不器用に笑わないで
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第十二章
第十二章
二日間仕事をした。そしてそれが終わった時だった。
後片付けに入る。その時に。
「ああ、やっと見られたよ」
「はい?」
その幽霊姿の妙を見て言ったのである。その血塗られたメイクをして鋸を持っている彼女をだ。そしてその彼女は確かに、であった。
「奇麗だな、本当に」
「そんな、別に私は」
「だから奇麗だって」
またおどおどとした顔になる彼女への言葉である。
「奈良橋はな」
「そうですか」
「ああ、物凄く奇麗だよ」
こうまで言うのだった。
「だから皆あれだけ来たんだな」
「そういえばお客さん物凄く多かったですね」
「奈良橋のおかげだよ」
また彼女に告げた。
「これは全部な」
「私のですか」
「誇っていいよ」
彼女ににこりと笑って話した。
「このことはさ。うちのクラスこれで優勝かもな」
「優勝、うちのクラスが」
「そうだよ、優勝だよ」
そうなるというのである。
「絶対にな」
「私は別に」
「だから誇っていいんだって」
おどおどとしたままの彼女にまた話す。
「それはさ。それじゃあ」
「それじゃあ?」
「後片付けの後はさ」
その話もするのであった。
「どうするの?」
「その後ですか」
「そう、その後」
そのことを問うのである。
「どうするのかな」
「ええと、それは」
「キャンプファイアーあるよ」
大輔はこれを話に出してみせた。
「キャンプファイアーがね」
「それがですか」
「どう、行かない?」
ここぞとばかりにそれに誘った。
「キャンプファイアーに。どうかな」
「キャンプに出てどうなるんですか?」
「踊るんだよ」
今度はそれがあるというのである。こう彼女に言うのだった。
「二人でね。そのキャンプファイアーを囲んでね」
「踊りを」
「どうかな、それは」
また妙に対して尋ねた。
「二人一緒に。どうかな」
「それは」
「よかったらでいいよ」
ここでは退いた。半ば無意識で半ば意識して。そうしたのである。
「奈良橋が好きなようにね」
「私が好きなように」
「うん、そうしたらいいよ」
賭けであった。あえてこうして一旦退いてみせたのである。妙がここで乗らなければそれで諦めるつもりだった。しかし乗ってくれば。
内心そんなことを考えていた。するとであった。
「わかりました」
妙は静かに答えてきた。
「それでは」
「いいんだね」
「はい」
今度は穏やかだがはっきりと答えた妙だった。
「それで御願いします」
「わかったよ。じゃあ二人でね」
「行かせてもらいます」
これで話は決まった。妙は大輔と共にキャンプファイアーに出てそこで踊ることになった。そうしてその文化祭の最後のイベントの時にだ。
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