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Fate/Fantasy lord [Knight of wrought iron]

作者:花極四季
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疑問は尽きることなく

 
前書き
今回は繋ぎのようなものなので、内容は短いです。 

 
あの後、私の歓迎会と称されたパーティらしきものが行われた。
事実上開始したのは夕方になってからだが、仕込み諸々はあの時点から行われていた。
逆に言えば、それほどの時間を費やす規模の内容に仕上がったという事である。
因みに私は一切手をつけていない。
一応主役を張っていることになっているのに、それが内容に干渉するというのはあまりにもお粗末だ。
その辺りの常識は弁えているつもりなので、その間に私は周辺の散策に勤しんでいた。
とは言っても、屋根の上から観察していただけなので、情報量は限りなく不足していることに変わりはない。
ただ、これ程までの自然が今なお密集して現存しているという事実を確認したことで、ここが日本とは隔絶された世界なのだという裏付けもついた。
建物と自然の割合が外とは見事に逆転している光景は、現代社会の中で生まれた自分にとってこれ以上とない新鮮さを醸し出していた。
ここでは、機械技術そのものがない訳ではないらしいが、あくまで独自の技術として扱われているだけで、絶対ではないようだ。
どういう理屈かは知らないが、電気は使われているようで、電柱のようなものが見当たらないのを見る限り、地電流か何かを引き上げているのだろうか。

結局それらしい収穫もないまま、歓迎会を迎えることになった。
―――結果だけいえば、主役なんていなかった、とだけ言おうか。
私そっちのけで諏訪子が暴れ、私と早苗はそれを諫めるのが大半だった。
神奈子は諏訪子とは比べものにならない程上品で、どこでこんな差がついたのかと内心では溜め息が出たものだ。
………だが、退屈はしなかった。
歓迎会の間、先程まで私に向けられていた覇気は感じられなかったのを理解した時、本当に受け入れられているんだなと、らしくなくも嬉しくなってしまった。

「申し訳ありません、結局手伝わされる羽目になってしまい………」

「構わんよ、存外楽しめた礼だ。それに、この手の作業は得意でね」

そして今、私と早苗は台所で洗い物に勤しんでいた。
諏訪子は疲れて寝ている―――神に疲労の概念があるのだろうか―――し、神奈子はこの手のことは早苗に任せると最初からやる気はなさそうだ。
出された料理の数は相当な量で、当然そこから生まれる洗い物の数も尋常ではなかった。
これは流石に彼女ひとりに任せられないと思い提案したら、思いの外あっさりと承認を得られた。
時間も遅いことも相まって、流石に限界が近かったのだろう。
だが、言質を取ったからにはこちらも本気を出させてもらう。
私は彼女の出番を軒並み奪うほどの手際で洗い物を片付けていく。
速さだけではない。当然質も完璧な仕上がりにしている。
幻想郷には洗剤はないらしく、使われているのはもっぱら石鹸。ここにも科学が滲透していない故の違いがあった。

「あの時語った饅頭の質の話といい、食器洗いといい………シロウさんって、実は家庭的?」

「家庭的、か。技術面だけで言えばその通りだが、私ほど家庭という概念と不釣り合いな男はそうおるまい」

料理の回数なんかより、この手を染め上げた血の種類の方が勝っているような奴に、今更普通を求める資格はない。
のうのうと平凡な暮らしに転移できるほど、私は腐ってはいないつもりだ。
身分相応の幸福さえ掴めるなら、それでいい。高望みなんて以ての外。
凜にとっては満足のいく答えにはならないだろうが、こればかりは私自身が赦せない以上、どうしようもない。
自分自身に嘘を吐いてまで目指した結果なぞ、紛い物にすら劣る。
そんなものでは、誰も得しない。

「私は尊敬しますよ。偏見かもしれませんが、男性なのに女性よりも家事ができるなんて、そうそうある話じゃありませんし」

確かにそうそう聞く話ではないが、別段特別視されるようなものではないと思うのだが。
男女の差は料理において個性としては評価されない。
腕は努力によって形成されるし、新商品等は独創性が大事だ。
男だから味の好みが異なるなんて話は聞かないし、女性だから料理ができるものという判断も偏見だ。
とある民族では、男性が家事を、女性が狩りを行うなんて法則があるらしいし、結局は環境次第なのだ。
社会が、人間の総意がそれを求めているからこそ、流れは変化する。
必要とされれば表立つようになるし、そうでないならどうにもならない。所詮、その程度の価値観でしかない。
事実、わたし
衛宮士郎
だって料理をするようになったのは、物臭で不摂生な育ての父による反面教師のお陰なの
だ。そうでなければ、恐らくは彼女の言う尊敬されない男の部類に入っていただろう。

「君がそう思っているならそれでいいさ」

「むう………どうしてそう受け流そうとするんですか。私が馬鹿みたいじゃないですか」

「性分なものでね、決して蔑ろにしているつもりはないのだがな」

「だったら、もう少しそれっぽいリアクションをしてくれても」

「それっぽい、とは?」

「それは―――素直にありがとう、とか」

「そうか、では―――君のような見目麗しい少女に言われるのであれば、例え世辞であろうと男冥利に尽きるよ。ありがとう」

「――――――ッ、なんですかその前文は!」

「本心だが?」

「もう、いいです!」

ツン、とそっぽを向かれてしまう。
怒りながらも仕事の手際が衰えない辺り、流石と言える。
しかし、横から見てもわかるぐらい真っ赤な顔だ。
こうからかいがいがあると、癖になってしまいそうだな。
さて、キリも良いのでとっとと仕事を終わらせてしまおうか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


かつて騒がしさを繰り広げていた家を抜け、ひとり風を浴びる。
星が瞬く夜空は、排気ガスによって汚染された外の世界では見られない程の輝きを見せており、胸に去来するもどかしさを多少落ち着けてくれる。

「………いるんだろう、出てこいよ」

虚空に響くそれは、絶対遵守を是とする言霊が込められており、聞く者を例外なく服従させる力があった。
それに呼応するかのように、私の目の前に歪な空間の裂け目が形成される。
醜く口を開いていくそれから現れたのは、怪物でもなんでもなく、美麗な女性だった。
しかし、視界に収めれば誰もが彼女に同一の感想を抱くだろう。
―――コイツには関わるな、見た目の美しさなんかよりも、生物としての本能がそれを真っ先に告げる。それほどの異質が、目の前の存在には内包されていた。

「こんばんわ八坂神奈子、物騒な物腰で何用かしら?」

「とぼけるなよ、エミヤシロウのことだ」

呼ばれた理由も理解している癖に、コイツは不要な前置きを置きたがる。
それはからかいが絶対の割合を示す、ただの戯れ。ここまで神を相手に馬鹿をしようと思うのは、無知な妖精か、コイツぐらいのものだろう。

「あら、誰かしらそれは」

「………彼がここへ訪れた経緯を話してくれたが、お前が起こす神隠しとやらと同じ奇妙さがあった。いきなり空に放り出されるだなんて奇抜な手段、お前しかやらないだろう」

「酷いわね、そのエミヤシロウが嘘を吐いていないという保証はどこにもないのよ?」

「少なくとも、貴様に比べれば何万倍も信用に値するよ」

睨み合いが数十秒と続き、彼女の溜め息がその終わりを告げる。

「そうよ、彼を呼んだのは私の仕業。それで、それがどうかしたのかしら?」

「―――言うに事欠いてそれか。なら単刀直入に訊こう。何故エミヤシロウをここに落とした?」

「―――何故、とは?」

「文字通りだよ。ここには人間の里、紅魔館、白玉楼、永遠亭、地霊殿といった感じに、場所は多数ある。そんな多数の可能性の中から、何故ここを選んだのだ」

「さぁ、ただの気まぐれかもしれませんわよ」

「………お前が連れてきたのがただの一般人だったなら、そう結論づけただろうさ。しかし今回は違う。サーヴァントだなんて馬鹿げた存在を送り込み、貴様は一体何を企んでいる?」

その問いに、奴はただ憎たらしい笑顔を向けるばかり。
どうやら、答える気はないようだな。期待はしていなかったが。

「口を割らせるためなら武力行使も本来はやむなしだが、生憎と蚊帳の外の雰囲気を壊したくないのでな」

「あら、それはそれは」

こうなることも総て予想の範囲内だったのだろうと思うと、嫌悪感で吐き気がする。
掌で踊らされているという事実は、神としてではなく、いち生命体として不愉快にさせていた。

「用事もそれだけのようですし、そろそろ失礼致しますわ」

茶番は終わりだと暗に示すかのような、あっけない幕引き。
抵抗しようにも、それが事実である以上足掻くのはただの愚行となる。

「最後に訊かせろ。―――貴様は一体、何を視ている?お前の見出す世界には、何が待ち受けているというんだ」

一考して、一言。

「何も。幻想郷は全てを受け入れる、ただひとつの例外なく、取り残されたもの達を包み込む。最終的に纏めて吸収されてしまうならば、過程に起こる事象について語ったところで無意味ではなくて?」

それだけ言い残し、歪んだ境界線と共に姿を消した。

はぐらかされた感もあるが、確信できる情報もあった。
過程に起こる事象を語るのは無意味と言ったが、裏を返せば過程を飛ばして結果には行き着かない、故に過程が消えることはない、ということにも繋がる。
それはつまり、彼をここに引き寄せたのは、とある結果に到る為の過程―――その要素としての鍵となるからと解釈できる。
その結果こそ幻想郷の在り方に関係するのだろうが、そこは正直重要じゃない。
エミヤシロウの行き着いた経緯を訊いた後では、奴が何かに対して焦りを感じているのがわかる。

奴の神隠しは、あくまで外で不必要となったナニかが対象であって、奴はここに到るための架け橋の役割しか担っていない筈。
道が開けばそこに行くしかない―――それ程までに切羽詰まった存在しかここに来る資格はない。
パートナーと強い絆で結ばれていた彼は、決して幻想とはならない。
誰一人としてその存在を証明できる概念を保有しなくなってこそ、初めて曖昧な事象に変化する。
確かに私や諏訪子も、ただ一人を除いて存在を証明できる存在がいなくなってしまったという点では彼の状況と似ている気がしなくもないが、私達は奴の力を借りずにここに来た。よって小さな差違なれど、意味合いは大きく変化する。
彼の話では、奴に問答をされたらしいじゃないか。それも、ここに誘導させるような質疑を以て。
稀に外来人という、外の世界から連れてこられた人間もいるらしいが、どうやらその類の者達は、例外なく一切の説明もされぬままここに放り込まれたのだとか。

何故、そこまでして彼を幻想郷に到らせたのか。何故、彼だったのか。―――何故、私達の印象操作を行う為の舞台を用意したのか。
神社の屋根を破壊するように仕向けるという、一歩間違えれば最悪な印象を植え付ける要素で臨んだにも関わらず、彼は屋根を修理したり初対面である早苗を強く心配してくれたりと、その印象を逆転させる程度の立ち回りを見せた。
逆に言えば、奴が不必要な工程を踏むような莫迦ではないと知っている以上、その結果に到るまでもが奴の思惑通りだったに違いない。
これでただ適当に都合が良さそうな奴を引っ張ってきたのではなく、彼の性格を留意して選択したという裏付けにもなった。

「八雲紫よ。彼は、エミヤシロウは何者なのだ―――?」

届いているのかすらわからない独白は、ただ闇夜に溶けていくだけだった。
 
 

 
後書き

今回は前回にはない、完全に別物の内容なので、変更点以前ですね。

一応変更点と言えなくもないのが、

神奈子が八雲紫と接触している。
前回は外から幻想郷に来た、ということしか説明せず、その辺の話はスルー気味でしたが、今回は早期に当たりを付けた神奈子がこうした行動に出ました。よって、この繋がりが今後どのような展開を呼び込んでくるのかが注目ポイントかな?
それにしても………前回なんかよりも物凄く活躍してるよ神奈子様!凄い、カリスマっぽい!(ぉ
 
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