ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第2部
第2章 王女の憂鬱
ウルキオラが鬼道の練習をして3時間後……。
ルイズとウルキオラは教室に向かった。
ルイズは席に着き、その後ろにウルキオラが立っている。
このスタイルは今も変わらない。
今日もウルキオラは教室の外で待とうとしたが、ルイズがどうしてもというので渋々教室入ったのだ。
教室のドアが開き、ミスタ・ギトーが現れた。
生徒たちは一斉に席に着いた。
ミスタ・ギトーは、フーケの一件の際、当直をほっぽり出して、寝ていたミセス・シュヴルーズを責め、オスマンに『君は怒りっぽくていかん』と言われた教師である。
長い黒髪に、漆黒のマントを纏ったその姿は、なんだか不気味である。
まだ若いのに、その不気味さと冷たい雰囲気からか、生徒たちに人気がない。
「では授業を始める。知っての通り、私の2つ名は、『疾風』。疾風のギトーだ」
教室中がしーんとした雰囲気に包まれた。
その様子を満足げに見つめ、ギトーは言葉を続けた。
「最強の系統は知っているかね?ミス・ツェルプストー」
「『虚無』じゃないんですか?」
「伝説の話をしているわけではない。現実的な答えを聞いているんだ」
いちいち引っかかる言い方をするギトーに、キュルケはちょっとカチンときた。
「『火』に決まってますわ。ミスタ・ギトー」
「ほほう。どうしてそう思うね?」
「全てを燃やし尽くせるのは、炎と情熱。そうじゃございませんこと?」
「残念ながらそうではない」
ギトーは腰に差した杖を引き抜くと、言い放った。
「試しに、この私に君の得意な『火』の魔法をぶつけたまえ」
キュルケはギョッとした。
いきなり、この先生は何を言うのだろうと思った。
「どうした?君は確か、『火』系統が得意なのではなかったかな?」
挑発するような、ギトーの言葉だった。
「ヤケドじゃすみませんわよ?」
キュルケは目を細めて言った。
「かまわん。本気できたまえ。その、有名なツェルプストー家の赤毛が飾りではないのならね」
キュルケの顔からいつもの小ばかにしたような笑みが消えた。
胸の谷間から杖を抜くと、炎のような赤毛が、ぶわっと熱したようにざわめき、逆立った。
杖を振ると、1メイルの炎が現れた。
それがギトー目掛けて飛んでいく。
ギトーは腰に差した杖を引き抜いた。
そのまま剣を振るようにして薙ぎ払う。
烈風が舞い上がる。
一瞬にして炎の玉はかき消え、その向こうにいたキュルケを襲う。
しかし、ウルキオラがキュルケの前に立ち、烈風を片手で掻き消す。
それに、ギトー含め周りの生徒が驚いた。
ギトーは突然現れたウルキオラに文句をつけた。
「貴様!なんのつも…」
ウルキオラはギトーが言い切る前に虚弾を放つ。
それはギトーの顔の横を通り過ぎ、黒板を粉々に吹き飛ばした。
あまりのスピードに教室にいるすべての人間が驚いた。
ギトーの頰が黒板の破片で傷つき、血が出る。
「その程度の実力で驕るなよゴミが」
ギトーはその場にへたり込む。
腰が抜けたようである。
「ダーリン…」
キュルケは惚けた様に呟いた。
ウルキオラがギトーに近ずく。
拳には再び虚弾が形成されている。
ルイズがウルキオラを止めようと席を立ったその時、教室の扉がガラッと開き、緊張した顔のミスタ・コルベールが現れた。
彼は珍妙ななりをしていた。
頭に馬鹿でかい、ロールした金髪のカツラを乗っけている。
見ると、ローブの胸にはレースの飾りやら、刺繍やらが踊っている。
何をそんなにめかしているのだろう。
「失礼しますぞ…ってなんですか!?これは!」
ウルキオラはやる気が失せたのか、虚弾を解除する。
ルイズとギトーがそれを見て安堵した。
「おっほん。今日の授業はすべて中止であります」
コルベールは重々しい調子で告げた。
教室中から歓声が上がる。
その歓声を抑えるように両手を振りながら、ミスタ・コルベールは言葉を続けた。
「えー、皆さんにお知らせですぞ!」
もったいぶった調子で、コルベールはのけぞった。
のげぞった拍子に、頭にのっけた馬鹿でかいカツラがとれて、床に落っこちた。
ギトーのおかげで重苦しかった教室の雰囲気が、一気にほぐれた。
教室中がくすくす笑いに包まれる。
一番前に座ったタバサが、コルベールのつるつるに禿げ上がった頭を指さして、ぽつりと呟いた。
「滑りやすい」
教室が爆笑に包まれた。
キュルケが笑いながらタバサの肩をポンポンと叩いて言った。
「あなた、たまに口を開くと、言うわね」
コルベールは顔を真っ赤にさせると、大きな声で怒鳴った。
「黙りなさい!ええい!黙りなさいこわっぱどもが!大口を開けて下品に笑うとはまったく貴族にあるまじき行い!貴族はおかしいときは下を向いてこっそり笑うものですぞ!これでは王室に教育の成果が疑われる」
とりあえず、その剣幕に、教室中がおとなしくなった。
「えーおほん。皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって、よき日であります。始祖ブリミルの降臨祭に並ぶ、めでたい日であります」
コルベールは横を向くと、後ろに手を組んだ。
「恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます」
教室中がざわめいた。
「したがって、粗相があってはいけません。急なことですが、今から全力を挙げて、歓迎式典の準備を行います。そのために本日の授業は中止。生徒諸君は正装し、門に整列すること」
生徒たちは、緊張した面持ちになると一斉に頷いた。
ミスタ・コルベールはうんうんと重々しげに頷くと、目を見張って怒鳴った。
「諸君が立派な貴族に成長したことを、姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ!御覚えがよろしくなるように、しっかりと杖を磨いておきなさい!よろしいですな!」
魔法学院の正門をくぐって、王女一行が現れると、整列した生徒たちは一斉に杖を掲げた。
正門をくぐった先に、本塔の玄関があった。
そこに立ち、王女一行を迎えるのは、学院長のオスマンであった。
馬車が止まると、召使たちが駆け寄り、馬車の扉まで桃毛氈の絨毯を敷き始めた。
呼び出した衛士が、緊張した声で、王女の登場を告げる。
「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーりー」
馬車から王女が出てきた。
生徒の間から歓声が上がる。
王女はにっこりと薔薇のような微笑みを浮かべると、優雅に手を振った。
「あれがトリステインの王女?ふん、私の方が美人じゃない」
キュルケがつまらなそうに呟く。
「ねえ、ダーリンはどっちが綺麗だと思う?」
ウルキオラに尋ねた。
「知るか」
ウルキオラはそっけない返事をした後、ルイズの方を見た。
ルイズは、真面目な顔をして王女を見つめている。
黙ってそうしていると、なんとも清楚で、美しく、華やかなルイズである。
ルイズの横顔が、はっとした顔になった。
それから顔を赤らめる。
ウルキオラはそんなことを気にもとめず、タバサの方を見た。
タバサは王女とその一行が現れた騒ぎなどまったく気にもとめずに、座って本を広げている。
「お前は相変わらずだな」
ウルキオラはタバサに言った。
タバサは顔を上げてウルキオラの手にある本を見た。
「あなたも同じ」
ウルキオラは自分の持っている本に視線を移して言った。
「そうだな」
そしてその日の夜……。
ウルキオラは椅子に座り込み、ルイズを見ていた。
なんだか、ルイズは激しく落ち着きがなかった。
立ち上がったと思ったら、再びベッドに腰掛け、まくらを抱いてぼんやりとしている。
「ついに頭がおかしくなったか?」
「ち、違うわよ」
ルイズは激しく否定した。
「どうでもいいが、客だぞ」
「え?」
ウルキオラは探査回路で、ルイズの部屋に近ずいてくる人物に気がついていた。
まもなく、ドアがノックされた。
ノックは規則正しく叩かれた。
ルイズは急いでブラウスを身につけ、立ち上がる。
そして、ドアを開いた。
そこに立っていたのは、真っ暗な頭巾をすっぽりと被った、少女だった。
辺りを窺うように首を回すと、そそくさと部屋に入ってきて、後ろ手に扉を閉めた。
「あなたは?」
ルイズは驚いたように声を上げた。
少女は頭巾を取った。
現れたのは、なんとアンリエッタ王女であった。
「姫殿下」
ルイズが慌てて膝をつく。
ウルキオラは気にせずに椅子に座り足を組んで本を読んでいる。
アンリエッタは涼しげな、心地よい声で言った。
「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」
ページ上へ戻る