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魔法少女リリカルなのは~"死の外科医"ユーノ・スクライア~

作者:DragonWill
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プロローグ

時空管理局

分かりやすく言ってしまえば、「警察と裁判所が一つになったような組織」で、数多に存在する次元世界を管理・維持するための超巨大司法機関である。

主な仕事内容は、多数の次元世界全域に渡っての犯罪者の取り締まり、災害の防止・救助、古代遺産(ロスト・ロギア)の回収・管理など多岐にわたり、次元世界の平和と安全を守っている。

そんな管理局に一般的にはあまり知られていないが、極めて重要な部署があることをご存じだろうか?

その名は『無限書庫』

次元の海に存在する管理局本局の施設の一つの名前がそのまま部署の名前になっているのだが、ほんの10年前までは存在すらしなかった部署であり、肝心の無限書庫も書庫とは名ばかりの物置部屋同然であった。なぜならば、この無限書庫には致命的な欠陥があり、本の形状である情報媒体なら、管理世界や管理外世界の両方から、ジャンルを問わず(例えば、最高機密に属する論文や禁術書から手書きの同人誌やゲームの週刊情報誌まで)蒐集してしまうため、毎日のように膨大な量の本が増えてしまうのである。

『無限』の呼び名は伊達ではなく、それこそ、特殊な空間魔法により歪曲させられた無限の広さを持つ空間一面を埋め尽くす本の量は兆単位どころか、その一つ上の単位である京ですら軽く凌駕し、まさしく天文学的な数字の本が存在する無限書庫では『探したい情報は全て揃うが、揃えるためには捜索隊を編成したとしても年単位の時間がかかる』という矛盾(パラドックス)を抱えており、長い間放置されていたのである。

しかし、10年前の『闇の書事件』以降、ユーノ・スクライアが無限書庫の司書になったことで、その常人離れした検索能力と処理能力により、少しずつであるが書庫内の本が整理され、数年単位だった情報詮索期間は、今や数日から数週間にまで短縮し、無限書庫は当初こそは『無限書庫など無くとも、管理局には何の支障もない』、『管理局の無駄飯ぐらい』などと揶揄されていたが、既に管理局には欠かせない一大情報専門部署となったのである。


さて、今その無限書庫の司書長室に二人の人物がいる。

一方は黒髪の青年で、右拳を震わせ、肩で息をしている。

青年の名は、クロノ・ハラオウン提督、26歳。

亡き父であるクライドは管理局の提督、母のリンディは総務統括官、妻のエイミィも育児休暇中であるとはいえ管理局通信指令、義妹のフェイトでさえも執務官という管理局内ではちょっとした名門であるハラオウン家の人間であり、実はこの歳で既に二児の父親という一家の大黒柱である。

もう一方は蜂蜜色の髪を持つ青年が、書架にもたれかかり、頬を手で擦っている。

青年の名は、ユーノ・スクライア無限書庫司書長、20歳。

遺跡発掘を生業とするスクライナ部族の出身で、若干7歳でミッドチルダの魔法学院(魔法科専門の大学の様なもの)を飛び級で卒業し、9歳でスクライナの発掘責任者に任命されるほどの『天才児』であり、無限書庫を実質一人で開拓し、管理局の重大部署にまで発展させた立役者であり、学会でも若きホープと期待が寄せられるほどの考古学者であるのだが、同年代のなのは達の活躍がでか過ぎていまいち目立たない青年である。ちなみに、いまだ独身である。

「・・・もう一度聞こう、フェレットもどき。貴様本気なのか?」
「・・・ああ。本当だよ。当の昔に決めた事さ」

次の瞬間、またクロノの拳が目にもとまらぬ速さで振るわれる。しかし、今度の拳はユーノの身には届かず、その直前に、ユーノの眼前に展開された翡翠色のラウンドシールドによって防がれる。

ゴッ!!と鈍い音がし、堅いシールドを全力で殴りつけたために、拳から鈍い痛みが走り、苦痛に顔を歪めるが、それでもかまわずに、クロノは言葉を続ける。

「き、貴様。このフェレットもどきが。本当に管理局を出て行く(、、、、、、、、、、、)つもりなんだな!?」
「何度も言わせないでよ、腹黒提督。無限書庫(ここ)で僕にできることは全て済んだ。もうここにこだわる理由は無いよ。それとも、もしかして酔っていてまともに理解することも出来ないのかい?」
「酔っていたら、酒瓶で貴様の頭をかち割ってやるところだ!!」

そう言うと、クロノはおもむろに持ってきた鞄の中をあさり、一本のワインボトルをとりだす。

「去年のお中元でグレアム元提督から届いた、フランス製のワインだそうだ。あの国はここ数年、不作続きだったらしくてな、久々の上質なワインだそうで価値が跳ね上がり、これ一本で120万もするそうだよ。まあ、中身がいっぱいなのは目を瞑ろう、今日は貴様の門出の祝いだ、これぐらいの重量はサービスしてやらんとな」
「・・・クロノ。君はさっきから何を怒っているんだい?」

なぜか、殴ったクロノよりも殴られたユーノの方が冷静に対処しているというシュールな光景であったが、だんだんと落ち着いてきたのか二人とも椅子に座り直し、おもむろにクロノが切り出した。

「ユーノ、普段僕は君のことを、フェレットもどきだの、なのはの使い魔だの、顔を合わせる度に悪態をついてきたが、君自身とその能力は認めているつもりだ。それこそ、君ならフェイトを託してもいいと思えるくらいにな。君は民間協力者でありながら、提督(ボク)と同等の権力、いや、替えがきかないという意味では、僕以上の権力を持つ無限書庫の司書長という立場にいる。だが、君はたかだか司書長程度(、、、、、)で収まるような男ではない」
「買いかぶりって言葉を知っているかい?いや、知らないだろうね」
「以前の機動6課設立の時だって、僕とはやてで方々手をまわしてやっと君を引き抜こうとしたというのに、君という奴はあっさりと蹴りやがって。一体君は何がしたい?どこぞの偉大な芸術家にでもなる気かい?死後何百年も経って漸くその功績が認められるような人生なんて、僕には理解できないね」
「別に、誰かに認めてほしいだとか、自分の功績を誇ろうだとか、そんなくだらないこと(、、、、、、、、、、)のために生きているんじゃないんだよ、僕はね」

その言葉にクロノは絶句した。

見栄でも意地でもなく、本気で彼はそう考えているんだと理解したからである。

「以前言ったが、僕があえて正式な管理局員にならない理由は、あくまで、外部の人間として、一歩離れた位置からみんなを守るためさ。でも、前回の戦いではっきりとしたよ。やはり、民間協力者といえども、司書長という立場になってしまったせいで、彼女たちを十分に守ることが出来なかった。出来たことといえば、ここでゆりかごのデータをまとめたり、あの戦いに便乗して活動していた小悪党どもを掃除するくらいだけだったからね。」

そう、JS事件において、なにもジュエル・スカリエッティ一味だけが暴れていたわけではない。事件は一度に一つしか起こらないなんて法則はどこにもなく、彼らの地上本部襲撃事件により実質的に犯罪の取り締まりが麻痺してしまったため、彼ら以外の小さな犯罪組織らが活動していたのである。

機動6課以外がほとんどJS事件に参加できなかったのは、負傷者が多発していた以外にそういう背景があったためである。

「本当はもっと早く決断すべきだった、でも、『無限書庫(ここ)にいれば、なのは達の手助けにもなれるし、ここを十分に運用できるのは僕しかいない』って思いがあったからね、決断が遅れてしまったよ。でも、あの事件以降、ここの人員も増えたし、僕の後釜になる人の育成もできた。もうここは僕なしでも十分にやっていけるよ。だからこそ、僕は完全に管理局と縁を切るって決めたんだ。今度こそ、彼女たちを守るためにね」
「しかし・・・」
「これは君と僕の役割の違いだよ。僕は民間人という何の後ろ盾もない、だからこそ身軽な身分を利用して、上層部(うえ)の思想にとらわれずに自由に動ける。でも、そんな僕でも、何より『信用』が必要な所には入れない。そこでは君が動いてくれ、僕の後釜になる人も君に最大限の力を貸してくれるだろう。そして、彼女たちを守ってくれ」

クロノはもう折れるしかなかった。こうなったユーノの決意はテコでも動かないことを知っているからだ。

返事の代わりに、ため息を一つつき、今まで持っていたワインボトルをユーノに差し出した。

「餞別だ。持っていけ」
「大層な品だね。一人で飲むのはもったいないよ」
「なら、旅先でいい相手を見つけることだな。その一杯が似合う相手をな」
「ありがとう。悪友(とも)よ」





これが全ての始まり。

機動6課やいくつもの次元世界をも巻き込んだ、彼、ユーノ・スクライアの、表の歴史では決して語られることのない戦いの物語である。





























「・・・つくづく、君は損な奴だ。馬鹿野郎」

主が去った司書長室で、虚しくクロノの独り言だけが響いていた。
 
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