101番目の哿物語
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第二章 消えた花子さん
第六話。俺の妹(従姉妹)とクラスメイトがこんなに可愛いわけがない!
前書き
新章突入〜!
「もう、兄さん。降りて来るの遅いです!」
一階に降りてリビングに入ると、テーブルの上に出来立ての料理を並べていた従姉妹の理亜が俺の姿を見かけるやいなや、そう声をかけてきた。
「ごめんよ。せっかく作ってくれた料理が冷めてしまったね」
ヒステリアモードが続いていた俺は理亜に近寄った。
「い、いえ……温め直しましたので大丈夫だと思いますけど」
「それは悪いことをしちゃったね。せっかく理亜が作ってくれた料理を冷ましてしまったなんて兄失格だ。
でも理亜の料理は美味しいから冷めても食べるのが楽しみだよ。
やっぱり理亜みたいな子が作るとそれだけで食材が活きて、食べる時も華やかになるから美味しいのかな?」
「あ、ありがとうございます……ええっと兄さんですよね?」
「もちろん、君の兄だよ。
理亜には誰に見えるんだい?」
急に近寄ってきた俺に驚いたのかジリッ、ジリッと後ずさりながらそう返す理亜。
何だろう。側に近寄っただけで後ずされると兄として凹む。
「兄さん。何だか今日はいつもと雰囲気違くありませんか?」
「違う?
何がだい?」
「なんというか、女性慣れしてるような……。
兄さんはいつも積極的でしたけど今日の兄さんはいつもよりも、その……女の子の扱いが上手いような……いえ、気のせいですね。
兄さんにそんな甲斐性があるわけないですし」
戸惑ったのかそんな事を呟く理亜。
この子はやはり鋭いな。
俺がいつもの俺じゃない事に気づきつつあるね。
後半部分はものすごく失礼だけどね。
「お鍋を温めて来ますから、兄さんは手を洗ってうがいをしてきてくださいね」
「わかったよ。
それがすんだら俺も手伝うよ。
理亜ばかりに働かせるのは悪いからね」
「いえ。兄さんは席に着いててください。
すぐに支度は終わりますから」
「じゃあ、そうさせてもらおうかな」
「はい、ふふっ」
「どうしたんだい?」
「あ、ごめんなさい。
何だか 新婚さんみたいだなーって……」
「ん?」
「あ!な、な、なんでもないです!今のはその、違うんですからね!
そう言った意味じゃなく、でもそう言った意味もあるかもしれませんがって何言ってるんですか私⁉︎
ああ、もう……とにかく違いますからねっ!」
ものすごい早口でそう言った理亜はキッチンの方に引っ込んでしまった。
走り去る際にその顔を見たが、顔を真っ赤にさせていたがどこか体調がわるいのだろうか。
心配だな。
風邪薬の準備くらいはしておこう。
大切な妹の体調管理は兄の責任でもあるしね。
夕食はロールキャベツに、コンソメスープ、サラダに昨夜の残りのカレーだった。
普通に美味く、一流レストランとはいかないが家庭料理でも十分、お金が取れるレベルだと思う。
「どうですか?」
「美味しいよ。
こんな美味しい料理が食べれるなんて幸せだよ。
きっと理亜は将来いい奥さんになるね」
「お、おお、奥さん⁉︎」
中学生相手に奥さん呼ばわりは流石に早すぎたのか、理亜は熱が引いて元に戻っていた顔を再び赤くしてプルプルと震え始めた。
(しまったな。やっちまった……)
ヒステリアモードとは言え、時間が経った事もあり、血流も収まってきたせいで理亜にとって触れてはいけない話題を話してしまったみたいだ。
「ごめんな。理亜。
奥さん呼ばわりは駄目だったな」
俺は言ってしまった言葉を訂正しようと謝る為にそう言ったが______
「駄目じゃありません。嬉しいです。
兄さんにならもっと言ってほしいです」
「え?」
「あっ……。
そ、その……違います。違いますからね!
そういう意味じゃないですからね!」
両手の掌を振って違います、と発言を否定する妹様。
慌てて否定しだしたが妹よ。
そんなに全力で否定されると兄としては落ち込むぞ。
そんな心境を知ってか「はふぅ……」と溜息を吐いた理亜。
今の「はふぅ……」は何か心配事がある時に出る「はふぅ……」だと記憶で知る。
こんな時にはどうしたらいいのか?
それは______
理亜に近寄り、俺は彼女に『許可』を求める。
「理亜。ちょっと触れてもいいか?」
「え?あ、はい。ガマンします」
理亜は極度の潔癖症だ。
それは掃除や家事の事だけではなく、人や物にも当てはまり、男女関係なく気軽に触れられるのを嫌がる。
その嫌がりようは尋常ではなく、他人が理亜に触れようとすると彼女の身体が勝手に反応して避けてしまうくらいに異常に敏感だ。
そんな理亜だが、前もって伝えれば親しい人や心を開いている人になら我慢して触れさせる事ができる、と記憶にあった。
理亜に一声かけた俺はその頭の上に掌を乗せて力を軽くして撫でた。
「あ……」
「大丈夫か?」
「あ、はい。兄さんなら大丈夫です」
この日は理亜が寝るまでヒステリアモードが続く限り、彼女の頭を撫でた。
2010年5月12日。午前8時。一文字家。
翌日。
理亜に起こされて彼女の朝食を食べた俺が登校する為に玄関の扉を開けて外に出ると______ビックリするようなイベントが待っていた。
「おはようございます」
家を出た瞬間、目の前に蒼青学園の制服に身を包んだ一之江が立っていた。
「待ってたのか?」
美少女が登校前に自宅前で待っているこの状況。
俺が憑依する前の以前の俺、一文字疾風なら心から喜んだだろうな。
だが、この俺はそんな気分にはなれない。
彼女の昨日の言葉、昨夜の出来事、そして今朝のこれだ。
言葉の中に懸念が残っていたとしても仕方ないだろう。
「お話があるので付いて来て下さい」
話があるからちょっと面を貸せや!
ということだな。わかりました。
「ああ、いいぞ」
正直、これ以上厄介事に関わりたくないんだが放って置くとさらに厄介な事態になりかねん。経験上。
「って、あれ?」
ってきり学校に向かうとばかり思っていたが一之江が歩き始めた先は学校とは別の方向だ。
「学校には行きません」
「サボるのかよ」
転入してきて日が浅いのにもうサボるとか、案外不真面目なんだな。人の事言えねえけど。
「はい、サボタージュです」
あっさり言い切った一之江。
彼女はサクサクと歩いていく。
その歩調はかなり早い。小さな身体なのにな。
さっきチラッと顔を見たがおデコに冷え◯タみたいな物を貼っていた。
何処かにぶつけたんだろうか?
小さな体付きなのに行動力はあるみたいだ。
「だれの身体つきが小さいですか?
殺しますよ、ハゲ」
「だからハゲてねえよ!」
昨夜した会話みたいな感じで言い合いながら彼女の背中を追いかけていく。
昨日とは立場が逆転したみたいでちょっと楽しい。
そんな一之江の後を追って住宅街を抜け、大通りに出ると俺達の前に黒塗りの車が止まった。
やたら大きな車で後部シートにはスモークが貼られていて中がみえない。
まるで菊代のセンチュリーに乗った時のような状況だ。
「まさかと思うが……」
「乗ってください」
「だよな……お邪魔します」
初老の紳士が後部座席のドアを開けてくれたので仕方なく中に入り座席に座った。
中はやはり広くて、シートはふかふか、コーヒーメーカーやDVDが見れるスクリーンまで付いていた。
車が発車すると一之江がコーヒーを入れてくれた。
「はい、どうぞ。砂糖とミルクはこちらです」
「あ、悪いな」
コーヒーカップを受け取り一口飲む。
「美味い」
普段インスタントしか飲んでないが間違いなく高級な豆を挽いた物だとすぐにわかる。
昔、アリアが俺に出すように命じた魔法の呪文のコーヒーはきっとこんな感じなんだろう。
「えーと……話しって何だ?」
コーヒーを一口飲んでから切り出してみたが______
「まだ言えません」
訪ねた言葉に一瞬で返事が返ってきて、思わず口をつぐんでしまう。
まだ、っていうのはどういう事なんだろうか。
会話らしい会話は続かず終わり、気まずくなった俺はメールを送る為に携帯を取り出した。
「メールですか?」
「ああ。学校休むなら連絡しないと……だろう?」
「どなたにですか?」
「いや、ほら。クラスメイトの仁藤キリカ。ちょっと猫っぽい感じの奴」
「ああ……はい」
「あいつに休むって伝えようと思って」
「それには及びませんし、メールもまだ待ってください」
「へ?」
「三枝さんに我々が欠席する旨は伝えてありますし、誰かへのメールによる因果の接続は今暫くお待ち下さい」
「なんだって?」
何故か委員長である三枝さんの名前と、その直後に出た『因果』の言葉に俺は驚いてしまう。
そのまんまマジマジと一之江を観察するが、彼女は意に介した様子もなく、静かにコーヒーを飲んでいる。
……説明はもう少し待て、という事だろうか。
その「もう少し」がどのくらいかはわからないけどな。
そんな事を思っていた、その時______俺達を乗せた車は夜霞市と隣町の月隠市を隔てる大きな川。
『境川』の橋を渡りきった。
「それではお話しします」
「もう、いいのか?」
「はい。夜霞から出ましたからね。月隠に入れば大丈夫です」
「別の市に入ればいいのか?」
「ええ。基本的にロアの影響範囲は街単位ですから」
『ロア』
一之江から出た、その言葉に俺は固まった。
この少女が口にしたそれは、昨日の人形が言っていた言葉で______つまり。
「なあ、一之江……さん」
「何ですか?」
「昨日、俺を追いかけて、襲ってきた人形は……」
「私です」
一之江は悪びれた様子もなく、きっぱりと言い切った。
「私です、ってお前な……」
「お前、とか親しげに呼ばれるのも心外ですが」
「いや、そういう事じゃねえだろ。俺、死ねところだったんだぜ?」
「そうですね」
(そうですね、じゃねえよ!)
と、心の中で突っ込みつつ、会話を続けた。
「お前がやろうとした事は殺人未遂だ!
わかってんのか?」
「わかってますよ。なんなら今日も殺しに伺ってもいいのですよ?」
「お前!」
「すぐに熱くなると、今後生き残れませんよ、一文字疾風」
摑みかかりたくなったが、思えば前世ではアリアにバイオレンスな虐待を日常茶飯事にされていたのを思い出し、手を引っ込めた。
(耐えろ、俺。銃撃されて風穴開けられるのに比べたら一度くらい我慢できるじゃないか。なあ、許そうぜ)
そう自分に言い聞かせ、一之江に告げる。
「まあ、今回だけは目を瞑ってやるよ」
「おや。意外と冷静になるのが早いですね」
「まあ、な」
(一々つっかかっては身が持たないからな。俺の心身が)
そのまま、視線を彼女に向けてジッとしていると彼女が「では、そろそろ本題に入りましょうか」と前置きをしてから質問してきた。
「貴方は、『ロア喰い』ですか?」
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