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第六章


第六章

「背中にまであります」
「随分酷い火傷だったんだな」
「こんなの。誰にも見せられません」
 そしてこうもいうのだった。
「とても」
 実際に隠そうと必死になっている。それがよくわかるものだった。
 だが言葉は自然に出てしまっている。止められなくなっていた。
「それで。ずっと」
「隠していたのか」
「はい」
 秀典の言葉にこくりと頷いた。しかしその動作は弱々しい。
「そうでした。誰にも気付かれないようにして」
「着替えの時もか」
「常に上に着ていました」
 そうしていたというのだ。
「水泳は休んで。修学旅行の時は誰もいない時間にお風呂に入って」
「それで誰にも気付かれないようにして」
「今までそうしていました」
 また秀典に話した。
「けれど今は」
 言葉を続けてきた。
「まさか。こんな場所で」
「見られたのが嫌か」
 秀典はその彼女に問うた。ここでだ。
「それが嫌か」
「嫌でない筈がありません」
 これは奈々の返答だった。唇を噛み今にも泣きそうな顔になっている。そのうえでの言葉だ。
「こんな傷。誰にも」
「傷は受けた」 
 秀典もそれは言った。
「だが」
「だが?」
「その傷は身体にだけ受けたものじゃないな」
 こう言ってきたのである。
「そうだな」
「身体にだけ」
「心にもだな」
「心にも」
「そうでなければ隠したりはしない」
 秀典は言った。
「絶対にだ」
「それがわかるんですか」
「昔こんなことがあった」
 秀典はふと上を見上げた。そのうえでの言葉だ。
「俺の知っている奴の話だ」
「はい」
「そいつは馬鹿だった。自分が死んでもどうということはないと思っていた」
「どうともですか」
「姉が二人いた。いつもその姉ちゃん達が大嫌いだった」
 姉の話もここで出したのだった。
「いつも自分のことをあれこれ言う姉ちゃん達が死ぬ程嫌いだった。実際に死んでしまえばいいとさえ思っていた」
「そうだったんですね」
「それで邪険にしていた。そんな中でだ」
 ここでだ。話が変わった。
「そうだ、それである日車にはねられた」
 所謂交通事故である。それに遭ったというのだ。
 
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