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ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔

作者:銭亀
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第1部
  第9章 破壊の剣

 
前書き
どーも、作者です。

イーヴァルディーに続き、二つ目のオリジナルである、破壊の剣を入れようと思います。

破壊の剣がなんであるかは、わかっている方もいらっしゃるのかな?

ではでは、本編へGO(^O^) 

 
翌朝……。

トリステイン魔法学院では、昨晩からの蜂の巣を突いた騒ぎが続いていた。

何せ、秘宝の『破壊の剣』が盗まれたのである。

それも、巨大なゴーレムが、壁を破壊するといった大胆な方法で。

宝物庫には、学院中の教師が集まり、壁に空いた大きな穴を見て、口をあんぐりとあけていた。

壁には、『土くれ』のフーケの犯行声明が刻まれている。

『破壊の剣、確かに領収しました。土くれのフーケ』

教師たちは、口々に好き勝手なことを喚いている。

「土くれのフーケ!貴族たちの財宝を荒らしまくっているという盗賊か!魔法学院にまで手を出しおって!随分と舐められたものじゃないか!」

「衛兵はいったい何をしていたんだね?」

「衛兵などあてにならん!所詮は平民ではないか!それより当直の貴族は誰だったんだね!」

ミセス・シュヴルーズは震え上がった。

昨晩の当直は、彼女だった。

まさか、魔法学院を襲う盗賊がいるなどとは夢にも思わずに、当直をサボり、ぐうぐう自室で寝ていたのであった。

本来なら夜通し門の詰め所に待機していなければならないのに。

「ミセス・シュヴルーズ!当直はあなたなのではありませんか!」

教師の1人が、さっそくミセス・シュヴルーズを追及し始めた。

オスマンが来る前に責任の所在を明らかにしておこうというのだろう。

ミセス・シュヴルーズはボロボロと泣き出してしまった。

「も、申し訳ありません」

「泣いたって、お宝は戻ってはこないのですぞ!それともあなた、『破壊の剣』を弁償できるのですかな!」

「わたくし、家を建てたばかりで……」

ミセス・シュヴルーズは、よよよと床に崩れ落ちた。

そこにオスマンが現れた。

「これこれ。女性を苛めるものではない」

ミセス・シュヴルーズを問い詰めていた教師が、オスマンに訴える。

「しかしですな!オールド・オスマン!ミセス・シュヴルーズは当直なのに、ぐうぐう自室で寝ていたのですぞ!責任は彼女にあります!」

オスマンは長い口髭をこすりながら、口から唾を飛ばして興奮するその教師を見つめた。

「ミスタ……なんだっけ?」

「ギトーです!お忘れですか!」

「そうそう。ギトー君。そんな名前じゃったな。君は怒りっぽくていかん。さて、この中でまともに当直をしたことのある教師は何人おられるのかな?」

オスマンは辺りを見回した。

教師たちはお互い、顔を見合わせると、恥ずかしそうに顔を伏せた。

名乗り出るものはいなかった。

「さて、これが現実じゃ。責任があるとするなら、我々全員じゃ、この中の誰もが……、もちろん私を含めてじゃが……、まさかこの魔法学院が賊に襲われるなど、夢にも思っていなかった。何せ、ここにいるのは、ほとんどがメイジじゃからな。誰が好き好んで、虎穴に入るのかっちゅうわけじゃ。しかし、それは間違いじゃった」

オスマンは、壁にポッカリ空いた穴を見つめた。

「このとおり、賊は大胆にも忍び込み、『破壊の剣』を奪っていきおった。つまり、我々は油断していたのじゃ。責任があるとするなら、我ら全員にあるといわねばなるまい」

ミセス・シュヴルーズは感激してオスマンに抱きついた。

「おお、オールド・オスマン、あなたの慈悲のお心に感激いたします!私はあなたをこれから父と呼ぶことにいたします!」

オスマンはそんなシュヴルーズの尻を撫でた。

「ええのじゃ。ええのよ。ミセス……」

「わたくしのお尻でよかったら!そりゃもう!いくらでも!はい!」

オスマンはこほんと咳をした。

誰も突っ込んでくれない。

場を和ませるつもりで尻を撫でたのである。

皆、一様に真剣な目でオスマンの言葉を待っていた。

「で、犯行の現場を見ていたのは誰だね?」

オスマンが尋ねた。

「この3人と、ウルキオラ殿です」

コルベールがさっと進み出て、自分の後ろに控えていた3人を指差した。

ルイズにキュルケにタバサの3人である。

通常は、使い魔は数には入らないが、ここではウルキオラの名をあげた。

「ふむ……、君たちか」

オスマンは、興味深そうにウルキオラを見つめた。

少しして、その主人であるルイズに視線を移す。

「詳しく説明したまえ」

ルイズは進み出て、状況を述べた。

「あの、大きなゴーレムが現れて、ここの壁を壊したんです。その後、ウルキオラが応戦しゴーレムの股から上を消し飛ばしましたが、肩に乗っていた黒いメイジがこの宝物庫の中に既に侵入していて何かを……、その『破壊の剣』だと思いますけど……、盗み出した後、再生したゴーレムの肩に乗りました。ゴーレムは城壁を越えて歩き出しました。ウルキオラがゴーレムに攻撃し、ゴーレムを吹き飛ばした後、崩れて土になっちゃいました」

周りの人間がほとんどがウルキオラによる応戦であることに気づく。

「それで?」

「後には、土しかありませんでした。肩に乗っていた黒いローブを着たメイジは、影も形も無くなってました」

「ふむ……」

オスマンは髭を撫でた。

(ウルキオラ君が応戦しなければ、この程度の被害では済まなかったかもしれんな…しかし……)

「後を追おうにも、手がかりはナシという訳か…」

それからオスマンは、気づいたようにコルベールに尋ねた。

「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」

「それがその……、朝から姿が見えませんので」

「この非常時に、どこに行ったのじゃ」

「どこなんでしょう」

そんな風に噂をしていると、ミス・ロングビルが現れた。

「ミス・ロングビル!どこに行っていたんですか!大変ですぞ!事件ですぞ!」

興奮した調子で、コルベールがまくし立てる。

しかし、ミス・ロングビルは落ち着き払った態度で、オスマンに告げた。

「申し訳ありません。朝から、急いで調査をしておりましたの」

「調査?」

「そうですわ。今朝方、起きたら大騒ぎじゃありませんか。そして、宝物庫はこのとおり。すぐに壁のフーケのサインを見つけたので、これが国中の貴族を震え上がらせている大怪盗の仕業と知り、すぐに調査をいたしました」

「仕事が早いの。ミス・ロングビル」

コルベールが慌てた調子で促した。

「で、結果は?」

「はい。フーケの居所がわかりました」

「な、なんですと!」

コルベールが素っ頓狂な声をあげた。

「誰に聞いたんじゃね?ミス・ロングビル」

「はい。近所の農民に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの男を見たそうです。おそらく、彼はフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと」

「黒ずくめのローブ?それはフーケです!間違いありません。」

オスマンは、目を鋭くして、ミス・ロングビルに尋ねた。

「そこは近いのかね?」

「はい。徒歩で半日。馬で4時間といったところでしょうか」

「すぐに王室に報告しましょう!王室衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては!」

コルベールが叫んだ。

オスマンは首を振ると、目を向いて怒鳴った。

年寄りとは思えない迫力であった。

「ばかもの!王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうわ!その上……、身にかかる火の粉を己で払えぬようで、何が貴族じゃ!魔法学院の宝が盗まれた!これは魔法学院の問題じゃ!当然我らで解決する」

ミス・ロングビルは微笑んだ。

まるで、この答えを待っていたかのようであった。

(なるほど…そうゆうことか…)

ウルキオラはミス・ロングビルが微笑んだの見て何かに気づいたようだ。

オスマンは咳払いをすると、有志を募った。

「では、捜索隊を編成する。我と思うものは、杖を掲げよ」

誰も杖を掲げない。

困ったように、顔を見合わすだけだ。

「おらんのか?おや?どうした!フーケを捕まえて、名をあげようと思う貴族はおらんのか!」

ルイズは俯いていたが、それからすっと杖を顔の前に掲げた。

「ミス・ヴァリエール!」

ミセス・シュヴルーズが、驚いた声をあげた。

「何をしているのです!あなたは生徒ではありませんか!ここは教師に任せて……」

「誰も掲げないじゃないですか」

ルイズはきっと唇を強く結んで言った。

唇を軽くへの字に曲げ、真剣な目をしたルイズは凛々しく、美しい。

ルイズがそのように杖を掲げるのを見て、しぶしぶキュルケも杖を掲げた。

コルベールが驚いた声をあげた。

「ツェルプストー!君は生徒じゃないか!」

キュルケはつまらなそうに言った。

「ふん。ヴァリエールには負けられませんわ」

キュルケが杖を掲げるのを見て、タバサも掲げた。

「タバサ。あんたはいいのよ。関係ないんだから」

キュルケがそう言ったら、タバサは短く答えた」

「心配」

キュルケは感動した面持ちで、タバサを見つめた。

ルイズも唇を噛み締めて、お礼を言った。

「ありがとう……、タバサ……」

そんな3人の様子を見て、オスマンは笑った。

「そうか。では頼むとしようか」

「オールド・オスマン!私は反対です!生徒たちをそんな危険に晒すわけには!」

「では、君が行くかね?」

「い、いえ……、わたしは体調が優れませんので……」

「彼女たちは、敵を見ている。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いているが?」

タバサは返事もせずに、ぼけっと突っ立っている。

教師たちは驚いたようにタバサを見つめた。

「本当なの?タバサ」

キュルケも驚いている。

王室から与えられる爵位としては、最下級の『シュヴァリエ』の称号であるが、タバサの年でそれを与えられるというのが驚きである。

男爵や子爵の爵位なら、領地を買うことで手に入れることも可能であるが、シュヴァリエだけは違う。

純粋に業績に対して与えられる爵位……、実力の称号なのだ。

宝物庫の中がざわめいた。

オスマンは、それからキュルケを見つめた。

「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いているが?」

キュルケが得意げに、髪をかきあげた。

それから、ルイズが自分の番だとばかりに可愛らしく胸を張った。

オスマンは困ってしまった。

褒めるところがなかなか見つからなかった。

こほん、と咳をすると、オスマンは目を逸らした。

「その……、ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の息女で、その、うむ、なんだ、将来有望なメイジと聞いておるが?しかもその使い魔であるウルキオラ君は!」

それからウルキオラに目を移す。

「莫大な魔力を持ち、あのグラモン元帥の息子である、ギーシュ・ド・グラモンと決闘し、素手で圧勝したという噂だが?」

オスマンは思った。

彼が、本当の『イーヴァルディー』なら……。

それに、あれだけの魔力の持ち主である。

3人を守ってくれるに違いない。

土くれのフーケなどに遅れをとることはあるまい。

コルベールが興奮した調子で、後を引き取った。

「そうですぞ!なにせ、彼はイーヴァ……」

オスマンは慌ててコルベールの口を押さえた。

「むぐ!はぁ!いえ、なんでもありません!はい!」

教師たちはすっかり黙ってしまった。

オスマンは威厳のある声で言った。

「この4人に勝てるという者がいるなら、前に一歩出たまえ」

誰もいなかった。

オスマンは4人に向き直った。

「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する。

ルイズとタバサとキュルケは、真顔になって直立した。

「「「杖にかけて!」」」

同時に唱和する。

それからスカートの裾をつまみ、恭しく礼をする。

ウルキオラは相変わらずポケットに手を突っ込んだまま無表情である。

「では、馬車を用意しよう。それで向かうのじゃ。魔法は目的地に着くまで温存したまえ。ミス・ロングビル」

「はい。オールド・オスマン」

「彼女たちを手伝ってやってくれ」

ミス・ロングビルは頭を下げた。

「もとよりそのつもりですわ」

ウルキオラはミス・ロングビルを見た。

ウルキオラの視線に気づかずに、ドアノブに手をかける。

(警戒しておいて損はないか…)




4人はミス・ロングビルを案内役に、早速出発した。

馬車といっても、屋根ナシの荷車のような馬車であった。

襲われたとき、すぐに外に飛び出せるほうがいいということで、このような馬車にしたのである。

ミス・ロングビルが御者を買って出た。

キュルケが黙々と手綱を握る彼女に話しかけた。

「ミス・ロングビル……、手綱なんて付き人にやらせればいいじゃないですか」

ミス・ロングビルは、にっこり笑った。

「いいのです。わたくしは貴族の名をなくした者ですから」

キュルケはきょとんとした。

「だって、あなたはオールド・オスマンの秘書なのでしょう」

「ええ、でも、オールド・オスマンは貴族や平民だということに、あまり拘らない人ですから」

「差し支えなければ、事情をお聞かせ願いたいわ」

ミス・ロングビルは優しい微笑みを浮かべた。

それは言いたくないのだろう。

「いいじゃないの。教えてくださいな」

キュルケは興味津々といった顔で、御者台に座ったミス・ロングビルににじり寄る。

ルイズはその肩を掴んだ。

キュルケは振り返ると、ルイズを睨みつけた。

「よしなさいよ。昔のことを根ほり葉ほり聞くなんて」

キュルケはふんと呟いて、荷台の柵に寄りかかって頭の後ろで腕を組んだ。

「暇だからおしゃべりしようと思っただけじゃないの」

「あんたのお国じゃどうか知りませんけど、聞かれたくないことを、無理やり聞き出そうとするのはトリステインじゃ恥ずべきことなのよ」

キュルケはそれに答えず、足を組んだ。

そして、嫌味な調子で言い放った。

「ったく……、あんたがカッコつけたおかげで、とばっちりよ。何が悲しくて、泥棒退治なんか……」

ルイズがキュルケをジロリと睨んだ。

「とばっちり?あんたが自分で志願したんじゃないの」

「あんたが1人じゃ、ウルキオラが危険じゃないの。ねえ、ゼロのルイズ」

「どうしてよ?」

「いざ、あの大きなゴーレムが現れたら、あんたはどうせ逃げ出して後ろから見てるだけでしょ?ウルキオラを戦わせて自分は高みの見物。そうでしょう?」

「誰が逃げるもんですか。わたしの魔法でなんとかしてみせるわ」

「魔法?誰が?笑わせないで!」

2人は再び火花を散らし始めた。

タバサとウルキオラは相変わらず本を読んでいる。

ウルキオラが本に視線を落としながら言った。

「黙れ。耳障りだ。少しはこの女を見習え」

この女とはタバサのことだろう。

しかし、タバサは何の反応も見せずに本を読んでいる。

ウルキオラの言葉で場はとりなした。

「まあ、いいけどね。せいぜい、怪我しないことね」

キュルケがそういうと、手をひらひらと降ってみせた。

ルイズはぐっと唇を噛んでいる。




馬車は深い森に入っていった。

昼間だというのに、薄暗く、気味が悪い。

「ここから先は、徒歩で行きましょう」

ミス・ロングビルがそう言って、全員が馬車から降りた。

森を通る道から、小道が続いている。

「なんか、暗くて怖いわ……、嫌だ……」

キュルケがウルキオラの腕に手をまわしてきた。

「くっつくな」

「だってー、すごーく、こわいんだもの!」

キュルケはすごく嘘臭い調子で言った。

ウルキオラはキュルケの腕を払った。




一行は開けた場所に出た。

森の中の空き地といった風情である。

およそ、魔法学院の中庭ぐらいの広さだ。

真ん中に、確かに廃屋があった。

元は木こり小屋だったのだろうか。

朽ち果てた炭焼き用らしき窯と、壁板が外れた物置が隣に並んでいる。

5人は小屋の中から見えないように、森の茂みに身を隠したまま廃屋を見つめた。

「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」

ミス・ロングビルが廃屋を指差していった。

人が住んでいる気配がない。

あの中にいるのなら奇襲が一番である。

寝ていてくれたらなおさらである。

4人がどうするかと作戦を立てていると、ウルキオラが言葉を発した。

「あの中には誰もいないし罠もない」

4人はなぜわかるんだ?といった顔である。

「なんでわかるのよ!」

ルイズが皆を代表して言った。

ウルキオラは本を閉じ、立ち上がる。

そして、一瞬で廃屋の扉の前に移動した。

4人は急いでウルキオラの後を追った。

ウルキオラが扉を開き中に入る。

キュルケとタバサが後に続く。

ルイズは外で見張りをすると言って、後に残る。

ミス・ロングビルは辺りを偵察してきますと言って、森の中に消えた。




小屋に入ったウルキオラたちは、フーケが残した手がかりがないかを調べ始めた。

そして、タバサがチェストの中から……。

なんと、『破壊の剣』を見つけ出した。

『破壊の剣」

重いのか、地面に鋒を刺している。

それを皆に見せた。

「あっけないわね」

キュルケが叫んだ。

ウルキオラはその『破壊の剣』を見た途端、目を丸くした。

「おい…それが『破壊の剣』か?」

ウルキオラは驚いていた。

「そうよ。あたし、見たことあるもん。宝物庫を見学したとき」

キュルケが頷いた。

ウルキオラは、近寄って『破壊の剣』をまじまじと見つめた。

(間違いない。これは……)

そのとき、外で見張りをしていたルイズの悲鳴が聞こえた。

「きゃああああああああ」

「なんだ?」

一斉にドアを、振り向いたとき……。

ばこぉーんといい音を立てて、小屋の屋根が吹き飛んだ。

屋根がなくなったおかげで、空がよく見えた。

そして青空をバックに、巨大なフーケの土ゴーレムの姿があった。

「ゴーレム」

キュルケが叫んだ。

ウルキオラは探査回路を展開させる。

(あながち間違ってはいないらしいな…)

タバサが自分の身長より大きな杖を振り、呪文を唱えた。

巨大な竜巻が舞い上がり、ゴーレムにぶつかっていく。

しかし、ゴーレムはビクともしない。

キュルケが胸に差した杖を引き抜き、呪文を唱えた。

杖から炎が伸び、ゴーレムを火球に包んだ。

しかし、炎に包まれようが、ゴーレムはまったく意に介さない。

「無理よこんなの!」

キュルケが叫んだ。

「退却」

タバサが呟く。

キュルケとタバサは一目散に逃げ出し始めた。

ウルキオラは余裕たっぷりと小屋から出た。

すると、ルイズがゴーレムの背後に立っているのが見えた。

ルイズはルーンを呟き、ゴーレムに杖を振りかざした。

巨大な土ゴーレムの表面で、何かが弾けた。

ルイズの魔法である。

ルイズに気づいてゴーレムが振り向く。

ゴーレムがルイズを踏み潰そうとする。

「ひぃ…」

ルイズは腰を抜かし、目を瞑った。

少したち、ルイズはそっと目を開けた。

そこには、片手をポケットに入れ、片手でゴーレムの足を止めているウルキオラの姿があった。

「バカが…なぜ逃げなかった」

ルイズを見下ろしながら言った。

「わ、私は貴族よ!魔法を使える者を貴族と呼ぶんじゃないわ!敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」

「下らん」

ウルキオラは一瞥する。

そして、ウルキオラの拳の周りに緑色の塊が形成される。

「虚弾」

ゴーレムの足の裏にとんでもない衝撃が発生する。

ゴーレムは後ろに倒れた。

後ろを見ると、ルイズがぼろぼろと泣いていた。

「なぜ泣いている?」

「だって、悔しくて……。わたし……。いっつもバカにされて……」

しかし、今は泣き出したルイズに付き合っている場合ではなかった。

振り向くと、いつの間にか巨大なゴーレムが立ち上がり、大きな拳を振り上げている。

「ちっ…」

ウルキオラはルイズを抱きかかえ、一瞬で風竜の上に移動した。

ルイズを風竜の上に座らせる。

ルイズは、風竜を降りようとするウルキオラに叫んだ。

「ウルキオラ!」

「そこにいろ」

ウルキオラは地面に降りた。

ゴーレムの拳がウルキオラを襲う。

それを片手でそれを受け止める。

ウルキオラの足が地面にめり込む。

ウルキオラは小さく呟いた。

(悔しくて泣く…か…)

巨大なゴーレムを見つめる。

「土くれ風情が…調子にのるな」

ウルキオラは人差し指を向ける。

「虚閃」




「ウルキオラ!」

ルイズは上昇する風竜の上から飛び降りようとした。

タバサがその体を抱きかかえる。

「ウルキオラを助けて!」

ルイズは怒鳴った。

タバサは首を振った。

「近寄れない」

近寄ろうとすると、やたらとゴーレムが拳を振り回すので、タバサはウルキオラに使い魔を近づけることができないのだった。

「ウルキオラ!」

ルイズは再び怒鳴った。

ウルキオラの人差し指から、翠色の閃光が放たれる。

それはゴーレムの上半身を跡形もなく消しとばした。

しかし、地面の土を使い再生する。

ルイズはウルキオラを、はらはらしながら見つめていた。

なんとか自分が手伝える方法はないのだろうか?

そのとき、タバサが抱えた『破壊の剣』に気づいた。

「タバサ!それを!」

タバサは頷いて、ルイズに『破壊の剣』を手渡す。

奇妙な形の剣だ。

私と同じくらいの刀身である。

しかし、自分の魔法はあてにならない。

今はこれしか頼れない。

ウルキオラの姿を見た。

ルイズは深呼吸した。

それから目を見開く。

「タバサ!わたしに『レビテーション』をお願い」

そう怒鳴って、ルイズはドラゴンの上から地面に身を躍らせた。

タバサは慌ててルイズに呪文をかけた。

『レビテーション』の呪文で、地面にゆっくりと降り立ったルイズは、ウルキオラと戦っている巨大なゴーレムめがけて、『破壊の剣』を振った。

しかし、何も起こらない。

『破壊の剣』は沈黙したままだ。

「ほんとに魔法の剣なの!これ!」

ルイズは怒鳴った。

魔力は感じるのだ。

何か条件が必要なのだろうか?




ウルキオラは、ルイズが地面に降り立ったのを見て、舌打ちをした。

しかし、ルイズが持った『破壊の剣』が目に留まる。

(やはりあれはあの男の剣に似ている…)

ルイズは頑張って振っているが、魔法が発動しないのであたふたしている。

ウルキオラはルイズの後ろに移動した。

「ウルキオラ!」

「なぜ降りてきた」

ルイズを見下した言った。

「言ったでしょ!敵に後ろを見せないのが貴族よ!」

ウルキオラは目を見開いた。

そして、軽く笑った。

ウルキオラが笑ったのを見たルイズは驚いた。

「剣を構えろ。ルイズ」

ゴーレムがこちらめがけて突っ込んでくる。

言われた通りに、ゴーレムに剣を向けて構えた。

すると、ウルキオラがルイズの手の上に自分の手を乗せる。

「ちょ、ちょっと…なにすんのよ!」

顔が赤くなっていた。

それもそのはず。

ウルキオラの胸とルイズの背中がくっついているからだ。

剣が翠色に光り始める。

「俺に合わせろ」

「う、うん」

凄まじい魔力である。

タバサとキュルケも剣に纏った翠色の魔力に驚きを隠せない。

ウルキオラは剣を振り上げる。

ルイズはされるがままである。

「月牙天衝」

ウルキオラがそう言って剣を振り下ろすと、三日月の形をした翠色の斬撃が放たれる。

それは、ゴーレムに当たり天を突かんばかりの衝撃が走った。

ゴーレムはチリとなって消えた。

ルイズはウルキオラと、剣を握りながらその様子を見ていたが、腰が抜けたのかウルキオラに寄りかかる。

ウィンドドラゴンが降りてくるのが見えた。

ウルキオラはルイズを支え、立っていた。




キュルケが抱きついてきた。

「ウルキオラ!すごいわ!やっぱり私のダーリンね!」

「くっつくな」

ウィンドドラゴンから降りたタバサが、先ほどまでフーケのゴーレムがいた場所を見つめながら、呟いた。

「フーケはどこ?」

ウルキオラ以外が、一斉にはっとした。

辺りを偵察に行っていたミス・ロングビルが茂みの中から現れた。

「ミス・ロングビル!フーケはどこからあのゴーレムを操っていたのかしら」

キュルケがそう尋ねると、ミス・ロングビルはわからないというように首を振った。

キュルケとタバサは、周りを見回す。

ウルキオラはルイズの持つ剣を見つめる。

(なぜあれがこの世界に…)

すっとミス・ロングビルの手が伸びて、放心したルイズの手から『破壊の剣』を取り上げた。

「ミス・ロングビル?」

ルイズは怪訝に思って、ミス・ロングビルの顔を見つめた。

ミス・ロングビルはすっと遠のくと、4人に『破壊の剣』を突きつけた。

「ご苦労様」

「ミス・ロングビル!」

キュルケが叫んだ。

「どういうことですか?」

ルイズも唖然として、ミス・ロングビルを見つめていた。

「やはりお前がフーケか…女」

4人は驚いた顔でウルキオラを見つめた。

「へえ、気づいていたんですか?よろしければどうして気づいたのか教えてくださるかしら?」

「そうだな。理由は3つある。1つは、情報とやらで黒いローブの男といったことだ。巷ではフーケの性別は不明のはずだ。2つ目はその情報源…こんな辺境の地に、あれだけ早い時間にここに来る人間などいるわけがない。最後がこの周りに俺たち5人以外、誰もいないことだ」

4人はウルキオラの洞察力と計算力に驚いた。

ウルキオラは続けて言った。

「ようするにだ…フーケも存外無能というわけだ」

それを聞いたフーケは顔を真っ赤にしていた。

相当恥ずかしいんだろう。

「感謝するわ。私もまだまだ甘いってことね」

フーケは剣を振り上げる。

「短い間だったけど、楽しかった。さよなら」

キュルケは観念して目を瞑った。

タバサも目を瞑った。

ルイズも目を瞑った。

しかし、ウルキオラは目を瞑らなかった。

「勇気がありますね」

「違うな」

ウルキオラは拳に霊圧を固める。

フーケは咄嗟に、ウルキオラがしたように『破壊の剣』を振り下ろした。

しかし、先ほどのような魔法は飛び出さない。

「な、どうして!」

フーケはもう一度振り下ろす。

「それは斬魄刀と言ってな。人間には扱えない」

「ざ、斬魄刀?どういう意味よ!」

フーケは怒鳴った。

「そいつはこの世界の剣じゃない」

「なんですって!」

フーケは『破壊の剣』を放り投げると、杖を握ろうとした。

ウルキオラは拳に固めた霊圧をフーケに向けて飛ばす。

フーケは地面に崩れ落ちた。

ウルキオラは『破壊の剣』こと『斬月』を拾い上げた。

「ウルキオラ?」

ルイズたちは目を丸くしてウルキオラを見つめていた。

「任務完了だ」

ルイズ、キュルケ、タバサは顔を見合わせると、ウルキオラに駆け寄った。

ウルキオラは終始無表情で、3人と帰路に着いた。 
 

 
後書き
破壊の剣…いかがでしたでしょうか?

破壊の剣が斬月だと気づいていた方も居るのではないでしょうか?

では、また今度お会いしましょう( ^ω^ ) 
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