不器用に笑わないで
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第五章
第五章
壁におどろおどろしい絵を描いていく。大輔は美術部だけあって中々上手い。しかし横にいる妙もまた。絵を描いていたがその絵がであった。
「あれ、奈良橋って」
「はい?」
「絵上手いんだな」
それを言うのである。
「意外以上に」
「そうですか?」
「いや、上手いよ」
それはお世辞ではなかった。確かに上手かった。
「本当にな」
「そうですか」
「頭いいだけじゃなかったんだな」
大輔はあらためて言った。
「いや、本当にな」
「だったらいいですけれど」
「どんどん描いてよ、本当に」
また言う彼だった。
「この絵だったらいけるからさ」
「描いていいんですか?」
それを言われてもおどおどした調子のままだった。
「私が絵を」
「頼むよ、是非ね」
大輔はまた笑って彼女に告げた。
「それじゃあね」
「はい、わかりました」
それに頷いてだった。妙はお化け屋敷の絵を描いていく。衣装を作るのも上手で大輔だけでなく皆もそれに驚くことになった。
「えっ、奈良橋ってな」
「そうよね、絵上手いよね」
「っていうか前川以上か?」
こうも話されるのだった。
「美術部よりも上手いって」
「頭がいいだけじゃないって」
「凄くないか?」
「おい、俺よりもかよ」
大輔は今の皆の言葉にわざと笑って告げた。
「俺だって美術部の一年の間じゃホープなんだけれどな」
「いや、実際にな」
「そうよね。奈良橋さん絵が上手いし」
「それは間違いなく」
皆こう話すのだった。とにかく妙の画力は皆に認められるものだったのだ。
彼女の評判はこれでかなり好転した。そして彼女自身も。
静かに描き続けている。笑みはないが皆の言葉に応えて動きが少し早くなっていた。
「奈良橋最近動きがいいよね」
「えっ?そうですか?」
「うん、いい感じだよ」
微笑んでこう話す大輔だった。
「何か自分から動くこともあるし」
「そうでしょうか」
「そうなっていってるよ」
微笑んで話す彼だった。
「それはね。いいじゃない」
「いいって?」
「いいよ、それじゃあね」
また話すのである。
「今日はだけれど」
「今日は」
「書類の提出とかは全部終わったよね」
「はい」
それを聞いて頷く妙だった。
「それはもう」
「そうか。だったらいいね」
「はい、それで」
「そうだね。後は何かあるかな」
少し考えてから述べる大輔だった。
「書類は」
「もうないです」
妙はここで懐から手帳を出した。その中を見ながら答えた言葉だった。
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