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優しさをずっと

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第四章


第四章

「貴方の私物ではありません」
「まだ仰るのですか」
「言います。貴方は人に何かを教える資格のない方です」
「そしてあんたにはあると」
「少なくとも貴方よりは」
「じゃあ見せてもらいましょうか」
 やはり首を回して恫喝するようにして言ってきた。これが教師の動作と言葉である。
「その教え方をね。明日です」
「明日?」
「ここで勝負しましょう」
 先生を睨み据えつつ言ってきた。
「どっちが正しいのかをね。決めましょうや」
「どの様にしてですか?」
「剣道でですよ。決まってるじゃないですか」
 もう勝ち誇る笑みを浮かべていた。
「剣道部なんですからな」
「剣道でですか」
「逃げるんですか?」
 挑発と恫喝を同時に含んだ言葉だった。
「まさか生徒を守ると仰る方がそんなことはしませんよねえ」
「勿論です」
 そして先生は逃げなかった。
「その為の教師ではないのですか?」
「生徒は馬鹿ですよ」
 生徒を頭から馬鹿にしきっている平生の言葉だった。
「その馬鹿共に教えてやるのが教師じゃないですか」
「あくまでそう考えているんですか」
「こいつなんてね」
 先生の後ろにいる生徒の一人を竹刀で指し示す。先生の後ろで怯えた顔をしているその生徒をだ。
「頭は悪いし運動もできない」
「それで?」
「そんな奴を教えてやってるんですよ。ボランティアですよ」
「ボランティアですか。殴ったり蹴ったりすることが」
「馬鹿を教えるのには身体で教えるのが一番です」
 平然と言い切る。
「だからですよ。何か悪いですか?」
「それは明日はっきりさせましょう」
 勝負を受けたことを自分でもあらためて認識する言葉であった。
「明日。それでいいですね」
「後悔しませんね」
「絶対に」
 今度は先生が言い切った。
「何があっても。それはしません」
「わかりましたよ。おい御前等」
 平生は先生に応えてからそのうえで生徒達を睨みつけてきた。
「このことはわかってるんだろうな」
「えっ・・・・・・」
「それって」
「覚えてるよな、おい」
 さっき竹刀で指し示したその生徒に対して問う。
「突きはな」
「突き!?」
 先生は突きと聞いて顔を顰めさせざるを得なかった。
「突きとは」
「決まってるじゃないですか。突きですよ」
 やはり平生は平然として先生に言葉を返す。
「剣道のね」
「それは禁止されている筈ですが」
 強張った顔で平生に対して言う。先生は言いながら頭の中で勉強したばかりの剣道の指導を思い出していた。突きは高校生になってからだということを。その理由も勉強していた。
「まだ身体のできていない小学生に対して突きとは」
「こいつは六年ですよ」
「しかしまだ小学生です」
 真っ向から平生の言葉を否定する。
「ましてや高校生からの筈です。それをやったのですか」
「悪いことですか?」
 しかも平生は平然としていた。
「それが。何、大したことじゃありませんよ」
「生徒に何かあったらどうするのですか」
「別に」
 全く何でもないといった返答だった。
「何もありませんよ。些細な事故ですよ」
「突きは喉を攻撃するものですが」
 当然危険なのは言うまでもない。だからこそ禁止されているのである。
 
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