閃の軌跡 ー辺境の復讐者ー
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第13話~貴族と平民と~
前書き
こんばんは。突然ですが、前書きをお借りしてお詫び申し上げたいことがあります。第12話にて、A班のメンバーはリィン、ケイン、エマ、マキアス、ユーシス、ファミィとなっていたはずですが何をトチ狂っていたのかフィーさんも出てしまっていました。後で気づいて大慌てで修正しましたのでお手数ですがもう一度お読みいただければありがたく思います。ご報告が遅れて申し訳ありません。また、矛盾点がまだ残っていればお伝え下さると幸いです。
宝飾店ターナーの店長、ブルックに挨拶をしてから店を出た一同は、実習を再開せんとしたが、何かを言いたげな表情をしていたユーシスは、ファミィに話しかける。
「ファミィ、お前の母親には会わなくていいのか?」
「・・・後で行くんだからいいわよ」
「フン、それもそうだな・・・」
今回の班分けは、別段ユーシスとマキアスだけが問題視されているわけではなかった。
ファミィもまた貴族に対して心を閉ざしているところがあり、ユーシスやリィンに対しては冷たい感じである。サラ教官に勝利した報酬としてA班の班分けを変えてもらえば良かったかと思ったが、クラス間の問題の先延ばしは、悪循環を呼ぶだけなので解決策を探すべくケインが頭を抱えていると、正面からある女性の声がした。黄緑色の髪が地に着くぐらいの伸びているが、手入れが行き届いているのか毛先まで艶やかだ。端正な顔立ちで、少し長めのまつ毛と鏡のように透き通る瑠璃色の瞳が印象深い。その女性の美貌にリィンやマキアスは見とれてしまっているようだ。エイドスが舞い降りたのではないかと言う考えがケインの頭にも一瞬よぎったが、そんな馬鹿な事はないと考え直して要件を女性に伺おうとしたその瞬間だった。
「・・・お、お母さん!?」
ファミィが驚きの声を上げ、彼女以外が眼前の女性がファミィの母親であることに驚き、二つの驚きが重なったのは。
「ファミィの母、ミセリィ・シェアラドールです。初めまして。ユーシス様も、ご壮健そうで喜ばしい限りです」
「・・・ふう、あなたも特別扱いしないでくれ」
「ふふっ、すみません。でもどうしてお戻りに?」
「ああ、その事だが・・・」
ル・ソレイユとは職人通りにあり、バリアハート産の毛皮で衣類を作るオーダーメード方式の仕立て屋らしい。良質で比較的安価な衣服を提供していることで定評な店だそうだ。その二階にて、ケインたちは店のオーナーたるミセリィの入れた紅茶をご馳走になりながら挨拶を兼ねて語らっている。まず、ユーシスがバリアハートへ帰郷した経緯について説明する。その話を聞いたミセリィは、興味深そうに大きな瞳を丸くしている。
「特別実習、ですか・・・最近の士官学校はそんなことも行っているのですね」
「まぁ、流石にトールズぐらいだとは思うんですけど」
ミセリィの感想に苦笑したケインは、それに答える。一同もそれに同意するかのように苦笑いを浮かべていた。その一体感が何となく微笑ましかったのか、彼女も口に手を当ててふふっとにこやかに笑う。
「それにしても・・・」
「?何よ?」
マキアスのふと口にした言葉に全員の視線がファミィへ向けられる。当人だけは怪訝な表情だ。しかし、彼らが共通して疑問に思うことがあった。この二人は本当に親子なのか、と。容姿の話ではない。主に性格面の話で、ミセリィの方は気さくながらもお淑やかな印象を受けるが、一方ファミィは負けん気が強く、煩いぐらい活発的だ。
「そ、それはその・・・」
「ああ、ファミィ。マキアスはこう言いたいんだよ。
『君も母親を見習って、もう少しお淑やかに振る舞ったらどうだ?』ってさ」
「・・・ふぅん、マキアスがそんなことを。そうなんだ・・・ふぅん」
「ファ、ファミィ。こ、これはケインが勝手に言ったことであって僕は何も・・・」
辛辣なマキアスの台詞(?)を口調まで真似て発したケインの言葉を受け、ファミィは私は何も気にしてないからという表情を出そうとしているが、眉が割と高速でヒクついている。
「ケイン、マキアス。後で・・・覚えておきなさいよね」
「・・・はい」 「ハイヤー!」
「何故そこで俺の物真似をする!?」
「あっ、これは違ったな」
言わずもがな、馬術部であるユーシスの乗馬をしている際の掛け声だ。この前たまたま見かけて即座にモノマネをし、馬に乗ったままのユーシスに無言かつ無表情で追い掛け回されたのは記憶に新しい。今回は条件反射的に間違えて言ってしまった。
「・・・ケイン、後でお前に話がある。付き合うがいい」
「ハイヤ・・・じょ、冗談だって。騎士剣なんか構えてどうしたんだよ?話せば分かr」
「問答は無用だな・・・」
「問答は有用だよ、ってうおッ!」
無言で水平に斬りかかったユーシスに、上体を後方に逸らしてしなやかに避けるケイン。
「あ、危ないだろッ!?首が落ちたらどうするんだよ!?」
「安心しろ。首が無くとも埋葬するのに問題はあるまい」
「殺す気まんまんじゃないのかよ、それ」
このままでは約一名の首が飛びかねない。さすがに看過できない事態となり、激昂ユーシスを残りのメンバーで何とか宥め流血沙汰にはならずに済んだ。その後、一部始終を見届けたミセリィが昼食を振る舞ってくれるということで何事もなかったかのように下へ降りていった。ケインとマキアスがその間ずっと正座をしていた理由は語るに及ばないだろう。
-オーロックス峡谷道-
「ここから先がオーロックス峡谷だ。この峡谷を超えると、オーロックス砦がある」
ミセリィの料理に舌鼓を打った後、オーロックス峡谷へと繰り出したA班メンバーズは、手配魔獣討伐ために先へと向かうことにする。ユーシスの話によれば、依頼を出した領邦軍は峡谷を超えた先のオーロックス砦にいるそうだ。道中で魔獣を倒して砦へ報告するのが手順としては妥当だろう。かなりの長さとの説明は受けていたので、往復でそれなりに時間がかかるはずだ。ちなみに、砦付近で取れるらしい岩塩、ピンクソルトも調達しておくことになっている。依頼主の貴族も身分らしい傲慢な態度で辟易していたが、ついでに拾うなら問題ないとマキアスも一応は納得できたのだろう。そんな事をぼんやりと考えているうちに橋梁の下を通過し、入り組んだ細道を通った先に手配魔獣と思しき魔獣がいた。
極端に大きくはないが、両手の鋭そうな鉤爪と大きな口が印象的なその魔獣は、禍々しく獰猛そうで、そこそこの戦闘力はありそうだ。
「・・・おい」
「ああ、判っている。アークスの戦術リンク・・・いいかげん成功させないとな」
「ユーシス、マキアス・・・信じているよ。援護は任せてくれ」
マキアスとだけリンクを繋げないことは一応癪であるらしいユーシスは、そんなもどかしさを前面に出しつつ彼に呼びかける。マキアスもリンクを繋ごうという意志を見せ、そんな2人の心境の変化を嬉しく思ったケインは、魔獣に導力銃を向けながら彼らを穏やかに激励する。臨戦態勢に入った3人に倣い、残りのメンバーも得物を構え、手配魔獣との戦闘を開始した。
「はあっ・・・はあっ・・・」
「・・・・・・」
リンクが途絶してしまったユーシスとマキアスをカバーしながらも間一髪魔獣を地に伏せることができた。やはり二人が繋ぐためには何かが欠落しているのか。他のメンバーが多少なりとも疲弊する中、ケインは一人そんな風に考え込んでいた。
「どういうつもりだ、ユーシス・アルバレア。
どうしてあんなタイミングで戦術リンクが途切れる・・・?」
「こちらの台詞だ、マキアス・レーグニッツ。
戦術リンクの断絶・・・明らかに貴様の側からだろうが」
「一度協力すると言っておきながら腹の底では平民を馬鹿にする
・・・結局それが貴族の考え方なんだろう!」
「阿呆が・・・!その決めつけと視野の狭さこそが全ての原因だとなぜ気づかない・・・!」
最終的には襟首までつかみ合って言い争うマキアスとユーシス。思えば彼らは行きの列車でも些細な事で揉めており、その時はリィンが纏めてくれたが半貴石の一件はマキアスやファミィの貴族嫌悪に拍車をかけただけで、そろそろ我慢の限界なのだろう。お互いを一方的に糾弾し合う2人をリィンが止めようとしたが、気配を察知し、彼らに突然襲い掛かった鉤爪の一撃を庇う。
「・・・ぐっ・・・」
「リィ、リィンさん!?」
2人に注目していたため、僅かに反応が遅れたことに罪悪感が募ったが、ケインは即座に生きていた魔獣めがけて篭手による掌底を決め、至近距離で銃口を突き付ける。
「・・・終わりだよ」
発射された単発の銃弾を口に喰らった魔獣は、断末魔のような短い悲鳴を上げて絶命した。
肩に傷を負い、片膝をつくリィンを申し訳なさそうに見つめるマキアスとユーシス。全員に声をかけられた彼は大した傷じゃないと言い、倒したはずの魔獣が生きていたと気付けず不甲斐なさを嘆いていた。手負いのリィンにエマが応急手当を施すと、とりあえず痛みは消えたようだ。
「すまない、その・・・」
「・・・完全に俺たちのせいだな」
「いや、気にしないでくれ。気づかなかったのは俺のミスでもあるし・・・
とにかく2人に怪我がなくて良かった」
怪我をしたのは完全に自分たちの失態だと言う二人に、彼らを驚かせるほど優しい言葉をかけるリィン。彼は暫く後方に入ることになり、彼に長く負担を強いたくないのか、妙に積極的なマキアス・ユーシスに続いて渓谷を渡って行くのだった。
「待て・・・!これはどういう事だ!?どうして地方の領邦軍なんかに最新の戦車が必要になるんだ!?おまけに砦を大幅に改造して対空防御まで備えるなんて・・・さすがに常軌を逸しているぞ!?」
道中でピンクソルトを回収し、オーロックス砦にて領邦軍に魔獣討伐の報告を行った後、足早に帰ろうとするユーシスに、マキアスが文句を言う。着いてすぐ、砦付近の線路をRF社製最新型主力戦車、通称アハツェンが通過していく光景を見て軍備増強を誇らしげに語っていた領邦軍の話を聞けば無理も無いだろう。マキアスに答える形でユーシスが言うには、四大名門を筆頭にした貴族派。鉄血宰相ことギリアス・オズボーン率いる革新派。両者の対立は水面下で激化している。先ほどのものがその一端で帝国の現状だ、と。
「軍備増強を決めたのも俺の父、アルバレア公爵だろう。だが、その事について俺からコメントするつもりはない・・・文句があるなら受け付けてやってもいいが?」
「・・・いや、いい。そろそろ夕刻だし街に戻るのが先決だろう」
激化の現状は確かに深刻だが、それについて言及しても変わらないだろう。そう思い直したのか、マキアスが折れてバリアハートに戻ることになった。
(いがみ合っている結果がこれか・・・ケルディックの人たちの生活が苦しいのは俺たちのせいなんだろうな)
自身の境遇と重ね合わせ、複雑な心境になって暫し考え込んでいたケインは、リィンに呼びかけられて先行していた彼らの後を追った。
折り返しを過ぎたあたりで砦の方から微かにサイレンの音が聞こえてきたのに気付いた一同は立ち止まる。何らかの気配を察知したケインが空を仰ぎ、他の4人もそれに続いて見たのは、白銀の傀儡に乗った少女が上空を通り過ぎて行く光景だった。
「な、何だアレは!?このあたりにはあんな鳥が飛んでいるのか!?」
「阿呆が・・・そんなわけあるか」
もともと目が悪く、眼鏡をかけてようやく標準であるマキアスの動体視力では分かりづらかったかもしれないが、あまりにも的外れだ。ユーシスが堪らずツッコむのも理解できる気がする。見えなくなるまでその傀儡を眺めた後、ケインは目撃して得た情報だけを簡潔にマキアスに説明した。彼の動体視力の高さに驚く一同だったが、そんなタイミングで装甲車両数台が下ってくる。中から出てきた領邦軍は、事情を訊くユーシスに砦への侵入者の報告をする。あの白銀のものかとマキアスが呟くと、今度は飛び去っていった場所を訊き、早々に装甲車を走らせて行ってしまった。速度はそれなりにあったので追いつくのは無理だろうが、この件に関して自分たちにできるのはサラへの報告ぐらいとの考えに至り、峡谷を下ることにした。
バリアハートに着き、依頼主たる貴族にピンクソルトを渡し終えたケインたちは、ホテルに戻ってシャワーを浴び、一息入れてから中央広場にあるユーシスの行きつけらしいレストランに繰り出す。舌が肥えそうなほどレベルの高い食事の数々に舌鼓を打った後、心地よい夜風に当たりながらB班の様子や領邦軍の大幅な軍備増強、その根幹にある貴族派・革新派の対立について語らった。
「ファミィ。お前は母の所に戻るがいい・・・積もる話もあるだろう」
「えっ?でも・・・」
「支配人になら話は通しておいた」
ホテルに戻り、レポートにある程度の目途が立ったところで部屋に戻ろうとしたファミィをユーシスが呼び止める。彼の言葉に少々考え込むそぶりを見せたが、答えは決まっていたらしい。
「分かった、そうする。それとユーシス・・・色々、ありがとね」
「お礼を言われるようなことは何もしていないが?」
「う、うるさいわね!私がお礼を言うなんて珍しいんだからありがたく受け取りなさいよ!!」
「・・・分かったからとっとと行くがいい」
「な、何なのよその態度は!?」
恥ずかしさに頬をほんのり赤く染めながらユーシスに詰め寄るファミィ。そんな二人の仲好さげなやり取りを見て、ケインとマキアスは無言で頷き合う。
「あーコホン。もう夜も遅いみたいだな」
「こんな時間に女の子を一人で外に出すのは気が引けるよな?
・・・ああ、どこかに頼れる貴族紳士はいないのかな~?」
「そ、それもそうね・・・ユーシス!アンタが一緒に来なさいよ!」
「・・・は?どうして俺が?」
マキアス・ケインの大根役者レベルの棒読み台詞を聞き、ファミィは即座に嫌そうな顔をしているユーシスを気にも留めず指名してホテルの外に連れ出していく。
「き、貴族の義務を果たしてくるがいい、ユーシスよ」
「アルバレア家の名に恥じないようにしっかりエスコートし、してきたまえ」
口角を吊り上げ、震え声になりながらも恨めし気にこちらを見るユーシスに見送りの言葉を告げるケインたち。外から何やら喧噪が聞こえてきたが、残りの面々は気にも留めず振り向きもせずにホテル部屋へと戻った。しばらくして、ぐったりした顔で部屋に帰って来たアルバレアの某ご子息様は、どこか吹っ切れているようにも見えたそうだ。
後書き
前書きでは長々と失礼いたしました。失礼ついでに勝手に気を取り直して、これからも一生懸命書いていこうと考えていますので重ね重ねになりますが、「ここは明らかに変だよ!」といった所があればご指摘を頂けると喜ばしい限りです。
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