舞台は急転
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第八章
第八章
「急にそんなふうになって」
「青菜に塩!?」
古い諺まで出て来た。
「そんなふうになっちゃって」
「どうしたのよ」
「何か。後になって急に」
これが有美の返答だった。
「恥ずかしくなってきて。後でじわじわって」
「ああ、そういうことね」
「それでなのね」
言われてそのことに納得する皆であった。
「まああることよね、それもね」
「結構ね」
「だからなのよ」
また答える有美だった。
「急に。それで」
「やれやれ。アクシデントがじわじわって来るなんてね」
「本当に予想外のことね」
「図書館だけれど」
有美は話をそこに戻しはした。
「やっぱり放課後ね。一緒に行きましょう」
「まあ実際勉強しないといけないしね」
「それはね」
これは学生の本分から言ってもそうしなければならないことであるので皆もすんなりと頷いたのであった。やはり勉強は大事である。
「けれどそこで仕掛けるのよね」
「そのつもり」
やはり今までとはうって変わって恥ずかしげな有美であった。
「だけれど。一応は」
「一応はってしっかりしなさいよ」
「そうよ」
皆でそんな有美を励ますようになってきていた。
「あんたが動くんだからね」
「それでその言葉はないでしょ」
「そうよね」
「そうそう」
「前に歩きなさい」
立ち止まったままになっている彼女に声をかける。
「いいわね、まずは前によ」
「放課後に向かってね」
「そうね」
皆の言葉を聞いて有美もやっと気を取り直したのであった。
「放課後。また仕掛けるわ」
「これで五段階目よね」
「そうだったわよね、確か」
「ええ、そうよ」
まだぎこちないが笑顔で皆に述べるのだった。
「放課後。それを仕掛けるから」
「わかったわ。それじゃあ」
「見せてもらうから」
皆はやっと歩きだした有美を見てとりあえずは安心したのだった。授業は瞬きをする間にもう終わってしまいその放課後だった。まずは有美達は図書室のグループ学習用の椅子に皆で座って教科書とノートを開いていた。とりあえずは勉強をする態度ができていた。
「さて、その放課後だけれど」
「腹はくくってるわよね」
「だからここにいるのよ」
有美もこう皆に返した。真剣な面持ちで。
「ここにね。だからよ」
「そう。じゃあ西園寺君が来たら」
「第五段階発動ね」
「これでもうかなり違うと思うわ」
有美は少し俯き加減になって述べた。
「これが成功したらね」
「それで成功させる自信あるの?」
皆はまずそこを彼女に問うた。
「それで。その辺りはどうなのよ」
「なければしないわ」
これが有美の返事だった。ペンを握りながらも考えていることはそちらの方だった。
「それは確実よ」
「じゃあ安心して見せてもらっていいのね」
「一応は」
だがその返答は弱いものだった。
「そうだけれど」
「一応はって何よ」
「また弱気になってるの?」
「私が普通に出来ていればいいけれど」
俯いて述べた言葉である。
「けれど。それが出来なかったら」
「駄目って言いたいのね」
「出来るとは思うけれど」
言うその言葉もまた言い訳めいていてどうにも今朝電車に乗る前とはまるで別人になってしまっている。
「それでも。やっぱり」
「出来ると思っていたら出来るんじゃないの?」
「ねえ」
皆にとってはその今朝までとはうって変わって弱気になっている彼女が歯がゆくてそれでこう言ってハッパをかけたのであった。
「逆にできないと思えばできない」
「そうじゃない、何でも」
「何でもそうなのね」
「そうよ。大体ね」
皆はその有美を咎めるような顔で見つつ言うのであった。
「今まで出来ていたじゃない」
「しかも胸のことだって」
あえてこのことも話に出すのであった。
「最初はいいように考えていたじゃない。それが急に」
「考えてみたらやっぱり」
有美は俯いてそれに答える。
「そういうのって。そこまで考えていなかったし」
「恥ずかしいの?」
「西園寺君、意識してるのわかるし」
「わかっていたらいいじゃない」
「ねえ」
図書室の中で顔を見合わせて言葉を交えさせるのだった。彼女達は何処もかしもも本が入れられた本棚を後ろにしつつ言葉を交えさせているのである。木造の見事な本棚ばかりである。
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