雨宿り
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第一章
第一章
雨宿り
「おいおい、ここでかよ」
「困るな」
突然降りだした雨だった。二人の少年がそのことにたまりかねて言う。
「まだ降るとは思ってなかったのにな」
「降るの夜からだった筈だぜ」
そしてこんなことも言うのだった。
「それで何でここで降るんだ?」
「天気予報もあてにならないな」
今度は天気予報について文句を言う。案外あてにならないものだと心の中で思いもしつつ降りはじめた雨の中を必死に駆けていた。
二人は共に学生服を着ている。今では結構少数派かも知れない黒い詰襟の学生服だ。その学生服も次第に濡れてきている。髪も濡れてきていた。
「やべっ、強くなってきたな」
「ああ、こりゃバス停までもたないぞ」
一人がこう言った。
「ちょっとどっかで雨宿りするか?」
「そうだな。そうするか」
言いながら二人で周りを見回す。その間も駆けている。
見回したところ雨宿りできそうな場所はない。そのことに焦りだしていた。
「何処かないのかよ」
「このままじゃ風邪ひくぞ」
雨は段々強くなってきている。街の行き交う人々も駆けているか傘をさしている。二人は傘を持っていない。それで雨宿りできる場所を探しているのだった。
「それで何処だ?」
「いい場所ないのか?」
また周りを見回す二人だった。
「とにかく今はな」
「ああ、雨宿りできる場所だよ」
とにかく探す。そうしてやっと見つけた場所は。本屋だった。
「あっ、あそこがいいな」
「そうだな」
本屋を見つけて二人で顔を見合わせた。そこは確かにいい場所だった。いつも学校の帰りに入っている本屋だが今日はまた特別なものに見えた。
「入るか」
「そうだな。あそこでな」
相変わらず駆けながらだがそれでもその中で顔を見合わせて話をする。
「暫く時間を潰して」
「それで雨が止むか弱まるの待つか」
こう言い合って何とか店に飛び込んだ。その時にやっと雨の匂いを感じた。雨がアスファルトを濡らしてその中で香ってくる。あの独特の匂いだった。
雨の匂いをやっと感じながら二人は本屋の玄関に辿り着いた。そこでまずはハンカチを取り出し頭や顔を拭く。学生服はとりあえずどうしようもないまでは濡れてはいなかった。
「やれやれ、何とか助かったな」
「結構濡れたけれどな」
それでも拭いてそれで終わる程度で済んではいたのだった。
「で、雨が止む間な」
「そうだな。店の中に入ってな」
ここで本屋の中を見る。見ればそこには本が整然と並べられている。中には今日発売の漫画雑誌やファッション雑誌もある。彼等が好きな本だ。
「漫画でも読みながら時間潰すか」
「そうするか」
そんなことを話してそのうえで店の中に入った。店に入るとその瞬間にカウンターから歳を取ってもう髪が真っ白になり腰もかがみ気味になっているお婆さんが言ってきた。
「あんた達ちゃんと身体拭いたかい?」
「髪と顔は」
「あと手も」
「服もちゃんと拭いてね」
お婆さんは高いがスローモーな声で二人に言うのだった。
「漫画、濡れたら駄目だからね」
「あっ、はい」
「それじゃあ」
「それから中に入っておいで」
お婆さんはまた二人に言ってきた。
「そうしておくれよ」
「はい、わかりました」
「じゃあ」
二人はお婆さんの言葉に応えてまた店を出た。そうしてハンカチを一旦絞ってからそのうえで学生服も拭きだした。そうして学生服を拭きながら苦笑いを浮かべて言い合うのだった。
「あの婆ちゃん本当に変わらないよな」
「そうだよな」
その苦笑いでお婆さんについて話すのだった。実はこのお婆さんは本屋共々学校では誰も知っている人であり結構話題になっているのだ。
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