閃の軌跡 ー辺境の復讐者ー
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第9話~ケインの受難~
前書き
今回はタイトルがちょっとアレな感じですが、どうか暖かい目で見てやって下さい。某猫型青ロボットさんの様なのは却下の方向でお願いしたいですが(苦笑)
調書を取り終えた後、クレア大尉からケインと二人で話がしたいということで、ラウラには先にリィンたちと合流してもらった。しかし、街中では大尉の軍服は目立ってしまう。どこで話したものかと考えあぐねていると、たまたまオットー元締めに出くわし、なりゆきで彼の家に招待された。彼は気を利かせて二階にいて下さるらしい。お礼を言ってからケインとクレアはソファーに対面して腰かけた。
「・・・で、俺に話って何です?」
「・・・・・・・・・」
「じょ、冗談ですよ。その、すみませんでした・・・また、助けられてしまいましたね。
俺は、大尉にいつも迷惑ばかりかけてしまって。今回の事だって・・・」
自身の未熟さに不甲斐なさを感じ、また人に迷惑をかけてしまったと俯くケイン。
元いた場所から勝手に抜け出し、士官学院に入学したことも心残りであった彼は、恩知らずな自分を恥じ、罪悪感に顔を歪める。何を言われようと仕方がない。辛辣な言葉の一つや二つは覚悟していた。しかし、そんな言葉はなく、温かく柔らかな感触がケインの額を包む。
「ケイン、貴方が無事で良かったです。本当に」
「ぁ・・・」
突然の抱擁に驚きこそしたが、ケインはクレアのそれを大人しく受け入れた。
続いて彼の頭を優しく撫で、クレアはあくまで穏やかな口調で語りかける。
「ふふ、また背も伸びたみたいですね」
「ま、まぁ・・・じゃなくてッ!俺がしてほしい話は・・・」
「判っています。ですがケインが元気そうで良かった。それ以上の事なんてありません」
「ありがとう、ございます・・・」
ケインは、予想外の言葉ばかりが耳に入ってきて少し混乱している。
依然として彼の頭を撫でているクレアは「ですが一つだけ」と続け、言葉を紡ぐ。
「心配、したんですよ。二か月前に貴方が抜けてから音沙汰が無くなってしまって」
「クレア、大尉・・・ご心配をおかけして申し訳ありません」
「こうして会うことができましたから、もう構わないのですけれど」
「大尉・・・」
抱擁をといて再び向かい側に座ったクレアは、微笑を浮かべ、すぐに真剣な表情になる。
「・・・まだ何か、言いたいことがあるみたいですね」
「はい。6年ほど前、クレア大尉は俺を救い、そして導いてくださいました。
でも、俺は閣下や大尉のご恩を、仇で返した人間です。
・・・自分の目的を優先し、何の断りもなく姿を消した最低の人間なんです!
もうあそこに俺の居場所なんてありませんッ・・・!!」
「言いたいことは、それだけでしょうか?」
「・・・え?」
「ケインは二年間の休暇処分になっているだけです。それが、閣下のご意向ですから」
「あ・・・」
驚きで目を丸くするケインに、クレアは真剣な眼差しを向けたまま続ける。
「そしてこれは、私の意向でもあります。貴方の目的を応援することはできませんが、
士官学院を出てからで構いません。どうか戻ってきて下さい」
「・・・了解しました。大尉に教えて頂いた知識を最大限に生かしてみせます!」
「ふふ、そう言えば軍事学や導力学については一通り教えましたね」
「ええ、入試でもさわりぐらいはやりましたけど・・・」
「三位だったんですよね。卒業生として鼻が高いです・・・よく頑張りましたね」
「はい・・・って、どうして俺の成績を把握しているんですか!?しかも、卒業生って・・・」
クレアにしれっと自分の成績を告げられ、ケインは堪らずツッコむ。
「クスクス。そう言えば言っていませんでしたね。私はトールズ士官学院第216期生です。
221期生のケインの5年ほど先輩になるでしょうか。
・・・その後、憲兵隊に所属したころには貴方がいたのですけれど」
「そうでしたね。その後、目覚ましい活躍を遂げられ、短期間で大尉まで上り詰め・・・」
「ふふっ、あれからもう2年は経ちましたか。懐かしいものですね」
「はい、本当に・・・」
その後、暫し談笑してから元締めの奥様が作ってくれた簡素ながらも美味しい昼食をオットーさん共々ご馳走になり、「そろそろ仕事に戻らないと」とクレアが告げたのでお開きになった。ケインとクレアはお礼を述べて、彼らの家を後にする。盗難事件こそ解決したが、憲兵隊の人間を一時的に常駐させるらしい。その連絡等を行うようだ。しばらく名残惜しそうに眉を伏せているクレアを、今度はケインが優しく抱きしめた。
「また、すぐに会えますよ。クレア大尉、どうかお元気で」
「・・・はい。その、最後に一つだけ頼みがあるのですけれど」
「俺にできることならなんでも仰って下さい」
「それでは・・・」
-風見亭-
クレアと別れたケインは、リィンたちにアークスで連絡を取り、宿で互いに情報交換をしつつ、レポートをまとめておくことにした。帰りの列車は午後9時なのでまだ猶予がある。
「情報をまとめると、こんなところだな」
「す、凄い・・・!」
「そなた、字が綺麗なのだな」
「ちょっと意外だったわね」
「意外なのかよ。どんな字を書く奴だと思っていたんだ?」
「はは・・・」
必要な情報をメモ用紙に無駄なく、簡潔にまとめるケイン。時間は十分ぐらいしか経っていない。
「で、このメモを元にして各自、自分の感じたことを書いてくれればいいんじゃないかな?」
「昨日もだったけど、本当に助かるよ。正直、これ以上無いぐらい完璧だと思うが。
ケインは、こういうのが好きだったりするのか?」
「いや、嫌いだな。だから、早く終わらせる術を身につけたっていうか、単に慣れているっていうのか・・・」
「そうか。改めてお礼を言わせてくれ」
リィンの感謝の言葉に微笑を浮かべたケインは、「どういたしまして」と返しておく。
そして全員が30分も満たない内に今日のレポートを書き終えてしまった。
時刻は3時を回ったところのようだ。
「後日に提出する予定だったはずだが、早々に終わってしまったな」
「まぁ、何ていうか義務的なものはさっさとやってしまう主義なんだよな。
俺はこうやってみんなと話してるだけでもいいんだけど、リィン、どうする?」
「そうだな・・・せっかくだから、少し大市を見て回らないか?
新しい発見ができると思うし、レポートの内容も増やせるかもしれない」
「それに、気分転換にもなるよな。俺は構わないよ」
「私も賛成よ。それにしても、あなたもリィンも生真面目すぎるわよね」
「?そうかな?リィンはともかく俺は、やるからには最善を尽くしたいってだけだよ」
「それを生真面目って言うんじゃない・・・」
その後結局、特に反対意見もなくA班全員で大市を見て回る事になった。
バリアハート産の上品質そうな毛皮、ブレスレット等の装飾品、食料品、Ⅶ組担任の某教官が喜びそうなケルディック産の地ビールに至るまで多種多様な物が揃っていた。
取っ組み合いをしていた二人の商人も盗品が無事に帰った来たため、大市に復帰しており、屋台こそ無いが商売は再開できている様子だ。
「マルコさん。ベーコンとチーズを少し買わせて下さい」
「あ、ああ。ちょっと待ってろよ・・・・・・ほら」
「ありがとうございます。それと、失礼な事を言ってすみませんでした」
「ケイン、そなた・・・」
昨日の非礼を詫び、地元の若い商人であるマルコに、深々と頭を下げるケイン。
「・・・元締めから全部聞いたぜ。お前らが事件を解決してくれたんだってな。
これで、俺も損害を出さずに済んだってわけだ」
「俺は・・・何もしていませんよ」
「ふう、素直じゃありませんね。ケインとラウラにお礼が言いたいなら、
初めからそう言えばいいのに」
「う、うるせえ!」
アリサがもっともらしい正論を口にすると、マルコはそれだけを返してケインたちを取っ払おうとする。
「まぁ、素直じゃないのはアリサも一緒だから、もう勘弁してやれって」
「・・・どういう意味よ?」
「そのままの意味だけどな」
「ケイン、ちょっと向こうで話し合いましょうか?」
ケインのささやかな抵抗もむなしく、彼はアリサに片手を掴まれてどこかへ行ってしまった。
「えっと・・・あれ、放っておいていいのかな?」
「ふむ、仲良きことは結構だと思うが・・・」
「仲が良いのか、あれ」
アリサに一方的に謗られているケインを遠目に見たリィンは、ラウラの台詞に疑問を抱く。
意外なことに、2人の話し合い(?)は5分もしないうちに終了し、大市も一通りは回れたので、一同は宿に戻ることにした。駅前の広場に出ると、サラ教官に再び会う。
「お疲れ様でした、サラ教官」
「そっちもお疲れ様だったみたいね・・・ただ、ケイン。単独行動は関心しないわよ」
「え~っと、何の事でしょうか?」
「とぼけても無駄よ。氷の乙女(アイスメイデン)さんから全部聞いたんだから」
「そう、ですか・・・すみません。ラウラを危険な目に遭わせたのは、俺の過失です」
「ケイン・・・」
俯き加減でそう謝ったケインの頭を、サラ教官はそっと撫でる。
「君も危険な目に遭っているじゃない。次からは班全員で決断して行動しなさい。
・・・軍人の基本は集団演習でしょう?」
「ですが!・・・ッ・・・分かり、ました。善処はしてみます」
「よろしい。さてと、特別実習も一通り片付いたんでしょう?あたしたちもお暇しましょうか」
言われてみれば、日が沈みかけている。もう帰るべき時間帯だ。
A班は一旦宿に戻り、二階にある各自荷物を整理してから女将のマゴットさんや、ルイセに挨拶をし、駅へ向かうことにした。が、ケインは背中に軽い衝撃を受け、立ち止まる。振り返ると、そこには彼にしがみつく様に寄り添うルイセの姿があった。
「ルイセ?どうしたんだよ?」
「ケインさんが、どこか遠くへ行ってしまいそうな気がして・・・ごめんなさい」
心なしかルイセの声や手が、震えているような気がした。そんな彼女の手を自身の片手でそっと包んだケインは、優しく語りかける。
「大丈夫。近いうちにまた遊びに来るよ。自炊用の食材、ここでも買いたいからな。
泊まることはできないけど、ここに立ち寄るぐらいはできるだろうからさ」
「・・・絶対ですよ。約束ですからね」
「ああ、約束するよ」
ケインの言葉を聞いて安心したのか、ルイセはケインから離れる。
改めて別れの挨拶を告げてから、ケインたちは駅に向かった。特に待つことなく到着した帰りの列車に乗り込み、適当な座席に5人で腰かける。通路を挟んだ反対の席では、サラ教官が眠っていたがサクッとスルーして、A班全員で他愛のない話を交わす。散々であったであろうB班のフォローをしてパルムから日帰りでこちらに返って来たサラ教官は、流石に疲れているのだろう。
「初めての特別実習・・・何を目的としているのか何となく分かってきた気がする」
「帝国内の実情を知らしめ、突発的に起きた問題を臨機応変に解決するための判断力と行動力の養成。つまり、きたるべき激動の時代において、主体的に活動できる人材を生み出そうとしているのかな?」
「もう!これだと、ほとんど正解言われちゃったようなもんだわ」
「すみません・・・『未来を変えろよ。お前には、その力があるんだ』
それが、俺が聞いた、父の最後の言葉ですから。
意味を考え続けて、この時代の事なんだってようやく分かったんです」
「・・・そう。悪いこと言わせちゃったわね」
「平気です。話したのは、俺の意思ですよ」
いつ起きていたのか、ケインの考察に不満の声を上げるサラ教官だったが、思わぬことをケインから言われる。いたたまれなくなった教官は、ケインの頭を優しく撫でてから彼の耳元で一言だけ囁き、また寝始めてしまった。重くなった空気の中、少しの間考え込むそぶりをしていたリィンは、自分の身分について語り始める。みんなに不義理をしていたという思いがあったらしい。話題を変えようとしたのは、ケインの父の話にこれ以上触れないための彼なりの気遣いだろう。
「マキアスの問いにははぐらかす形で答えたけど、俺の身分は一応、貴族になる」
話によれば、帝国北部にある山岳地、ユミル。その地を治めるシュバルツァー男爵家が、リィンの実家であるそうだ。確か男爵位の貴族ながらも、昔から皇帝家との親交があることで有名だと記憶している。彼まで貴族だという真実に、驚きの声を漏らすエリオット。
そんなタマじゃないさと苦笑するリィンは、自身が養子であり、貴族の血は引いていない事を口にした。自分の道を見つけると言った理由は、家庭内の事情からか。そんな風に考えたところで、ケインは余計な詮索だと思考をかき消す。
「貴方も・・・色々事情があるみたいね?」
「はは、そんな大層な話じゃないけど・・・それでも、みんなには黙っていられなくなったんだ。これからも同じ時を過ごす、仲間として。何より、Ⅶ組のメンバーとして」
「・・・真面目だな、この上なく」
「あはは、ケインがそれを言っちゃうの?」
リィンの話を聞きながらも、ケインはそれとは別に、気がかりな事があった。
自然公園のヌシであったらしいヒヒ型の巨大魔獣は、どうしてあんなタイミングで現れたのか。その後に駆けつけた領邦軍がグルであるのはほぼ間違いないが、彼らの手腕によるものではないだろう。おそらく彼らと協力関係にある何らかの組織の仕業だ。それが一体何者であるのか。そこまで考えたところでケインのアークスから着信音が鳴り、開いて応答する。
『はい。こちらはトールズ士官学院1年Ⅶ組、ケイン・ロウハート』
『ふふ、ちゃんと繋がったみたいですね。良かった』
『って、クレア大尉?いきなり通信なんかされてどうしたんです?』
別れ際にアークスの連絡用ナンバーをクレアに訊かれていたケインは、数時間前まで話をしていた人から通信が入るとは思わず、急用か何かかと考えた。
『ケインの声が聞きたかったから、ではいけませんか?』
彼女の思いもよらぬ返答に、ケインは内心で肩すかしを食らったが、それを悟られぬよう平生と同じ口調で再び話しかける。
『いけないことはありませんが・・・大尉。少し、お話したいことがあるんです』
『判りました』
ケインは先ほどまで自身が考えていたことを告げ、ほんの少しだけ談笑した後、通話は終了した。そしてこれまで長らく沈黙状態だったラウラが、列車内での第一声を発する。
「ケイン。そなたは、大尉殿とかなり仲が良いようだな?ルイセという少女とも、な」
「まぁ、そうだけど・・・それがどうかしたのか?」
「大したことではない。そなたと彼女らの関係について、洗い浚い吐いてもらおう」
「へぇ、って・・・・・・え?」
ケインの隣に座す青い髪のお嬢様は、旧校舎の調査後に始めて手合わせをした時とは比べものにならないくらいの迫力を纏っている。彼の方を向いたラウラは、清々しい笑顔をしており、全身から滲み出る気迫とは相反するその表情が、ケインに畏怖の念を抱かせた。
率直に思うのは、こいつはやべぇ、という本能的危機感だけである。
(ひいぃぃぃっ!)
(な、何て凄まじいオーラなの?)
(・・・ラウラ、君はいったい何者なんだ?)
他の3人が彼女の圧倒的迫力に気圧される中、ケインはかつて経験したことのない感情に飲み込まれそうになりながらも、決死の覚悟でラウラに言葉を紡いでいくのだった。
後書き
ケインにさっそく女難の相が出てしまっていますね。な、何とかしなくては・・・(汗)
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