原石とダイア
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第四章
第四章
「全部ね」
「そういうものなんだ」
「今やっとわかったみたいね」
ここでココアがはいった。すぐに盆に入れてそれを持って来る。彼の分と自分の分、白いカップにそれぞれ入れて持って来た。
「そういうものなのよ。何かが変わればね」
「全部変わっていく」
「今のあんたがそうじゃない」
また彼に対して話した。
「私から見てももう全然違うわよ」
「そんなになんだ」
「別人ね。ちょっと前まであんなに地味だったのに」
「三日会わなかったら、ってやつかな」
光臣はここで中国のある言葉を思い出した。
「人間は完全に変わってることもあるって」
「そうね。まさにそれよ」
「男子三日会わざればだったかな」
彼はその言葉を何となくだが思い出した。
「カツモク!?」
「それよ。今のあんたがまさにそれね」
母は自分が淹れたそのココアを手に取って楽しげな顔で彼に述べた。
「本当にね」
「そうなんだ。それっていいことだよね」
「ええ、あんたが幸せならね」
いいというのだ。
「そうなるわ」
「そうなんだ。けれど」
だがここで彼は。その言葉を曇らせてきた。
「ちょっとね」
「ちょっと!?」
「うん、最近どうもおかしいんだ」
不意に言葉を曇らせるのだった。ココアを手にしてもそれに口をつけない。
「ちょっとね」
「どうかしたの?」
「男の子には遊びに誘ってもらえるし女の子はいつも何人か傍にいてくれて」
「最高じゃない」
「けれどね」
母の言う通りだがそれでもであった。
「ちょっと。どうかな」
「どうしたのよ」
彼の言葉がどうにも煮え切らないので問い返した。
「そんなふうでもまだ不満なの?」
「不満はないよ」
そうではないと答える。
「ただね。ちょっとね」
「ちょっと?」
「そういうのとはまた別にね」
人気があるのとまた別に、ということだった。確かに人気があるのはいいこととしたうえでだ。
「誰かいつもね。傍にいて欲しいかなってね」
「ああ、そういうことね」
母は彼の今の言葉を聞いて全てを察したのだった。それで納得した顔で頷く。
「あれよね。彼女が欲しいのよね」
「そうなるの?」
「馬鹿ね、他に何があるのよ」
包容力のある笑みを彼に向けて述べた。
「最初に言ったわよね。どうしてお父さんと一緒になれたのか」
「うん」
「お父さんが中身も外見も格好よかったからよ」
またこの話であった。
「だからなのよ。だからね」
「僕もってこと?」
「そうよ。あんたもね」
ココアを飲みながら彼に話すのだった。ココアから出る湯気がその顔にかかっている。
「そうじゃない。特別な人でもない限り彼女か彼氏が欲しいものよ」
「だったら僕も」
「そういうことよ。当たり前じゃない」
当然とまで言うのだった。
「それもね。だったら探しなさい」
「探すって彼女を?」
「ひょっとしたら向こうから来るかも知れないけれど」
明るい調子で彼に話す。
「そうしないと努力して変わった意味ないわよ」
「そういうものなんだ」
「わかったら彼女作りなさい」
このことを強調して告げた。
「いいわね。それもいい娘をね」
「うん」
ここでやっとココアに口をつけることができた。何はともあれ彼女を作ること、話はそれで結論が出た。しかし実際に何とかしようと思っていても今までそういった相手がいなかったので何をしていいのかわからない。男友達、しかも彼女がいる人間にそれを何処となしに聞いても返事は曖昧なものだった。
「どうにかなるものなんだよな」
「どうにかって?」
「だからどうにかなるものなんだよ」
彼はこう光臣に言うのだった。
「どうにかな」
「それじゃあわからないけれど」
「気付いたらできてるんだよ」
彼の今度の言葉はこうだった。
「気付いたらな」
「気付いたらって」
随分と無茶苦茶な言葉だと思った。それを実際に言おうとするとそれより前に相手から言葉が返ってきたのだった。
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