滅ぼせし“振動”の力を持って
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彼の第一歩
前書き
名前はワンピースの登場人物から取っています。
・・・というかまんまです。
夢の中の様な空間で、少年はある人物とみあっていた。
『我が子、海童よ』
(・・・またこいつか)
少年は、目の前に立つ筋肉質な全裸の大男を見て、否定するでもなく驚くでもなく、呆れていた。
彼の発言から分かる通り、この人物が彼の夢の中に出てきたのは、一度二度では無い。
加えて此方の話を全く聞かないとなれば、少年・海童が呆れるのも仕方が無いだろう。
『お前が我の、真の宿主となるには・・・まだ早い。しかし、お前は目覚めた・・・そして、その力の事、使い方を誤らぬ事だ』
(・・・)
『さらば、また会おう』
そこで夢は途切れ、海童は目を覚ます。
時計を見るとまだ朝早く、四時半になったかなってないかという微妙な時間帯。海童は一旦目が覚めると夜まで二度と眠れない体質の為、二度寝という選択肢を取る事が出来ない。
(なんにせよ・・・今日は入学式の日。遅刻は駄目だ・・・)
考えた結果、散歩にでも出ようと着替えて建物の外へ出る。春先だからかまだ薄暗く、散歩している人物はおらず、結果外にいるのは海童一人という事になる。
今朝見た夢の事を考えながら、海童はまた別の事も考えていた。・・・それは、大男の夢以上に不思議なものであった。
ある日、海童がコンビニで買い物をし終え、横断歩道を渡ろうとした瞬間、彼の目の前にトラックが出てきて、ぶつかったかと思うと・・・不思議な空間内にいる。という“記憶”である。
その不思議な空間内で、海童はとある声を聞いたのだ。
『転生・・・あなた・・・んで』
途切れ途切れにしか聞こえず、よく聞こうとして集中しても何も変わらない。
『ランダム・・・・これ・・・グラ・・・武器も・・・・暫く不発動・・・頑張って・・・』
その言葉を最後に記憶が途切れ―――――気がついたら自分が今まで生きてきた記憶そのままに、大人から幼児となっていた、そんな記憶。
そう、彼はただの人では無い・・・輪廻転生を経験した“本来存在しえぬ”人間なのだ。
「・・・(何故前世の記憶があるのか、グラや武器ってのは何なのか・・・あの大男と言い、訳が分からん)・・・ん?」
ふと足元に、珍しい紙で出来たポテトチップスの空袋が落ちているのを見た海童は、それを拾い上げてため息を吐いた。
ちらと見た目線の先にはごみ箱があり、ゴミが落ちていた場所からは数mとない。なのに此処へ捨てて行ったのを見て、簡単な事も出来ないのかと又溜息を吐いた。
折角拾ってゴミ箱も見つけたのだしと、海童はゴミ箱へ近づいて行って・・・捨てなかった理由の一端を見た。
「チ・・・形だけの屑籠かよ」
どうやらそれは形だけ燃えるごみ用のゴミ箱であっただけで、空き缶専用の屑籠であったらしい。証拠に、空き缶がこれでもかと詰め込まれている。
ゴミの事で呆れの溜息を吐いた手前、流石にポテトチップスの袋を突っ込む訳にもいかず、しかしこの近くにコンビニなども無いので捨てに行けない。
返るまでずっと持って歩くのも億劫になった海童はポテトチップスの袋を拳に収まるぐらいに握りつぶした。
「・・・余計な手間掛けさせんな・・・」
運びやすくしてから、ゴミ箱を探すべく海童は再び歩き出すのだった。
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たっぷり時間を掛けて外を歩いた海童は、何時の間に買っていたか緑茶を飲みながら戻って来ていた。
建物の玄関先にあるゴミ箱へ空き缶を投げ入れ、上手くはいった事を確認して小さくガッツポーズを取る。
「・・・ん?」
自分が止まっている建物に付き中に入った海童は、自分の部屋のドアの前で立ち往生している少女の姿が目に入る。
艶やかな黒髪はサイドテールにまとめられており、元が長いのか胸辺りまで届いている。スタイルも中々に良くて、ちらと見える横顔はまさに美少女という言葉が似合う。
海童にとっては『見覚えのある』その少女に近付くと、背後から普通に声を掛けた。
「俺の部屋の前で何している、ハル姉」
「ひゃっ!?」
ハル姉と呼ばれた少女は軽く飛びあがって後ろを振り向いた。・・・姉、とは付けて呼んでいるものの、身長の高さ的には逆に見えてしまうが。
「そ、そっか。もう起きてたんだ。海童」
「ああ。・・・迎えに来たのか」
「まあね。久しぶりに会うわけだし、道や地理も教えておこうと思って」
部屋のかぎを開け中に入って時計を見ると、今から朝食を取ると危ないかどうかという微妙な時間であり、その事もあって面倒くさかったか海童は栄養補助ゼリードリンクのみ口にして制服に着替え、カモメの様なマークと『Navy』と書かれた帽子をかぶって、ハル姉こと春恋に案内してもらいながら、通学路を行く。
「それにしても・・・考え無しに行動するのは昔からよね、海童は」
「・・・は?」
「家出同然で家を飛び出したかと思ったら全寮制の中学へ入って、卒業したかと思ったら今度は何も知らない高校へ入学するんだから」
「試験、面接無しで全寮制だ。楽できるにこした事は無い」
「はぁ・・・全く」
これでもし、去年までは女子高だったから女子が一杯だし! 何て事を口にしていたのならば春恋の竹刀による制裁が待っていたのだろうが、残念ながら海童はそれが目的では無い・・・というよりも、女子高だった事すら知らないだろう。
だが、首をゴキリと鳴らしながら歩く海童を見て、僅かに頬を赤らめる春恋はどこか嬉しそうだ。もしかしなくとも、海童へ何かしら好意的な感情を持っている事は確かだ。
「そういえば・・・この学校は何か特別な行事はあるのか?」
「えっと、そうね。矢倉組んだりブトウ会開いたり・・・あとは巫女装束で神楽を舞ったりとかもあるわね」
「・・・聞いた事無い行事が目白押しみたいだな」
楽しみだと僅かに笑む海童を見て頬が緩みかけた春恋だったが、大事な事を思い出したらしく指を立てて忠告する様に告げ始める。
「それと・・・注意しておくことがあるわ」
「注意?」
「ええ、この学園は普通じゃ無くて―――」
「おっと」
「へ?」
言いかけた春恋から、海童が何故か咄嗟にはなれる。何やってんのという間もなく、離れた理由が飛び込んできた。
「センパ~イ! 会いたかったですぅっ!!」
「わっ!?」
春恋と同じく髪をサイドテールにまとめたその少女は、手の動きと勢い、そして向き的にそのままだと海童を跳ね飛ばしていた事が窺え、海童が後ろに引いたのも納得がいく。
「お久しぶりです春恋先輩! 私、頑張って十五歳になりました!」
(ほっといても十五歳になるだろうが、誰だって)
海童と同じ事を思ったか、春恋も苦笑いしながらその少女に言葉を返した。
「う、うるちさんお久しぶり。それと、別に頑張らなくても歳は取れますわよ?」
「! ・・・」
いきなり口調が変わった春恋を見て海童の表情が何故か強張る。次いで、うるちと呼ばれた少女が海童の方を見て、無骨に嫌そうな表情をした。
「所でさっきから先輩の傍にいる、そのゴミは何ですか?」
「・・・」
突き飛ばされかけた上に初対面の人物にゴミ扱いされたのならば、誰だって不快に思うだろう。当然、海童の顔にも不満の色が見える。
「えっと、彼は私の幼馴染の大山海童さん。あなたと同じ、今日から天日に入学するんですわ。・・・うるちさんは中等部で後輩だったの、良い子だから海童さんも仲良くしてあげて」
「! ・・・」
又も海童の表情が強張る。そんな海童には構わず何やら葛藤していたらしいうるちだが、春恋に言われたからか海童へ近付いて自己紹介を始めた。
「天日学園一年の水屋うるちです。好きな物はパスタと春恋先輩。嫌いな物はゴキブリと・・・帽子長身男です。どうぞヨロシクネッ」
(誰だ、良い子って言った奴は)
帽子長身男・・・これが誰を差しているかなぞ言われずとも分かるだろう。加えて睨みながらの自己紹介。差し出された手を握っていたら力強く握り返されていた事請け合いだ。
「では春恋先輩、早く行きましょう!」
「ちょっと待ってください」
うるちへ言葉とジェスチャーで少し待つように伝えた春恋は、一歩前に出てから海童へ満面の笑みを向けて、楽しそうに告げた。
「遅れましたけど・・・改めて伝えますわ。ようこそ大山海童さん! 天日学園生徒会副会長として、あなたの入学を歓迎いたしますわ!」
「・・・」
「海童さん?」
「・・・・・・ブフッ」
下を向いていた海童に春恋が声を掛けた瞬間、いきなり海童は噴き出す。
「ク、ククク・・・ハハハハハハ!! ダハハハハハハハハァ!!!」
「え? え!?」
突如上を向いて大笑いし始める杯に困惑する春恋だが、彼が笑っていた理由は本人の口から語られた。
「に、似合わん・・・似合わな過ぎるぞハル姉! その喋り方・・・バハハハハハハァ!!」
「なっ・・・!?」
如何やら顔を強張らせていた理由は、喋り方の所為で笑いがこみあげ、それを必死に耐えていたためらしい。が、ついに限界が来て噴き出してしまったのだ。
当然、そんな事を当人の前で言えば・・・
「そ、そんなこと分かってるのよ! 海童の馬鹿あッ!!」
「痛っ!?」
ぶったたかれるのは必然であった。
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アレから春恋達と半ば強制的に別れた海童は、普通に道に迷っていた。
今までとは違う道で、通学路も少々複雑。迷ってしまうのも仕方が無い。だが、早く体育館へ行かねば、入学式から遅刻という大失態を犯すことになる。
春恋からの制裁、自身の黒歴史、どちらもを避けるために、海童は走った。
と、木の上に誰かがぶら下がっているのが見え、入学式でそんな余裕をかましていられるなら道を知っているかもしれないと、気の下まで行って海童は声を上げた。
「あのー!」
「―――――」
しかし、木の上にいる女子生徒は反応しない。聞こえなかったかと海童は声を張り上げた。
「あのー!!」
「――――――」
又も聞こえていないのかそれともシカトされているのか、海童の発言は見事にスルー。焦っている事も相まってか、海童は素の口調で怒鳴った。
「オイ!!!」
「え? ちょ、わわわっ・・・わ、うわあっ!?」
「!」
どうやら本当に聞こえていなかっただけらしく、女子生徒は海童の怒鳴り声に驚いてバランスを崩すと、勢いよく落下してきた。突然の事態に海童も反応できず、二人は見事に衝突してしまう。
・・・そこで、世にも奇妙なハプニングが起きた。
「ぬ・・・!?」
「むぐっ!?」
何と、二人の唇が重なってしまっていた。少女は受け身が上手かったからか、海童は体が丈夫だったからか気絶してはいなかったが、その所為で余計に気不味くなっている。
「・・・う、あっ!?」
「え?」
何とか唇を放した二人だったが、海童が顔を少し持ち上げると同時に声を上げ、いきなり目を固くつぶって、上に乗った少女をどけようと奮戦している。
何をやっているのかと疑問に思った少女が自分の状態を見て・・・顔を真っ赤にした。
「し、しまっ・・・みたなぁ!?」
そう、体勢と格好的に、海童の視線は自然と少女のスカートの中に向くようになっていたのだ。時間からして見ていたのは数秒とないだろうが、この場合時間は問題では無い。
「み、見てくれおったなお主ぃ・・・このままで済ませると思うなよぉっ・・・!!」
「不可抗力だっ・・・悪気はないっ・・・!」
「問答無・・・よ・・・?」
すると、少女の視線が服を持ち上げて露わになっていた海童の胸元へ行き、次いで驚いたように硬直した。
途端に今までの剣幕が嘘のように静まり返り、胸元をつかんでいた手を放して立ち上がる。
「・・・?」
「わしに何か用があったのではないか? お主」
「あ、ああ・・・体育館の場所を教えてほしいんだが・・・」
いきなりに次ぐいきなりな言動を取られ、海童は敬語も疑問も忘れて素直に話す。女子生徒はすっとある咆哮を指差し、海童の問いに答えた。
「そこを出て道沿いに歩け、そうすれば体育館に付く」
「あ、どうも」
軽くお辞儀をして帽子をかぶり直し、体育館へと続く道を歩き出した海童。そんな彼の背中を見送りながら、女子生徒は静かに呟いた。
「見つけた・・・我が仇敵を・・・」
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無事体育館へ時間内に辿り着いた海童は、幾多の新入生や在校生達に混ざって椅子に座り、天日学園学園長の話を聞いていた。
『皆さん始めまして! 学園長の六条実です。まずはじめに・・・新入生の皆さんご入学おめでとう。挨拶もかねて、本日は当学園について説明したいと思います』
スーツを着た女性が壇上でマイクを前に話をしている。学園長が女だという事に海堂は少し驚いたが、それは一種の偏見だろうとすぐに考えを改め引っ込めた。
これから長く堅苦しい話がはじまるのだろうが、聞かなければ後悔する話もあったりするのでちゃんと聞こう・・・そうやって海童が姿勢を正すも、その真剣な考えはすぐに崩される事になる。
『・・・なんて堅っ苦しい話は苦手なのでチャッチャと説明していきます! まず我が学園のモットーは心・美・体! 心も体も美しくあれってこと・・・例え共学化しようともこの考えは変わりません! 校則を守りつつ “決闘” も恋も自由にやっちゃって!』
(は? 決闘だ?)
以外とフランクな口調の学園長もさることながら、いきなり混ざった決闘などという不安になりそうな単語に、海童は首を傾げた。周りも少なからずざわついており、自由すぎないかという意味にも取れるざわめきも上がっていた。
『そんで、気になってる生徒も多いであろう“ヒメカグラ” だけど、これは天日の学園祭であると同時に八マケンの保持者を決める大会でもあります! 魔力霊力等を私達は総括してエレメントと呼んでいるけど、八マケンの保持者になれる程エレメントを鍛え、扱う事が出来れば将来安泰間違い無し! でも安心して! レプリカだけど全ての生徒に個々にあったマケンは渡すからね!』
(ヒメカグラ? 保持者? マケン? ・・・さっきから一体なのを言って・・・うおっ!?)
派手な音を立てて、中央に舞台が現れる。生徒の集団と集団の間に大きく間があいていたのは、これを収納していたかららしい。
『まあ、百聞は一見にしかずって事で・・・実演してもらいましょう! 呼ばれた在校生三名と新入生一名は舞台に上がってね!』
舞台でガラガラと球のはいった抽選用器材が回され、中から四つのボールが出てくる。それを手に取り、学園長・実は名前を読み上げていく。
『まず2-B 志那都アズキ! 同じく2―B絹亜ガレット! 次は2-A姫神コダマ! 最後に新入生大山海童! 舞台へ上がって頂戴!』
(何!? 俺か!?)
逆らってもしょうがなく、加えて家が道場であり家出してからも我流ながら特訓している事も相まって、戦えない訳ではないので、観念して大人しく舞台へ上がる。
対戦相手らしい在校生・姫神コダマと呼ばれた少女は、先程か海童とキスをし下着を見てしまった少女であった。
『あ、ちなみに試合時間は三分間です。デモンストレーションみたいなもんだし医療班も控えてるし、そんなに緊張せず気楽にね』
その発言だけで気楽になれるならどれだけ楽か・・・海童は軽く額を押さえて頭を抱えた。・・・今更だが帽子は流石に脱いでおり、今は黒色が掠れた色の、痛んだ様な短髪を晒している。
「ふふ、ようやく捕まえましたわよアズキさん。こんな形での再戦、運命の様なものを感じますわ」
「嫌な運命だぜ、早く断ち切りたいもんだ」
「しかし・・・言ってしまえばこれは決闘の様な物。そうは思いませんこと?」
「何が言いてえんだ?」
「つ・ま・り! 私が勝ったなら彼を返してもらう! という事ですわ!」
「こじつけやがって・・・受けてやるよ。でもアタシが勝ったら二度とその事で絡んでくんなよ」
「了解。では決闘成立ですわね」
どうやら二人の間には何かしら因縁がある模様。しかし、雰囲気はそこまでドロドロでは無い為、尚更何の因縁なのか気になる所だ。
アズキは屈伸や進脚をしてウォーミングアップを、ガレットは剣を構えたまま深呼吸を繰り返し、お互いの準備が整った所で実がマイクを取る。
『それじゃあ最初は在校生から・・・始めっ!!』
「行きますわよ・・・ハァッ!!」
開始の合図と同時に、ガレットは手に持っていた剣を下から上へと振り抜く。すると、刀身から風で出来た鎌の様な衝撃波が発生し、アズキへ高速で向かっていく。
しかし、見切っていたかアズキはわずかにずれる事でこれをかわす。衝撃波はそのまま後方へ向かっていき、飾り付けられていた紅白の布を切り裂いた。
「何・・・!?」
「アレが魔剣『サイズ』。“宿主”の意思に応じて刀身から構いたちにも似た高速の斬撃性衝撃波を発生させる、刀剣タイプのマケン・・・だが」
それだけ言うと、コダマは顔を上へ向ける。つられて海童も上へと視線を向けると・・・そこには何時の間に飛び上がったか、宙を舞うアズキの姿があった。
「“暴れ鷹” 相手ではそれも意味をなさいないか」
「跳んだ・・・!?」
「ちょ、ちょっと意表を突かれましたが・・・上へ飛んだのは愚作ですわね!」
ガレットは剣を振りかぶり、先程よりも速く鋭い衝撃波をアズキへ放つ。それを見たアズキは慌てる事も無く姿勢を整えると足を縮める。
「翔ベ・・・魔腱『ホーク』・・・天を踏む!!」
右足に機械的なブーツを着用すると同時、まるで壁でもあるかのように虚空を蹴ると、音速に匹敵するであろう速度で空中を駆けた。
その速度のまま回り込み、体を捻って勢いを付ける。
「しまっ・・・!」
ガレットが慌てて振り向くも時すでに遅し。アズキの脚は彼女の目の前にあり、あと一歩どちらかが動いていれば攻撃が当たっていたであろう事が、最早明白である状況となっていた。
『そこまで! 勝者、志那都アズキ!!』
実の勝利者宣言により、正式にアズキの勝ちが決まった。
「そ、そんな・・・また負けるなんて」
「あのな? お前口数が多すぎるんだよ。最後のだってお前なら普通に避けれただろ」
「・・・もう、もう彼は私の元へは戻って来ないのですね」
「ま、そう言うこったな。諦めな」
アズキの一言でガレットは涙を流し片手を前に、胸に手を当て少しばかり大げさに言い放った。
「ああ、私の可愛いテディベアのクーちゃん!! 今晩もアズキさんにギュっギュっされながら、私という主を失った事への慈しみの涙を流すのですわ!」
「ちょ、おまっ!? な、何で知って・・・いや、言うんじゃねぇぇっ!?」
先程の真剣な戦闘など何処へやら、すっかり和みムードとなっている彼女等を見て・・・しかし海童は未だ驚愕の中にいた。
(何が起こってる・・・鎌鼬が出るだの、人が空を飛ぶだの・・・前世も今までも・・・こんな事は無かったぞ・・・!?)
輪廻転生を経験していても、やはり彼は一般人。少年漫画張りの戦闘など見れば、固まってしまうのは仕方が無いだろう。
「童、緊張しとるのか?」
「え・・・あ、はい」
「まあ、無理もないが・・・わしも本気ではやりはせん。武道の型の様に気楽にやるといい」
「・・・」
緊張よりも信じられない事で体が固まっている海童だが、そんな彼を本気で心配している人が一人、ステージ傍から見ている・・・黒髪サイドテールの少女・春恋だ。
(海童大丈夫かなぁ・・・道場抜けてからも一応鍛えてはいたみたいだけど・・・相手は姫神さんだけど、心配だなぁ)
何も知らない新入生と、この学園の事を知っている在校生では確かに差がある為、心配するのは当たり前だ。
やがて渋々と感じで海童が自分の定位置に着いたのを見て、コダマも歩き出す。
(あの胸の紋・・・見間違う筈もない・・・だとすれば奴は・・・わしが倒すべき敵じゃ)
・・・そんな彼女の傍に浮いている、『他人には姿が見えも、声が聞こえもしない』小人が、コダマへ忠告するように声を掛けた。
(おい、お嬢何か企んでんじゃねぇだろうな?)
(安心せい、カグヅチ。“今は”殺さん・・・今は、な)
カグヅチと呼ばれた小人から目を外したコダマは、次にほのかに電撃を纏っている小人へ声をかける。
(イカヅチ)
(何だ、お嬢)
(これから奴の心臓に時限式の雷玉を埋め込む。エレメント耐性が皆無な今なら、後日ショックを与えて死に追いやることが可能だ)
(・・・・・・了解した)
たっぷり悩んだ後、イカヅチと呼ばれた小人は渋々といった感じで頷く。イカヅチと同じ考えを持っていたか、カグヅチが慌てた様にコダマへ声をかけた。
(お、おいおいお嬢!? ここで目を付けられたらお終いなんだぜ!? それにあいつには何の恨みも無いだろ!?)
(分かっておる・・・分かってはおるのじゃ、だがな・・・)
自分の胸に手を当てたコダマは、どこかさびしそうな顔で呟いた。
(騒ぐのじゃ・・・わしの、この血が・・・どうしても、な)
海童とコダマ、お互いが定位置に着いたのを見計らって、実がマイクを取り、開始の合図を上げる。
『それじゃ、新入生は気張ってな・・・勝負、始め!!』
(しょうがない・・・何とか自己流で戦っていけば――――)
そうやって少しは様になっている構えを取ってコダマをみた海童は・・・驚愕に目を見開いた。
(何だあいつ・・・殺気が・・・殺気・・・殺され・・・殺される!?)
それは、素人である筈の海童にも感じ取れる・・・否、海童にのみ向けられているからこそ感じ取れる、『コロサレル』という事実。
こうなったら恥をさらしても構わない・・・そう思って逃げようにも、竦んで僅かにしか足が動かないのだ。
(何で・・・何で俺が入学早々に・・・殺され・・・)
何も出来ずただ固まるだけの海童。距離が縮まって行く瞬間が、酷くゆっくりに感じられる。目をそ向けたい一心でつぶった。
『何やってる、鼻ったれの若造が』
・・・刹那、彼の頭の中に、威厳と強大さ、そして何処か安心感を感じさせる、老人の声が響いた。
『しょうがねぇ、力の使い方ぐれぇ教えてやるよ。だが、今は絶対にはずせ。初仕様という状況といい、おめぇの力量といい、そんなんじゃ応用はおろか加減なんて出来やしねぇからな』
(は・・・? だ、誰・・・?)
『いいか、死にたくないなら言うとおりにしろ』
もう誰でも構わない。藁にもすがる思いで、海童は自分の中にある声に耳を傾ける。
『まず、おめぇの中に地震の震源・・・衝撃波の根源たる破壊力を生み出せ。体ん中にでっかい力の塊があると想像しろ』
言われたとおりに、漫画などで見てきた衝撃波のイメージや、力の塊のイメージを、自分の中に造り出す。
『次に拳へそれを注ぎこめ。出来るだけ加減しろよ』
自分の体にポンプと管があるイメージで、海童は自分の体の中心から腕へ力を送り込んだ。
・・・・・瞬間、自分の右手に膨大で莫大な力が生まれたのを、確かに海童は感じ取る。
『はっ、まだそんぐれぇか。普通に考えるなら脅威だが、全盛期にゃ全然届かねぇな・・・まあいい、じゃあ最後だ』
ゆっくりと進んでいく時間が段々と加速する様に、まだ遠くにいた筈のコダマは近くまで来ている。そんな状況でも声のお陰か焦ることなく、海童は最後の指示に従う。
『思いっきり振りかぶって・・・・・目の前の空間に叩きつけてやれぇっ!!!』
「う・・・おおぉぉおおぉぉっ!!!」
体が半身になる程腕を売り上げた海童は、有りっ丈の力を込めて言われたとおりに目の前を思いっきり殴った。
何しているんだと思う間もなく・・・空気が破壊され罅が入った様な強烈な音が響き渡る。
「なにを――――うおおおっ!?」
次いでコダマの背後で爆発したような破砕音が轟いた。
恐る恐るコダマが後ろを振り向くとそこには――――――
木端微塵に破壊され、空洞となった体育館の屋根と壁があった。
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