Fate/EXTRA〜もう一人のアーサー王〜
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全ての予兆
前書き
最近、挿絵を定期的に投稿しようかどうか迷ってます。描いた方が自分としては盛り上がるんですが読者様が観ると不快に思うかもしれませんし、時間も限られているという…。どうするか悩みどころですね…。
俺とセイバーがここに来て数時間が経過した。
「ところでマスター、対戦相手について連絡は来たか?」
静寂に包まれた空間でセイバーが椅子に腰つけたまま俺に話しかけた。いきなりの事で少し驚きはしたが俺はポケットから携帯端末機を取り出し、確認する。
「いや、今んとこないな」
対戦相手の発表は廊下の掲示板で提示され、それを知らせる為に携帯端末機に連絡が来るはずなのだが…今はないようだ。
「……変だな」
ふとセイバーが呟いた。
「え、何が?」
「いつまで経っても連絡が来ない事がだ」
セイバーは表情を曇らせながら言う。俺にとっては別に気にするような事ではないのだがセイバーからすると何かあると思ったのかもしれない。セイバーは席から立ち上がる。
「マスター、言峰神父に次の対戦相手の事を訊いてほしい」
「別に構わないけど…」
本当の事を言うと言峰神父はあまり好かなかった。ねっとりと纏わり付くようなあの雰囲気がどうにも合わない。不安に襲われながらも、俺は渋々扉を開け、一階にいるであろう言峰神父の元へと向かった。
一階に降りてみると、人集りができていた。なんだろう?と思い、人集りの中を割っていくと、衝撃の光景が広がっていた。廊下は何か大きな鉄球でも落としたかのような穴がいくつも空き、壁には亀裂が走り、今にも崩れてしまいそうだった。
「これは…」
『サーヴァントだろう。この惨状がなによりの証拠だ』
霊体化したセイバーが側から声をかけた。確かにこの現状から察するにサーヴァントの仕業だ。しかし、原因となったサーヴァントがどこにも見当たらない。
「おい聞いたか?さっきの騒ぎのこと」
「ああ、聞いた。サーヴァント同士が戦っている時に一人のマスターとサーヴァントが乱入して一瞬で二体のサーヴァントを潰したんだろ?」
「ああ、相当ヤバイらしいぜ。噂では二体のサーヴァントを潰したサーヴァントが使っていた武器は見えないって聞いたぞ!」
「マジかよ」
そんな会話が野次馬の中から聞こえてきた。その瞬間、とてつもなく不安に襲われた。話から察するにこの場を収めたマスターとサーヴァントはとてつもなく強い。とても俺なんかじゃ太刀打ちできない程に。もし、一回戦から当たると考えたら、恐怖せずにはいられなかった。
決してセイバーを弱いと言っている訳ではない。ただ、俺がセイバーの足を引っ張り、負ける。そんな光景が脳に浮かぶのだ。
『マスター、恐怖しているのか?』
「ッ!?」
セイバーの一言に図星を突かれた。全くもって自分が情けないと思う俺。これではマスター失格だ。セイバーに色々と責め立てられると覚悟する俺だったが彼女から出たのは罵声の言葉ではなかった。
『なに、罵るつもりはない。寧ろ当然の事だ。もし逆に喜ぶと言うのならオレはそんな奴とは組むつもりはない』
意外な言葉だった。セイバーの性格ならこれぐらいでビビるな!と叱咤されるかと思ったが…。
その時だった。
「マスター諸君、今し方は見苦しい所を見せてしまい申し訳なく思う。暴れたサーヴァント二名の処遇はマスターも含めた失格という形をとらせてもらった。又、失格者の対戦相手については不戦勝。そして、破壊された床や壁はすぐに修復するので少し待ちたまえ」
野次馬の後ろから声が上がった。一斉に振り返る野次馬達。目の前には不敵な笑みを浮かべる言峰神父が立っていた。ちょうど良い。対戦相手の事を訊いてがてらさっきの事を聞いてみよう。
俺は人込みを何とか抜けながら、言峰神父の元へと辿り着く。
「白羽 優ではないか。どうした?」
言峰神父は俺を見るなりまた怪しく微笑んだ。やっぱりこの人は苦手だ、と思いながら対戦相手の事を訊いてみた。
「対戦相手が通達されていないだと?先程の戦闘が関係あるのかもしれないな」
少し待ちたまえ、と言うとスッと目を閉じた。何が起こってるんだ?と疑問に思いつつ神父を待つ。数秒後、神父は目を開けた。
「どうやら不具合が生じ、君とその対戦者には通知が行っていないらしい。すまないが、明日まで待ってくれ。それまで、アリーナで時間を潰すというのはどうだ?」
アリーナ。サーヴァントを鍛える為の場所と言った方が簡単だろうか。アリーナには敵性プログラムと呼ばれるエネミーが放たれており、それを倒す事でサーヴァントの経験値やこの学校で使える通貨等が手に入るらしい。
それと、たまに礼装という物もあり、道中のアイテムボックスに設置されている。これは体に身につけることで自分の魔力をアップする事ができたりとか、魔術を放つ事ができるそうだ。
「分かりました。ところでなんでこんな事態が?」
「噂で聞いた通りだ。一人のマスターが敵サーヴァントに襲われたのだ。護衛に回っていたサーヴァントがそれに反撃。戦闘に発展した」
言峰神父はそこで話を止めた。戦闘を止めたサーヴァントの事を言わないのだろうか。ここを仕切る神父ならことの結末を見ているはずだ。
「この場を収めたマスターとサーヴァントの事は言わないんですか?」
すると、神父は笑みを深めた。
「言ってみるのも一興だが止めておこう。相手が最後まで分からない方が面白味があるというものだ」
こっちとしては全然面白くない。なんせこっちは命がかかっている。楽しみつもりもないし面白がるつもりもない。
「相手を詮索するのも良いが、周りを確認する事を勧める」
神父はそう言うと、俺の後ろの方を見た。俺もその視線に気づき、後ろへと視線を移す。すると、さっきまで穴だらけだった廊下が元の状態に戻り、壁はまるで傷がなかったかのように消えていた。
俺はすぐに神父の方へと振り向くが、そこには神父の姿がなかった。
『あの男の言っている事は気に食わないが、正論だな』
「どうする?セイバー」
誰にも聞こえないようにひっそりと話す。
『アリーナで鍛えさせてもらうか。マスターにもオレの実力をしっかり見物してほしいからな』
「分かった」
野次馬がそれぞれの場所へと散っていく中で俺はアリーナがあると言われている倉庫へと向かう。とりあえずセイバーと少しはコミュニケーションが取れるようになってきたのは大きな一歩だ。そしてそれが少し嬉しく、気分が浮ついた。
第一層 一の月想海
倉庫内に入ると、景色が変わった。殺風景な通路がずっと奥まで続き、言いようのない不気味な気配が道を覆っていた。ここがアリーナか…と辺りを見渡す。どうやら、すぐそこにはエネミーはいないようだ。
ふぅ…と安心した時だった。
「怖いか?マスター」
セイバーが片手に大剣を携え、鎧姿で俺の目の前で実体化して話しかけてきた。少しびっくりはしたものの、すぐに冷静さを取り戻して切り返す。
「いいや、これぐらいなら大丈夫だ」
ところで、と俺は言葉を付け足した。
「それ重くないの?」
俺が指すそれとはセイバーが身に纏ってる鎧の事だ。頭、胴体、手、脚、至る所まで完全防備された鎧が重くないはずがない。聞いたところによると鎧の重量は種類によるが30~50キログラムまであるらしい。華奢な体の女の子がとても着れる代物ではない。
「これか?いや、重くはない」
「動き辛くはないのか?」
「ああ、多少はな。しかし、防御と攻撃が同時に行えるのはオレとしても有難いからな。そこは目を瞑っている」
さすがは英雄。戦いの事を分かってる。その知識があるだけで俺にとってはかなり心強い。俺がそう思った時だった。
「マスター、一旦話は区切ろう」
セイバーは片手の大剣を肩に担ぐと、前を向いた。最初は何を言っているかは分からなかったがすぐにセイバーの言葉の意味を理解する。
通路の奥から蠢く影があった。敵性プログラム。マスターやサーヴァントを鍛える為に用意されたプログラム。ゴクン、と生唾を飲み込む。鍛えると言っても聞こえは良いが、もしプログラムに負けたらそこで聖杯戦争の出場資格は失う。それどころか、死を迎える事になる。
「安心しろマスター。お前はオレが守ってやる」
「セイバー…」
頼む、その意を込めて俺はコクリと頷いた。
「それでは行くぞ、マスター!!」
「おう!!」
セイバーはエネミーに向かって、走っていく。俺も遅れながらではあるが後に続いて走った。相手のエネミーも俺たちに気付いたらしく、臨戦態勢に入る。セイバーは走りながら剣を構え、そして勢いよく飛ぶ。
すぐ下にいるエネミーに狙いを定め、セイバーは剣を振り下ろす。エネミーは避ける暇もなく真っ二つになり、砂糖菓子のように砕け散った。
セイバーは着地すると、剣を払った。後で追いついた俺は意図も簡単に終わった戦闘に驚きを隠せなかった。本当にエネミーは強かったのか?と錯覚するぐらいにセイバーは圧倒的に強かった。
「凄いなセイバー。これなら余裕なんじゃないか!?」
「気を抜くな。エネミーはまだいる」
セイバーがそう言うと、剣を再び構えた。
「どうするマスター。ここで引き返しても良いぞ?」
ここで引き返しては男ではない。いずれはここのアリーナを攻略しなくてはならないのだ。一々立ち止まっちゃいられない。
「いいや、行けるとこまで行こう!」
俺は呼吸を整え、いつでも走れる状態にしておく。
「良い心掛けだ。置いてかれるなよ!」
その声を合図にセイバーと俺は奥の道へと走って行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は疲労で使え物にならなくなった足を引きずりながら部屋に無事帰還した。結局あの後、セイバーはエネミーを狩る事に夢中になり過ぎ、俺の晩飯を食う時間まで消費した。そして現在時間は夜の九時。全身鉛と化した俺の肉体はそろそろ限界を迎えようとしていた。
なんとか部屋に入ると、俺は吸い込まれるようにベッドへとダイブした。ふかふかのベッドの感触が気持ち良い。空腹さえも忘れて、このまま眠りの中へと落ちていきたい。
がしかし、
「風呂も入らず何を寝てるんだマスター。このまま寝るのは許さんぞ!」
セイバーはそう言いながら、俺の襟を掴み上げるとベッドから引きずり下ろし風呂場へと連れて行こうとする。
「いででで!何すんだよセイバー!俺はもうヘトヘト死にそうなんだよ!眠らせてくれよ!」
「何が死にそうだ!お前、ずっとオレの戦いを見物していただけだろう!」
勘弁してくれよ…そう思いながら必死に抵抗するが、女の子と言えど相手はサーヴァントだ。力の差は歴然。俺は無理矢理散歩に連れてかれる犬のような状態で風呂場に連れてかれた。
風呂場に着くと、セイバーはどっから取り出したのかタオルを俺の顔面に投げて渡してきた。しかし、キャッチする気力もない俺は顔面でそれを受け止めるしか方法はなかった。
ボフッ、軽い音が鳴りながら俺の顔の上にタオルが乗る。渋々タオルを顔からどけ、諦めて風呂に入るしかないかと決断した時だった。目の前に起きている事実に衝撃を受けた。
「おいおいおい!何してんのセイバー!?」
「何をするも何も、風呂に入る」
キャミソールを捲り上げようとした状態で一時停止するセイバー。アウトゾーンギリギリの所で止まって良かったとホッと胸を撫で下ろす。ポカーンとした表情を浮かべるセイバーだったがその意味は本人は理解していない。彼女に羞恥心というものはないのか!?
「先にセイバーが入れ!俺は外で待ってるから!」
「何を言ってるんだ。二人いっぺんに入った方が楽じゃないか」
俺の言っていることが分からないのか眉を顰めるセイバー。なるべく彼女が女だからという事は触れないように論理的に言う必要がある。
「ほら、やっぱり一人の方が疲れを取る事もできるしゆっくりできるだろ?なら時間をかけてでもやる価値はあると思うんだ!」
すると、俺の言葉が通じたのかなるほどと納得するセイバー。
「効率は悪いが確かに確実性はあるな。意外と考えるではないかマスター。では、先に入らせてもらうぞ」
そう言うと、服を脱ぎ出すセイバーに俺は慌てて目を逸らし部屋から出て行った。
なんとかやり過ごした。もし返答を誤っていたら殺されていたかもしれない。これが何回もあると思うと辛い。ここで俺は過ごせていけるのだろうか…。言い知れぬ不安が募ってしょうがなかった。
「おいマスター。シャンプーどこだ?」
「わわわっ!裸で外でんな!!」
後書き
今更ですがお気に入り登録の欄に3件も登録されていてびっくりしました!お気に入り登録をしてくださった読者の方々にお礼を。ありがとうございます!!
まだまだ未熟者ですが精一杯頑張っていくつもりです!
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