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万華鏡

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第八十四話 リハーサルその十一

「その時はお花見ね」
「そうね、お花見ね」
「お弁当とお酒持って行ってね」
 この二つは欠かせなかった、お花見故に。
「そうしてね」
「楽しもうね」
「そうね、春になるのねもうすぐ」
「二年生になることが不安でもね」
「春が来ることはね」
 そのことだけでだった、暖かくなりそして桜が咲いて花見が出来る。こうしたことを思うとそれだけでだった。
 琴乃はだ、自然とこの言葉が出た。
「いいことね」
「それだけでね」
「お花見、何を作ろうかしら」
「お弁当ね」
「うん、何がいいかな」
「琴乃ちゃんのお料理はねえ」
 景子はここでだ、少し苦笑いを作ってみせて琴乃に言った。
「味はいいけれど」
「外見が、っていうのね」
「野菜炒めがスクラップっていうか」
「スクラップって何よ」
「だから鉄屑を集めたみたいな」
「それ食べものじゃないじゃない」
「実際にそうじゃない」
 琴乃が作った野菜炒めの外見は、というのだ。
「盛り付けだってね」
「ううん、昔から盛り付けとか下手なのよ」
「それでも何故かね」
 琴乃の料理の外見は確かに悪い、しかしなのだ。
「火の通し方とか味付けはいいのよね」
「そういうのは得意なのよ」
「けれどなの」
「飾り付けとかはね」
 料理のそうしたことについては、というのだ。
「はじめて作った時から苦手なのよ」
「それでなのね」
「そうなの、けれどね」
「何を作るかは」
「楽しみにしているわ」
「私もね」
 景子は自分のことについても言った。
「和食しか出来ないし。最近中華とか洋食も挑戦してるけれど」
「そっちどうなの?」
「作ってもどうしてもね」
「どうしてもって?」
「お醤油とか味醂とか鰹とかが欲しくなるのよ」
「つまり和風ね」
「そこからどうしても離れられないの」
 景子はそうだというのだ。
「どうしてもね」
「そこが難しいのね」
「どうしたものかしら」
 自分でも言うのだった。
「和食じゃないとどうしてもっていうのは」
「私は味が濃くて」
「逆に私は薄いのよね」
 彩夏と里香も言う、自分達のそれぞれの料理の味について。
「そこがね」
「どうもね」
「だから私達の中でお料理はね」
「やっぱり美優ちゃんよね」
「いや、あたしもさ」
 その料理上手の美優の言葉だ、見れば照れ臭そうに笑っている。
「そんなに」
「いや、美優ちゃんのお料理がね」
「私達の中だと一番いいと思うわ」
「皆どうしてもね」
「癖があるから」
「だからかよ」
「少なくとも一緒のもの作ってもね」
 琴乃も美優に言う。
「どっちが美味しそうに見えてどっちが味がいいかっていうと」
「あたしの料理の方がっていうんだな」
「そう、いいから」
 自分の料理よりもというのだ。 
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