アラガミになった訳だが……どうしよう
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夫になった訳だが……どうしよう?
51話
やはりと言うべきなのだろうが、水中でも全く息苦しさは感じられないな。だが、水の中の影響ということもあって感じる体の重さは少々厄介だ。
俺の体は運動性やらの関係で筋繊維やらのオラクル細胞の密度はかなり高めに設定しているのもあって、水中ではマトモに浮くことすらままならない。それはデメリットとも言えるしメリットとも言える。
メリットとしては水中でも普通に地に足を付けて戦えるという点、異なる環境でも普段通りに戦えるというのは非常に有り難い。デメリットは言うまでもないが水の重さによる運動能力の低下だ。言ってしまえば差し引きゼロだが、それ以上求めるのは贅沢というものだろう
さて、敵はグボロ・グボロなのか……あれ?
確かに背ビレはグボロ・グボロで他のヒレやらもグボロ・グボロのものではあるんだが、体が普通の種類と違い魚に近いフォルムになっており砲撃用の砲身も砲身というよりは槍をか何かのように鋭く細いものになっている。グボロ・グボロは鰐に似た姿なのだがこれに関してはカジキマグロと言った方が適切だ。
そんな事を考えているとグボロ・グボロは俺を発見したらしく、一直線にこちらを目掛けて突っ込んでくる。あの槍のようなもので貫くつもりなんだろうが、そんな丸分かりの軌道で突っ込んでくるならその槍を横殴りでへし折らせて貰おう。
いつもの様に右腕の具足でブーストを付加して振るうとした瞬間、俺は自分の失敗に気付き内心舌打ちせざるをえなかった。高速で動けば動くほど空気や水の抵抗は強くなる、それは普段のように地上でで戦うのであれば音速を超えでもしなければそこまで気にする抵抗でもないが、水中であれば最初から結構な抵抗はあるのだ。
そんな中でブースト付きの拳を振るえば凄まじい抵抗が俺の動きを阻害するわけだ。具足のお陰で拳が抵抗で壊れる事は無かったが、スピードが著しく落ちた事によるタイミングのズレで迎撃に失敗し右肩を刺されるハメになった。
刺突単体のダメージは軽いが、追加で槍の先から放たれたウォーターカッターでその傷口を貫通させられたのは痛い。
傷そのものよりも関節を撃ち抜かれた事で右腕に力が入りにくくなったのだ。それでも、予定と大幅に違うもののこいつを捕まえる事が出来た。
俺にとって一番厄介だったのがこいつに水中を逃げ回られ、ひたすらジルを狙われる事だった。どれ程身体能力が優れていようと、俺が人型である限りはこの水中の行動に特化したようなアラガミには水中では追い付けない。
逆に、こいつが陸地に上げられたらどうなるのか……なんて言うまでもないな。暴れまわるグボロ・グボロを左腕で抱え込み、ゆっくりと海の底を歩いて浜辺へと移動する。多少暴れはするものの単純な力では俺の方が上なので押さえつける事は簡単で、離さないようにすることだけに気を付けて砂浜まで運んだ。
「……呆れて物も言えません」
「結果オーライだろ、それにこれ以外でどうにかする方法なんぞ浮かばなかったからな」
俺はそう答えてからグボロ・グボロを砂浜に放り投げつつ、槍で貫かれた上にウォーターカッターで貫通された右肩の傷を治す。
「あとはお前一人でやってみろ、武器もくれてやったんだからその位は働いて貰うぞ」
「言われなくてもそのつもりです」
ジルはそう言って槍を構えてグボロ・グボロの側面に移動する。いくら陸に上げられたとはいえ、特に何処かが壊れている訳でもないグボロ・グボロはまだあのウォーターカッターが使えるのだ。
そんなアラガミ相手に人間の体で正面から挑むのは悪手もいいところだが、それを冷静考えれている辺り実戦慣れはなくともそれをカバーするだけの理屈が頭に入っているっていうことか。ふむ……ゴッドイーターの養成所のような所があるのかは知らんがそれに類する場所で教育を受けたのだろうな。
確か原作でそういう施設あったはずなんだが、全く思い出せない。原作の大まかな流れは覚えているんだが細部に関しては殆ど忘れてしまっているな。
そんな事を考えていると、ジルが横からグボロ・グボロの目を突き刺した。グボロ・グボロの悲鳴が聞こえ、傷口から返り血が吹き出しているがジルは躊躇うことなく更に深く突き刺す。度胸もあるのか、などと一瞬考えたものの彼女の表情を見るにそれはどうやら違うらしい。
彼女の表情は何というか八つ当たりでもしているかのよな暴力的なもので、明らかアラガミを恨んでいるとかではなく他の誰かへの恨みをぶつけているな。はぁ……予想はしていたがこの娘はどうにもいわくつきのようだ。
戦闘に対して意欲的なのは結構だし、戦う動機に関しても兎角言うつもりはないが我を忘れる程の感情はよろしくないな。
「ジル!!」
グボロ・グボロの抵抗を後ろに宙返りして距離を取ることで回避したジルは、俺の声で自分の先程までの状態を自覚したのか顔についた血を拭いながら深く息を吸って自分を落ち着かせる。そして、再び槍を構え直してグボロ・グボロに狙いをつけた。
グボロ・グボロの正面から向き合っているのだが、ジルには何か考えがあるらしく彼女の顔に焦りなどの感情はない。ただ、万一の為にも両足の具足をいつでも起動できる準備はしておかなければな。彼女が死んでしまっては元も子もない。
そんな事を考えている内にジルはウォーターカッターの発射体勢に入ったグボロ・グボロに、一切の躊躇いを持たずに正面から突っ込んだ。そして、彼女は自らの槍をグボロ・グボロのウォーターカッターの発射口である槍のような砲身に突き立てる。
しかし、グボロ・グボロはそれを無視して槍ごとジルを押し出そうとする。ここでのジルはあくまで並のゴッドイーター程度の身体能力でしかないので、恐らく槍ごと吹き飛ばされるだろうな。さて、これに対してどうするのやら。
「マキナさん、一つ言わせて頂きます」
ジルは槍を突き刺したまま俺の方を見た。
「機能を付け加えるのは構いませんが、使うのは私だということを忘れないで下さい」
直後ジルの槍が棘を伸ばし、グボロ・グボロの砲身を穴だらけにするが彼女はそれを引き抜こうとはしない。いや、先程の言葉から察するに単純に力が足りず、棘の生えた槍を引き抜けないのだ。
それを彼女はグボロ・グボロのウォーターカッターによる水圧によって押し出される事で強引に引き抜こうと考えた。結果としてそれは成功し、グボロ・グボロの砲身は完全に崩壊した。
確かにこれは俺の設計ミスだったな。だが、一つ言い訳をさせて欲しい。俺の周りにいた奴で近距離で戦っていた奴を思い出してくれ。カノン、ユウ、アリサ、ソーマだ。アリサは兎も角残りの三人に関してはあの設計でも普通に引き抜けるだろうし、俺の周囲にいたゴッドイーターと言えば彼らだったのだから基準が狂うのも致し方ないだろう?
「マキナさん、謝罪は?」
「悪かったよ……ってこのバカ!!」
ジルの奴、砲身を壊したからって気を抜きやがったな!?収束できなくてもグボロ・グボロは水圧だけで人を潰すことくらいできるんだよ!!
その証拠にグボロ・グボロは壊れた砲身から再度水を発射しようとしている。ウォーターカッターより殺傷能力は低いが、その水圧は人の潰す位の勢いはまだあるのだ。
ジルも気づいたようだが回避は間に合わない、今からグボロ・グボロを殺しても発射は止められない。あークソ!!仕方ない!!
「ちょ、ちょっと何やってるんですか!?」
「見て分からんか?お前の盾になってるんだよ、あー地味に痛いな」
マントでの防御もあるのでこのくらいで死にはしないし大したダメージはないんだが、うん想像より大分痛いな。背中全部に満遍なく金槌で叩かれれいる感じだ……
放水が数秒続いてから止むのと同時にジルは俺を通り抜けて、一直線にグボロ・グボロを再び貫いた。そして、すぐに棘でグボロ・グボロの体を串刺しにすると、正拳突きの要領で槍をさらに深く叩き込み体内を抉る。それを何度も繰り返し、ついに槍は貫通し終えグボロ・グボロの体にトンネルのような大穴を開けた。
「お前……やれるなら最初からやれよ」
「こういう力押しはバカのやる事なんでしたくないんです」
「じゃあ、お前も今日からバカの仲間入りだ」
「認めたくはありませんが、バカはうつるみたいですね」
ジルは俺に手を差し出して、視線を俺に向けた。俺がその手を握り返して握手に応じると、徐々に視界がぼやけ意識も朦朧としてきた。どうやらここから出られるらしいな……
「あ、それと一度しか言いませんからちゃんと聞いてくださいね」
ん?なんだ?
「ありがとうございました」
その言葉を聞くと同時に俺の意識は完全に途絶えた。
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