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ロード・オブ・白御前

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ユグドラシル編
  第2話 対面



 巴と、歩ける程度に回復した紘汰が連れて来られたのは――ユグドラシル・タワー、その一角のオフィスだった。

 量産型黒影が巴と紘汰を乱暴にパイプ椅子に座らせた。
 そう間を置かず、3脚目に人が連行されてきて座らされた。チームバロンの駆紋戒斗だ。

「仲間が手荒な真似をしてすまない。こうしてキミたちと落ち着いて話をするためには仕方なかったんだ」

 デスクに座ったまま、男はふり返りもせず言った。

「あんた誰だ」
「私は戦極凌馬。キミたちが使った戦極ドライバーの設計者だ」

 紘汰と戒斗が軽く目を瞠りながら互いを見合った。

「じゃあ『花道・オン・ステージ』ってのは」
「『Knight of Spear』ってのも」
「私の趣味だ。いいだろう?」

 凌馬はやっとふり返り、無邪気な笑みを浮かべた。あどけない。それが、巴が戦極凌馬に抱いた第一印象だった。

「もう一つ、質問、よろしいですか」
「どうぞ」
「隣のお二方はアーマードライダーです。ここにいるのも何となく分かります。ですがどうしてわたしまで? わたしはビートライダーズですがアーマードライダーではありません」
「そう思うのはもっともだね。でもキミがアーマードライダーでないというのは少し間違っているよ。関口巴君」

 巴は表情だけで怪訝さを主張した。凌馬も分かってか、オフィスチェアに深く腰かけて笑んだ。

「キミたちに配ったベルトは初期ロットでね、一番に装着した人間以外は受け付けない。最後のドライバーはイニシャライズされていた。キミが着けたんだろう?」
「何故そうお思いで?」
「何故も何も! 監視カメラにバッチリ映っていたよ。キミがアーモンドのロックシードで変身するシーンがさ」

 巴は舌打ちしたかったが控えた。さすがに舌打ちは女子としての慎みがない。

 直後、フロアのドアが開く音がして、二人の人間がオフィスに入ってきた。

「プロフェッサー凌馬。お連れしました」
「ああ。ご苦労様、湊君。――彼女は湊耀子。私の秘書兼ボディガードだ」

 湊耀子の紹介より、紘汰は耀子が連れて来た人物のほうに驚きを露わにしていた。

「ゆうや――裕也! 無事だったんだな!」

 紘汰は椅子を立ち、裕也に駆け寄った。そして、裕也の両頬、肩、腕と順に叩き、泣き笑いで裕也の両の二の腕を握った。

「よかった……俺、もう、裕也はヘルヘイムで迷って死んじまったんじゃって……インベスに殺されたんじゃないかって、ずっと……裕也、よかった……っ」
「ごめんな、紘汰。心配かけて。スマホ取り上げられててさ。公衆電話もないし」

 その台詞で、はっと、紘汰は裕也が囚われの身だと思い出したようで、凌馬に詰め寄った。

「あんたのせいか――? あんたのせいで、裕也はあんな姿になって苦しんでんだろ!?」
「まず誤解があるようだが。角居君は自ら申し出てココにいるんだ。何なら彼に聞いてご覧? 彼は自分の意思だと答えるよ。――ねえ、角居君」

 裕也が気まずげに紘汰から顔を逸らした。

「ゆう、や?」
「……ごめん、紘汰。その人の言う通りだ。俺は俺がやったバカのせいでああなって、ここにいることにしたんだ」
「で、でも、脱走してきたんだろ!? だったら… !」

 そこで紘汰は何かに気づいたように凌馬を睨みつけた。

「お前――裕也に何吹き込みやがった!」

 紘汰が凌馬に飛びかかろうとした。
 だが、それは叶わなかった。耀子が裕也を掴んでいた手を離し、紘汰の顔面に回し蹴りを叩き込んだからだ。耀子は倒れた紘汰にのしかかり、腕を後ろ手に組ませて動きを奪った。

「紘汰っ!」
「湊君、お手柔らかにね」
「――はい。プロフェッサー凌馬」

 耀子が紘汰を解放し、裕也の拘束に戻った。

 巴はパイプ椅子から降り、倒れた紘汰が立ち上がるのを助けた。紘汰がパイプ椅子に座り直すまで肩を支えていると、座った紘汰から、苦しそうな笑みと共に感謝を告げられた。巴はどう答えていいか分からず、自分もパイプ椅子に座った。

「これはヘルヘイムの果実を安全に取り扱うための私の研究成果だ」

 凌馬は回収されたロックシードを一つ取り上げ、巴たちに示してみせた。

「果実がもたらす力は計り知れない。食べた生物の体が力に耐えきれず、インベスに変化してしまうほどだ。だがその養分を――」

 凌馬がしゃべっていると、巴からすれば唐突に、戒斗と紘汰が勢いよく立ち上がった。
 戒斗が凌馬のうなじに向けて投げたのはトランプ。彼らは同時にドライバーとロックシードに手を伸ばした。

「紘汰、やめろ!」

 だが、そう簡単に行くなら、自分たちの拘束がこんなに緩いわけがない。
 案の定、湊耀子が動いた。
 そして、巴もまた椅子を立った。二度目は看過できない。

 耀子は足技が主体らしい。ならば止めるのは簡単だ。
 巴は腕を盾にして防いだ耀子の足を、掴んで捻り返そうとした。だが耀子も狙いに気づいたらしく、もう片方の足でジャンプして巴の鼻面に蹴りを入れた。顔面を狙われたことで注意が逸れ、せっかく取った片足も逃げられた。

 耀子の攻撃はそれで終わらなかった。当然だ。彼女は戦極凌馬の守り役。彼に害成す紘汰や戒斗を放置するわけがない。
 耀子の蹴りが紘汰と戒斗に炸裂する前に、巴は今度、両腕を使って彼らの乱戦に踏み込んだ。
 彼らに入るはずだった蹴りと掌底を腕と膝で止めた。

「――やるじゃない、あなた」
「それほどでも」

 薙刀があれば、有体にいえば戦極ドライバーがあれば。彼女を完全に防ぎきってみせるのに。
 手元に力がない悔しさは初瀬を見て知ったと思ったのに、巴はまだまだ不勉強だった。

「湊君」
「申し訳ありません、プロフェッサー凌馬。熱くなってしまいました」
「いいよ。キミがそうなるくらいの相手がいるというのは、私も上司として嬉しいよ」
「光栄です」

 巴と耀子はどちらともなく手足を引き、互いから距離を取った。

「巴ちゃん! 大丈夫か」

 紘汰が巴の肩を掴んだ。本当に心配している人間の顔だ。
 巴は不思議に思う。紘汰ときちんと接するのは今日が二度目なのに、どうして彼はここまで巴を気に懸けることができるのか。

「それを俺たちに聞かせた上で、俺たちにどうしろと?」

 戒斗が忌々しげな声を上げた。

「引き続き、協力をお願いしたいんだ」

 凌馬はデスクに戻って座り直し、何かのスケッチを巴たちに見せた。

「ここだけの話、私はよりさらなる高みを目指している。より強力で全能な神の力に至るためにね。このプランはまだ正式に承認を得てないんだがね。もしキミたちが望むのなら」
「さらにモルモットを続けろ、と?」

 紘汰の言葉に、凌馬は我が意を得たとばかりに立ち上がり、こちらに歩み寄った。

「キミたちは新しく手に入れた力を思いのままに使ってくれていいんだ。想像してみたまえ。戦極ドライバーを大幅に上回る全能感だよ?」

 凌馬の誘いに、巴は何の魅力も感じなかった。横の紘汰と戒斗も同様らしい。険しい顔をしている。

(欲しいのは、力なんかじゃなくて、資格。碧沙と『特別な友達』を続けられるだけの。それさえあれば、わたしは何だっていいの)

「まあ色々と考えを整理する時間も必要だろう。一流ホテル並みとは言わないが、快適な環境を用意してある。のんびり滞在してくれたまえ」 
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