アラガミになった訳だが……どうしよう
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
夫になった訳だが……どうしよう?
53話
「姉さん!!メカだよ、ロボットだよ!!」
レオの体の表面を男神のオラクル細胞でコーティングし、形こそハンニバルではあるものの全身を金属で覆われたような今の姿は彼の言うようにアラガミというよりは、人の作った機械と言われる方が納得できる。
これであれば後々開発される神機兵の試作型だと言っても何とか通せるだろうし、事実レオには乗り込めるようになっている……もっともそこに入ったところで搭乗者は操縦するのではなく、ただただレオにエネルギーを吸われる燃料タンク扱いされるだけなんだがな。
レオの意思で吸収する勢いは調整できるが、アラガミ化の進んでいるジルや、ゴッドイーターでも異常な適合性の持ち主であるユウやソーマ、カノンでも無ければまず危険な状態になるだろう。
他にもイザナミが自衛用と言って武器を付け加えたりしたようだが……大丈夫だろうか?
まぁ、それは置いておくとしてレオ自身はあの姿を割と気に入ったらしく、自分の体を確かめるように動かしている。その辺りは少年らしいという趣味というか嗜好なのだろう。
ただ、ジルにはそれに対して共感はできないようで、生返事をしながらレオの熱意に引いている。いや、確かにあれは引いてしまうのも無理はないな。何しろ、ただでさえ表情という事においてはハンニバルなので読み取れなかったレオの表情が、体を覆っている装甲のせいで全く読めなくなっているんだからな。
人間で言えば無表情のまま声だけ熱意を込めて近づいてくるんだから、そりゃ引くな。どちらにせよレオ本人が喜んでいるのならそれに関してどうこう言うつもりはないし、むしろそれは喜ぶべきことなんだろう。
うん、ただ外見と内面のギャップが大きくなったとだけは言わせてもらおう。
で、それは一旦おいて置くとして……
「イザナミ、結局キュウビを見つけないまま目的が達成できた気がするんだが……どうするんだ?」
奇しくも道半ばで養子とはいえ子供はできたのだ。ここで無理に探す必要もないだろうし、何よりこの二人を連れて戦うっていうのは少なからず無理がある思うぞ?
「そうだね……けど、全身じゃなくてもレトロオラクル細胞は欲しいの。ワガママだっていうのも、無茶だって言うのも分かってるけど、それを理解した上で欲しいの」
……となるとジルとレオをどうするのかって話になるぞ?
「そうなんだよね。かと言って私一人でって言ってもマキナは絶対に許してくれないでしょ?」
当然だ、そんな危険な事を一人でやらせるなんてあり得ない。さて、どうしたものか。
「どうかしましたかイザナ「むー……」……お母様?」
「ちょっと用事があって行きたいところがあるんだけど、割と危ないところだからどうしようかなって悩んでるの」
「お母さん、それなら気にしなくていいよ!!僕も姉さんもお母さん達と並んで戦えるほどは強くないけど、迷惑にならない程度には動けるよ」
確かに俺はジルの動きしか見ていないのでレオまでは判断できんが、事実ジルは最後の油断さえ抜けば中々のものではあった。イザナミ、レオはどうだったんだ?
「うーん……確かにレオの言うとおり足手まといって事はないんだけどね。けど、レオとジルが怪我するかも知れないっていうので嫌なんだよ」
「じゃあ、一旦キュウビ捜索を中止して俺の方の用事を済ませるついでにレオとジルに訓練を施して、アラガミとしての戦い方を覚える。その後、もう一度キュウビを捜索開始ってのはどうだ?」
「「「用事?」」」
「ジルとレオはともかく何故イザナミまで疑問符なんだ?まぁいい、アクアマリンの出てきそうな鉱山はないか探すって約束をしたんだよ。本来はキュウビのついでに済ませる予定だったんだが……レオとジルの慣らしには丁度いい難易度だし丁度いいんじゃないか?」
「ああ、ユウ君のね……私には無いの?」
「欲しいのか?」
「そりゃね」
「「ユウ君?」」
ああ、そう、かユウがゴッドイーターになってそう時間は経っていないのもあって、名前自体ははまだそこまで有名でもないのか。ただ、極東支部第一部隊隊長は人外の強さだという噂だけは出回っているんだった。
「ユウってのは極東支部のエースだよ、色々あって俺たちは極東支部で働いてたことがあるんだよ」
「アラガミなのに……ですか?あ、でも、パッと見ただけじゃアラガミって分かりませんね」
「それもあるし、向こう戦力として私達が欲しかったからね。私達……っていうより私の目的を果たすのにも極東支部所属って肩書きは欲しかったからね」
イザナミは少しバツの悪そうな表情でそう言った。その目的の果たし方に関しては彼女自身の少なからず反省しており、そうそう思い出したいものでもないのだ。
「極東支部は良くも悪くも普通の支部と常識が違うんだよ、結果的に私達の正体を明かしても大した事にはならなかったしね」
「変わった所もあるんですね……ところで何でアクアマリンを?」
「ああ、ユウが結婚指輪を作ろうって考えたんだが、こんな世界じゃ宝石を掘ってるところなんてそうそうないだろ?
そもそも出回ってないから掘りに行くことにしたんだが、支部のエースってこともあってそう長い間外出もできない。って訳で、せめて掘りに行くためにも場所くらい調べてやるって事になったんだよ」
「エースと言うのも大変なのですね、困難な任務ばかりで休みもないなんて……」
いや、ユウは確実に任務を困難とは思って無いだろうが、ユウ以外じゃ仕留められないアラガミが時々来るからそのせいでって気はするな。
という訳で、一度グリーンランド探索を諦めてロシアまで戻ることにした。
「想像はしてたけど、僕は乗り物なんだね……」
ジルを背中に乗せて走り続けるレオは少しガッカリしたように呟く。そもそも筋繊維やらからアラガミである俺、イザナミ、レオと違ってジルは並のゴッドイーターよりは上と言った程度の身体能力なので誰かに運んでもらうしかない。
だが、俺とイザナミは誰かを運びながら安全に走るというのは体格的に少々厳しいのだ。で、一番体の大きなレオがジルを乗せて走ることになった訳だ。
「レオ、良かったじゃないですか。あなたの好きなロボットですよ?」
「姉さん……これはロボットじゃなくてタクシーか何かだよ」
そんな話をしていると目の前の地面が急に盛り上がり、銀色の蠍型アラガミボルグ・カムランが何匹か進行方向を防ぐかのように立ち塞がった。見たところ数は四匹、全ての通常種でありそれほどの数の他のアラガミを喰らった様子もなく、まさしく丁度いい相手と言えるアラガミだ。
「レオ、ジル、やれるな?」
「やってみるよ!!」
「当然です」
二人は俺とイザナミの前に立ち、各々の得物を構える。ジルは槍を、レオは爪と牙を……さて、思う存分遊んできなさい。
ページ上へ戻る