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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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十九章 幕間劇
  祝杯×美空からの問答

「おーい、誰かいないのかー!」

俺達は長尾勢の本陣にいたんだが、いくら声をかけても反応無し。ここは長尾勢の本陣で間違いないはずなのに、人の気配すら感じない。

「まさか、もう陣を引き払ったなどという事は・・・・」

「美空なら何があってもおかしくはない。今陣を動かしてもいいことはないはず」

「そのはずですが・・・・」

その辺の理屈が通じない美空だからな、一応護法五神を連れてきている。ひよたちに見えるようにしてあるけど、他の兵とかには見えないようにしてある。

「一応呼んで正解でしたね。護法五神を呼んでおいて」

「まあな。美空の用事は大抵呼ぶからな」

その護法五神は、俺の腕にくっついている。帝釈天と多聞天。一歩下がったところにもいるが。

「勝手に入っちまえばいいんじゃねえか?」

「それはさすがに怒られるわ」

ちなみに小夜叉が一緒にいるのは、桐琴からだった。次期棟梁なのだからこういうのも覚えた方が得だとな。主に各務が。勝手知ったる織田家の陣や浅井、足利家辺りならまだいいが、ここは他家の陣だ。

「構わぬであろう。余は将軍ぞ」

「忘れては困るが、一応言っておく。俺は神だから一葉より身分は上だぞ。仮に勝手に入ったとしても怒られるのは一葉だけだ」

「あー。そういやそうだったな。それに怒られるのは公方だけだろうよ」

「そういうことだ。おーい!いないのかー!」

「どやーーーーーーーーー!」

あ、出てきた。

「やあやあ遠からんものは音に聞け、近くに寄って目にも見よ!我が名は人呼んで越後一の義侠人!樋口愛菜兼続なるぞー!どやーっ!『スパァァン!』」

「たく。一言目からそれかよ。美空に呼ばれてきたから、さっさと取り次げ!」

俺は愛菜にハリセン一発してから、俺達の用事を言ったけどな。

「い、今御大将は愛し恋しの我が主、空様と親子の時間を過ごしておられる真っ最中にあらせられます!どや!」

「はあー。じゃあ秋子は?」

「この樋口愛菜兼続、愛の守護者として、空様の大切な時間を何人たりとも邪魔させるわけにはいかぬのです!どーん!ああ・・・・まさに今、愛菜は愛に殉じるのですぞ・・・・!どやぁ・・・・!『パシィィィィィィイン!』うぅぅ・・・・」

人の話を聞けや、こいつめ。

「何だこいつ。面倒くせえな。あと一真のハリセンを受けても懲りてなさそうだぞ」

「主様、このような小娘、ようもまあ攫ってこられたの」

「非常に苛ついたがな」

あのときは俺の手刀で眠らせたから。けど、今それをするわけにもいかないから、ハリセンだけでやっているわけだが。さてと、どうしようかな。護法五神も少し怒り気味なんだけどな。

「愛菜!」

「母上ー!どやーーーーーーっ!」

「どやじゃありませんっ!何をしているのですか!」

「愛菜はいま、まさしく親子愛を妨げる者達をその身をもって盾としていた所!愛宕にまします神々もご照覧あれ!我が名は樋口愛菜兼続!愛に生き、愛に死す『パシィィィィィィィィイン』うぅぅぅぅ」

「やかましいたらありゃしない!おい、秋子!何とかしろ。ウチの護法五神も少々お怒りのようだぜ」

「申し訳ありません、一真さん。そこに座りなさい!愛菜!」

「うぅぅぅ・・・・。お、おぅふ・・・・」

「まったくもぅ・・・・。一真さん達は、御大将がお呼びになったお客様です。この間のお礼を言うならまだしも、そうやって邪魔をして・・・・」

「で、ですが母上・・・・愛菜は・・・・」

さすがの愛菜がまともに話を聞いて、反論しようとしている。さすが親子だな。俺のハリセンを受けてもまともに聞かなかったこいつが。帝釈天たちも怒りを納めてくれた
ようだ。

「ですがも春日もありません!そもそもこの間の春日山が落ちた時も・・・・」

親子喧嘩はこうではなくてな。小夜叉もそう思ったのか、止めようとしないで静観している。

「本当に心配ばかりかけて・・・・うぅ・・・・ぐす、ひっく・・・・・」

親子喧嘩の最後はこうなるわけで。いつの間にか仲直りするんだよな。俺と奏は喧嘩はしないし優斗もだ。ヒートアップした秋子の目元からは涙が。

「母上・・・・ぐす・・・・っ」

「愛菜・・・・無事で、本当に無事でよかった・・・・。うわぁぁぁぁぁぁん・・・・・っ!」

「母上ぇぇぇ・・・・っ!ひしーーーーーっ!」

「止めるのは野暮だったな。小夜叉」

「そうだな。母と喧嘩しても最後は仲良くなるからな」

俺のハリセンではまったく効果なかった愛菜だったが、普通に話すところはレアだな。

「あ、一真様」

「空。俺達は・・・・」

「はい。美空お姉様から聞いています。お姉様もお待ちですから、奥へどうぞ」

そして本陣の中に入って行った俺達。

「空。この間はお疲れさんだ。あれからは何か変わったことはないのか?」

「はい。あの時は、ありがとうございました」

「あの二人は放っておいて平気なんですか?」

「ほっとけほっとけ。子供じゃねえんだから、終わったら勝手に戻ってくるだろ」

「あの・・・・・愛菜ちゃんはまだ子供・・・・」

「大丈夫です。秋子も、本当は凄く愛菜の事心配していたみたいで・・・・戻ってきてからは、もう何度もああして叱っては泣いていますから」

「叱るのも愛情か」

「はい」

俺はそういうのはないからな。正直どうしたらいいかわからんし。でもああいうところが親子の仲の良い所なんだろうな。空が見せてくれた笑みは春日山の時とは違う笑みであったけど。

「どうかなさいましたか?」

「なんでもない。二人を救出してよかったなと思ったところだ」

「はい。ありがとうございました」

この笑みがみれただけでもよかったけど。春日山から攫ってきて正解だったな。

「美空お姉様。一真様達がお越しです」

「入りなさい。・・・・あら、これだけ?」

中で待っていたらしい美空は、現れた俺達を見て、意外そうな顔をしていた。

「この間の作戦で疲れているからな。で、今日は何の用事だ?例の件なら、一真隊で詰めているが」

「ああ、違う違う。今日は空と愛菜が戻ってきた宴をするから、呼んだだけよ」

「ありゃま。それだったら皆を呼ぶべきだったな。今からでも呼べるが」

空間切断で、一気に呼べるけど。連れてきたほうがよかったかな。

「・・・・何も聞いていないの?」

「使者の方からは、至急来るようにとしか・・・・」

「あの、お姉様。先程は一真様達を呼べとしか・・・・」

「・・・・・そうだっけ?」

「はい。お姉様、しっかりしてください。そういう肝心な所が抜けているのは、お姉様の悪い癖ですよ?」

「ごめんね、空。今度から気を付けるわ」

「ほぅ。越後の龍も愛娘には頭が上がらんか」

美空が素直に謝っているのもレア中のレアなところだな。逆にそれが出来る相手だから、美空は空を大切にしているのであろう。

「あれも愛情の形の一つさ」

そういう意味でも、空を春日山から取り戻せたのはよかったというわけだ。

「そうじゃな」

「双葉の事、思い出した?」

「・・・・双葉のことはいつも思っておるわ」

まあ俺も早めに会いたいしな。

「一真様。どうなさいます?」

「せっかくここまで来たのじゃ。宴に顔を出してもバチは当たるまい。主様が神だからの」

「こういうことなら、一度外に行って皆を呼んでくる。宴だから酒も用意されていると思うし、桐琴も久しぶりに飲みたいだろう」

「オレは帰るぞ・・・・。と思ったが母を呼ぶのならしょうがねえからいてやるよ」

おうそうかと言おうとしたら、ここで第三者の声がかかった。勢いよく現れたのは柘榴だった。後ろには、いつものように呆れている松葉がいたけど。

「アンタ、一真隊のちっこい槍使いの二番目っすよね!柘榴といざ尋常に勝負っすよ!」

「・・・・ンだとコラ。今なんつった」

「柘榴といざ尋常に勝負っす!」

「ンなもん聞いてねえ!その前だ!」

「ちっこい!」

「ちっこいのはいいんだよ。これから母みたいに勝手にデカくなるからな!」

「いいなぁ小夜叉ちゃん・・・・。桐琴さんで保証されてるんだもんな・・・・」

「ですよね・・・・」

「二人とも、何の話をしている?」

俺としては別に緊迫としたところではないが、普通なら緊迫だな。

「主様も余裕じゃな」

こういう展開は慣れているからな。柘榴が来た時点でこうなる予測も。

「ちげーよ!その間!」

「槍使い」

「テメェわざとだろ!」

「二番目?」

「そうそうそこだよ!誰が二番目だ誰が!じゃあ一番目は誰なんだよ!」

「あの、殺る殺る言う鹿角の・・・・」

「一真や母ならまだしも、本多のガキが一番でオレが二番目だと!?テメェ表に出ろ!ぶっ殺してやる!」

「お、上等っす!こっちこそ刀の錆にしてやるっすよ!」

「別に止める気はないが、いいのかあれは?」

「別にいいわよ。おなかが空いたら帰ってくるでしょ。松葉、立ち会ってあげなさい」

「宴・・・・」

「松葉ー!立ち会うっすよ!」

「あうう・・・・。・・・・行くー」

「あの・・・・そちらは、止めなくてよろしいのですか?」

「ああいいのいいの、ああいうのは。あとで一真隊の主要メンツを呼ぶしな。小夜叉ー。あとで桐琴たちも呼ぶから程々になー」

「わかったぜ一真!あとそういうのは向こうのッス野郎に言ってくれ!うまく殺されねえようにしろよテメェ!」

一応忠告はしといたから大丈夫だろう。

「上等っす!」

柘榴もそれでいいのか。小夜叉たちが出て行ったあとに、俺も外に出た。そして空間切断で一度一真隊のところに行き、主要メンツを呼んだ。桐琴もだけど。宴だと言ったら喜んでいたけどな。いい酒が飲めそうだとか。主要メンツが揃ったので、空間切断で長尾の本陣のところに繋げてから全員を行かせた。最後の一人が通ったところで俺が入り、空間を閉じたけど。ちょうど小夜叉対柘榴で戦う所だったが、無視して中に入り、美空たちのところへと戻った。そのあと秋子や愛菜たちが全員分の膳を運んできたわけだ。そんで俺以外の者たちは驚くわけで。

「うわ・・・・。凄い」

「ご飯です!真っ白でつやつやしてますよ!一真様!!凄いです」

「ご飯もいいですが、久々の魚も美味しそうです」

こいつら的にはあまり見ない高級そうな食材なんだろうよ。桐琴もいい酒だとか言っていたが。

「ふふっ。石高こそそれほど多くありませんが、越後の米は美味しいですよ」

「ん?多くないのか。石高」

越後=新潟県は米で有名だったはずだが。

「残念ながら。土地は広くても、あまり米の取れる土地柄ではありませんから・・・・」

「雨が降れば川は溢れますし、沼地も多くて水はけもあまり・・・・」

そういうことか。まだこの時代では越後も米所というワケではなさそうだ。

「今の収入は、確か青芋だったか?」

青芋・・・・繊維素材として服や手拭い、紙や魚網などに利用された。

「ええ。京の三条西家には随分面倒を掛けさせられたけどね」

「青芋座の事まで幕府に言われても、どうにもならんわ。別に余が三条西家に青芋のお墨付きを与えておったわけではないのだぞ」

「・・・・なあひよ」

「なんですか?」

「大きい声では言えんが、青芋って何だ?」

「・・・・ご存じではなかったのですか?青芋というのは、私たちの着ている麻布の材料なんですよ」

俺達のだと麻は高級品だが、この時代では普通に作られているのか。俺らの服の素材はこの時代では違うけど。見た目は普通に見えるけど防弾防刃のだからな。少し脱線したがひよ達が着ている服の材料があおそというのか。

「それが越後の収入源なわけな。そんなに凄いのか?」

「・・・・凄いんですか?詩乃ちゃん」

ひよも良く知らないのか。焼き魚を食べていた詩乃だったけど。

「はいそうですよ。越後青芋は全国に出回っております。私たちの服も、麻の部分は越後青芋が使われています」

「全国規模なのか」

国一つ支える一大財源なわけか。

「その青芋座を仕切っていたのが、京の三条西家なんです」

「なるほど。解説ありがとう三人とも」

青芋座に全国規模の利権を吸い上げられていたら、生産者側の美空たちは冗談じゃないはずか。

「何コソコソ話しているのよ」

「ああ・・・・。美空たち、よくこんなご馳走がすぐ準備できたな」

青芋の話をすると怒られそうだから、もう一つの気になっていた事を言った。

「驚いた?」

「俺はあまりだが、こいつらは盛大に驚いているぞ」

「凄いです!びっくりしました!」

「一真は驚かなくて、一真隊の者たちが驚くのは何か矛盾しているわね」

「俺はというか、黒鮫隊の者たちは毎日こういうのを食っているから、あまり驚かないんだよ」

「一真様たちはいいですけど、もしかしてこんな美味しそうなご飯を毎日・・・・?」

「まさか。普段は一真隊に補給している食事と変わりませんよ。それより一真さんたち黒鮫隊の者たちが毎日のようにご馳走を食べていると言うのは気になりますね」

「左様!本当はもう何日かして使う予定だった所を、空様ご帰還の祝いと称してお振舞い!どーん!」

「何日かしてか。そこで宴をする予定だったのか?」

「いえ。戦を控えた数日は、美味しくて栄養のあるものを振る舞って兵たちの英気を養うのが、御大将のやり方ですから」

「それはずいぶんと上手いことだな」

俺達(黒鮫隊)は毎日美味しいご飯を食ってるし、鍛錬で力をつけたり士気を上げているからな。

「それに、食事が豪華になると戦が近いのだな・・・・という心構えにもなりますから」

なるけどな。ウチの場合はいつでも戦闘に出れるようにしてあるし、睡眠はちゃんと取れと言ってあるから、日勤と夜勤で分かれるときがある。食事を戦の前に豪華にしてテンションを上げる。そういうやり方もあるんだな、長尾家のスタイルは。

「一真様!おいしいれす!」

「まあさすが越後だ。魚も美味い。あそこで笑顔をしながら食べている詩乃を見ると連れてきて正解だなと思うな」

詩乃を見ると幸せそうに魚を食べているところだった。最近は食べていないと思うしな。

「このご馳走ぐらいでこれ以上の働きを示せと申すか。安う見られたものよの」

「そこまでケチな事は言わないわよ、一葉様。時期が来たらそちらへの振る舞いもするから、楽しみにしていなさい。・・・・いいわね、秋子」

「承知しました。愛菜を助けてもらった事もありますし」

「母上」

「何?」

「愛菜はずっと疑問に思っていたのですが、本当に空様と愛菜はこの男に助けられたのですか?どや?」

「これ愛菜。一真さんとお呼びしなさい」

「でもですね、『そこまでにしろ!愛菜』どーん!」

俺は立ちあがり大天使化になったけどね。そしたら見えなかったはずの護法五神もいたから美空たちは驚いていたけどね。

「これが我の真の姿なり。少しは言葉を選んだらどうだ?愛菜とやら」

「私は初めて見ましたが、これを見るとまさに神様ですね」

翼は6対12枚で金色で、服と髪は金色で、目の色は青と緑のオッドアイ。

「空。実際のところどうなの?愛菜はあんなだけど」

「本当ですよ。美空お姉様。私も愛菜も、一真様たちに助けていただきました」

大天使化を解いて座っていた俺だけど。護法五神もいるけどな。

「なんですとー!愛菜のあずかり知らぬ所で、そのような事が・・・・。どーん」

「何で助けられた本人が知らないのよ」

「話がややこしくなるから、愛菜は攫ってる間気絶させたし」

「ホントに気絶させてたんですか!?」

「だって、秋子も適当にあしらえと言ったであろう?」

「それはまあ言いましたし、話がこじれるとは思いましたけど・・・・だからって、まさかホントにするなんて・・・・」

「・・・・ちょっと。じゃあ空は!?」

「あ、あの、美空お姉様、私は・・・・」

「空は事情を話したら分かってくれたから、何もしていないよ。なあ空」

気にしているようだけど、気を失っていた事は伏せておこう。

「あ・・・・はい」

「そう・・・・。首の後ろに手刀入れて、なんて事はしてないのね」

「空にはな」

「愛菜にはしたんですね・・・・」

「ご安心くださいませ母上!その時の事、愛菜は全く記憶にございませぬ。どやぁ!」

「愛菜、そこは自慢するところじゃないから・・・・」

「で、空。愛菜が気を失っている間に、こいつにひどい事とかされなかったのよね?」

「ふぇぇ・・・・・っ!?」

なんか変な感じになってきたので、変な目線を入れていた者たちには全員ハリセン一発を入れておいた。一葉や幽にひよやころに詩乃と雫。あとここにいる長尾の者たちにもだけど、空と愛菜と秋子以外。美空だけだけど。

「たく。そんなときに変な事するかっつうの。あの時は黒鮫隊の者や綾那に小波がいたのだからな。それとも何?俺の言葉が信用しないのならば、またこのハリセンではたかれたいかな?諸君」

と言ったらはたかれた者達全員首を横に振った。

「もうそれで叩かないでよ。まあ私の妹たち・・・・。じゃなくて一真の妹たちも見ていたから大丈夫でしょ。もしあなたがただの人間だったら、分かっているわよね?」

「うぅぅぅ・・・・。主様、それを叩くのは加減をしてくれないと困るのだが。まあそうなったらそのときは余らが主様を突き出そうぞ『突き出すって何をするの?一葉』ゴホン、今のは冗談じゃ」

「ですが、こうなれば愛菜の気持ちが収まりませぬ!どーん!」

「どーん?」

「空様をお守り出来ぬばかりか、このような誰とも知れぬ馬の骨に空様の大事な・・・・大事な・・・・大事な・・・・!どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!」

「・・・・秋子?」

「本当にすいません。人の話を聞かない子で」

また手刀してもいいけど、今は様子見だ。何をするのやら。

「この越後きっての義侠人!樋口愛菜兼続の!愛と!怒りと!悲しみの!怒りの拳、受けてみよーーーーっ!ちぇいさーーーーーーーーーっ!」

怒りを二回言ったな、こやつは。

「まさしく怒り心頭なのじゃな」

呑気な一葉の感想もそうだが、ここは食事の席だから暴れる訳にはいかないな。というわけで俺は庭に出た。それ追って愛菜も庭に出る。

「っと!」

そして、その拳がどうなったかというと。

「えいや!えいっ、とうっ、ていやー!それそれそれー!どうですかどうですか!愛菜の怒りはこんなもんじゃないのですよ!どやどやどや!」

そんな感じで愛菜は怒りの拳をぶんぶんと振っているわけだが、残念ながら俺が頭を抑えているだけで、愛菜の手足は俺の体には届かない。

「これは美空様のぶん!これは空様のぶん!そしてこれが、愛菜のぶん・・・・っ!」

「・・・・何で私の怒りまで水増しされているわけ?」

それはこっちが聞きたいわ!

「そしてこの怒りの炎が愛菜に新たな力を呼び覚ましたのですぞ!ひぃっさぁぁぁつ!愛宕・・・・」

「いい加減になさいっ!」

「きゃふんっ!」

そんな愛菜の頭に叩き込まれたのは、俺のハリセンではなく怒り心頭な秋子の拳骨だった。

「・・・・む、ねん・・・・ばたっ」

倒れるときまで擬音使うのか?そういえば春日山でもそうだったな。さすがに女の子がバタッと倒れるのもいけないので、念力で浮かせた。今の俺の目は青くなっているけど。

「愛菜・・・・」

「大丈夫。秋子にやられて気絶してるだけだ」

「そうですか。よかった・・・・」

浮かんでいた愛菜を秋子が受け取ったところで念力をやめた。秋子は穏やかな顔で微笑んでいるけど。変わった子でも自分の娘は心配か。

「秋子・・・・」

「わ・・・・私がする分にはいいんですっ。親子の愛の鞭なんですっ!」

「俺がやるより秋子がやった方が手っ取り早いと思っての行動だった。感謝する」

「いえ・・・・。では、私と愛菜はこのまま下がりますね。空様も宜しければ」

「美空お姉様・・・・」

「ええ。まだ疲れも残っているでしょう?湯も支度してあるから、ゆっくり休みなさい」

「はい。一真様も、おやすみなさいませ」

「ああ。良い夢を見ろよ。こいつみたいに」

「・・・・・むにゃむにゃ・・・・。空様、ここはお任せを・・・・どーん・・・・」

「寝言でも空の一番の忠臣でいてくれるのね。ありがとう、愛菜・・・・」

俺は愛菜に向けてそう言ったら空が言ったけど。

「・・・・一真。その手」

「ん?」

美空や帝釈天たちから指摘されてみると、手の甲に切れて血が出ていた。この姿は人の姿だからか、自己回復はしないようにしている。ガンダムみたいにハイパーナノスキン装甲じゃないからな。神の姿や一部解放なら、時間が経てば治るけどね。

「いいわ。こっちに来なさい」

「わかった」

まあ長尾家で怪我人を手当せずに帰したとなるとあまり言われたくないそうだ。

「主様。余ももう眠いゆえ、先に戻っておるぞ。一真隊の者たちとついでに森のも拾って帰る」

「おう頼んだ。俺は手当が終わり次第帰るんで、ひよたち一真隊の主要メンツは一葉が小夜叉に混じって暴れないように、ちゃんと見といてな。特に幽と鞠、頼んだぞ」

「承知」

「わかったの!」

「一葉も暴れるなよ。一応天の眼で監視してるからな」

「分かっておるわ。ではな」

「なら、こっちに来なさい」

一真隊のメンツを見送った俺も、美空に言われるがままに部屋へと戻ることにする。ただし帝釈天たちは見えるようにしてあるけどね。

「・・・・・ん」

「染みるの?」

「いや大丈夫だ。ただその酒は度が高いようだ、続けてくれ」

俺や桐琴に秋子が飲んでいた酒を消毒変わりに使ったが、俺達が使っている消毒液より染みると思った。

「・・・・こんなものかしら」

それなりに手際がよく消毒を終えて、布を巻いてくれる美空。内心はあまり自信なさげだったけど。久々にこういうのしたなと思った。ちなみに帝釈天たちは俺の一歩後ろ
にいる。美空にも見えるようにな。

「上手だと思うが、あまりしないのか?こう言う事」

「柘榴は怪我なんかほったらかしだし、松葉と秋子はそもそも怪我なんかしないもの」

「見れば分かるな」

さっきも言ったかもしれないが、柘榴も松葉もそれぞれの攻撃と防御の特化型だからな。秋子も後方からの指揮が中心で、前線に出るタイプではない。俺もよく前線に出るが怪我なんてすぐ治ってしまうような体質なのかもしれない。ただ今は神の力を封印している状態だけど、目だけは使えるので帝釈天たちを召喚している。それに服も防弾防刃のを着ているから刃や矢に当たっても効果はない。あと普通なら棟梁が怪我の治療はしない。でも俺は医療にも知識があるのでな。部下が怪我をしたら医療バックか回復のオーラを当てるけどな。

「・・・・美空は?」

「あら。気になる?」

「部下や仲間の怪我となれば心配の一つはするもんさ」

「戦場に立っていれば、怪我の一つや二つするわよ。そんな物、ない方が不思議でしょ。あ、一真はあまり怪我とかしたことないんだっけ?」

「昔だったらよくあるが、今はないな。戦場に立っていても怪我一つしないで無傷のまま立っている。それに怪我したとしても自己回復で自然と治ってしまう」

「それだったら今回のはなぜ自然治癒しないの?」

「神の能力を封印していれば、自然治癒はしない。今は目だけを使っているからこいつらがいるわけ。美空は不覚をとったことはある?」

「あるわ。まだ元服して間もない頃よ。足に矢を受けてしまってね」

ほうほう。帝釈天が耳打ちをしてくれたが、内股だそうだ。そりゃいい情報だが、聞くのはよそう。

「・・・・・・今回は、助かったわ」

「空と愛菜のことか?」

「ええそうよ。その傷もその時の傷が開いたんでしょ?」

「さあな。空たちを連れ出すのに夢中だったからな、よく覚えてはいないが。たぶんそのときだろうよ」

崖に登ったのは黒鮫隊と綾那と小波だったけど、最後に戦闘をしたときかもな。

「正直期待はしていなかったのよ。城に忍び込んで調査するだけで上等くらいに思ってたけど、まさか本当に空と愛菜まで連れ出してくるなんてね・・・・」

「隊の連携と俺らの力の結集してできたことだ。その辺りも聞いているんだろ?」

「ええ聞いてますとも。春日山への侵入経路の見当を付けて、侵入の具体案を考えたのもあなただって」

「まあ隊の頭が考えることだ。俺一人でも出来ることだが、あえて一真隊の力でやってみせたもんだ」

一緒に忍ぶ込んだ小波や綾那、外でフォローをしてくれた一葉たち。全体の作戦を統轄してくれた詩乃と雫。たった一人で城内に侵入して情報を集めたころ。この中でも一人欠けたら作戦は失敗に近かったかもしれない。

「まあそんな優れた将たちを取りまとめているのは、間違いなくあなただわ。一真」

「俺は出来ることをしただけだ。まとめるのは得意でもあるが、あとこいつらもな」

「幕府公認の、天下御免の妾状を取ったんでしょ?そこまで来れば、十分にお家流の領域だわ」

「お家流ねぇ。そんなの考えた事ないけど、褒め言葉として受け取っておこう」

「そうね・・・・。褒め言葉、よね」

美空は静かにそう呟いて・・・・。俺の体が引き倒されたのは、一瞬の出来事だったけど、これはわざとだ。帝釈天たちにも何もしないで静観しとけと言ってある。俺の体に掛かるのは、細い美空の身体の重さ。そして首元に延ばされたのは・・・・白い二本の腕であった。10本の指が俺の首に締めるようにしている。

「どうした、美空」

見下ろす瞳は月明かりを弾いて冷たく輝いていた。指先の冷たさと合せて、現実離れしたものであった。

「何でもないわ。ただ、優秀すぎる相手って・・・・私、嫌いなのよね」

「ほう。じゃあ俺が裏切ったことも気付かせないうちに裏切っているかもと?」

「ええ。私は、私のモノが一番大事なの。空も、越後も、秋子や愛菜、柘榴たちも。そんな大切なモノを脅かす相手には、容赦はしないわ。例え、姉様や母様でもね」

指先の力がほんのわずかに強くなっていく。でもこのくらいでは俺を殺せないな。

「俺は裏切らないが」

「そうよね。もともと、織田のモノだものね。理由を知っているなら、飛び加藤がどうなったか・・・・それも聞いているんでしょう?」

「知っているよ。ただし一つ訂正がある。俺は誰のモノでもないってな」

飛び加藤は怪しいから追放したと聞いている。あとは裏切りを裏切りと感じさせないほどの飛びぬけた優秀さが理由。

「織田のモノじゃないんなら、別に聞かないけど。あの飛び加藤でも出来なかったことを、平然とやってのけた。・・・・アイツよりもっと優秀って事になるわ」

「じゃあどうする?」

「そうね・・・・」

小さな呟きと、ゆったりとこちらに沈み込む細い体。重心が俺の首筋にと沈み込む。帝釈天たちは剣を抜いているな。あれほど静観しろと言ったのに。

「・・・・いっそ、殺しちゃおうかしら?」

愉しそうに言ったけど。美空はその瞳をうっすらと細めて、俺の耳元にそう呟きかけた。首に絡むのは指ではなく手全体だ。少しずつ感じる圧迫だなーと思った。そして。

「・・・・抵抗しないの?」

耳元でつまらなそうに言われた言葉だった。

「・・・・すると思うか?まあ抵抗する前に俺を殺そうとすれば、護法五神も動くことになる」

「生きて鬼退治をするんじゃなかったの?」

「美空と正面からぶつかりあえるほどの力は持っている。それにな・・・・」

「・・・・・・・」

「殺気を一切感じないな。もし俺を殺そうとしたら殺気の一つ感じる」

のしかかる細身の身体も指先も殺意というのは一切感じない。

「じゃあ、ここで私がこの手に力を込めたら?」

「込めないだろうな。第一その手には力を感じない。それにいつでも脱出はできるからな」

「つまらないわね。命乞いくらいしなさいよ」

「じゃあ面白い命乞いをしようか。俺の恋人となり、俺を中心とした恋人の大同盟というのはどうかな?別に手の力を強くしても美空では俺を殺せないな。力がなさすぎるからな。それに幕府からの免状は鬼の討伐とその先があると俺は思っている。今の所、織田、足利、浅井、今川。あと恋人ではないが松平とも協力関係である。久遠のやり方は噂程度に聞いていると思うが、座を廃し、関所をなくして人と物と金の流れを活発化している」

「座を・・・・」

指先の力が抜けた感じはしたな。

「京で青芋座を仕切っている三条西家に苦労したと聞く」

「・・・・意外と聞いてるのね」

「情報は大事だ。ちゃんと記録しとかないとな。でだ、そこに越後も加わるというのはどうだ?」

「あなたを利用しろって事?」

「そう取ってもらっても構わん。嫌なら松平みたいに俺と恋人にならずに同盟だけという選択肢もある。今は結構増えたが、最初は久遠が最初だったのだからな。それも形だけの」

「・・・・私を恋人にする自信があるって事?随分ね」

「自信過剰ではないがな。この勢力が敵に回らずに、味方か商圏として活用ができるのなら・・・・越後にとっては損にならない話だが。それに戦が出るのを減らせば、美空の大切なものを守れるのでは?」

「それは悪くないわね。・・・・いいわ。今日はその命乞いで許しておいてあげる」

「命乞いではないがな。恋人の件は先として同盟の件は考えた方がいいと思う」

「なら、最後に一つ・・・・私からも聞いていい?」

「なんでもどうぞ」

「私や越後にとって、その同盟が得なのは分かったわ。さらなる発展が見込める可能性も、戦が減る可能性も。・・・・でも、私が一真を恋人に迎えるとして、あなたには何の得があるの?」

「こいつらとの絆も深めることもできるし、さらに力を手に入れる。俺と言う媒体を使って美空のお家流をもっと大きくなることもできる。あとは可愛い彼女が増えることだ。どうかな?」

「あなたと話していると、何もかも得になることでいっぱいだわ」

と俺の首から手を放してくれたけど、肝心のこいつらは怒り心頭のご様子だった。それを見た美空は顔を青くして俺の背中に隠れた。

「たく。おいお前ら、落ち着け。美空が本気だったら俺は間違いなく抵抗してたか捕縛術でも使ってたけど、使っていないだろ?なぜだと思う」

「そ、それは兄様の気持ちを美空に言わせるため、ですか?」

「当たりだな。それに越後を味方に入れないと、あとでどうなるか知らんからな」

「今回はお兄ちゃんの懇意で契りを切らないわ。でもまた今度こういうことしたら、ただじゃおかないわよー!」

美空は俺の背中に隠れながら何度も頷いていたけど。そして剣を鞘にしまった護法五神。

「ふう。あと美空にも言っとくが、俺は大切に想う者には決して裏切らない」

「・・・・・・・」

しばらく黙ったままだったが、手を離さなかったら今頃首をへし折っていたと。

「まあ当たり前の反応だな、それは」

「私だって好きな男でもできたら・・・・そいつを裏切ったりしないわよ」

「そうだな。今はそういうことにしとくか」

「ええ・・・・そうよ。きっとね。もういいわ。私も疲れたから、お湯を使って寝る事にするわ」

「俺もそろそろ帰るが『お兄ちゃん』何だ?・・・・なるほどな」

少し手当をしてもらったのにこんなに長居をするはめになるとはな。

「今日は楽しかったわ。それと毘沙門天はなんて言っていたの?」

「気になる?なあにちょっとした問題が発生してな。主に俺を慕っている神や仏が怒り心頭なんだと。それを俺が怒りを収めてくるのさ。美空のおかげでな」

「それは『美空のせいではない』でも・・・・」

「今はそういうことにしとけ。美空のせいではない。ちょっとした試しだとな」

「その方がありがたいわね。じゃあまたね」

そして美空に見送られてから、俺はいや我は護法五神を神界に戻してから神界に向かった。そして暴動を丸く収めてから、俺の妻たちにキスをしてから我らの陣地に向かったけど。一方見送ったあとの美空はというと。

「・・・・・またね、か」

と言ったあとは黙ったままだそうだけど、とりあえず俺は神界から戻ってから寝た。この先の戦の準備のために。 
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