魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Myth14信念に集う新たな家族・氷結の融合騎士 ~EiliE~
†††Sideシャマル†††
ザフィーラの治療を終えて、私はひたすら現実で起きた光景に唖然としていた。かなり離れた地点で放たれた圧倒的な魔導。オーディンさんの魔力光である、魅了されるほどに綺麗な蒼。空から無数の蒼の砲撃が降り注いだかと思えば、今度は地上から空に向けて光の柱がそびえ立った。
地上に展開されている環の中にそびえ立つ砲撃の柱は、あろうことか消える事なく滑るように環内を移動していく。オーディンさんがきっと“エグリゴリ”を相手に使ったんだと思うのだけど・・・「すごすぎるわ・・・」心底脱帽。
「・・・・ああ、我らが主はお強い。我らは計り損ねいたようだ、我らが主の実力の程を」
「ザフィーラっ? 良かった、気が付いたのねっ」
ザフィーラは目を開けて、焦点のあった目でオーディンさんが居るであろうその地を見詰めていた。ザフィーラは「世話を掛けた」って一言謝って起き上がろうとするのだけど、私は「まだダメよっ」って制する。
なんとか傷は完治できたけれど、それでも死にかけた事には変わりないわ。魔力だって身体維持の為に限界まで消費している。そんな状態で戦闘行動を取るなんて自滅行為もいいところ。守護騎士・治癒担当の湖の騎士として、そして医者として必死で止めさせてもらう。
「ザフィーラ。お願いだから言う事を聴いて。オーディンさんの力になるために、今は大人しく休んで」
オーディンさんの名前を出すと、ザフィーラは「仕方あるまい」って折れてくれた。そこに「ザフィーラ!」ヴィータちゃんがすごい勢いで飛んできた。ヴィータちゃんは、私とザフィーラを護衛するために近場でイリュリア騎士を倒してくれていた。だから少し騎士甲冑を汚しているヴィータちゃん。ザフィーラに駆け寄って「ザフィーラ、目を覚ましたんだなっ」そう嬉しそうに笑った。
「すまんな。迷惑を掛けた。我なら問題はない。しかし戦闘には参加できないが」
「んなの気にすんなよな。奴ら、もうほとんど撤退してるしな。ま、奴らの頭がシグナムとアギトに負けちまったし、当然の行動だけどさ。それに、オーディンのアノふざけた魔導を見りゃ誰だって退くっつうの」
「ホントね。信号弾だわ」
イリュリア側の空に撤退を指示する信号弾が上がって、遅れてこちらからも終戦の信号弾が上がる。ヴィータちゃんが“グラーフアイゼン”を肩に担いで呆れを含んだ苦笑いを浮かべた。私も釣られてまた微苦笑していると、「お前たち」シュリエルがフワリと私たちの側に降り立った。
「ザフィーラはもう大丈夫のようだな。お前の無事を確認できればいい。お前たちはこのまま待っていてくれ。私はオーディンとシグナムのところへ向かう」
それだけ告げたシュリエルが背中の翼を羽ばたかせて踵を返して飛び上がると、「あ、おいっ、あたしも一緒に行く!」ヴィータちゃんも続いて空に上がった。私とザフィーラは2人がそのまま空を翔けていくのを見守り、「シャマル先生! ザフィーラさんっ!」私は国境防衛騎士団の皆さんに小さく手を振った。
†††Sideシャマル⇒????†††
魔神オーディン。わたしを造ったイリュリアが恐れる人間。アギトお姉ちゃんがイリュリアを裏切る要因になった人間。排除するように命令を受けて、でもわたしは無視して利用しようとした人間。そんな魔神と、わたしはいま融合している。裏切り者として廃棄処分が決定したわたしを護るために。アギトお姉ちゃんも魔神もお人好しだ。だけど、わたしは今、魔神との融合を心地よく思っちゃってる。だからわたしは魔神に、わたしのロードになってくれるように頼んだ時、
『ズィーベン! あたしのマイスターを取らないで!!』
アギトお姉ちゃんが止めてきた。おかしいよね。だって魔神はアギトお姉ちゃんのマイスターであってロードじゃない。だったら何も問題ないよね。だから『アギトお姉ちゃんにはもうロードが居るよね』って返す。
『そ、それはそうだけど・・・! でも――』
――空衝岩槍穿――
ゼフォンの攻撃が土煙の中からわたしと魔神、アギトお姉ちゃんとそのロードへと放たれてきた。魔神は回避行動を取って「チッ。まだ壊れていなかったか」不機嫌な声色でそう漏らした。魔神はどうやら“エグリゴリ”と因縁があるみたいだね。複製品がどうのとか言っているから、イリュリア技術部に“エグリゴリ”の事を教えた誰かと魔神は敵同士・・・なのかな?
「ふざけんじゃねぇぞ!!」
魔神の魔導が巻き起こした土埃が晴れて、そう怒鳴ってるゼフォンの姿を視認できるようになった。損所は軽微だね。でもひどく服が土や泥で汚れてる。たぶんだけど、ゼフォンは地中に潜ってやり過ごしたんだね。
『ズィーベン。少し無茶をする』
『ほえ? あ、うん』
また頭の中に流れ込んでくる魔神の魔導の術式。さっぱり理解できない。でもなんとか理解しようと試みた時、いきなり視界がシャットアウトされて、気が付けば融合が解除されてわたしは外に居た。あまりの突然さに「え?」辺りをキョロキョロ見回していると、魔神が「呆けるのは後だ!」ってわたしを後ろから抱きかかえてきた。
――破岩砲弾――
(状況を再確認。わたしを破壊しに来たゼフォンによる魔導攻撃が接近中)
複数の岩塊がわたしと魔神に放たれていて、魔神がわたしを護るために胸に抱いて逃げてる。うん、こんな気持ち初めて。初めて、誰かの為に融合騎としての自分を使いたい、そう思える。そうなんだね。この気持ちが、アギトお姉ちゃんにイリュリアを裏切らせたものなんだね。
魔神の胸とトントン叩いて「魔神。その、わたし、頑張るからね」って告げる。すると魔神は「いいよ。気負わなくて」小さく笑った後に「ふえっ・・・!?」空いてる手でわたしの頭を撫でた。「少し荒っぽくなるぞ・・・!」ものすごい速さで次々と飛んで来る岩塊を回避する魔神。これは・・・ちょっと目が回るかもね、うん。
「ねえ、魔神。もう一度、わたしと融合して。今度は、最後まで・・・」
「・・・いいのか?」
「もう決めたの。わたし、魔神をロードにするって。だからね・・・!」
「・・・ありがとう、ズィーベン。もう少しだけ力を借りるぞ」
わたしと魔神はまた融合を果たす。するとまた『あ゛あ゛っ! またマイスターと融合してるぅぅっ!』アギトお姉ちゃんからうるさい思念通話。わたしが応じる前に『すまないな、アギト。今だけは許してくれ』魔神がアギトお姉ちゃんにそう言うと、アギトお姉ちゃんもマイスターにお願いされて『うぅ~・・うん』許してくれた。そんな時、「はあっ!? 撤退っ?」ゼフォンの大声が聞こえてきた。
「撤退指示? 誰が逃がすものかッ!!『シグナム。一気に決めたい。連撃、行けるか?』」
『もちろんです。いつでもどうぞ!』
直後、魔神とシグナムっていうアギトお姉ちゃんのロードが同時にゼフォンへ向かって急降下。ゼフォンをここで斃せたらわたしは壊されないで済んで、そして魔神の融合騎になる事が出来る。
(そんな未来を望んでいいよね・・・ドライお姉ちゃん)
†††Sideズィーベン⇒オーディン†††
“エヴェストルム”を起動し、二刀一対のツヴィリンゲン・シュベーアトフォルムへ変形させる。視界に映るゼフォンは歯噛みし、「クソがっ!」と撤退指示に対して不満爆発と言った風だ。それでいい。その方がこちらとして好都合。消滅しない程度に破壊して、ガーデンベルグ達の話を聴かせてもらおう。
返答によっては、もうベルカから離れなくてはならなくなるかもしれない。ここまで関わっておいて、今さら私用があるから抜けさせてもらいます、なんて都合の良い事を言いたくないが。それに、「エリーゼ・・・」彼女から向けられている好意にも決着をつけておかないとダメ・・・だよな。
「俺っちは・・・堕天使としてのエグリゴリを貫かせてもらうっつうのっ!!」
――岩衝鉄破――
ゼフォンの頭上前後から挟撃するように降下した私とシグナムに向けて、岩石の剣山が突き出してくる。防御や迎撃で動きを少しでも鈍らされると、追撃で墜とされる可能性があるため回避行動を取る。シグナムも同じ考えで、剣山を回避を終えた。そして、
「いくぞッ、シグナム、アギトっ!」
「はいっ、オーディン!」『うんっ、マイスターっ!』
――集い纏え、汝の火炎槍――
――破り開け、汝の破紋――
――紫電一閃――
“エヴェストルム”二剣に火炎と障壁破壊の術式フロガゼルエルとメファシエルを付加し、シグナムの火炎を纏った“レヴァンティン”や鞘にもメファシエルを付加。“エヴェストルム”機能試験で編み出した、火炎の剣騎士シグナムとの連携技の準備はこれで終わり。ゼフォン。貴様の装甲と障壁はどれだけのものかは判らないが、確実に潰してみせる。
――守護岩隆壁――
ゼフォンの背後に降り立つと同時。奴を前後から挟撃する位置取りの私とシグナムの前に岩壁が現れた。私は後方。火炎を纏っている右の“エヴェストルム”を斜めに振り下ろす。シグナムはゼフォンの前方で障壁破壊を付加された鞘を斜めに斬り上げる。
「「『紫電・・・!』」」
ゼフォンの盾となっている岩壁を“エヴェストルム”は寸断し、シグナムの鞘は打ち砕いた。
「「『十字閃!!』」」
間髪入れずに私はもう片方の火炎纏う“エヴェストルム”を横薙ぎに一閃。シグナムはアギトの炎熱加速によって火力が増大している紫電一閃を振り下ろし一閃。前後からの火炎斬撃による挟撃。それがシグナムとの連携技の一つ、紫電十字閃。
ゼフォンは岩壁以外にも魔力障壁を纏っていたが、障壁破壊のメファシエルが付加された“エヴェストルム”と“レヴァンティン”の前では意味がなかった。ゼフォンは胸と背中共に火炎斬撃を受け、力なく地面に倒れ伏した。
「フン。神秘の無い単純な魔力量だけの魔力障壁。所詮は複製品だな、ゼフォン」
ゼフォンの魔力に神秘も有れば、中級のメファシエルで突破するのは難しかっただろうが、奴の攻撃に付加されている魔力からは神秘は感じえなかった。しかしミュール・エグリゴリの攻撃に使われた魔力には神秘が内包されていた。試作機だからか? まぁどちらでも構わないか。どうせこの場で完全破壊するのだから。
「・・・トドメを刺す前に答えてもらおうか。なぜガーデンベルグ達はイリュリアにお前やミュールのようなエグリゴリの複製品を造らせた?」
「うぐ・・・こんなはずじゃ・・・俺っちは・・土石系最きょ・・・機体・・・」
這ってでも私たちから逃れようとするゼフォンにそう訊くが、奴はうわ言のように自分が土石系最強という設定を繰り返すのみ。愚か、そして哀れ。両手に持つ“エヴェストルム”の柄頭を連結させてニュートラルのランツェフォルムへ戻し、ゼフォンの眼前に突き立てる。
「逃がさん、と言ったはずだ。もう一度訊く。答えろ、ゼフォン・エグリゴ――」
「うっせぇよッ!! 魔力核から魔力炉へ移行開始。80・・90・・100%。堕天使形態・・・顕現ッ!」
――高貴なる堕天翼――
ゼフォンの背中から、孔雀の尾羽のような翼が放射状に20枚と展開された。リアンシェルト達が使うモノと同じ。確か術式名はエラトマ・エギエネス、だったか。それに、さっきまでは感じられなかった神秘がゼフォンの放つ魔力に内包されたのが判った。ノイズが奔っているゼフォンの目が向いている先。そこには私ではなく顔を青くしているシグナムが。
「っ! 逃げろっシグナ――」
――破岩砲弾――
神秘が内包された魔力を纏った岩塊が一直線にシグナムへ向かう。シグナムも今のゼフォンの様子がおかしい事くらいは理解しているようで、防御に回る事なく回避行動を取った。
直撃するギリギリだったが無事に空へと上がったシグナムに『そのまま離れているんだ!』そう念話を送り、「ゼフォォォォーーーーンッ!!」突撃。“エヴェストルム”は待機モードに戻してある。魔術を付加しようとも神器ではないデバイスの耐久力に問題があるからだ。そう思えてしまうほどに今のゼフォンを覆う魔力障壁は堅牢だった。
――知らしめよ、汝の力――
魔術効果や身体を強化するノーマルのゼルエルを発動し、肉体を限界にまで強化。ゼフォンに肉薄し「おぉぉらぁぁああッ!」左ストレートを鳩尾に叩き込むが、奴はニヤリと口端を歪め余裕を見せつけてくる。だがな、笑っている場合じゃないだろゼフォン。お前・・・「顔にヒビが入ってるぞ」指摘してやる。しかしそれでもゼフォンは「hahahahaha」と笑うだけ。あぁこれはダメだ、狂ってる。
「貴様でダメなら直接イリュリアの連中に訊いてやるまでだッ!!」
そのままゼフォンを殴り飛ばして浮かせ、跳び回し蹴りでさらに打ち上げる。その間でもゼフォンは笑う事を止めず、私に成されるがまま。気味が悪いが好機である事に変わりない。高々と空に吹っ飛ぶゼフォンに左手の平を翳し、
「これで終わりだ」
――女神の陽光――
上級の火炎砲撃ソールを放射。着弾する直前で、
――護り給え、汝の万盾――
無数の小さな円盾を組み合わせる事で球体状の檻としたケムエルを発動。ゼフォンとソールをケムエルで閉じ込め、「朽ち果てろ」言い放ったと同時に・・・着弾。ケムエル内が爆炎で満ち、最終的にケムエルはソールの火力に耐えきれずに粉砕された。
空に咲く爆炎と黒煙の花。あますことなくソールの火力を叩きつけてやった。が、「装甲が随分と強化されたんだな」嘆息する羽目に。黒煙を引いて落下してきたゼフォンはほぼ無傷であることが見て取れた。ズンと着地したゼフォンは俯き加減で項垂れていたが・・・・
「俺っちは、土石系最強のゼフォン・エグリゴリだぁぁああああああッ!!」
ゼフォンは正常に戻ったようだ。私を睨みつけた双眸にはノイズは奔ってなく、しっかりと意志が宿っている。
――岩衝鉄破――
周囲から岩石の剣山が突き出してきた。回避のために空へと上がる。どれだけ強力な土石系術師だろうが、空へと上がれば攻撃手段は減る。何せ土や岩や砂で構成されている地面が攻防に必要だ。だから土石系は陸戦に於いては最強と言っても過言じゃないが、空戦にはめっぽう弱い。しかしゼフォンは何を思ったのか孔雀の尾羽のような翼――エラトマ・エギエネスを翻して追翔してきた。土石系を扱う奴が、わざわざ空戦最強と謳われた私を相手に何が出来る?
「馬鹿が! 地面から離れた土石系術師がどれだけ無様に終わりを迎えるか知れッ!」
――弓神の狩猟――
魔力弓を具現し、『ズィーベン。アギトの炎熱付加のような術式できるか?』私の内に居るズィーベンに訊く。ズィーベンの『出来るよ。今する?』という返しに『もちろん今』即答すると、『難しいけど、やる、やらせてくださいっ』逆にお願いされた。アギトより相性の良いズィーベン。アギトには本当に悪いが、これからも度々融合してもらおうかな、なんて。
『魔神、行くよっ』
――氷結圏――
弓に番えた魔力矢にズィーベンの氷結付加が施された。正直ズィーベンの性能に驚いた。ここまで完璧に私の魔術に氷結効果を付加できるとは。そんな予想以上の働きを見せてくれたズィーベンに『ありがとう』と礼を告げ、彼女によって付加された冷気を纏うウルを放つ。
槍の如き長さを持つウルは真っ直ぐに空を翔け、ゼフォンとの距離約200m程で無数の光線と化し、奴を全方位から襲撃する。ゼフォンは流れるような動きでウルを回避し続けるが、次第に包囲が狭まっていく事を察し、
――空衝岩槍穿――
地面より勢いよく突き出してきた岩石の塔で防御するという手段を取った。それでもウルは岩の塔を避けるようにゼフォンへと殺到しようとするが、それを拒むように連続で岩の塔を突き出させる。ゼフォンの周囲を囲うように岩の塔は並び、ウルは全弾潰された。だが、それは悪手だぞ。
私は一気に高度を上げ、ゼフォンを囲う岩の塔の真上へ移動。ゼフォンがこちらを見上げて、目を見開いた。ああそうだ。逃げ場は無いぞ、ゼフォン。自ら逃げ場を潰したその愚行。死んで後悔しろ。もう一度魔力弓を具現し、『氷結圏!』ズィーベンの氷結効果がウルに付加された。
「今度こそ終わりだ」
――弓神の狩猟・ver.Gestober――
ウルを放つ。もはや絨毯爆撃となっているウルに対し、ゼフォンはどんな方法で防御ないし回避を取るか。回避はまず無理だろう。防御は、方法は1つある。ゼフォンがそれを扱えるかどうかだが。ゼフォンは降り注いで来るウルをキッと睨みつけ続け、防御を取らずに直撃を受け続けた。杞憂だったか。自分を囲っている岩の塔を利用して、内側の岩壁から防御の岩柱を生やせば防御できただろうに。
『ねえねえ魔神っ。わたし、役に立ってる?』
『ああ、十分すぎるほどにな』
『やったね❤』
嬉しそうなズィーベンを私は微笑ましく思う。そんな時に岩の塔が全て音を立てて崩れていく。ゼフォンは脱出できたとは思えない。生き埋めになったか、それともウルによってすでに粉々になったか。どちらにしても無傷じゃないだろうな。しばらく様子を窺っていたが、一向にゼフォンは姿を現さない。ここでズィーベンとの融合が強制解除。「プハッ、疲れたう~・・・」フラフラ飛ぶズィーベンを手の平に乗せ「お疲れ様」と労う。
「マイスターっ!」
「「「オーディンっ」」」
「アギト、シグナム。それにヴィータとシュリエルも・・・!」
私の元に集まるアギト達。ヴィータの騎士甲冑はボロボロだが、酷い怪我は負っていないな。シュリエルはほぼ無傷。さすがとしか言いようが無い。そのシュリエルからザフィーラの無事を聴き、ひとまず安堵。そしてシャマルに最大の感謝と敬意を。さすがだよ、湖の騎士。
「ズィーベン・・・」
「アギトお姉ちゃん・・・?」
融合騎姉妹の六女アギトと七女ズィーベンが真っ向から向かい合う。ズィーベンが「アギトお姉ちゃん。わたし、魔神と一緒に戦いたい、これからも」とハッキリと意志表示。ヴィータとシュリエルは目を見開いて驚愕。シグナムは考え込んでいるような格好で無言。で、アギトは「マイスター。ズィーベン、マイスターの力になれる?」そう不安そうに訊いてきた。
アギトの前に手の平を差し出す。アギトがちょこんと手の平の上に座ったのを見て、「ズィーベンは確かに私の力になるよ」と率直に告げる。アギトの頭を撫ででつつ「みんな。ズィーベンをグラオベン・オルデンに迎え入れたい。良いだろうか?」と尋ねる。
「私は構いません。ズィーベンがオーディンの補助が出来ているのは確かですし」
「あたしもまぁ良いと思うな。ほんのちょっとしか見れてなかったけど、ソイツがオーディンの魔導に干渉して氷結付加してたろ。あれを見れば十分な戦力だって思えるぜ」
「そうだな。融合騎は単独戦力としても十分だ。オーディンの融合騎となれば、それこそ重要な存在となるだろう」
シグナムとヴィータとシュリエルは、ズィーベンを家族に招き入れることに肯定的だ。シャマルとザフィーラにも訊いてみたかったが、仕方ないが事後承諾になりそうだ。おそらくザフィーラは文句を言わず、私の決定に従うだろうな。そしてシャマルは、
(妹分が増えてまた喜びそうだ)
ズィーベンを愛おしく抱きしめまくる画が浮かび上がってくる。そしてアギト。アギトは深く考える素振りを見せた後、「一緒に戦おう、ズィーベン」そう右手をズィーベンに差し出した。ズィーベンはアギトの右手を見詰め、シグナム達を順繰りに見回した後、私に振り向いて「えっと・・・」と不安げに見てきた。さっきから私の融合騎になると言っていた割には迷いがあるんだな。その迷いを払拭するべく「ようこそ、ズィーベン。グラオベン・オルデンへ」と微笑みかけた。
「マイスターの融合騎を務めるんだったら失敗は許されないからな、ズィーベン」
アギトは自らズィーベンの手を取って握手。
「む。今のわたしは、ゲルトの融合騎の時とは違うもんね」
アギトの手をギュッと握りしめ、ズィーベンはニッの笑い、アギトもニッと笑い返す。
「まだまだぁぁぁあああああああああッ!!」
そんな叫びと共にココアブラウンの魔力が立ち上り、瓦礫を空へと舞い上がらせた。瓦礫の山だったその中心にゼフォンは居た。右腕を失い、ところどころから火花を散らしているボロボロな姿で。
エラトマ・エギエネスも半分以上が散っていて、見るも無残としか言いようがない。と言うか火花を散らすって完全に機械だな。それでよく魔術を扱え・・・・あぁそうか。“ヴァルキリー”ではなく“アムティス”に近いんだな、イリュリア製の“エグリゴリ”は。
「魔神っ。もう一度わたしと――」
「ちょっとズィーベンっ。さっきからマイスターの事を魔神魔神って。そんなイリュリアが付けた名前で呼ばないでよっ!」
「そうだな。オーディン、と気軽に呼んでくれていいぞ」
「ん~~・・・じゃあアギトお姉ちゃんとおなじマイスターって呼ぶね。それじゃあマイスター♪」
「ああっ。みんなは離れていてくれ」
ズィーベンと3度目の融合を果たし、こちらを見上げているゼフォンを見下ろす。もはや融合せずとも勝てる戦いにも見えるが、“エグリゴリ”を相手に油断するのは、な。それにゼフォンはイリュリア製の“エグリゴリ”。もしかすると同じイリュリア製のミュールが参戦してくる可能性がある。そうなると少しキツイ。ならばミュールが現れる前に決めるっ!
「ズィーベン!」
――舞い振るは、汝の麗雪――
『うんっ! 氷結圏、行くねっ!』
一振りの氷の長槍を携える。ズィーベンによって強化されたシャルギエルを、「行けッ!」ゼフォンへ向かって投擲。
――岩衝鉄破――
ゼフォンは迎撃の為に周囲から岩石の剣山を発生させた。シャルギエルが剣山に着弾。一瞬で凍結させる。シャルギエルを両手に携え、右を投擲。凍った剣山を粉砕し、ゼフォンの足元に着弾。地面とゼフォンの両脚を凍結させていく。
なんだ。もうまともに動く事も出来ていないじゃないか。「ならば・・・!」次いで左のシャルギエルを投擲。ガクッと膝をついたゼフォンへと一直線に向かうシャルギエルを見送っていた。が、
「わ~たし~のう~たを~聴~~いてくださ~~い~~~~♪」
――砕音破ただ狂おしく――
「ピアチェーヴォレ☆ ボエぇぇ~~~ホゲぇぇ~~~ラ~~ラ~~ラララ~~~~♪」
そんな歌声と共に、途轍もない超音波が私たちを襲った。シグナム達が苦悶に満ちた悲鳴を上げながら地面へと墜落していく。そして私の内側に居るズィーベンも『頭が割れる・・!』と苦悶の声を漏らしている。
(くそ。無属性・音波系の“エグリゴリ”か・・・!)
随分と器用に再現できたなイリュリアの技術部も。耳を押さえつつ空のある一点を睨みつける。
「ミュール・エグリゴリ!!」
「久しぶり、神器王のお兄ちゃん♪」
超音波が切れたと同時にミュールがその姿を現した。ベルカに訪れた時と変わらぬ12~13歳ほどのあどけない少女だ。藍紫色のセミロングの髪は少しウェーブが掛かり、柔和な双眸は赤紫色。あの時との唯一の違いは、子供に似つかわしくなかった水色のイブニングドレスではなく、年相応のワンピース姿。
「ごめんねお兄ちゃん。本当はお兄ちゃんとお遊びしたかったけど、今回は弟の回収が最優先なの」
「弟・・・ゼフォンか・・・!」
ミュールの魔術によって、シャルギエルはゼフォンに届く前に粉砕された。だからゼフォンを倒せず、奴は「ミュール・・・」と私たち――というよりミュールを見上げている。ミュールは「ゼフォン。命令無視。お姉ちゃんは怒ってます」頬をプクッと膨らませてゼフォンを叱咤。
「ほら、撤退だよゼフォン。そんなボロボロになって。おじさん達もプンプンだよ」
「待て、ミュール! お前なら知っているんだろ!? ガーデンベルグ達は、なぜお前たちのような複製品を――」
「それは、秘密なのですお兄ちゃん。でも、これだけは言える」
ミュールはオレンジ色の魔力でエレキギターのようなモノを創り出し、「盛り上がっていきましょ~~❤」魔力の弦を物凄い指捌きで掻き鳴らす。
――輝きたる音軍――
魔力ギターより閃光系と思われる魔力で形作られたト音記号、八分音符、全音符、シャープ、フラット、ナチュラルと言った音符が放射状に放たれて、それらが一斉に私に向かってきた。1つ1つがSSランクはある。受けに回れば障壁ごと魔力を削られて、撃墜される可能性大。ならば、
――瞬神の飛翔――
空戦形態となって全力回避。だがその間に「しまった!」ゼフォンを取り逃してしまった。ゼフォンは地面に潜り、戦場から離脱してしまっていた。だったらミュールだけでも。
「フォルテっ、フォルティッシモっ、フォルティッシッシモっ♪ で・も、ジェンティーレも忘れずに~~♪」
音符の数が半端じゃない。弦一本弾くだけで数十個の音符が生み出されている。ミュールのギターは一般的な六弦。1回流すだけで70以上の音符が発生、私へと突撃してくる。連続で六弦を掻き鳴らすために、ほんの数秒で4ケタ近い音符が生まれる。厄介だな。
「わたし達エグリゴリは、お兄ちゃんを殺すために動いてるって事♪」
まぁ速度はさほど速くないため追いつかれる事は無いのが救いか。魔力弓を具現させ、魔力矢ウルを番える。
「でも、今日は残念。遊んでいられないの♪」
――弓神の狩猟――
使用できる魔力量最大のSSSクラス魔力で創ったウルを放つ。無数の光線となったウルは音符の群れへ突撃し、正確に貫いて爆砕。爆発が連鎖して、周囲の音符を巻き込んで数を次々と減らしていく。空に私のサファイアブルーとミュールのオレンジの魔力光の花が無数に咲き乱れる。
ミュールの「ご清聴あ~りがとぉ~~~~ですっ♪」そんな声が聞こえ、魔力反応と共に気配が遠ざかっていく。やってしまった。軽率な真似をしてしまった。爆散している魔力光が邪魔で、ミュールの正確な位置が判らない。手を拱いている間にミュールは完全に離脱したようで、戦場のどこにもあの子の魔力反応は無い。
「・・・ズィーベン。ありがとう、おかげで何とかなったよ」
「『こちらこそありがとう。ゼフォンに壊されずに済んだ・・・』本当にありがとうです」
融合状態を解き、私の目の前に現れたズィーベンは疲労に満ちた顔で、それでも笑みを見せてそう礼を告げた。差し出した右の手の平の上にズィーベンを乗せ、降下して耳を押さえて苦悶の表情を浮かべているアギト達に「大丈夫か?」と尋ねる。
アギトは「なんとか」と、シグナムは「耳鳴りが酷いだけですね」と、ヴィータは「目が回って気持ち悪ぃ・・・」と、シュリエルは「私も問題はありません」と答えてくれたものの、みんなは結構な疲労を見せている。
「すぐに治癒を掛ける。少し待って――」
「だ、ダメだよマイスターっ」
「オーディンだって顔色最悪じゃねぇかよ」
「アギトとヴィータの言う通りです。オーディン。あなたももう限界なはずです」
アギトとヴィータとシグナムにそう言われ、「すまない」と謝ってその場に腰を降ろす。魔力を限界にまで使い果たした。正直2人分のラファエルを使った瞬間に記憶を失うだろうな。というかもう意識が途切れそうだが、かぶりを振ってギリギリ保たせる。少し休みを取り、回復したシグナム達が立ち上がったのを見て、私も続いて立ち上がる。よし。魔力はあまり回復していないが、体力気力だけは問題ないな。
「ミナレットの攻略を今すぐにでも、と思っていたが無理だな。一度アムルへ帰ろう・・・って、うん?」
見ればシュリエルだけはまだ座り込んだまま。「申し訳ありません、未だ回復しきれていません」とばつが悪そうに謝った。どうやらシュリエルはミュールの魔術をまともに受けてしまったようだな。歩けないなら「よっと」シュリエルを横に抱え上げる(俗に言うお姫様抱っこ)と、シュリエルは「ひゃっ?」と可愛らしい悲鳴を小さく上げた。
しまった。一言断ってからやるべきだった。謝ろうとしたら「オーディン。重くないですか?」そう上目遣いで訊いてきた。ちょっと待て。どうしてそんなにしおらしい? と、とりあえず「重くない」そう返す。実際に重くないし。そもそも女性ひとり抱え上げられないようなもやしじゃない。
「いいな~羨ましいな~、シュリエル・・・」
「何が羨ましいのアギトお姉ちゃん・・・?」
アギトから何とも言えない視線が突き刺さって居心地が若干悪いような・・・。話題を逸らそう。シュリエルを横抱きしたまま拠点へと向かう道すがら「ズィーベン」と、アギト達と共に後ろをついて来るズィーベンを呼ぶ。すると「なに? マイスター」背より生える一対の白翼を羽ばたかせて私の前まで飛んできた。
「ズィーベンという名前のままでいいか、それとも私が新しく名前を付けるか、どっちがいい?」
ズィーベン。七番目という意味の名前に縛られてほしくないから、名前を休憩の間に考えさせてもらった
勝手な事だからまず確認を取ってみたんだが、「新しい名前ほしいっ❤」ズィーベンという記号であり名前を捨てる事を、彼女は悩む事なく決めた。
「そうか。じゃあ名前を贈らせてもらうよ。君の新しい名前は、アイリ、だ」
「アイリ・・・? アイリっ♪ うん、ズィーベンよりずっと可愛い❤」
ズィーベ――いや、アイリは満面の笑みを浮かべて、私の周りを飛び回る。アイリ。氷雪に愛された者という意味を込めた名前だ。ベルカ語で、氷を意味するアイス、愛を意味するリーベを合わせただけだが、私の願いと共に贈ったその名を喜んでもらって良かった。
アイリは「アイリ、アイリ、わたしはアイリ♪」そう歌うように私たちの頭上を旋回し続ける。シャマル達と合流するまでの間、アイリは終始ご機嫌で、シュリエルは顔を赤らめたままで、アギトは若干不機嫌だった。
「オーディンさんっ、みんなもっ。無事で良かったわっ♪」
私たちに気が付いたシャマルが手を大きく振って出迎えてくれた。側には顔色が良くなったザフィーラも居る。この目でザフィーラの無事を確認できた事で、心底安堵。労いの声を掛け合ったところで、「ところでオーディンさん。その可愛い女の子はどなた?」とアイリにロックオンしたシャマル。
好奇な視線を向けられたアイリは「アイリっ。わたし、アイリっ♪」またもや御機嫌オーラ全開、満面スマイル、ハート乱舞で自己紹介した。するとシャマルは「可愛いっ♪ グラオベン・オルデン――というよりセインテスト家の末っ子ちゃんねっ」アイリを抱きしめた。
「改めて私から紹介するよ、シャマル、ザフィーラ。この子はアイリ。アギトの妹にあたる氷結の融合騎だ」
「よろしくね。えっと・・・」
「シャマルよ。アイリちゃん」
「主が認めたのなら歓迎しよう。ザフィーラだ」
自己紹介を終えて、今回の戦闘で被った損害を国境防衛騎士団の隊長クラスの騎士たちから被害状況などを確認。
死者は出なかったが、3分の1である300人弱に重軽傷者が出た。死者が出なかった分、イリュリア騎士団よりかはマシだな。それから私たちグラオベン・オルデンは防衛騎士団と別れ、アムルへの帰路に着いたところで「しかし・・・・エグリゴリとは恐ろしい者でした・・・」シグナムがボソッと呟く。
「だな。あとで出て来たミュールって奴も凄かった・・・」
「ゼフォン。ミュール。どちらもエグリゴリだが・・・。オーディン、あなたはあの2体を指して複製品と仰っていましたが・・・」
自力で歩けるまで回復し、私の側を歩くシュリエルが真剣な眼差しを向けて来た。アギト達も、私から“エグリゴリ”について聴きたいようだ。
「ああ。ミュールとゼフォンは私の追っているエグリゴリとは別物だ。ミュール達を造ったのはイリュリアの人間だ。オリジナルのエグリゴリ――いやヴァルキリーは私の遠い祖先が、今は滅んでいる技術で生み出したものだ」
嘘をまた1つ。“堕天使エグリゴリ”の基である“戦天使ヴァルキリー”を生み出したのは私とシェフィだ。
「もしミュール達がオリジナルなら、こう言ってはなんだが敵味方関係なく・・・アギト達も含めて全員殺されていただろう。真っ向から戦えるのは私1人だけ。しかしみんなを護りながらとなると、私とて無事で済まない」
「そ、そんなに強いんですか? オーディンさんの追うエグリゴリは・・!?」
「魔力出力だけで大いに違うな。私が先にゼフォンに対して発動したいくつかの魔道を皆はどう思った?」
「どうって・・・すげぇなって。あんなデタラメな魔力と魔導、人が使うの初めて見たし」
ヴィータを皮切りにシグナム達も同じような感想を言っていく。SSSランクで慄いているみんなに「オリジナルはその魔力以上を出し、私の魔道をその身に受けても平然としていられるんだ」そう告げると、しばらく沈黙。そして信じられないと言った風に失笑。私が表情を硬くしたまま無言で居ると、私の言っていることが真実で事実なんだと察したみんなは俯いた。
「私も今以上の魔力を出す事は出来る。しかしその代償として・・・」
「記憶を失う、という事ですね」
「ああ。だからエグリゴリとの戦闘以外では基本全力は出したくない。すまないな。みんなには辛い戦いに臨ませる事になってしまうかもしれない・・・」
「お気になさらないでください、オーディン。我ら守護騎士ヴォルケンリッターは、あなたの力となるために存在しているのですから」
「そうですよ、オーディンさん。エグリゴリとの戦いでお力になれない事は辛いですけど、それ以外は何の苦じゃありません」
「だからオーディンは、自分のやりたいように戦っていいんだ。あたしらはそれを全力で補助するから」
「微力ではありますが、我もこの拳を主の為に揮いたく思います」
「ええ。あなたの信念に集った我ら。どんな苦難にも立ち向かい、あなたの願う道を拓きましょう」
「ありがとう。私は良い家族を持って幸せだ」
「ちょっ、マイスターっ。あたしもマイスターの為に何だってするよっ」
「アイリはね、今のところイリュリア打倒を優先するね。エグリゴリはそのついで、ということで」
アイリのその一言が原因となり、アムルへ着くまでアギトとアイリが騒ぎっぱなしだった。さて。エリーゼ達にはなんて言ってアイリを紹介しようか。居候の身で次々と家族を増やすのもちょっと考えものか・・・?
後書き
グーテン・モルゲン、グーテン・ターク、グーテン・アーベント。
グラオベン・オルデンに、氷の融合騎・七番騎ズィーベンが加入です。
名前もアイリと変え、オーディン家の家族としてベルカを駆け抜けます。
さて、アイリと言う名前についてですが、本編でも語った通りの由来です。
氷を意味するEis(アイス)、愛を意味するLiebe(リーベ)を合わせてEilie(アイリ)ですね。
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