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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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再起-リヴァイヴァー-part1/師弟対決!ゼロVSウルトラマンレオ

ルイズたちが竜の羽衣を求めてタルブ村を訪れている間、急遽アルビオンからトリステインとの間に不可侵条約締結の申し入れがあった。
怪獣災害のダメージが未だに残り、軍も縦治る余裕もなく不十分な状態が続いていた。
何より、前回も申したと思うが、トリステインはアンリエッタのウェールズに宛てた手紙が災いし、ゲルマニアとの同盟破棄は時間の問題。条約の締結は、不本意ながらもやむを得なかった。条約が守られている間、その間になんとしても軍の再編成と怪獣災害の爪痕をひとつでも多く消すために、私服を肥やして金を溜め込んできた貴族たちも王室命令で復興作業に手を貸すことになった。
トリスタニア城。その中庭に設置された東屋の屋根の下にて、アンリエッタ姫と彼女の母で亡き先王の妻であったマリアンヌ太后がいた。
「姫、アルビオンのウェールズに宛てた手紙、というのは誠ですか?」
「…はい、マリアンヌ太后」
背を向けたまま訪ねてきた母からの問いに、俯きながらもアンリエッタは肯定した。
「ゲルマニアの同盟は、トリステインの命綱も同然。それをあろうことか一刻の姫である私の手で断ち切りました。民たちを、臣下たちを危険にさらしたこの罪深き私になんなりと罰をお与えください」
自分が自覚している罪。
国を守るためと称して、旧知の仲であることを利用してルイズを死地に追いやったこと。
ワルドが裏切り者であることを見抜けず、魔法衛士隊グリフォン隊隊長というエリートだからという理由で信じ、使者としてルイズたちに同行させたこと。い人ウェールズと、彼に当てた同盟の妨げとなる恋文をレコンキスタの手に落とさせ、同盟の破棄を確定させたこと。
数えるとキリがなくなりそうだ。
「いえ、あなたは十分に罰を受けました」
予想外な返事だった。頭を下げていたアンリエッタは驚いて顔を上げる。
「きっとウェールズは、反徒たちの手によって命を絶たれたことでしょう。そのことで十分傷ついたお前に、これ以上なんの罰を与えようというのです?」
太后としてではない。マリアンヌは一人の母親として、そっと優しくアンリエッタの頬に触れ微笑んだ。
「過ぎたことは運命だと受け入れなさい。恋は儚き夢のようなもの。熱が覚めれば直ぐに忘れるでしょう」
「…忘れることなどできませんわ」
俯きながらアンリエッタは言った。ずっとウェールズのことだけを想い続けてきた一人の一途な恋する少女でもあった彼女に、失った存在を忘れることなど容易ではない。
「我儘にもなりたくなるのも仕方ありません。年頃のあなたにとって恋は全て。母も知らぬわけではありません」
しかしマリアンヌは言う。自分の娘は一国の王女にしてこの国の民たちにとって心の拠り所でもある。そんな立場にある以上、憂い顔を晒すことなどできない。
「しかしアンリエッタ、あなたは王女なのです。あなたがそんな顔をしてしまっては民は不安になるでしょう。このトリステインがゲルマニアの協力を得られなくなった今なら、なおさらです。その代わり、一人の母としてあなたのその涙を、今だけは誰にも見えぬように覆い隠しましょう」
「…お母、様……うあああああああああああ!!!!」
母の慈愛に満ちた眼差しを見たアンリエッタは、だんだん込み上げ、最後には母の胸の中で涙を流した。




「この人が…あの…ウルトラマンレオ!?」
サイトはゼロが告げた衝撃の一言に絶句した。
ウルトラマンが人間の姿になれることは、メビウスの1件であの悪徳記者によって一般人だった自分でも知っているし、または今自分がそうであるように人間と同化することができることは知っていた。だが、本当なのか?…いや、いかにろくでなしなところが目立ったゼロだが、下手な嘘をつくようなことは出会ってから一度もなかった。本当のことだろう。それにしても、こうしてまた、地球で英雄視されたウルトラマンの一人と対面することになるなんて、シエスタとフルハシの関係、竜の羽衣の正体、この村に来てから不思議な縁があるものだ。
しかし、サイトはこの男の発している気迫にこうして立っている間も押されそうになった。それにあのシワの入った気難しそうな顔、一家の大黒柱的立場にあったら絶対に自分が頭が上がらない類だ。性格からしてかなりきつそうだ。
「この姿ではおおとりゲンと名乗っている。初めまして、だな。平賀才人君」
レオの人間態、おおとりゲンは改めてサイトに自己紹介する。
「あ、はい…初めまして。…って、どうして俺の名前を!?」
「以前、メビウスとヒカリから話を聞いていてな。同胞の不始末に続き、弟子が迷惑をかけてしまったようだな」
ヒカリがツルギだった頃に犯した過ちにサイトが巻き込まれたことを謝罪した意味はわかる。が…弟子とは?一体どういう意味だ?
『…ああ、レオは俺の師だ』
「はあああ!!?」
ゼロが、ウルトラマンレオの弟子!?信じがたい事実を聞いてサイトは顎が外れかけた。いやいやいや、信じられないっしょ。こんな立派すぎる師匠を持っておきながらあんなロクデナシ…。
『…どうせ、俺は不出来な弟子だよ。悪かったな』
サイトの考えていることを察知し、ゼロは不貞腐れた。
「でも、そのウルトラマンレオが、なんでここに…」
そうだ。この世界に来た理由はこれまでの事件と照らし合わせて考えればいくつか予想できるが、どうやってこの世界に来たのかがはっきりしない。
「ゼロが無断で修行の場として使っていた『K76星』から逃げ出してな。俺とアストラは行方がわからなくなったゼロを追ってここまで来た」
「逃げた?」
サイトは想像もつかなかった理由に耳を疑った。ゼロが、修行場から無断で逃げ出した?
「どうして逃げたんだ?そんなにレオの修行が厳しかったのか?」
『ちげーよ。そんなんじゃねえっての!』
ヤケにムキになって否定するあたりが怪しい。サイトは目を細めてゼロを怪しんだ。大概の不良少年というものは、かったるくなったりほんのちょっとでもきついことに直面すると、めんどくさがってやるべきことをほっぽり出してしまう。半ばグレているようなキャラをしているゼロならありえない話じゃない。
しかし、次にゼロはK76星から無断で逃げ出した理由を明かした。
『俺はもうとっくに宇宙警備隊に復帰してまた戦っても構わない実力自体は積んだ!なのにレオはそれを認めようとしなかったんだ!』
「当たり前だ。光の国で追放処分を下されたお前をそう簡単に認める訳にはいかん」
「つ…追放処分!!?」
思いもしない単語を聞いたサイトは驚愕した。ウルトラマンの中でこれまで罪を犯したことがあった者といえば、自分の親を結果的に殺めたツルギことウルトラマンヒカリくらいで、まさか自分とこうして一体化を果たしているゼロが同胞たちから罰を下されていた身だったとは。
「追放って…一体何を?」
思えば、どうしてゼロが周囲を省みようとしない戦いを試みてきたのか。他人に認めてもらいたかったから?いや、もっと根源的な理由があるはずだ。それがもしかしたら追放処分を受けたことにも繋がっている気がしたサイトは気になってゲンに尋ねた。
『お、おい待てよ!人の過去を…!』
「ゼロ、これはお前が背負わなくてはならない業だ。それは、お前とどうかを果たしたその少年も知る必要がある」
ゼロがゲンと言い合っている一方で、サイトとゲンの周囲の景色が一変した。夕方だった空…いや、ふたりの周囲が真っ暗になった。
「こ、これは…!?」
サイトは驚いて辺りを見渡した。
「これはテレパシーを応用した、君とゼロ、俺にしか見えていない映像だ」
目の前でゲンがそう言うと、映画のワンシーンのように、サイトの目にSF映画で見かけるような超文明の大都市の映像が映された。立派な白い塔やビル、ハイウェイが立ち並ぶその街では、地球とは異なる服装ではあるが、紛れもない人間たちが互いに手を取り合って挨拶したり、子供たちが遊んでいる様子が流れていた。
「これは、27万年前のM78星雲、光の国だ」
「27万年前の、光の国!?」
光の国の知的生命体といえばウルトラマンだ。でも、この映像の街の住人は、どこからどうみても地球人と酷似している人間だ。
「かつて光の国の住人たちは、地球人と非常に姿も生体も酷似していた。だが…」
続いてゲンが説明を入れたとき、映像内で当時の光の国を照らしていた太陽が大爆発を起こし消滅した光景が映される。
「太陽が…!」
「太陽を、光を失った光の国は、たちまち暗黒の極寒世界へと変貌し、滅亡の危機を迎えた。だが、彼らは諦めなかった。新たに人工太陽『プラズマスパークコア』を生み出した」
続いて写ったのは、ゲンが言っていた人工太陽が光の国の塔、プラズマすパークタワーに設置され再び光の国に光が戻った時のものだった。だが、その光を浴びた光の国の人間たちはその眩さに目を閉ざし、だんだんとその姿を変えていった。
「プラズマスパークエネルギーは、当時の光の国の人間たちに巨大な力を与え、超人へと進化させたのだ」
次々と姿を…サイトもよく知る巨人『ウルトラマン』へと姿を変えていく光景をサイトは目に焼き付けた。
(これが、ウルトラマンが誕生した秘密なのか!)
その姿はある種の感動をサイトに与えた。学校の歴史の授業よりもはるかに興味深かった。
「彼らは与えられたその力にはきっと意味があると考え、宇宙の秩序と平和のために光の力を使うことを決意したのだ。だが…」
まさか、自分たちが未来を再び掴むための発明品が、当時の彼らの予想とは大きく違った歴史の出発点となるなど、予想もしなかっただろう。
しかし、たった今レオは含みのある言い方をしていた。だが…とは一体?
「27万年のウルトラマンの歴史の中で、力を求めすぎてプラズマスパークコアの力を独り占めしようとした者がいた」
新たに映像に撮されたのは、まばゆい光を常時放ち続けているプラズマスパークコアに、一人のシルバー族のウルトラマンが近づき、コアを掴みとろうとした姿だった。しかし、あと少しで手が届くころで、バチ!っと衝撃のようなものと鋭い痛みが、コアを奪い取ろうとしたそのウルトラマンを襲った。
『あ、ああああああ!!?うあああああああ!!!!』
まるでそのウルトラマンの心の中に邪悪な心でも潜んでいたかのように、彼の体から煙のようなものが吹き出し、コアの前で苦しみ出す。
「コアのエネルギーは、完成当時の光の国の人間をウルトラマンに生まれ変わらせるほどの力を変わらず保ち続けていた。そんな強大すぎる力に迂闊に手を伸ばすことは、到底我らでも耐えられるようなものではない。それに、コアを奪うことは光の国から再び光を奪い去り、故郷と同胞たちを滅ぼすも同義。
奴は最大級の大罪人として光の国を追放されたのだ」
「…」
ゲンがそこまで説明を入れたとき、コアを奪おうとしたウルトラマンが、当時のウルトラ戦士たちによって宇宙へ追いやられた姿だった。その中には、角が小さく若々しさを持っていた頃のウルトラの父と、胸にスターマークが刻まれていなかった頃のゾフィーがいた。
「けど、これがゼロとどう……!まさか!?」
『……』
一体それがゼロとどんな関係があるのかと問いただそうとしたサイトだが、すぐにその意味を理解した。意味を悟られ、ゼロは無言になる。
「そうだ、ゼロもコアを奪おうとしたあのウルトラマンと同じことをしたのだ」
新たに映された映像、コアの眩さでよく姿を確認できなかったが、そこにはテクターギアを装備していなかったゼロが、さっきのウルトラマンと同様にコアに手を伸ばそうとした姿だった。それはこの場にいたサイトたちには知る由もないことだったが、いつぞやルイズが夢に見た光景そのものだった。
しかし、思わぬ横槍を入れられたことでそれは未然に阻止されることになる。
『待て!』
その横槍とは、あのウルトラセブンだった。赤色のボディにマントを羽織った姿だった。セブンはゼロの手を掴み、無理やりコアのもとから突き放す。
『邪魔をするな!』
『その光に近づくな!お前にはまだ早すぎる!』
邪魔だてされて怒り出すゼロに対し、セブンは喝を入れる。しかし、ゼロは反省の色を見せず、意地を張って反抗する。
『舐めるなよ。俺はこの力を使いこなしてみせる!』
『そこを動くな、ゼロ!お前はM78宇宙警備法を破った!おとなしく来るのだ!』
『は、離せ!』
『暴れるんじゃない!』
『離せよ!!』
意気込むゼロの前に、ゾフィーと初代ウルトラマン、ジャック、エースが現れる。彼らは数人がかりで暴れるゼロを取り押さえ、タワーから連れ出していった。
『残念だがもう、お前にウルトラ戦士を名乗る資格はない』
その言葉は、ウルトラ戦士にとってとても苦痛に違いなかった。だが連れて行かれるゼロに、最後にそう言い残したセブンの姿は、とても悲しそうだった。言われる側よりも、言っている側のセブンの方がとても辛かったのかもしれない。
「なんで、ゼロはあんなことを…」
自分と会うずっと前、自分の故郷を滅ぼしかねないほどの大罪を犯してまで、どうしてゼロは力を求めていたのだ?今だってそうだ、トリスタニアでも逃げ遅れた子供を助けることよりディノゾールを倒すことを優先させ、ラ・ロシェールではネクサスの注意を無視してラフレイアを強引に倒そうとし、結果として街に壊滅的被害を残した。そうまでして、なぜ?
「…すべては、ゼロが生まれた直後の、あの事件だ」
「…あの事件?」
『………』
真相は、ゲンの口から語られた。
「先ほど、ゼロより以前にプラズマスパークコアの光を奪い去ろうとしたウルトラマンが、以前とはまるで別人のような姿と強大な力を得て、光の国に復讐を仕掛けてきたのだ」
「…!!」
映像が新たに流れる。その映像内で、サイトは驚くべき光景を目にする。
『お前ら…行け!』
まるでサメのような口とつり上がった赤い目、そして強靭な暗黒色の肉体を持ったウルトラマンが、棍棒型の武器を片手に、何十体もの怪獣たちを従えて街を破壊している姿だった。これが、あの時コアを奪おうとしたウルトラマンと同一人物とは思えなかった。姿かたちはもはやウルトラ戦士というよりも…。
(…悪魔…)
光の国は、地獄絵図と化していた。街の中も、光の国から大気圏外に位置する宇宙空間でも、若かった頃の初代ウルトラマンからまだ青臭さを保っていた時のタロウまでの、まだウルトラ兄弟という位がなかった頃の歴戦の戦士たちが自分の同胞が故郷を滅ぼすために従える怪獣たちと戦う姿が見られた。
「奴の名前は『ウルトラマンベリアル』。光の国で、ただひとり悪に堕ちたウルトラマンだ」
「悪の…ウルトラマン…!!?」
サイトは言葉を失った。ここ最近、ファウストという黒いウルトラマンが現れ、サイトやシュウを襲ったことがある。この時点でウルトラマンが必ずしも正義の味方というわけではないことは嫌々ながらも理解したのだが、まさか光の国から本当に『悪のウルトラ戦士』が誕生するなんて、これを自分以外の地球人が知ることになったらどんな反応をされることだろう。あの汚らしいハイエナのようなゴシップ記者なら食いつきたがる絶好のネタに違いない。
「この事件と同じ時をして、ゼロが生まれ、ベリアルはその直後にウルトラマンキングによって封じられ事なきを得た。だがその戦いで…ゼロの母は生まれたばかりの息子を、襲ってきたベリアルの怪獣の手から庇って亡くなったのだ」
「…」
同じだった。ゼロも、失った時期は大きく違うが家族を失っていたのだ。すると、今度はゼロ自身が言葉を綴った。
『俺は、生まれた時から一人だった。親父もお袋もどんな人だったのかなんて今も知らねえ。ただ、孤児として育った俺はがむしゃらに戦うための力を求めてきた。光の国の学校でも成績上位を保ち、宇宙警備隊入りを果たしたときも…だが!』
次の瞬間、ゼロは悔しげに声を上げだした。
『どんなに頑張っても、誰ひとり俺を認めてくれるやつがいなかった!誰も俺を見向きもしなかった!他の才能なしのやつの方が親から褒められていたってのに、俺にはそんなことをしてくれるやつなんざ一人としていやしなかった!!
無性に腹が立ったんだ!なんで俺だけこんな目に遭うのか!
だから俺は、追放処分を下されレオに預けられたとき、いつか必ず地球へ行くって決めていた!地球で怪獣や侵略者どもをぶちのめして、俺の実力を地球人に認めさせれば、俺を追放した連中も地球に肩入れしている以上俺の実力を認めるしかなくなるからな』
「それで、あの時…」
例外はいるが、ウルトラマンは地球上ではおおよそ3分しかその姿を保てないという話だ。光の国のウルトラ戦士たちを認めさせるために、俺を助けるのにかこつけて、俺と一体化したのか。
親兄弟もいないまま孤独な人生を歩み、どんなに優秀さを表してもゼロを見てくれる存在がいなかった。それが、こうして荒れくれ状態のゼロを作り上げてしまったのだ。プラズマスパークコアに手を出そうとしたのも、その孤独さ故によるものだった。
「では聞くがゼロ。お前のそのやり方で、一体誰がお前のことを認めてくれたんだ?」
『…!』
ゲンから痛いところを突かれ、ゼロは言葉を詰まらせた。…いない。ラ・ロシェールの一件が特に大きく響き、ゼロのことを認めてくれるどころか、逆に失望した者の方が多いに違いない。それはサイトたちの身の回りでさえ同様だった。キュルケとタバサもルイズも、そして自分と一体化しているサイトでさえあの事件でゼロを一度見限った。
「さあ、答えてみろ」
『…いねえよ』
自分でもさも同然と思える答えしか返せなかった。
「あの、おおとりさん」
サイトはゲンに声をかけた。
不謹慎だが彼は、ラッキーだと思っていた。こうして自分以外の、それも同じ世界のウルトラマンが来てくれた。きっと、地球に帰るための方法だって知っている。破壊の杖奪還任務でオスマンから聞かされたMAC隊員のことやシエスタのひいおじいさんの時は、残念ながら同じ境遇の人間がいたことを知ることができただけで、手がかりまでは掴むことができなかったが、今度こそは間違いなく帰る子ができるはずだ!とサイトは期待した。
「俺、地球に帰りたいんです!なんとかゼロと分離して俺を地球へ送ることって、できますか?」
彼は地球に帰ることを願い出た。
自分とゼロは、この世界に来てから何一ついいことがなかった。これといって本当の意味で役に立てたことなんて大したことじゃなかった。そんな自分たちがこの世界にいたところでなんにもならない。シュウと、今こうして新しくこの星を訪れたレオに任せればこの世界は安泰だから、地球に帰っても問題はないだろう。
だからサイトはゲンに、地球へ送って欲しいと願いでた。
…しかし、対するゲンの顔は、特に変化がないように見えて険しくなっていた。それも、先程より一層その威圧感が増していた。
「…君が帰りたいと願うのは自由だし当然のことだろう」
「じゃあ!」
「だが、条件がある」
条件、と聞かされてサイトは は?と耳を疑った。
「俺と戦い、納得させることだ」
「え…!?」
戦うって…俺がレオと!?はっきり言ってサイトは意味がわからなかった。レオは防衛チームMACとともに侵略者や怪獣と戦い抜き、MACが壊滅したあともその孤独さえも力に変えて戦い抜いた歴戦の戦士だ。そのあとだって数十年近くは戦い続けていたに違いないから、その実力は自分なんかでは遠くに及ばないのは戦わずとも理解できる。
「俺があなたに勝てるわけないじゃないですか!」
もしゼロに変身しても、正直勝てる見込みがまるで見えない。しかし、ゲンは済ました顔で続ける。
「最初からできないと決めつけて何もしない、か。ゼロも君も、随分と根性なしなことを言う。やはりゼロは未熟なままだったようだ。自分が宿主と選んだ地球人が、こうも情けない男ではな」
「…!!」
それどころか、ゲンはニヤリと嫌味な笑を見せ、明らかにこちらを挑発していた。サイトは苛立ちでわなわなと震え上がる。ゼロも同様だ。まるで自分に人を見る目がないと言われているようで腹が立った。
そもそも、なぜこいつは自分に戦って見せろだなんて言ってきた?俺が地球へ帰ることと、一体どんな関係があるというのだ?いや、あるとは思えない。この人がその気になれば俺を地球へ送り届けてくれることだってできるのではないのか?なのに、どうして俺とこの人が戦う必要があるのだ?
「俺はまだここに留まることができる。明日でも構わんぞ」
「…わかった。やってや…」
「サイト!」
これも地球へ帰るためだ。挑発に乗ってやろうと思ったのだが、ここでギーシュが彼らのもとへとやってきた。
「サイトがまだ帰ってこないって言ってたからどこへ行ってたのかと思ってたけど…一体ここで何をしていたんだい?ルイズはカンカンに怒っていたぞ」
「…なんだっていいだろ」
サイトはぶっきらぼうに答えた。思えば俺はルイズから拒絶された身じゃないか。なのになんで俺のことであいつが怒る義理がある。サイト自身も突き放すような言葉を吐いてギーシュから距離を置いた。
「随分冷たい態度だな。迎えは僕じゃなくてルイズの方が良かったのかい?…まあいいさ。そろそろ戻ってきたまえ。ルイズたちも君が戻ってきてないから心配してる。この程度で怒らなかった僕に感謝するといい」
「へいへい…」
サイトはふと背後を振り返った。まだゲンがそこに…あれ!?彼は目を見開いた。すでにゲンの姿は影も形もなかったのだ。
「あのさ…さっきまで俺以外にも人を見なかった?」
「いや、僕がここに来たとき、ここにいたのは君だけだが、どうかしたのかい?」
「…いや、別に」
ギーシュに怪しまれるのを避けるために、いつの間にか姿を消していたようだ。明日も、ここに来たらまた会えるのだろうか。ギーシュに渋々ついて行きながらも、ゲンがたっていた場所を振り向きながらサイトはシエスタの家へと戻っていった。




その日の夜、サイトたちはシエスタの家が入りきれない関係で、村の宿に寝泊りすることになった。コルベールが宿代を弾んでくれたおかげで旅費の心配もなかった。
ただ、サイトは置いて行かれていじけたデルフをなだめることになって苦労したという。
その一方、皆が寝静まった頃ルイズは外に出て一人小さな爆発を起こし続けていたのだ。
「出ろ!ファイヤーボール!」
火系統の初歩の魔法を唱えようとしたのだが、彼女の前で花火にもならない爆発が軽く起こっただけだった。なぜ、こんな時間になっても彼女は一人で魔法を使っていたのか?それは、もう二度とアンリエッタの力になれないことになるのが嫌だったからだ。ワルドの裏切りですべてが水泡に帰したあの旅でルイズは、今度は絶対に成功させてみせると誓った。もう魔法成功率『ゼロ』である自分のままでいたくはない。
アンリエッタは、幼い頃に一緒に遊んだことがあるというだけの、彼女の立場から見て自分のような卑しい身分の自分を今もなお友達を呼び、頼ってくれた。
だから、少しでも次はアンリエッタの力になるために、必要とされるメイジであるために、『ゼロ』の汚名を返上するべく一人特訓をしていたのだ。
だが、さっきから小さな爆発した発生しない。
「なんでよ…なんで…爆発しか怒らないの…」
膝をついて、あの旅で味わった苦い味を思い出してしまう。ワルドの裏切りを許し、アンリエッタの手紙を奪われ、彼女の想い人を目の前でさらわれてしまった。自分の不甲斐なさにルイズは自分を恨む。
一体何度魔法の才能がない自分を憎んだだろう。ラ・ヴァリエール家は優秀なメイジを輩出してきた。にも関わらず魔法が使えない自分。父と母、上の姉から小言を言われ、召使たちから同情の眼差し。魔法学院に入学したら同級生から馬鹿にされる毎日。上級生や下級生からも噂になって笑われたことだってある。メイジ失格だの無能だのと蔑まれ、その分座学で補おうとしても馬鹿にされ続ける。自分のそんな無力さが屈辱だった。
もうアンリエッタを悲しませるようなことはしたくないし、あの卑劣な裏切り者の愚行を許すわけには行かない。
もう今日は休むことにした。ルイズは宿に戻った。部屋は今一人で使っている。サイトとは未だに言葉を交わしづらい状態が続いていたため、同室ではなかった。
サイトは、ウエストウッド村で思わず自分が言い放ってしまった言葉のせいか自分から話しかけてこなくなった。別に寂しいわけではないと言い聞かせているが、どうしてか気落ちしている自分を感じてしまう。素直に謝ったほうがいいだろうか。元を辿れば自分が勝手にこの世界へ呼び出してしまったのに、使い魔にするんじゃなかった…なんて無責任な事を言ってしまったのだ。竜の羽衣を探している際中は、ことがことだったために気に留めていなかったが、きっとサイトは今でもそのことは怒っている。
(でも、私が下手に出て謝ってもあいつを調子つかせるだけじゃない。ああもう…!!)
枕に顔を埋めてうーうー唸るルイズは何をするべきかわからずウダウダするばかりだった。
すると、彼女のもとで不思議な事が起こる。枕元の机に置いていた、アンリエッタから託された水のルビーと、同じように託された古い手帳が小さく不思議な輝きを一瞬だけ見せた。水色の光が一瞬だけ見えたのだ。
しかし、僅か一瞬ばかりの光だった。ルイズは偶然見たものの、窓から差し込んできた月の光が水のルビーに反射しただけだろうと思い、夢の世界へダイブした。
眠った直後、手帳が水のルビーと共に光を放っていたことを知らずに…。



そんなことがあったのを露知らず、サイトはデルフを担いで宿から外に出た。
「どうした?こんな夜更けに一人でよ」
「…レオに、おおとりさんに会いにいく」
サイトは、皆が寝静まっている今のタイミングだからこそ、ゲンに会いに行くと決めていた。誰も自分たちに気づいていない今なら正体がバレる心配が低くなるはずだ、と。
サイトは、ゲンが自分を納得させれば地球に返してもいいという条件付きで勝負を挑んできた。正直意味がないとは思っているが、あの頑固そうなゲンことウルトラマンレオが許してくれるとは思い難い。とはいえ唯一地球へ帰れる見込みといえばこれくらいだから拘ってはいられない。
たどり着いた先は、村のすぐ近くにある草原だった。サイトが来るのを見越していたように、ゲンがそこで待っていた。
「来たか…」
ゲンが厳しい表情のままサイトを見据えた。
「へへえ…こいつぁ紛れもねえ本物の戦士だな。俺っちまでピリピリしてきやがる」
その闘志を刀身で感じたのか、デルフは声を震わせた。長く生きながらえてきたためか、相手が強敵だとそれを察知できるようになったのだろうか。
「おおとりさん、約束は忘れてませんよね?」
「ああ、もちろんだ」
ゲンは、そう言ってかぶっていた傘を投げ捨てる。今の仕草を見て、サイトは気づく。この人は変身して戦えと言っている。
「ゼロ」
サイトは左手首のブレスレット状のテクターギアを見る。
『…ああ。俺なら構わないぜ。前に俺に言ってたことなら気にすんな。今度こそ、レオをぶっ飛ばしてやりたいって思っていたところだからな!』
K76星にいた頃から、ゼロは是非レオと正式な勝負をして徹底的に打ち勝ってみせたいと願っていたところがあった。妙な形ではあるが、ハルケギニアで強敵と戦ったことでK76星にいた頃より少しは強くなったつもりだ。何より、レオの鼻っ柱をへし折ってやろうとも考えていたからやる気十分だ。地球へ帰りたいと願うサイトとレオをぶっ飛ばしたいというゼロ、そのためにはレオと戦うこと。二人の利害が合致した。
「レオおおおおおおおおおお!!!!」
ゲンは左手の中指に着けていた『レオリング』を前に突き出した。レオリングに掘り込まれたライオンの彫刻の目の宝石『獅子の瞳』が輝き、赤き獅子の戦士ウルトラマンレオ(等身大)に姿を変えた。同時に、サイトもテクターギアを装備した左腕を掲げ、等身大のテクターギア・ゼロへと姿を変えた。
夜風が吹き、草原の草をサラサラとたなびかせた。、レオの方を見つめ、ジリ…と身構えたゼロ。相手の金色の瞳から放たれる殺気…こうして立ってるだけで歴戦の戦士としてのプレッシャーを感じずにはいられなかった。
先にレオが飛び出してきた。ゼロもテクターギアのマスクの奥に隠れた金色の目を研ぎ澄ませ、こちら側に向かってきたレオの顔に向かってハイキックを放つ。それを受け止められ、続いてもう数発上段回し蹴りを打ち込むが、全て受け流されたりよけられてしまい、お返しに拳を二度胸部に叩き込まれ、続いて連続でキックをお見舞いする。防ぐことはできたのだが、一発一発が非常に重く、防ぐことができてもダメージを抑えることができなかった。最後に一発、パワーを込めた一撃をもらったゼロは思い切り後方へ吹っ飛ばされた。
「イヤアアア!!!」
「ガァ…!!!」
かろうじて保っていたガードを崩され、吹っ飛ばされたゼロは草の上を転がった。さすがはウルトラ兄弟に選ばれたウルトラ戦士。簡単に一撃を与えさせてこなかった上に、逆にこちらが数発もらってしまった。
「イヤア!」
レオのハイキックがふらつきながらも立ち上がってきたゼロのガードを崩し、ジャブを突き出す。それを避けたゼロは後ろに回り込み、突き出されたレオの腕を捕まえた。だが逆にレオはそのゼロの腕をへし折ってしまいそうな力でゼロの肩をひねらせ、地面にひっくり返す。立ち上がったゼロに彼はすかさず追撃した。
「ダッ!ハッ!イヤァ!」
ゼロはレオのパンチを受け止めはしたが、続いて放たれた二発目を防げずまたガードを崩され、蹴りを連続で喰らってしまう。やはりレオは強かった。打ち込んでくる一撃がすべて重い。
「ゼロ、お前はこれまで何のために戦ってきた?お前はそもそも、何のために宇宙警備隊に入隊した?」
ふらつくゼロに向け、レオは語りだした。
「知れたことを…俺の存在を、認めさせるためだ!」
口を拭いながら立ち上がったゼロはそう言い切った。しかし、レオは言う。
「だが!!ラ・ロシェールの街。その戦いでお前は周囲を顧みない戦いをしたせいで街の住人立ちから非難の的となった。宇宙警備隊での訓練教育において、そんな戦い方をすれば周囲の不安を煽り、被害を拡大させかねないと既に学んでおいたにも関わらずにだ。その結果がああなるとわかっていたはずだ」
「………ちっ」
「お前の心は、お前のせいで破滅しかけたあの街を、失われた命を見てなんとも思わなかったのか!?」
…響かなかった訳がなかった。ゼロは確かに周囲を顧みない戦いをしてきたが、だからといってそれが彼自身の性格を決める要因とはならない。むしろ、あの時の彼の心は自分のせいで街を壊してしまった罪悪感に支配されていた。だから、同化していたサイトから非難されても、何も言い返すことができずに変身を解き、しばらくサイトに言葉をかけなくなったのだ。
「よく思い出してみろ!お前はただ、他人に認めて欲しかった。それだけが戦う理由だったか!?」
ただ、ゼロは言われっぱなしになっているのが凄まじき気に入らず、意地を張ってレオに向けて反撃を加えようとする。
「な、何!?」
そう言われたとたん、ゼロの足が一瞬止まる。
「『自分と同じ、悪い奴らのせいで一人ぼっちになる人を見たくないから』…自分の口でそう言っていたくせに忘れたというのか!!」
怒鳴られたゼロの身が、一瞬震えた。


―――…なんで…そんなことを知っていやがる?


…いや、んなことはどうだっていい!!


「……偉そうに…ゴタゴタぬかしてんじゃねえ!!!」
飛び蹴りを放ってレオに攻撃を仕掛けたゼロだが、対するレオも飛び蹴りを同時に放ち、宙を舞う二人が蹴りを放ったまま状態でぶつかり合おうとする。その攻撃が互いに相殺され、今度は空中で拳を叩き合い、蹴りを加えていく。しかし、これだけのコンボを放ってなお、ゼロの攻撃は一撃も与えることができなかった。
宙を飛びながら、ゼロはレオの両腕を掴み、共に空中へ飛び立って押し出そうとする。このまま地面に激突させてやるつもりだった。しかし、レオは押し出されながらも難なく地面に足をつけて着地。逆にゼロは両腕を解かれ、またしても一発飛び蹴りを受けて吹っ飛ばされてしまった。
「ガッ…!!」
「…平賀才人。お前は、地球に帰りたいと言っていたな?」
今度は、ゼロと共に意識を一体させているサイトに向けて語りだした。
「お前は地球に帰りたいのではない。現実から逃げたがっている」
サイトの意識が影響していたためか、ゼロはハッとなって顔を上げた。


現実から…逃げている?


「何も守れず、何も救えなかったその現実から目を背けるための材料として、お前は故郷を求めている。それは弱い人間のやることだ」
「………」
ゼロは俯きだす。まるで心が見透かされているかのようで、すごく気持ちが悪かった。
「お前はゼロと融合し、それを受け入れて戦うと決めたはずだ。なのに、今更守ると決めたこの世界を見捨てて故郷へ帰るだと?ふざけるな!!」
ふざけるな。その言葉は、心さえも貫く勢いだった。サイトとゼロの挑発された時に感じた憤りよりも、レオはずっと不満と怒りを二人に対して抱いていたのあ。
「お前が主としているあの少女は、確か通常の魔法を扱うことができないのだったな」
魔法が使えない少女…おそらくルイズのことだ。なぜルイズを話のダシに出してきた。疑問を抱く二人に、レオは続けて言葉を紡ぐ。
「そんな少女でも、日々勉学を怠らず、誰かの為、自分のために必死に努力し、己を磨いて高めてきた。たとえ周囲からどんなに無能扱いされようと。なのに、お前たちは一度の敗北に囚われ続け泣き続けるだけしかできんのか?」
「うるせえ…」
「もしお前たちがこの星を離れたとして、この星はどうなる?自分が守る為に戦うことで救える命があるにも関わらず、他の者に任せて自分はただ指をくわえてみているだけなど、無責任も甚だしいと思わんのか?
力があるくせにできることを見つけ出そうともせず、なにもしないことが最大の罪だということに気づかないのか?」
「うっせええよ!!」
意地か、弱い自分をごまかすためか、空高く飛び上がったゼロはレオに向けて必殺の蹴りを放った。
〈ウルトラゼロキック!〉
「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
が、真正面から何のこともなく、その足をわし掴みにされてしまった。
「な!?」


「女の子でさえ自分が守りたいと思えるもののために戦おうとしているというのに、


自分だけ引きずり続け、ただ意味もなく泣き喚き続ける自分が恥ずかしくないのかああああ!!!?」


レオの拳に、強力な光エネルギーが込められ、ゼロの体に叩き込まれた。
「ガハアアア!!!?アァ……」
ゼロはさっきよりもさらに遠くに、突き飛ばされてしまい、ついには変身さえも解けてしまった。
 
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