シチリアの夕べ
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第七章
第七章
「それはね」
「おかしな場所じゃないわよね」
「若しそういう場所に案内したら?」
「空手よ」
返答はここでは一言だった。
「それでいいかしら」
「よくわかったよ。空手にしてもボクシングにしてもね」
「お断りなのね」
「だからこっちは弱いんだよ」
イタリア男はというのである。マスターがこう言う背景には二度の世界大戦での祖国のことがあった。イタリアはとにかく戦争に弱いのだ。
「暴力反対だから」
「こっちはナンパ男は反対よ」
「イギリス人は真面目なんだね」
「イタリア人が不真面目なだけよ」
「言うね。まあとにかくね」
「ええ、行くのね」
「そこにね。それじゃあ」
こう話をしてだった。そのうえでだ。エリーはガイドに案内されてまずは店を出てだ。そうしてそれからある場所に向かったのだった。
そこは山だった。シチリアの山である。しかも火山だった。
その火山に来てだ。エリーは言った。
「ここは確か」
「わかったかい?」
「エトナ火山よね」
その名前も話すのだった。
「そこよね」
「そうだよ。ギリシア神話にも出てるけれどな」
「あの火山はここだったのね」
「来るのははじめてだったみたいだね」
「シチリアに来たこと自体がはじめてなのよ」
そもそもこの島自体がだというのだ。
「だから」
「そういうことなら」
「話が早いのね」
「そうだよ。どうだいここは」
その火山の中で話すのだった。
「面白い場所だろ」
「火山なのに」
「ああ」
「人の家が多いわね」
二人は今麓にいる。そこには家だけでなく果樹園もあった。やはりここにもオレンジやオリーブが見える。実にのどかな光景である。
「怖くないのかしら」
「平気だよ、ここはね」
「平気なのね」
「そうだよ。しょっちゅう噴火するけれどね」
「それじゃあ平気じゃないんじゃ」
「いやいや、噴火にも種類があるんだよ」
だからだと。マスターは話すのだった。
「この火山の噴火はそんなに危ないものじゃないんだ」
「火山の噴火ってそうなの」
「イギリスには火山はないのかい」
「アイスランドにはあるけれどね」
少なくともイギリスにはない。そういうことだった。
「あったかしら。どうだったかしら」
「まあこういう山はないか」
「ないわね」
このことはエリーも断言できた。それもはっきりとだ。
「どうしてもね」
「そうかい。それじゃあね」
「ええ」
「はじめて見る火山なのかな」
「ええ、そうよ」
まさにその通りだというのだった。こうマスターに答える。
「実はね」
「そうか。それじゃあ」
「それじゃあ?」
「景色を楽しんでくれたらいいよ」
そうしてくれというのだった。
「この火山のさ。それでどうだい?」
「最初からそのつもりだけれど」
「おや、最初からかい」
「だから来たから」
またマスターに答えた。
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