IS 〈インフィニット・ストラトス〉 ~運命の先へ~
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第6話 「姉妹」
前書き
自動車教習のせいで再び忙しくなってきたGASHIです。書き溜めそろそろ終わりそうだし、コラボ計画も着々進行中だし、嬉しいやら悲しいやら・・・。
一夏と別れた後、俺はぞろぞろと群れ集まる女子を適当にあしらいながら学生寮へと帰った。小綺麗な木製のドアを開けて部屋に入る。
部屋は思っていたよりもずっと綺麗で快適なものだった。無駄な調度品がなく機能性を重視しているが、設備全てが高級ホテル並の物。国立の施設とはいえ、学生の身分でこの贅沢な部屋に住めるとは、まさしく役得だろう。
俺は荷物を置き、ベッドに寝転がる。背中に心地よい弾力を感じながら専用機《武神》のプライベートチャネルを開く。
『はいはーい、愛しの束さんだよ~!』
部屋に響き渡る朗らかな声。うん、やっぱり束さんの声聞くと安心するなぁ。ホームシックだろうか?
「こんばんは、束さん。例の件は順調ですか?」
『うん、もうバッチシだよ!いっくん、喜んでくれるかな~?わくわく♪』
「喜ぶと思いますよ。じゃあ、後で千冬さんに報告しておきますね。」
『それでそれで、どうかな、初めての学校は?何か面白いことあったかな?』
「それがですね・・・」
『兄様からですか、束様!?』
楽しく談笑していると、いきなり束さんの背後からクロエの声が聞こえてきた。何やら慌ただしいが、また料理でも失敗したのか?
『あ、ヤバ・・・。ちょっ、くーちゃん!?あんまり引っ張ると痛いよぉ!代わるから、待ってってば~!』
目の前の画面で繰り広げられるドタバタをしばらく眺めていると、画面にクロエの顔のアップが映った。その後ろでは束さんが顔をひょこっと出しながら画面に映ろうと必死になっている。2人とも可愛いなぁ。
『兄様、一体どういうことですか?何故兄様がIS学園に入学などしているのです?説明を要求します!』
「は?説明って・・・、もしかして束さん、結局クロエに何も伝えなかったんですか?」
実はあの後、すぐにクロエに話す予定だったが、入学手続きや俺の専用機の開発、調整を兼ねた戦闘訓練など色々立て込んでいたため話す機会がなかった。というわけで束さんにそれを頼んだのだが・・・。
『だ、だって、くーちゃんに話したら絶対反対されると思ったし・・・、ほら束さんも忙しかったし。ね?』
「ほぉ、言い訳はそれだけですかね?」
『え、えっと~・・・、テヘッ♪』
テヘッじゃねえよ。クロエ涙目じゃないですか。本当に気まぐれというかマイペースというか適当というか・・・、言葉で言い表すと際限がなさそうだな。
『兄様!!』
「落ち着けって、クロエ。ちゃんと説明してやるから。な?束さんも困ってるし。」
『・・・兄様がそう仰るなら。』
クロエを落ち着かせた後、俺は学園に入学した経緯を話した。といってもそこまで話すことは多くない。束さんに一夏と箒の護衛を頼まれたこと、幾つかの条件を提示した上で承諾したこと、そして何より自分自身興味があってこうしていること。説明には10分も費やさなかった。
『・・・では兄様は卒業まで帰ってこないのですか?』
「まあそうなるな。俺だって寂しいさ。でも、これは俺が自分でやりたいと思ったことだから。」
『・・・そうですか。』
納得してくれたようで、クロエはちょっと寂しそうに微笑んだ。
『お騒がせして申し訳ありませんでした、兄様。学校、楽しんできてくださいね。』
「ありがとう。休日使って出来るだけ戻るようにするから、心配するな。」
俺の言葉を聞いて安心したのか、その場を退いて束さんに謝罪するクロエ。束さんはそれを笑って許した後、満面の笑顔で口を開く。
『くーちゃん、やっぱり可愛いなぁ。』
「帰ったらお仕置きですから、覚悟しておいてくださいね、束さん。クロエを泣かせた罪は重いですよ。」
『・・・そうだね、除け者にしちゃった束さんが悪い。うん、反省、反省。』
珍しく素直な束さん。こんな束さんが見れるなら、案外悪くなかったかも。・・・って、何言ってんだ、俺は。
『それで、何か面白いこと・・・』
コンコン。
俺の部屋にノックの音が響いた。初日から客人とは、俺っていつの間にそんな人気者になったのだろうか。話を遮られて一気に不機嫌になった束さんに静かにするように指示した後、扉に向かって問いかける。
「誰だ?」
「篠ノ之 箒だ。今ちょっと良いか?」
箒だと?よりにもよって束さんと通信中にとんでもない客が来やがった。束さんの方を見ると先程までの不機嫌面は何処へやら、すっごいキラキラした目をしている。
「えっと『おーい、箒ちゃ~ん!束さんだよ~!元気~!?』ちょっ、アンタ何やってんの!?」
久々に聞いた愛しの妹の声に舞い上がった束さんが大声で呼び掛ける。この人、もうちょっと自分の立場を弁えて行動できないのかよ!?
「なっ、姉さんがいるのか!?おい、零、ここを開けろ!」
案の定、箒は束さんの声に反応した。ドンドンとドアを叩きながら大声をあげている。ああもう、何なんだこの絶妙に面倒な姉妹は。こうなったら強硬手段に出るしかない。
「うるさいぞ、箒!他の奴等に聞こえたらどうすんだ、アホか!・・・束さん、続きはまた今度ということで。切りますね。それじゃ。」
『え、ちょっ、れーk』
束さんとの通信を半ば一方的に切断し、部屋に箒を招き入れる。不機嫌そうな顔をした箒は部屋をキョロキョロと見回した後、俺に詰め寄って捲し立て始めた。
「零、姉さんは何処にいる!?」
「いる訳ねえだろ。さっきまで通信してただけだっての。ってか声のトーン落とせ。他人に聞かれていい内容じゃねえだろうが。」
俺の言葉にハッとする箒。大体、束さんがここに来ているなら千冬さんが見逃すわけがない。今頃鬼の形相で部屋にすっ飛んで来ているだろう。声が聞こえたから部屋にいるってどれだけ単純なんだ、お前は。
「す、すまん。つい・・・。」
「気にするな。茶を入れてやるからそれ飲んで落ち着け。」
俺は簡易キッチンに向かう。俺はコーヒーの方が好きだが、客人用に一応買っておいた甲斐があったな。
「それで用件は?まあ粗方予想はついてるけど。」
「・・・姉さんのことだ。お前と姉さんの関係について聞きたくてな。」
まあ、それしかないよな。お茶とコーヒーを作り終えた俺は箒にお茶を渡すと、荷物の中からあるものを取り出す。重厚なそれを床に置くと、箒は驚いたようにそれを見つめる。
「箒、お前将棋はさせるか?」
「あ、ああ。一応心得はあるが。」
「じゃあ指そう。心を落ち着かせるにはちょうど良い代物だ。話は指しながらしてやる。」
俺は目の前の将棋盤の上に駒箱から駒を移し、無言で王将を掴み取った。箒も俺に従って駒を並べ始める。
「「お願いします。」」
「そうか。姉さんがお前をな・・・。」
パチ。
「そういうことだ。言ったろ?束さんは俺の命の恩人だってさ。」
パチ。
心地よい駒音が響く中、俺は箒に全てを話した。幼い頃の記憶がないこと、路上で生活していた俺を束さんが拾って育ててくれたこと。姉の意外な一面を垣間見た箒は少し複雑な気分のようだ。
「あの姉さんが赤の他人だったお前に興味を抱くとはな。正直意外だ。」
「・・・お前は束さんのことが嫌いなのか?」
俺は一番気になっていたことを聞いてみることにした。返答次第では俺の態度も改めなくてはならない。箒は少し考えた後、静かに口を開いた。
「・・・正直、よく分からないのだ。確かに家族がバラバラになったのは姉さんのせいだ。それは許せない。だが・・・。」
「だが?」
「・・・姉さんは優しいのだ。昔も今も、変わらずに。」
そう言って俺を見る。まるで俺が受け取った優しさを自分の過去と重ねるように。
「・・・案外そっくりなんだな。流石は姉妹ってとこか。」
「私と姉さんが、似てる・・・?」
よほど違和感を感じたらしく、箒は怪訝そうな表情を浮かべる。まあ、確かに雰囲気は真逆だけどさ。
「似てるよ。その不器用な優しさとかさ。」
パチ。
手元の将棋盤を見ると、いつの間にか箒の玉が詰んでいた。箒はしばらく盤面を見た後、笑顔を浮かべて立ち上がった。
「良いものだな、誰かに話すということは。少し楽になった。」
「そいつは良かった。また来ると良いさ。その時はもうちょい将棋強くなっとけ。楽しみにしてるぜ。」
「ああ、ではな。」
箒が出ていってすぐ、隣の部屋のドアが開く音がした。あらら、一夏の奴、帰ってきても大変そうだなぁ・・・。
後書き
実はファース党(というか篠ノ之姉妹が大好き)なので、かなり箒が美化されてますね。いやはや、この頃の箒はこんなにキレイだったっけ・・・?まあ、ご容赦ください。
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