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男の子は魔法使い

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第七章


第七章

「先生の他にも大人の人いるだろ」
「ええと、用務員さんに事務員さんか」
「事務員さんっていったら誰がいる?」
「太宰さんと芥川さんに」
 まずは二人挙げられた。事務員で目立つ二人だ。
「それと。ええと」
「誰だった?」
「誰かいたか?」
「確かうちの学校事務員の人三人だったよな」
「ああ、三人だよ」
「そうだよな」
 このことが確かめられる。そうしてであった。
 その最後の一人がだ。話されるのだった。
「最後の一人っていったら」
「誰?」
「誰だったかな」
「三島さんっていなかったか?」
 ここでようやくこの名前が出た。
「三島さんっていただろ」
「ああ、そうだよな」
「そういえばいたよな」
「ええと、ってことは?」
「あの美人さんってまさか」
「三島さん!?」
 ここでだ。やっとここに辿り着いた。
「三島さんって地味だったんじゃないのか?」
「そうだよな」
「もうすっごく地味でな」
「全然目立たない人なのに」
「あの人なんだ?」
「何なんだよ」
 こう話してだった。彼等はあらためて香里奈を見た。見れば見る程凄まじい美人である。最早トップモデルか女優か。その域だった。
 そして美人となればだ。来るものは決まっていた。
「あの、三島さん」
「今度の日曜どうですか?」
「土曜でも」
「よかったら映画館でも」
「図書館でも」
「八条テーマパークのチケットありますけれど」
 生徒も教師も出入りの業者もだ。次から次に彼女に迫ってきた。そうしてそのうえでだ。デートやら何やらの申し込みをするのだった。
 これまでとは全く違っていた。まさに一変であった。
 しかしだ。香里奈はにこりと笑ってだ。彼等に対して返すのだった。
「折角ですけれど」
「えっ、折角!?」
「折角ってことは」
「つまりは」
「はい、もう相手がいますので」
 だからだというのである。
「ですから私はもう」
「相手って誰だ?」
「こんな美人と付き合う相手って」
「そんな幸せ者何処にいるんだよ」
「どの国になんだよ」
「ここにいるよ」
 いぶかしむ彼等のところに来たのはだ。裕則だった。彼はにこにことした顔で香里奈のところに来てだ。こう彼女に言うのだった。
「学校終わったらスパゲティ食べに行きましょう」
「はい」
 香里奈はそのにこやかな顔で裕則の言葉に頷いた。
「それでは学校の後で」
「そうしましょう。二人で」
 何と彼であった。彼がその相手であった。そうしてである。
 それを見た面々はだ。驚きを隠せないまま言うのであった。
「何でだよ」
「何で横光先生なんだ?」
「君がどうしてあの美女と?」
「一緒になれたんだ」
「ああ、それは簡単ですよ」
 裕則は驚く彼等にも笑顔で話す。
「僕があの人のよさに気付いたからですよ」
「それでだって」
「それで?」
「一緒になれたって」
「香里奈さんは凄い美人だって。最初からわかっていましたから」
 それでだというのだ。
「それでなんですよ」
「最初から気付いていたって」
「それでって」
「僕はそれをちょっと掘り起こしただけです」
 自分のことはこれで終わらせたのだった。
「そう、ほんのちょっとだけですよ」
「それであれだけの美人になったって」
「けれど元々美人だったって」
「そうだったのか」
「それに気付くかどうかで変わるんですよ」
 こんなことも言うのであった。
「それで僕は今あの人と付き合ってる訳です」
「何か嘘みたいな話だけれど」
「魔法にかかったみたいな」
「そうだよね」
「はい、魔法ですよ」
 裕則はここでその通りだと述べてみせた。
「人はちょっとした魔法であっという間に変わるものですから」
「ううん、何だかよくわからない話だけれど」
「あんなに地味で目立たなかった三島さんがね」
「あそこまで美人になるなんてね」
「魔法だよね、本当に」
「はい、じゃあそういうことで」
 彼は彼等にまた言ってだ。そして最後にこう言うのであった。
「魔法使いはこれで」
 最後にこう言ってその原石からとびきりの宝石になった彼女のところに行くのである。魔法使いはその見出した宝石を愛するのであった。


男の子は魔法使い   完


               2010・8・28
 
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