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クリュサオル

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第一章

                 クリュサオル
 クリュサオルはポセイドンの息子だ、海神の息子であるだけに海の神の一人としてその宮殿の中にあった。
 その手には常に黄金の剣がある、その彼を見てだ。
 父神であるポセイドンはだ、玉座から問うた。
「そなたの剣だが」
「はい」
「その剣は滅多に抜かれないな」
「剣は無闇に抜いてはです」
「意味がないというのだな」
「ですから」
 それで、というのだ。
「私は剣は抜きません」
「みだりにだな」
「海の神として戦う時、若しくは」
「若しくはか」
「私が認めた相手と決闘する時、そして友の為です」
「友か」
「はい、友の為に戦うことが英雄ですね」
 強い声でだった、クリュサオルは父に問うた。
「そうですね」
「そうだな、英雄達は皆そうだ」
「はい、ですから」
「そなたも英雄になりたいか」
「そうなりたいと考えています」
 実際にそうだというのだ。
「ですから」
「その剣はそうした時しか抜かぬか」
「そのつもりです」
「わかった、ではだ」
 それではと言ってだ、そのうえで。
 ポセイドンは海の主神の座からだ、彼に言った。
「その様にしろ」
「はい、それでは」
「海の神としての戦い、認めた相手との決闘とな」
「友の為に」
「その三つの為に剣を抜いて戦うのだ」
「そうさせて頂きます」
 このことをだ、クリュサオルは父に約束した。そしてだった。
 ある日だ、彼が海の中を海豚に乗り進んでいると。
 恐ろしいまでの速さで泳いでいる者を見た、まずは海豚かと思った。
 だがよく見ると人間だった、そしてだった。 
 その彼のところに来てだ、本人に問うた。見れば長身で逞しい身体をしている。引き締まった顔に黒い髪と目が似合っている。
「そなたの名前は何だ」
「その黄金の剣は」
「私のことはわかったか」
「その黄金の剣、クリュサオルだな」
「そうだ」
 その通りだとだ、クリュサオルは名乗った。
「それが私の名だ」
「そうだな、そして私の名前だが」
 ここで名乗るのだった、彼もまた。
「エウペモスという」
「それがそなたの名前か」
「そうだ、ポセイドンの子だ」
「何と、それではだ」
 クリュサオルは彼の名乗りを聞いてだ、そしてだった。
 その黄金の髪に手を当て髪と同じ色の目を輝かせてだ、こう言った。
「私と同じだな」
「そなたもポセイドンの子だったな」
「では私と兄弟だな」
「そうなるな」
「そうだな、しかしそなたは」
「私の泳ぎのことか」
「素晴らしい腕だな」
「伊達に海の神の子ではない」
 これがエウペモスの言葉だった。
「泳ぐことは得意だ」
「そうか、そしてそれはな」
「そなたもだな」
「私も泳ぎには自信がある」
 クリュサオルは強い声でエウペモスに答えた。
「そなたに負けない程にはな」
「では今からか」
「勝負をするか」 
 泳ぎのそれをというのだ。 
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