不器用に笑わないで
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第一章
第一章
不器用に笑わないで
「ああ、あの娘よね」
「何ていうか?」
「暗いしね」
「そうそう、気持ち悪いっていうか」
「無口だし」
これが奈良橋妙の評判だった。評判は決していいものではなかった。
大きいが垂れ目でその顔は整っていても眉は下がっていて儚げなものである。黒い腰までのロングヘアでそれは絹の様である。額の広さは前髪で隠れている。
胸がかなり大きい。高校の制服の上からでもはっきりと目立つ。そして脚も奇麗だ。全体として相当な美人であると言える女の子である。
しかも。彼女はそれだけではなかった。
「家はお金持ちだけれどね」
「頭もいいけれど」
「それでもよ」
皆その彼女のことを口々に遠慮なく言っていく。
「おどおどしていてね」
「気持ち悪い感じで」
「もう見てるだけでいらいらするのよ」
そうしていじめられていた。それはかなり酷いものであった。
教科書は落書きだらけであり鞄にゴミは入れられ机の中も同じであった。下駄箱も酷い有様でロッカーも何もかもが滅茶苦茶に荒らされてばかりであった。
そしてである。いつもクラスの女の子達に絡まれていた。
「はい、これやってね」
「頼んだわよ」
「いいわね」
「はい・・・・・・」
俯いた顔で頷くだけであった。そしてそれをやる。彼女は友達もなくそうしていつもいじめられていた。それが彼女の日常であった。
そんな娘を見てだった。両親はあることを決めた。それは。
転校であった。彼女を転校させることにしたのだ。今いる学校から離れた遠い場所にだ。そこに彼女を行かせてそれでいじめから解放させることにしたのだ。
「あのままでは妙は何時か悲惨なことになってしまう」
そう判断してである。こうして彼女は転校することになった。転校したのは遠い県にある学園だ。そこに彼女の叔母夫婦がいたので下宿して学校に通うことになった。
叔母夫婦は彼女を温かく迎えた。しかしであった。
彼女のその暗さは変わらなかった。暗いままで学校に通う。その学校でも友達はできず一人で自分の席にいた。そうして暗い日々を過ごしていた。
そして周りからは。こう言われるのだった。
「成績いいのよね」
「そうらしいけれど」
「美人だけれど」
「暗いわよね」
「喋らないし」
この学校でも同じ様な評価だった。
「転校してきてもずっとおどおどして」
「喋りかけても反応弱いし」
「一緒にいても困る感じ」
「ねえ」
こんな評判だった。しかしある日のことだ。彼女は文化祭の実行委員に選ばれたのである。
「私が」
「御免、人いないの」
クラス委員の女の子が黒板のところから彼女に告げた。小柄で黒髪の女の子である。髪は肩の高さで少し無造作に切ってリボンを付けている。その彼女が言ってきたのだ。
「だから」
「私に」
「やって」
こう妙に告げるのだった。
「いいわね」
「はい・・・・・・」
「それで男の子は」
もう一人選ぶのだった。それは。
収まりの悪い黒髪に大きな目をした大人しそうな顔の少年だった。背は普通より少し低く顔は何処か女性的である。大きな目が少し垂れていて大きめの耳が目立っている。
「前川大輔君」
「俺?」
「今何もやってないわよね」
「俺美術部だけれど」
「部活の合間でいいから」
委員長は静かに述べた。
「それでいいから」
「それでいいのかよ」
「二人でやって」
彼女はまた言った。
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