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ドリトル先生と伊予のカワウソ

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第七幕その六

「貴方達は別にマフィア等ではないですね」
「とんでもない、我々は由緒正しいカワウソの一族です」
「それではですね」
「悪事に手を染めたことは一度もありません」
「そうですか」
「日本でもそれは同じです」
 老紳士は先生にはっきりと答えました。
「我が一族は真っ当に生きることが家訓です」
「だからですね」
「日本でも既に生きるだけの、この屋敷に一族全員が生きられるだけの仕事を見付けています。もっとも我々人間の姿になれるだけの者達ならば」
 例えカワウソでも、というのです。
「術で金や宝石を造り出せますので」
「錬金術ですね」
「はい、それがありますので」
「資産には困らないので」
「悪事をすることはありません」
 少なくとも生きることに困ってそうしたことはしないというのです。
「全く」
「そうですか、このことはあちらにもお伝えしておきます」
「お願いします、ただ」
「あちらが、ですね」
「狸さん達は何もしませんね」
 ここでこう言うのでした、老紳士は怪訝なお顔になって。
「我々余所者に」
「はい、排他的かといいますと」
「違いますか」
「そうした方々ではないですか」
「むしろ友好的ですね」
 その狸さん達についてもです、先生はお話しました。
「あの方々はですか」
「それなら安心出来ますが」
「がい、ただ貴方達のことは」
「知らないと」
「そうです」
「左様ですか」
 老紳士は難しいお顔で先生に応えました。
「我々のことを知らなくて」
「警戒しておられます」
「そして我々もですね」
「そうですね」
 そうなるとです、先生も答えます。
「貴方達も狸さん達のことを警戒しておられますので」
「一緒ですね」
「そうなりますね」
「ではどうすればいいでしょうか」
「お互いを理解することかと」
 先生は老紳士にこう答えました。
「貴方達がただ日本に移住されただけで」
「狸さん達も排他的ではない」
「むしろ今日本にカワウソは残っていないかも知れません」
「あっ、そうなのですか」
 このことを聞いてです、老紳士は驚いた声をあげました。
「この国には」
「はい、ニホンカワウソは絶滅している可能性があります」
「それは残念なことですね」
「そしてです」
「そしてとは」
「狸さん達はそのことを寂しがっておられまして」
 もうカワウソさん達に会えないことがです。
「こうした事情もあります」
「そうなのですか」
「貴方達は日本で暮らしたいのですね」
「はい」
 その通りだとです、老紳士は先生に答えました。
「そう思って移住してきました」
「この松山に」
「そうです」
「ではこのことは渡りに舟ですね」
 狸さんがカワウソさん達に会えなくなって寂しかっていることはです。
「このことから受け入れて貰えるかも知れません」
「最初からこの街にいる人達に」
「そうです、しかも日本はです」
 この国自体がというのです。 
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