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リトルマーメイド

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3部分:第三章


第三章

「多分」
「充分にあるよ。どうかな」
「やるわ」
 摩耶はすぐに答えた。
「勿論ね」
「言うね、本気?」
「本気よ。瀬戸内じゃこれ位の距離は普通だから」
「普通なんだ」
「普通に泳いできたわ」
 また言う摩耶だった。
「だからね」
「平気なんだね」
「いけるわ」
 強気の言葉だった。
「そっちはどうなの?」
「僕?」
「ええと、名前は」
「源口明信っていうんだ」
 ここで彼も名乗ったのだった。その名前をだ。
「それが僕の名前だよ」
「ふうん、源口君ね」
「ああ、明信でいいよ」
 気さくに笑って返す明信だった。
「それでね」
「そうなの。明信君ね」
「それで呼んでくれていいよ」
「わかったわ。じゃあ昭信君」
「うん」
「速さは競争しないのね」
 それはどうかというのだった。
「それは」
「したい?」
「まあそこまではね」
 しないというのだった。これが明信の返答だった。
「いいかな」
「あくまで距離だけね」
「そう、ここは鮫もいないし」
 それは出ないというのだ。幸いなことにだ。海といえば最も怖いのはそれである。鮫が出て来ればそれだけで大変なことになってしまう。
「だから問題は」
「何処まで泳げるかね」
「泳げないと思ったら諦める」
 彼はこのことも言った。
「溺れたら終わりだから」
「わかったわ。それじゃあね」
「行こうか」
「ええ」
 こうしてだった。二人はその小島に向かって泳いでいく。そしてその競争は。
 どちらもだった。小島に着いたのだった。明信はそこにあがって一休みする。そしてそれは摩耶もだった。彼女もそうしたのだ。
 摩耶も水着だった。黒のワンピースだ。明信はその水着を見てだ。
 少しだけどきりとした。それでその彼女に言った。
「ねえ」
「何?」
「水着だったんだ」
「当たり前じゃない」
 摩耶はくすりと笑って彼に答えてきた。彼女は小島の岩のところに体育座りをしている。明信は胡坐をかいてそれで座っている。
「海の中にいるし」
「そういえばそうか」
「そうよ」
 こう話す摩耶だった。
「普通の服で入ったら泳げないじゃない」
「服が水吸って重くなってね」
「私だって服着てたらとても泳げないから」
「僕もだよ。それはね」
「無理だよね、やっぱり」
「うん、無理」
 その通りだと答えるのでした。
 
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