閃の軌跡 ー辺境の復讐者ー
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第2話~特科クラスⅦ組・始動~
「こら、フィー。さぼってないであんたも付き合うの。オリエンテーリングにならないでしょーが」
建物を支える骨格にワイヤーフックの爪を引っ掛けてぶら下がり、落とし穴を回避した銀髪の少女はサラ教官がナイフを投擲してそのワイヤーを中ほどから切断される。支えを失ったフィーなる少女は「メンドクサイな」などと小声でのたまいながら穴の中に落ちていく。
(へぇ、身のこなしが軽い・・・彼女は強いのかな?)
「・・・あんたたち、何やってんのよ?」
「えっ?・・・なぜか俺の生存本能が目覚めたんですよ」
「・・・私も似たようなものだ」
教官の真横に立ってナイフの惨劇の一部始終を見届けていたケインとその隣の茶髪の少年。そして何故かケインにお姫様だっこをされてしまっている青髪の少女がそこにはいた。いきなり意気投合した茶髪の少年と親睦を深めたいところではあったが、少女にひとつ咳払いをされ、ケインは彼女を降ろす。
「そなた、どうして私を助けた?」
「君が綺麗でどこも汚れて欲しくなかった・・・それだけだよ」
「ふむ・・・・・・?そのようなことを異性に言われたのは初めてだが礼は言っておこう」
「どういたしまして。俺はケイン・ロウハート。よろしく頼むな、えっと・・・」
「ラウラ・S・アルゼイド。レグラムの出身だ。以後よろしく頼む」
「私はアレス・ヴァンダールだ。よろしく願おうか」
「へぇ、帝国の武の双璧が揃うなんて奇遇だな」
帝国における騎士剣術の総本山である、<<アルゼイド流>>。そして、帝国で皇族の護衛を務めてきた武の名門、<<ヴァンダール流>>。その2つの流派は、帝国内において武の双璧と言われており有名だ。剣の道に携わる者は知っているのが当然な程の流派出身者が両方自身のクラスメイトにいるという現実に、偶然ではない何かを感じたケイン。彼女らに少なからず興味はあったが、今度はサラ教官に咳払いをされてしまった。
「あっ、そうだ、教官。彼らに何をさせるんですか?」
「あんたたちも行くのよ・・・・・・」
ケインの俺達は無関係ですよねといわんばかりの発言に、こめかみあたりをピクつかせていたサラだが、その一言だけを口にする。
「(落とし穴回避したら終わりじゃないのかよ)・・・了解しました」
教官の応答に対して少々不満げだったがしぶしぶ承諾したケインは、青髪の少女、ラウラと茶髪の少年、アレスを具して下へと飛び降りた。
「よっと・・・」
「あっ、ケイン。やっと降りてきたんだね」
「まぁな・・・ところでエリオット、何でリィンは頬に紅葉がついているんだ?」
「えっと、それはね・・・・・・」
リィンの左頬には、紅葉模様もとい手形がついているがケインには状況が掴めず、エリオットにその理由を話してもらった。話によると、穴に落ちると際にリィンはある金髪の少女をとっさに助けようとしたが、その少女とあらぬ体勢になってしまい(具体的にはリィンが彼女の下敷きになって顔に胸を押し付けられた状態になったらしい)、その結果に少女からビンタをもらったそうだ。言われてみれば、ビンタをした主は心なしか顔が不機嫌そうに見える。
「(俺も一歩間違えばそうなっていたのか?)・・・なるほど、分かった」
ケインは左頬を痛そうに押さえるリィンに同情の意を込めて横目で視線を向ける。微妙な空気が漂う中、そんな空気を壊すかのようにピピッと着信音が鳴った。制服や入学案内書とセットになって送られてきた携帯用の小型導力器だ。エリオットが声を上げて驚いていたが、音につられた11人は一斉にその導力器を開く。そこからサラ教官の声がする。おそらく通信機能を内蔵しているのだろう。教官はこの装置について説明した。エプスタイン財団とラインフォルト社が共同開発した第五世代戦術オーブメント、<<ARCUS>>。それがこの導力器の正体らしい。戦術オーブメントとは、魔法を使うための導力器だ。このアークスは、結晶回路を嵌めるとアーツが使えるようになるそうだ。とにかく、地下にある台座に11人から預かった得物と専用のマスタークォーツを用意したので各自確認を済ませた上でアークスにクォーツをセットして受け取れとのこと。貴族なんて嫌じゃいとごねていたマキアスが、一体何のつもりだと文句を言いながらも自身の台座を探しに行った。それに続くようにして各々が台座の前へ。ケインは自身の得物を回収し、マスタークォーツを手に取る。
「くッ・・・ぐぁ、があぁぁぁぁッ・・・!!」
光沢のある黒いそれをアークスに嵌めたケインは、突如として苦しみだした。肩甲骨のあたりから漆黒の羽が強制的に具現したのである。体内の何かが体の外に無理やり押し出される感覚に悶えていたが、ほんのわずかの間ですぐに治まる。
(・・・何だったんだよ、今のは)
ケインは初めて体験した感覚に内心動揺を隠せずにいる。アークスにクォーツを嵌めるとケインを除く他の10人はアークスと身体の一部が青白く光っていたが、彼だけは黒光りしていた。とにかく、これで全員がめでたくアーツを使用可能になったらしい。サラ教官は通信越しにオリエンテーションの目的を告げる。地下一階の先は少々入り組んだ地帯だが、そこの終点まで辿り着けということだ。魔獣も徘徊しているそうなので、ケインの考えたとおり軽い力試しのつもりなのだろう。着いた褒美としてほっぺにチューしてやってもいいなどとあほな事をぬかしていたが。そんなことはさておき、ノー・貴族・イン・クラスなマキアスは、単独で先行せんとする四大名門のご子息、ユーシスに食ってかかるも逆に挑発されてムキになり、先行したマキアスに続くようにしてユーシスもさっさと行ってしまった。残る一同はもはや呆れの領域に入っていたが、ラウラの提案によって女子3人組で出発した。ちなみに、銀髪少女の勧誘には失敗したようだ。女子組3人目のリィンの頬の紅葉を作った主である金髪少女は不満を露わにして「フン」と言いながらラウラ達について行った。
「・・・はぁ・・・・・・」
「あはは、すっかり目の仇にされちゃったみたいだね」
深い溜め息をついたリィンは、同情を含んだエリオットの言葉を肯定し、彼女に謝罪をせんと心に決めたようだ。冗談で「彼女がリィンの謝罪を聞かないことに1000ミラかけてやるよ」と言ったケインだが、リィンは「賭け事じゃないんだが・・・」と存外悲愴な口調で返してきたので平謝りした。
「・・・さて、よければ俺たちも一緒に行かないか?」
「うんっ、もちろん!・・・というよりさすがに一人だと心細いよ」
エリオットがケインの提案に真っ先に賛成し、残りのメンバーもそれに続いて同意してくれる。褐色肌の長身少年、ガイウス・ウォーゼル。帝国に来てから日が浅いということでどうやら留学生であるらしく、故郷で使っていたという十字の槍が得物だそうだ。エリオットは魔導杖と呼ばれる新技術の武器を使うらしい。何でもまだ試験段階のものらしく、入学時に適性があると言われて選択したとのこと。リィンの得物は美しい刀身をした白銀の剣で、東方から伝わった太刀というものだ。彼いわく、切れ味はなかなかだが扱いが難しいらしい。アレスのものは燃え盛るような赤色が綺麗な剣だ。驚いたのはそのサイズで、彼の身の丈ほどあるその剣は、幅も広めで得物の威圧感が半端では無い。大剣を構えたその立ち姿は完全に強者のそれで、11人の中ではおそらく上位の強さだろうとケインは思った。
「改めての人もいるけど、ケイン・ロウハートだ。よろしく頼むな」
「・・・ッ!!(何だ、これは?本当に学生が出せる存在感なのか?)」
自己紹介が終わると同時に背中の鞘から剣を抜き、軽く構えただけのケインが放つその圧倒的な存在感に気圧されたリィンは、本能的に疼く胸のアザを片手で押さえた。ケインが右手に持つ剣は黒光りしており、どこか神秘的な雰囲気があった。左手には同系色の篭手を装備している。彼は右手首をひねって一回転させてから剣を鞘に納刀する。様になっていたのか、他の4人にはそれが癖のように見えた。
「・・・それより、ケイン。その、さっきのは大丈夫なのか?」
「オレには黒い翼が生えていたように見えたが・・・?」
リィンとガイウスがケインを心配したのかそんなことを口にする。
アークスにクォーツを嵌める際に背に具現した黒き羽。おそらくそのことだとケインは分かり、少しの間をおいて「今は問題ないよ」と短く答えた。少々含みのある言い方だったが、とりあえずは納得してくれたようだ。ともあれ、5人組男は子他のグループ(ぼっちも数人いたが)からの遅れを取り戻そうと地下一階の最奥目指して出発することにした。不幸中の幸いと言うべきか、徘徊している魔獣はさほど強くなかった。紫色の毛並をした羽の生えた猫型魔獣。カタツムリのような青い一つ目の軟体魔獣。そして、硬い外殻を持つ黄金色の甲虫型魔獣。今のところはその三種が出現するようだ。
「はあぁ~っ・・・」
「エリオット、大丈夫か?」
出発して幾度目かの戦闘を終えた後、脱力したような声を上げ、片膝をつくエリオットにリィンは安否を尋ねる。緊張の連続で気が抜けたらしいが怪我はないそうだ。他の4人は平然としている。が、エリオットが別段足手まといというわけではない。魔導杖での後方支援によって十分に貢献している。ガイウスの言うとおり戦い慣れの違いなのだろう。たとえ雑魚の魔獣が相手であろうとも、油断は負傷や死に直結する。エリオットが自力で立ち上がろうとしたその時だった。エリオットに視線を向けすぎていたせいで段差の上にいる甲虫型魔獣に気づくのが遅れ、彼へのバックアタックを許してしまう。
「エリオット!」
「っ・・・!?」
「くっ・・・!」
「不覚ッ!」
(ダメだ・・・ほんの一瞬間に合わない!)
エリオットに飛び掛かる魔獣を誰も止められない。その刹那。一発の銃弾が魔獣に当たって宙を舞う。それを見たケインは戦技(クラフト)を使用し、目にも留まらぬ迅速な動きで左腰のホルスターから導力式の銃を取り出して弾丸を発射。空中をさまよう魔獣に見事命中、その後消滅した。
「・・・よかった。間に合ったみたいだな。」
最初の弾丸を放ったマキアスが、安堵の言葉を口にしてこちらにやって来る。
「遠距離射撃の精度は相変わらずだな、マキアス」
「僕の方こそ。君の早撃ちには舌を巻くよ」
ケインとマキアスは互いに言葉を交わして右手の握り拳を軽く合わせる。
「えっと、二人は知り合いなの?」
「まぁな。・・・それと、エリオット。すまない」
「え・・・?どうしてケインが謝るの?」
「そ、それは・・・」
元いた場所の時の癖のようなものとはとても言えず、言い淀んでいたケインにマキアスが一つ咳払いをして助け舟を出してくれた。今の咳払いで男子5人の視線が彼に集中しているが。
「・・・その、さっきは身勝手な行動をしてしまったと思ってね。
いくら相手が傲慢な貴族とはいえ、冷静さを失うべきじゃなかった。すまない、謝らせて欲しい」
「マキアス・・・(やっぱり貴族は傲慢前提なのか)」
「あちらの貴族にとて非はある。貴公が気にすることはない」
「うんうん、あんな状況だったしね。危ないところを助けてくれてありがとう」
自身のスタンドプレイを申し訳なく思うマキアスに対してアレスが気を利かせてフォローし、エリオットは窮地を救ってくれた礼を言う。その後、加わってもいいかというマキアスの申し出を一同は快く承諾し、自己紹介も一通り済んだところでマキアスが身分を聞いてくる。しかし、あそこまで貴族嫌悪を露にされては尻込みしてしまう。
「マキアスは知ってるけど、俺は平民で、西端にあった村の村長の息子だ」
自分が平民なのもあってかあっさり身分を言うケインに続いてエリオットも自身が平民であると告げる。留学生であるガイウスの故郷には身分の違いなどないらしい。アレスに至ってはもうバレているかもしれないが、彼の先祖の功績を認められたヴァンダール家は、エレボニア帝国皇帝、ユーゲントⅢ世から正式に子爵位を賜っている。
「マキアスが貴族を快く思っていないのは、何か事情があるのだろう。
仲良きことが最良だと思うが私達はまだ出会ったばかり。互いに相容れないこともある。
無理に仲良くしろとは言わない・・・しかし、これも何かの縁だ。
貴公の気が変わってからで構わないが、私の事も前向きに考えてくれるとありがたい」
「その、含みがあるわけじゃなかったが、君は善良な人間なんだろうな・・・すまない」
「いや、私の方こそ説教紛いの事を長々と失礼した」
傲岸不遜な貴族達を見てきたのかアレスの態度に少々面食らったようだが、彼に短く「ああ」と答えてから今度はリィンに尋ねると、ややあって、
「少なくとも高貴な血は流れていない。そういう意味ではみんなと同じと言えるかな」
という返答をマキアスに返した。だが、これでは平民か貴族かをはっきり言っていない。そう思ったケインはリィンの言葉に欺瞞を感じたが、事情があるのだろうと払拭する。
(誰にだって言えないことの一つや二つぐらいあるよな・・・)
隠し事が多々あるケインは、他人のことは言えまいと5人に声を掛けて先に進むことにした。
ケインがいなくともリィン、ガイウス、アレスと前衛は申し分ないと判断し、ケインはマキアス、エリオットとともに後方支援に徹する。
「ハァ!」
突如として現れた飛び猫、もとい猫型魔獣の蹴りを、気合いを乗せた剛剣の切り上げで弾き返すアレス。それによって後ろに仰け反った飛び猫にタイミング良く弾丸が命中した。ケインの早撃ちである。飛び猫の取り巻きであった軟体魔獣もリィンの居合の一閃によってあえなく撃沈した。遭遇した魔獣との戦闘を終え、互いに労いの言葉を交わす。
「それにしても、ケインは凄いな」
「それはそうだろう。ケインは遠近両方こなすユーティリティファイターだからな」
「何でマキアスが得意げなんだよ・・・」
「ふむ、ユーシス・アルバレアか」
「あの男は・・・」
「ガ、ガイウス!変な聞き間違いしてマキアスの怒りを煽るなよ!」
カタカナ語を聞き慣れていないガイウスの誤りによってマキアスの激おこが再来し、他のメンバーでなんとかして宥めながら、男子6人はさらに奥へと進むのだった。しばらくして女子組と再会したので、軽く自己紹介をしておく。帝国南東の外れ、レグラムを治める子爵家が娘のラウラ。彼女も貴族ということで、例の如くひと悶着あったがそれはさておき。続いて、辺境出身ながら入試の成績で首席を獲得した眼鏡の少女、エマ・ミルスティン。
「むむっ、まさか首席が女の子だったとは・・・」
「マキアスだって次席だろ?」
「・・・そういうケインは三位じゃないか」
「ふむ、三人とも随分優秀なんだな?」
「まぁ、眼鏡が頭良いのは定番だよな」
「さりげなく自分は賢くないと言っていないか?」
いつもの軽口をマキアスと叩いていたケインだが、エマに「まぁまぁ」と言われる。エマとケインに対して少なからぬ対抗心(主に勉強面)を抱いたマキアス。一同はそんなマキアスの心境の変化に気づくこともなく話を続ける。エマもエリオット同様、魔導杖使いであるらしい。その後、再会せし折からずっとリィンに鋭い眼差しを向けたままだんまりを決め込む金髪少女に、全員の視線が集中する。彼女は、ラウラに自己紹介を促されて口を開く。
「アリサ・Rよ。ルーレ市からやって来たわ。宜しくしたくない人もいるけど、それ以外はよろしく」
「ア、 アリサさん・・・」
宜しくしたくない人とはリィンの事だろうが、露骨に言い放つアリサをエマが宥める。ルーレ市とは大陸最大の重工業メーカー、ラインフォルト本社のある街だとマキアスが言う。アリサは「ええ・・・まぁ、そうね」と相槌を打つ。
「へぇ、Rってことはラインf・・・何でもありまセン」
「・・・まったく。あなたも宜しくしたくないわね」
「な、何でやねん」
一人だけ着眼点の違うケインは、アリサのファミリーネームを看破したようだ。ケインに無言の圧力をかけながらも、内心では彼の勘の鋭さを感心すると同時に警戒するアリサであった。そして何とか謝るきっかけを作ろうとアリサの得物たる弓が導力式か尋ねるリィンだが、彼女の「その通りだけど、あなたと何の関係が」という言葉であえなく撃沈した。アレスは、気を利かせて「私達と行動を共にしないか?」と話題を変えて女子組を勧誘する。が、ラウラのスタンドるユーシスと銀髪少女を先に探すためにも二手に別れた方がいいという意見で満場一致した。
(・・・まぁ、アリサのために気を遣ったのかもしれないけどな)
「ラウラ。6人・3人じゃアンバランスだから、一人ぐらいそっちに加わろうか?」
「ふむ、私はそれでも構わないが・・・」
ラウラはエマとアリサを交互に見やると、一応賛同を得たようだ。問題は誰が行くかということだが、アリサは相変わらずリィンは却下だと目で言っている。
「なら、ケイン。君が行くといい」
「分かった。・・・じゃあ、マキアス達も気をつけてな」
提案したのはケインだが、自分が推薦されるのは少々驚きだったようだ。別段嫌では無く、持ち前のポーカーフェイスで快く引き受け男子組と別れて進む。エマ、アリサが後衛、ラウラが前衛ということでケインは愛用の黒剣に持ち替える。
「ハアァ!」
魔獣に遭遇するやいなや真っ先に斬り込みに行くケイン。複数の軟体魔獣が彼の存在に気づいた時にはもう存在が消滅していた。立て続けに出てきた飛び猫をケインは篭手で掴み、軽く真上に放って黒剣で串刺しにする。彼の足元まで近づいた甲虫型魔獣をブーツの靴底で蹴り飛ばして持ち前の早撃ちで仕留めた。ケインは腰のホルスターに導力銃を納め、剣を一回転させてから背の鞘にしまう。
「お疲れ。実はさっきから後衛続きで退屈してたんだよ。いやぁ、戦った戦った」
「お疲れというかわたし達、何もしてないんだけど・・・」
「・・・見事な剣捌きだ。どんな流派か見当も付かないが」
「我流だよ。村で狩人やってたんだ」
会話しながらも周囲への警戒は怠らないのがケインスタイルだ。先ほどはしくじったが、幸い今は魔獣の気配は感じないとケインは3人に伝える。全員で暫し談笑をしながら出口から吹く風の音を頼りに部屋の奥へと歩いていく。段々と風の音が強くなり、奥に階段が見える広間へとたどり着いた。
「ふぅ、どうやらここが終点のようですね」
「そうだな。・・・さて、あの教官、何発で肋逝くかな?」
「ちょ、ちょっと、ケイン!?それは流石に・・・」
「フッ、冗談だよ。アリサは心配性だな」
「あなたが言うと冗談に聞こえないのよ・・・」
やっと着いたという思いのエマの言葉に激しく同意し、あのサラ教官とやらをどうしてくれようかと右手拳の指をポキポキ鳴らすケインにアリサがツッコミを入れる。そんな折、ヒヨコが卵の殻を破るようなピキ、パキという音が聞こえてきた。
「・・・ケイン、指鳴らすの、やめてくれない?」
「俺じゃなくて・・・あれだな」
右手の台座を差すケインの指の先には先程まで石像だったものが動いている。龍の姿をしたその像は変色し、4人の目の前に立ちはだかる。
「石の守護者・・・暗黒時代の魔導の産物か」
「へぇ、帝国ってこんな化物量産してたのか?」
「そんな訳無いでしょう!?」
「だよな。・・・戦うしかないか。さて、俺とラウラが前衛でアリサとエマが後衛だ。
後衛の二人は特にだけど、ヘルプは早めに言ってくれ。・・・行くぞ!」
「承知!」「了解!」「分かりました!」
最後の方は早口になりつつも何とか作戦を告げたケインは、言い終わってすぐ宙に飛ぶ龍に斬りかかる。しかし、想像以上に固く、腹への一閃は浅い傷をつけるに留まった。
「ちッ、浅い。それなら・・・」
ケインは自身の篭手に入っているエニグマを駆動する。その後、アリサに迫り、鋭い爪で引っ掻こうとした龍の一撃をケインが篭手で防ぐ。続いてラウラの大剣が上段から振り下ろされるも、硬質な龍の体躯には刃がなかなか届かない。反撃とばかりに再び龍の爪が襲い掛かるが、ラウラは飛び退さり、それをかわす。ケインは「みんな、離れてくれ!」と短く叫び、エニグマからアーツを発現した。突如として出現した雷撃を孕む巨大な竜巻が、龍をみるみる飲み込んでいく。何とか脱出を試みる龍は、それも叶わず地に伏してしまった。
「な、何よこれ・・・」
「風属性の高位アーツ、ですね」
「当たり。さすが入試首席者ってところかな」
「その、首席はたまたまですよ・・・とにかくお疲れ様です」
「いや、まだみたいだ・・・」
ケイン以外が頭に疑問符を浮かべているようだが、満身創痍で地に伏したはずの龍は、力を取り戻して立ち上がる。ガーゴイルの生命力に驚き、一同が諦観しかけたが、遅ればせながらやってきた男子5人組とユーシス、それに銀髪少女も戦闘に加わり、形勢を逆転する。リィンが太刀の一閃を龍の腹に入れ、いつの間にか龍の背後にいる銀髪少女が双銃剣で後ろ足にダメージを与えて行動を阻害した。勝機は今だと誰もがそう思い、青白い光に包まれた11人の総攻撃が始まる。ユーシスに横薙ぎの斬撃に、ガイウスの一突き。エリオット、エマによる魔導杖の魔法攻撃に加え、マキアスのショットガンによる援護射撃。フィーの斬撃とリィンの斬撃波。大剣を上段から振り下ろすアレスとラウラ。トドメの一撃として、ケインの迅速な斬撃が、怯んでいる龍の首を中ほどか断ち切った。流れるような怒涛の連撃によって龍は再び石化し、朽ち果てる。安堵した11人は、先ほどの奇妙な感覚について話し合った。全員が青白い光に包まれた瞬間、互いの動きが手に取るように視えたとラウラは言う。ケインはそれに同意し、それが11人が持つ新しいオーブメントの力なのではないかと口にした時、上から女性の声がする。いわずもがなサラ教官だ。彼女はそれがアークスの真価だと言い、さっきの戦闘やその他もろもろを「最後は友情とチームワークの勝利よね。お姉さん感動しちゃった」などと畳む。ケインにはそれが戯言にしか思えなかった。そして、特に悪びれた様子もなく階段を下りてくるサラ教官は特別オリエンテーリングの終わりをアナウンスするが、一同はアリサの言った通り、疑問と不信感しか湧かない様子。
「単刀直入に問おう。特科クラス<<Ⅶ組>>・・・いったい何を目的としているんだ?」
疑問の核心を突くユーシスの質問に、淡々と答えていくサラ教官。どうやらここにいる11人が選ばれたのは色々な理由があるらしい。その理由の一つが全員が持つ戦術オーブメント、アークスの真価たる<<戦術リンク>>。お互いの行動を把握できるような連携が可能であれば、戦場において、この真価は相当役立つ。しかし、このオーブメントは個々の適正に差があるため、高い適正を示したメンツが選ばれた。つまりはそういうことらしい。しかしケインは、身分に関係が無いクラスであることの方が重要ではないかと考える。
(・・・おそらく当クラスの設立には、革新派と貴族派の対立が根本にある。
様々な立場の人間の憶測が働いていると考えていいかもしれない)
疑問に思うことはすぐに考え込んでしまうのは、今は悪い癖で、これは推測の域を出ないことだと自己完結させるケイン。そこで、一通りの説明をしたサラ教官から特科クラス<<Ⅶ組>>への参加を11人に意志確認してくる。教官いわく、Ⅶ組のカリキュラムは、他クラスよりハードであるらしい。もし不参加だと言うのなら、貴族生徒はⅠ・Ⅱ、平民生徒はⅢ~Ⅴとそれぞれが所属するはずだったクラスに行くという方式であるらしい。
「ケイン・ロウハート。当クラスに参加します」
「一番乗りは君か。やっぱり何か事情があるみたいね」
「もっと強くならないといけませんから・・・ただそれだけです」
ケインが初めに名乗りを上げ、アレス、リィン、ラウラ、ガイウスが参加を表明する。続いてエリオット、エマ、アリサ、フィーも参加することを告げた。残りのユーシスとマキアスは、例の如くひと悶着あったが、とりあえずは二人とも参加する方向で意志は固まったらしい。それぞれの異なった想いを胸に、特科クラス、Ⅶ組は全員参加で幕を閉じた。これが帝国に新たな風を巻き起こすかは、女神のみぞ知ることであろう。
後書き
分けるところではないと判断して書いたら長くなってしまいました。最後の方も少し駆け足気味ですね。自分の力不足です。申し訳ない。
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