不器用に笑わないで
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第十章
第十章
「本当にもうすぐですね」
「頑張ろうな」
大輔は純粋に笑って彼女に告げた。
「お化け屋敷成功させような」
「はい」
このことには確かな顔で頷くことのできる妙だった。
「それは」
「そうだよね。それじゃあ」
「はい、やります」
こう話してであった。文化祭の本番を迎えるのだった。そのお化け屋敷だが。
「じゃあ俺が受付にいるから」
「私は」
「予定通り幽霊やってよ」
大輔は楽しげに笑って妙に話した。
「幽霊をね」
「やっていいんですか?」
「ああ、頼むよ」
「そうだよ、奈良橋がやってくれないとね」
「お話にならないじゃない」
皆も彼女に対してこう言う。
「だからだよ。幽霊でお化け屋敷の中でな」
「頼んだわよ」
「わかりました」
それを言われて頷いて応えた。そうしてだった。
実際に幽霊の服を着てみた。あの白装束で頭に三角巾を付けた日本の幽霊である。その格好に着替えてみたのである。これも妙が作った服である。
その幽霊の服で皆の前に出てみるとだった、皆まずは驚いた。
「何ていうか」
「そうよね」
「美人だし」
「すっごくいいわよ」
「いいですか?」
妙は皆のその言葉におどおどとした様子で応えた。
「そんなに」
「いいって」
「ねえ」
「これならいけるわよ」
これが皆の返事だった。いけるというのである。
「お化け屋敷大盛況」
「看板は美人幽霊」
「これで決まりだよね」
こう話していく。とにかく彼女が幽霊をすることはこれで決まったのである。皆彼女を中心に据えてお化け屋敷をすることにした。そうしてであった。
「それでさ、奈良橋はさ」
「ここにいてね」
「は、はい」
皆彼女をお化け屋敷の一番の見せ場である出口に導いた。そこにいてくれというのである。
「最後の最後で思い切り驚かしていいから」
「容赦なくね」
「容赦なくですか」
「そう、容赦なくね」
そうしろというのである。
「わかったらねいいよね」
「それでね」
「はい、それじゃあ」
「奈良橋が主役なんだからさ」
大輔もここで彼女に笑顔で言うのだった。
「頼んだよ、トリでね」
「つまり最後の最後にですか」
「そうだよ」
まさにそれだと話す。これで決まりであった。妙は出口近くに幽霊として陣取ることになった。大輔は入り口で受付である。それではじまった。
お化け屋敷はかなり凝ったものであった。中に入った客は皆文化祭のお化け屋敷とは思えない程に怖がった。おどろおどろしい音楽も効果音も本物で中の絵や妖怪達も実に恐ろしいものであった。皆それを見て驚くことしきりであった。妙が作ったそれを見てだ。
「ちょっとこれは」
「確かに」
「物凄いなんてものじゃ」
なかったのである。とても、である。
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