを失意に内に止めて行くのを、幼女たちがツインテールをほどいてしまうのを見たくなかったんです」



 ……そこさえ黙っていれば内容がちょっと浅いだけで普通に心に響く台詞となったであろうに、継ぎ足されて±ゼロまで下がってしまっている。

 ノリのいいテイルレッドやドラグギルディはかなり真剣な雰囲気を放っているが、比較的乗り切れないテイルブルーはその時点でもう表情が悪い意味で崩れていた。

 雰囲気が重く無ければ、物理的突っ込みが入っていた事請け合いである。



「心に隙が出来た状態では満足に力等出せず、結果私はドラグギルディに負けてしまった。それでも何とかならないかと新たな策を練っている内に……私の世界は滅ぼされてしまいました」
「……トゥアール……」
「モノクロに変ってしまったかのような灰色の世界、全ての属性が奪われ覇気も無くなった凍土の如き世界。属性力を残している私でさえ、残っていたのはツインテール属性と幼女属性だけでした……良アマでは、幼女のスカートをめくった所で当人も周りも見向きすらしないんです」
「誰一人ツインテールに出来ないなんて……地獄以外の何物でもない!!」



 だから何でそこでいらない言葉を付け加えるのか。


 が、ある意味では恐ろしい世界だといえよう……反応が無いとはいえ、そういった系統の犯罪ならば、いくらでもし放題な世界であるのだから。

 そしてテイルレッドには、今そこを言及すべきではない事と、あんたにとっては地獄でも他の人にとってはそうでもない可能性がある……いや、寧ろ高めだという事をもれなく伝えたい。

 テイルブルーに至っては、白目を向いてしまっている。確かに常人には理解しがたい発言であるといえよう。
 


「そして、私は復讐を決意しました。同じ轍を踏まぬよう、幼女のちっぱいを揉んでもリアクションが返って来ない悔しさを糧に、戦いのデータを元に与えられたテクノロジーを解析し、戦力を増強する為にテイルギアを強化しました。そして、新たなる幼女を、元気一杯な幼女を求める為に、世界間移動技術の解析や認識阻害の技術をはじめ幾つも機器を作り出しました」
「ひどいっ!! ひどすぎるぅぅっ!!」



 見事に我々の心を代弁してくれたテイルブルーへ、上げても上げきれない感謝の念を送りたい。

 復讐するは世界の為では無く、なんと幼女からのリアクションが無いから。新たなる技術を生み出す推進力は、天真爛漫な幼女を求める為。

 何故頭涎を垂らしながら、木の上に立ち彼女はそんな世迷い事を、堂々言い放っているのである。

 そこにあるのは重苦しさを湛えた復讐者の感情などでは無く、フルボッコにして警察に突き出しても罪悪感などわかないであろう、馬鹿馬鹿しさ満点の変態根性だけである。


 一々そんな言葉を加えるものだから、ドラグギルディ以外の者達のテンションは下がる一方だ。



「そして最後のけじめとして……私自身のツインテール属性を核とした、新たなテイルギアを作り出したのです。それが……総―――テイルレッドの持つテイルギアなのです」
「自分からツインテール属性を手放したってのか!?」


 そこだけ聞けばつらい決断だったであろうと心痛められる所だが……如何せん先の幼女まみれの発言の所為で、その言葉でさえ幼女が手に入るならツインテール属性謎捨ててしまっても構わない、と言っているように聞こえてしまう。

 勿論、彼女の言葉は悲しげで重い物であり、断腸の思いで抜き取った事が窺える。……そうだとしんじたい。



「後は、装着できなくなったテイルギアをテイルブルーに託した。コレが全てです」
「……あー、これってトゥアールのお古だったのね……道理で……胸元が……」


 自らの胸部を見やり、瞳の光が消え失せた顔で乾いた笑いを洩らすテイルブルー。今まで何故面積が少なく過激なコスチュー身だったかが、今氷解したのだ。
 本人としては、一生疑念のままでいて欲しかったであろうが。


 今まで律儀に話しに付き合いずっと黙っていたドラグギルディは、トゥアールの執念に驚いていた。

 養殖するような手軽さに味を占め、心の強さを侮り続けていた彼等にとっては、まさか世界を超えて反逆してくる者が現れるなど、想像すらしていなかった事なのだから。



「テイルレッドが幼女だったのも納得いったわ。ツインテール属性だけ拡散しないように、幼女属性も含めたんでしょ」
「いえ、ソレは私の趣味です」



 刹那、轟音が響き渡りトゥアールの乗っていた大樹がなぎ倒される。調子に乗って腕組みをしていたせいで着地できず、思いっきり顔面から落下している。

 そこから肉弾戦ありの言い合いに発展した。

 テイルブルーの攻撃にはどこか鬱憤を晴らす為の感情も見えた。というか、よくぞここまで耐えた物である。



「良き仲間を持ったようだな、テイルレッドよ」
「ああ、最高の仲間だぜ」



 しみじみ言うドラグギルディへ、テイルレッドは一瞬全く持って共感できないと言わんばかりの表情するが、すぐに内なる高揚感に負けたか不敵に笑んで見せる。


 中二病の母(このおや)にして、ツインテール馬鹿の息子(このこ)あり、と言ったところだろうか。

 そもそも、一方的な殴打を見て何故そんな言葉が出てくるのか、是非知りたいものだ。



「どれだけ打ちのめされようとも、ときには世界まで超えてくる強さ、見事なモノだ……だがしかし!! 如何なる輝きを持とうとも、覆らぬ闇もあるのだ!!」



 ドラグギルディが咆えると同時、遠方からモケェーーーーッ!! という御馴染の戦闘員(アルティロイド)の声が聞こえてきた……が、その声は地鳴りの如く響き渡り、その数は黒い海と見間違えるほど余りにも多い。

 本気で属性力を奪いに来ているのだと、その光景が嫌でも分からせてくる。



『何という数……総数は千体を超えています! 少しでも気を抜いたら一気に飲み込まれてしまいますよ!』



 何時の間にキャットファイトを終えて安全地帯まで退避したのか、通信機越しに送られたトゥアールの声がテイルレッドとテイルブルーの耳元で響いた。



「よし! 愛香、ドラグギルディは俺が引き受ける! きついと思うけど、戦闘員達を頼んでいいか!?」
「……わかったわ、そのかわり絶対に勝ってきなさいよ。じゃないとネットである事無い事晒してやるんだから」
「そりゃ負けられない、絶対に勝たないとな!」



 軽口を叩きながら武器を生みだして構え、テイルレッドはドラグギルディへ、テイルブルーは戦闘員の海へ走り出した。






 正に、その瞬間。




「えっ?」
「はっ?」





 彼等が思わず呆けてしまうほど、それ程脈絡なくいきなり視界に映っていた黒い海が、一瞬で大きく真っ二つに割れた。



『ア、戦闘員が一気に……そ、総数が千二百五十体から六百体前後まで一気に減った!? どういう事!?』

「な、戦闘員の軍隊が!? 何が起こったのだ!?」


「ちょ、トゥアール!! 一体何が起こっているのよ!!」

『分かりません!! 此方でも何が起こっているのか見当がつかず―――』

「おい! またごっそり減ったぞどうなってんだ!?」

『い、今ので六百から二百五十体前後まで……いや、百体、いや消えっ、全滅した!? どうなっているんですかぁっ!?』



 そして真っ二つに割れた現象からわずか数秒で、黒い海は後型も無く消え去ってしまった。アレほど大地を揺らしていた叫び声も、今は嘘だったかのように消え失せている。

 余りの出来事に場に居る全員が立ち尽くす中、森林の中から青年のものらしき、何者かの声が掛けられた。



「……渇きも癒せないな。有象無象、雑魚大群、一騎当千はこんな容易い戦いの先には無い筈なんだが……まあ、それは俺の考えか」

「何奴だっ!!」



 ドラグギルディが目線を向けた先、木々によりつくられた暗がりの中から現れたのは……右手が刃物の付いた異形となっている、髪の毛が逆立ったガスマスクを装備している、拘束衣姿の長身の青年だった。

 彼がそこに現れただけで、テイルレッドとテイルブルーは体を締め付けられるような息苦しさに襲われる。


 彼等を見回して、青年はため息を吐いた。



「……グラトニーの方がまだまだマシか。この程度ならアイツ一人でもやれる」

「ぬぅぅ、貴様、只者では無い―――」




 ドラグギルディが口を開いた瞬間、青年の右腕の位置が真横から真正面に変わった。


 それと同時にドラグギルディは黙りこみ―――――青年へ向けたその台詞を最後まで言い切ることなく、グラトニーがギャラリーの前に現れた日のトタスギルディの如く、音も無く真っ二つとなって大きな音を響かせ倒れてしまった。


 もの言わぬ屍が転がり、ドラグギルディの手にしていた大剣が、音を立てて地面に落下する。


 余りにアッサリすぎる結末、情けない程あっけないその結末に、テイルレッドもテイルブルーも呆然と立ち尽くすのみ。



「……え? ……へ? あ、あいつ、死んだの? 殺されたの? ……えっ?」 

「あ、あ……あっ……呆気なさ、すぎる……」

『嘘……嘘ですよ……あの戦闘員の大軍隊が……最強たるツインテール属性を持つあのドラグギルディが……こんなにも簡単に……』



 場に流れる空気に構わず、青年はドラグギルディから流れ出したオーラを手に取ると、掌大に固めて何処かへ放り投げ、残りは彼自身がガスマスクの牙部分から残らず吸い込んだ。

 最後に残った属性玉をツインテイルズの方へ投げると、青年はあらぬ方を向いて静かに一言だけ呟く。




「……侘びはした。元からそのつもりだが、後は好きにやらせてもらう」



 それだけ言うと、テイルレッドやブルーにはもう眼も暮れず、中に黒と灰色の濃淡が広がる空間を開いて飛び込み、去って行ってしまった。


 後には、ただ黙って立っているしかできない、テイルレッドとテイルブルー、そして安全地帯から出てきたトゥアールのみ。




 こうして、一人の少女の無念を晴らす為の、この世界の命運をかけて挑んだ筈の勝負は、予想外な形で最後を迎えるのであった。


 
 

 
後書き
 この話でも分かる通り、サーストは本当にレベルが違います。物凄く強いです。例えるなら、第一ステージでラスボスステージ一つ前のボスが出てくるような物だ、と言えばいいでしょうか。


 一応、グラトニーの時よりは手加減していません。あくまで、グラトニーの時と比べてですが。


 次の話で、原作でいう一巻部分の最後となります。 
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