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第四章
第四章
「あたし達も同じだって思われてるんじゃない?周りから」
「周りからって」
「だってほら」
今度は辺りを指し示してきた。
「周りもカップルばかりじゃない。だから」
「俺達もかよ、それで」
「そうなるんじゃ。一緒なのは事実だし」
「けれどいいじゃない」
「いいって御前」
真里のあっさりした返事にかえって戸惑う。
「御前今の状況が」
「だから気にしなかったらいいじゃない」
そう返してきた。
「だって買い物に来ているんだし。そうでしょ?」
「そうだけれどよ」
それでも何か腑に落ちない。
「それとも」
ここで真里の言葉が変わってきた。
「何だ?」
「恥ずかしいってわけじゃないでしょうね」
「馬鹿言えよ」
返事が少しムキになっていた。
「何でそうなるんだよ」
「そうなの。だったらいいじゃない」
真里は言う。
「一緒にいても。そうでしょ」
「ああ、じゃあそうしとくよ」
憮然として述べた。
「恥ずかしくなんかねえよ」
「それにさ」
さらに言った。
「いつも一緒じゃない」
「いつも!?」
「そうよ。勝負して」
「あれは違うだろ」
浩二は何か困った顔になっているのが自分でもわかった。そのうえで言葉を返す。
「あれは勝負だから一緒にいるってわけじゃ」
「けれど一緒じゃない」
真里はいささか強引に言う。
「一緒にいるのは」
「今と同じだって言いたいんだな、結局は」
「ええ」
「それで一緒にいてどうなるんだか」
ふとぼやいた。
「ミット買うだけじゃねえかよ」
「けれどその後遊ぶんでしょ」
「そうだけれどな」
それを止めるつもりはなかった。遊びたいのは彼も同じだ。
「じゃあまずはミットを買って」
「ゲームコーナーでも行くか」
「そうよね、まずはそこで」
浩二も何かが頭の中で動いてきた。真里も応える。
「UFOキャッチャーしましょ」
「キャッチャーだからか?」
「えっ!?」
この言葉の意味は最初はわからなかった。
「あの、今何て」
「だからキャッチャーだからよ」
浩二は言う。
「やるんじゃねえのか?」
「あの、それって駄洒落!?」
真里はいぶかしる顔でそれに問うた。
「何か問題あるか?」
「あるわよ。バッカじゃないの」
そう言って口を尖らせてきた。
「今更そんな駄洒落。誰も笑わないわよ」
「結構いいと思うんだがな」
「よくないよくない。それでね」
「ああ」
「今度そういう下らないこと言ったら只じゃおかないから」
「具体的には?」
「クレープ一個よ」
「何だそりゃ、えらく厳しいな」
浩二はそれを聞いて顔をムッとさせた。
「パンよりずっと高いじゃねえかよ」
高校生にとってはクレープはかなりの出費だ。クレープ一個で木村屋のパンが二個か三個は買えるからだ。これは非常に大きい。
「だから罰なのよ」
真里はそう言う。
「わかったわね、それで」
「ちぇっ」
「返事はちぇっ、じゃないでしょ」
「わかったよ。これでいいよな」
「そういうこと。じゃあ行きましょう」
そしてようやく話の本題に戻った。
「スポーツ用品店にね」
「ああ」
こうしてやっとスポーツ用品店にあった。品物自体は本当にあってすみやかに手に入ったのであった。これは二人にとっては意外であった。
「何かまたあっさりと」
浩二はそう言って買ったミットを見ていた。用品店から出て百貨店の中を歩きながら話をしている。
「買えたな」
「本当にあるなんて思わなかったよね」
「ああ、左のミットか」
それを実際に手にはめてみる。
「感触自体は変わらないな」
「そうなの」
「ああ。御前キャッチャーだけどどうだ」
真里に顔を向けて尋ねる。
「使ってみるか?」
「ああ、駄目駄目」
だが真里はそれを断る。
「あたし右利きよ。使えないわ」
「俺投げるの左利きだけれど」
「じゃああんた用ね。それだと」
「けれど俺キャッチャーだしな」
そう呟く。
「ミットはな」
「けれどさ。使えることは使えるのよね」
「ああ」
「だったらいいじゃない。それじゃあ今日はさ」
「時間もあるし遊ぶか」
「そういうこと。ゲームコーナー行きましょ」
待ちに待ったお楽しみである。
「UFOキャッチャー好きなんだ、あたし」
「意外と普通の趣味で」
「何よ、おかしい?」
勘に触る言葉だったのでむっとした顔を向ける。
「あたしがUFOキャッチャーやるのが」
「いや、別に。けれど俺もやるしな」
「ふうん、そうなんだ」
「何なら勝負するか?どっちが沢山手に入れられるか」
「面白いわね。それじゃあ」
「ああ、勝負だ。こっちも負けないからな」
「それはこっちの台詞よ」
真里も負けてはいない。
「見ていらっしゃい、絶対に負けないから」
「じゃあ勝った方がパンか」
「あたしは今日はクリームパン」
「じゃあ俺はカレーパンだ」
賭けるものも決まった。こうして二人はまた勝負をはじめた。
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