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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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二十一章
  本物の晴信×祝言について

一方、綾那たちは一真を見届けたあとに躑躅ヶ崎館に戻ってきた。詩乃と合流した後に桜花たちはすでにいなかった。あと夕霧が俺がいない事に気付いたらしいので、綾那に聞いたが、「一真様の本来の使命を果たしに行ったのです!」と言っていたので詩乃と雫はすぐに理解をした。夕霧たち武田家の者たちは分からずじまいだったけど。再び武装解除して、兎々の案内で館の深部へと案内されていた。俺無しだったけど。あと盗聴器で聞いているからな。今頃俺達の戦いが終わっている頃だった。

「さぁ、入るのら!」

と入った詩乃達一同。一段高くなった座敷と、そこよりも低い畳の広間。それは良く知る上段の間と大して変わらず。この時間なのに武田の主要人物らしき武士たちが正装でずらりと座っていた。

「武田家家臣団、勢揃いといった様相ですね」

「ですが、どうして戦闘報告の評定でこれほどの・・・・」

「・・・・恐らく、他の目的があるのでしょう。ですが、今現在一真様は不在ですが」

目的、ねえ。さっきの晴信は影武者だと知っているが、ちょうど俺は変身前の姿になって躑躅ヶ崎館の真上にいた。そして盗聴器で聞いている。ドライグたちも俺の中に戻っている。畳の間に並ぶ武士たちだけではなさそうだ。下段の間からさらに続く板の間にも、恐らく畳の間の武士より格下の武士なのだろう。逆に、列の先頭に何やら眩しい感じがして見ると夕霧や春日、心と粉雪の二人もいた。ちなみに俺は真上にいるが、通信が来て小型ゼットンがこちらに来るとの報告を受けて待機している。一応詩乃達がいるところにISを装着している沙紀がいる。光学迷彩をしているので、姿は見えないようにしている。粉雪の隣、末の席が空いてるのは四天王末席の兎々の席なんだろうけど・・・・夕霧と春日の間に敷いてある座布団はおそらく影武者の者だろう。三姉妹と聞いているからな。そのさらに先の、一段高くなっている部分。本当の意味での上段の間に向けると、二つ用意された席があったが。一つは恐らく晴信自身の席なのだろう。もう一つは誰かは知らんが、二つの席の間には朱塗りの三方が置かれていたけどあれ見た事あるなぁ。どこだっけ?

「あれは何でしょうか?武田家の風習なのでしょか」

「三河でもあんなの使わないですよ」

「・・・・というか、私の知る限り、盃台に乗せられた朱塗りの三ツ組盃などを使う場は・・・・」

あ、思い出した。戦国時代の結婚式でチラッと見たけどまさか俺と晴信を結婚させる気なのか?冗談じゃねえぞ、おい。こちらは既に結婚している身であって正室は奏一人であとは側室だぞ。この時代で言うならな。そして愛妾は久遠たちで足利将軍である一葉や越後の龍である美空も愛妾だ。

「何をぶつぶつ言っているのら。さっさと座るのら!」

と詩乃たちは座るが、肝心の俺はいない。というか小型ゼットンが来るという確証はないが、一応見張っている。たぶん吶喊してきて詩乃たちがいるところに体当たりして来るんじゃねえのかな。詩乃たちを座らせて兎々は四天王がいるところに座ったけど、家臣団の視線は詩乃たちを見るか一番上の席に視線を配らせていた。まあ家臣団には歓迎されてないのだろうな。武田家の棟梁の席の隣に俺が座ることになるそうだが、足を踏み入れたところで武田家家臣団から逆鱗に触れること間違いなし。特に武田家は棟梁への忠誠が強烈みたいだしな。粉雪も心も俺の事を『怪しい奴』以上に思う所があるのだろう。第一武田でも俺の事はあまり知られていない。化身と思われていたが、実は本物の神であったとか、謎の部隊とかな。あとはトレミーの事とか。春日も一度は殿付だったが、夕霧が様付でと言ったので様付にされているが、色々と考えてるみたいだったし。

「ところで一真様はどちらへ?」

「分からないのら。いつの間にか空に飛んれったのら」

俺が飛んで行ったという話になると、家臣団はざわざわし始めた。人間は飛べないからな。皆は黙っていたけど、沙紀は天井で待機していた。おそらく俺とゼットンの体当たりコースを予測して人をどかしてくれるだろう。あとはシールドビットで周りの武田家臣団を守ってくれると思うしな。最悪公衆の面前で変身しなければならないのかと思うと少し緊張してきた。そんな事を考えていると、木の板を力一杯叩く音が俺の通信機から響いてきた。合図の意味は知らんが、ざわざわしてたのが一瞬にして静まり返る。評定の始まりなのか棟梁のおでましなのか。すると何かを感じたのか上段の間のすぐ脇にある、入り口からだった。女の子が覗いていたが、こいつが晴信本人なのだろうな。上段の間に俺が座る予定の席を見ていたが、俺がいないのか無言のまま見ていた。俺は館の真上にいるからだ。

「・・・・・・一真?」

俺の事を呼んだらしいが、そこには誰もいない。俺がいないのかしゅんとした感じで上段の間にある席に座ったのを確認すると春日が言った。

「武田家棟梁、武田太郎光璃晴信様、御出座!」

やはりな。春日の合図一つで、夕霧や四天王から一番下座の板の間の武士に至るまで、一斉に平伏してみせた。一分の乱れもないそれは、俺達で言うなら上官に敬礼をするのと同じと思えるほどの統率されたもんだった。

「・・・・大義」

涼やかな声で、そう、一言呟くのみ。その一言が合図なのか、家臣団は再び一斉に頭を上げて、辺りに漂わせるのは、今までと同様のむせ返るような張りつめた空気。まあ俺はそれ以上の空気を出せるが。体育会系な光景だなと思いながら春日たちを見たが、いつもの光景としか見えないほどだった。表情一つ変える様子はない。さてと俺も声を出すか。今はまだ外だが、沙紀によって俺の声を聞こえるようにした。

『あ、あー。マイクテストマイクテスト。諸君、俺の声が聞こえるかな?』

俺の声が聞こえた事で騒ぐ家臣団に四天王。それと表情一つ変えなかった晴信も頭が?になっていた。

『この状態で喋らせてもらおう。俺はある使命があり今は遠くの空にいる。そして君たちを見ている。君が本物の晴信でいいのだな?』

「・・・・光璃。だけどなぜ分かる?」

『さっきまでいた青い髪をした子は光璃の影武者なのだろ?最初から分かっていたさ』

「薫」

「はいっ!」

その声に応じて広間に姿を見せたのは・・・・。俺達がさっきまで行動してた子だった。双子なのか、だけど髪の色と雰囲気で違うと分かるな。ん?そろそろ来るのかよ。

「名乗りを・・・・。どこにいるかは分からないけど」

「はいお姉ちゃん!ええと、私、武田孫六信廉、雅号は逍遙軒!通称は薫って言います!」

やはりな。こちらの史実でも影武者を務めると書いてあったな。

『なるほどな。まあこっちは最初から知っていた。一緒に行動をしていたのはなぜかな?』

「拙の策にござるよ。重ね重ねの無礼、平にご容赦願いたいが、いったいどこに視線を向ければいいのやら」

『視線についてはそこの襖があるだろう。そこを見ればいい』

先程詩乃たちが入ってきたところにと思ったが、襖はたくさんある。まあいいか。あとでド派手な登場するし、公衆の面前での変身もする。まあそれはいいとして俺達が信頼に足る相手なのかどうかを見定めていたのであろうな。天下の将軍様だって使っていた事だし。

「ええと、どこにいるかは分からないけど騙しちゃってごめんなさい」

『別に構わんさ。俺は最初から気付いてたしな。薫でいいのかな?』

「うん」

俺の言葉に小さく頷いて、薫はずっと空席だったところに座る。夕霧の隣に。

「お屋形様よ。では、ここからが本題ですが・・・・長尾より詐術にかけて奪い取った姿の見えない男。果たして甲信の救世主になりましょうや?」

「・・・・・なる」

堂々とした様子で問われたそれにも、光璃はわずかな言葉で答えてみせるだけ。何となくで思ったが、武田一門が揃っているのは、先ほどの戦闘報告ではなく、これが本題のようだ。というか奪い取ったって神様を奪い取ったということにしか聞こえないのだが。

「田楽狭間で起こった天異。そこからこの日の本は劇的に変わった。その原因は、今姿が見えない者・・・・一真にあるとみる」

『俺、ねえ』

「一真が来る直前から、この日の本に鬼が出始めた。西は鎮西、四国から。東は陸奥、蝦夷。数の多さは違えども、鬼は突然わき出した。・・・・?」

首を傾ける光璃に俺は何となく思った事を言った。

『つまり俺をきっかけにして、鬼が動き出したということか』

「砥石崩れのことは?」

『だいたいのことは聞いている』

田楽狭間の少し前に起きたという砥石崩れもその異変の一つなのだろう。本来なら砥石崩れに鬼は出ない。もちろんそれと並行して起きた、駿府の異変についてもだ。

「でも、納得れきないのら!」

「確かに先ほどの戦いで、一真殿の一行が鬼と戦い慣れている事は分かりました。ですが・・・・」

「織田三郎が北の方という話らしいけど、姿が見えない男と織田の両方を信じていいのかだぜ?弱卒の尾張が役に立つとは思えないんだぜ」

「左様。織田三郎、確かに切れ者のようではありますが・・・・しかしお屋形様の策に従うならば、我が武田が織田の下に付くという事になりまする。それは我らの家祖、新羅三郎義光に顔向け出来る事や否や・・・・」

新羅三郎義光・・・・河内源氏棟梁・源頼義の三男で、源義光と云う。兄に八幡太郎義家や加茂二郎義綱が居る。

兎々を筆頭に四天王や他の将達も、口々に反対意見を述べている。というか新羅三郎義光は霊界で会った事があるが、とてもいい奴だったぞ。今は風林火山に宿っていると聞いたが。まあ現世でいつか会えるだろう。それと俺に反対意見を言うとか根性あるじゃねえか。春日は知っていると思うが、俺はお前たちを創った存在だぞ。あと反対はいいが肝心の根元が見えてこない。俺が鬼との戦いに役に立つか分からないというのはまだしも、久遠や序列が出てくるということは、久遠の連合に参加意思はあるということなのかな。でもそれだけで猛反対はないと思えるし、沙紀もそう言う感じがするとプライベート・チャネルで言ってきた。

「・・・・皆の言葉、尤も」

そんな一同の声が水を打ったように静まり返ったのは、ぽつりと呟いた光璃の言葉があったから。

「しかし時間無し。光璃は御旗、楯無に誓い、一真と祝言を挙げる」

『・・・・・・・は?何だそのふざけた言葉は』

その一言に対して誰も反論がない。というか俺にはもう妻がいるんだぞ。まあ俺に妻がいるという事は言っていないけど、これはないだろう。沙紀も少々キレそうだと言っているし、トレミーにいる俺の妻たちも反論している。

「あ、あいやまたれい!」

沈黙の中で声をかけたのは、家臣団のはるか向こうからの声だった。

「・・・・小寺官兵衛。許す」

「・・・・えっ」

一斉に向けられた家臣団の視線と、初対面の光璃にいきなり名前で呼ばれた事に驚き、雫はそれきり動きが止まった。

「姉上は話して良いと仰りやがっておりますぞ、雫」

「は・・・・はいっ」

夕霧のフォローに小さく頷いて。雫は震える手を握りしめ、言葉を続け始めた。

「か、一真様の未来の妻の一人として、僭越ながら武田がお屋形様にお尋ねしたき儀がございます」

雫の問いかけに、光璃は黙ったままだ。雫は力強く言葉を続けてみせる。

「越後・長尾景虎様との交渉にて連れてこられたこの甲斐で、鬼が出ている事は承知致しました。そして、お屋形様が今はいない一真様との祝言を望んでおられる事も。武田の政戦両略について、我らが意見する権利はありません。ですが織斑一真様の未来の妻として、事情を知る権利はあるのではないか、と愚考する所存。如何か?」

殺気だった武士もいるが俺が結界を張ってあるのか、身体は震えていないし、声も普段通りだ。武田家棟梁に真正面から言葉をぶつける。

「・・・・始まりのきっかけ。終わりのきっかけ」

雫の言葉による質問による答えは一言だけだった。説明というか、短すぎではないのか。家臣達も首を捻る。

「それが、一真様だと?」

「・・・・(コクッ)」

「ザビエルとやらではなく?」

「・・・・違う」

「夕霧ちゃん。どういう意味・・・・?」

「分からんでやがる」

「・・・・鬼の出現は、一真様のせいと。そしてそれを終わらせるのもまた一真様だと。・・・・武田のお屋形様はそう信じていらっしゃるのですね」

「・・・・ってことはだぜ?今いない男を倒せば鬼は出なくなるってことなんだぜ!?」

「そうなのら!?」

「なんですとぉー!?例えそうだとしても、一真様へのそんな狼藉、綾那が許さないのです!!」

『抑えろ綾那!』

「あ、あうっ」

反射的に立ち上がり、懐に手を伸ばそうとした綾那を、その一言で引き留める。綾那も頭に血が上ったのが分かったんだろう。俺の言葉に小さく息を飲み込んで、再びその場に腰を落としてくれた。

『俺をどうするかは、詳しい事情を聞かないとな。それに俺は死なんよ、で、例え俺が死んだとしても鬼は出なくなると?』

「ならない」

その通りだ。まあ鬼がなぜ出るようになったのかはいずれ分かるという感じだし。

「まあ、そのような単純な方法であれば、お屋形様も一真殿を躑躅ヶ崎まで無事にお連れしろとはおっしゃるまい。それこそ越後から連れ出した後に片付ければ済む事よ」

「そうですね・・・・」

春日が俺のことを殿で言うのはおそらくまだあまり信じていないのか、家臣団や他の四天王には知らされていないのかのどちらかだな。あと霊界から新羅三郎義光が俺に謝罪をしてきているが、俺は気にしてないから大丈夫だと言ってある。本来なら姿を現すけど、今はまだだ。ゼットンが現れない以上まだ真上にいる。あとは越後のごたごたの合間に仕掛ければ間違いなく俺直属部隊が殲滅していただろう。

「しかし、だとすれば・・・・このような手段を取らず、同盟に加わることを決めた美空様と協力してもよかったのでは・・・・?」

「・・・・美空はダメ」

『ダメとはどういうことだ?』

「信用できない」

少し拗ねたように、光璃はそう呟いた。まあ美空は光璃に何をしたのかは知らんが。

「それに、機を逃せば一真は美濃に戻る。・・・・あの時しかなかった」

『美濃に戻る、ねえ。その前にあの書状のおかげであと一歩で甲斐を滅ぼす書状だったのだが。あと鬼と戦う気あるなら、久遠と協力してもいいのでは?』

「・・・・越前に返り討ちを受けた織田にも。特に期待はしていない。それと滅ぼすとはどういうことか?」

『それは後で話すが』

と光璃は黙ってしまったが、お、そろそろ来るのか。ゼットンが。

『ところで祝言なんてふざけた言葉よりも聞きたい事はある。なぜ俺を甲斐に連れてきた?今回みたいに鬼退治でもさせるつもりなのか?』

「・・・・その意味もある」

『まあ俺は鬼退治は全力でやらせてもらうが、始まりと終わりは俺という役割なわけだ。なら、いくらでも戦ってやるさ』

鬼を倒したあとにこの外史は崩壊するのが、もう決定済みであることは知っている。黒神眷属はいつでもこちらに来れるよう準備してると聞いた。トレミーでな。もうすぐ深雪は正式に隊員となって艦長職に就くのだろう。まあ4番艦は創らないけど。話を戻すが、光璃は美空や久遠も信じていないようだからこちらとしては話にならない。けど考え方は同じだと俺は思う。 
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