| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

相棒は妹

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

蘭子『それはきっとやきもちやいてるんだよ』

 五月三日以来、志乃は俺と口を利かなくなった。というか、目を合わせようともしない。それが俺にとって苦痛以外の何物でも無く、ゴールデンウィークの期間をずっとモヤモヤさせていた。

 そう、ついに俺達はゴールデンウィーク中一回も会話しなかったのである。

 こんな思いをしたのは初めてだ。何故なら、俺と志乃はこれまで仲良く生活していたわけじゃなかったからだ。

 少し前なら、悩むどころか気にも留めたりもしなかっただろう。いきなり『今から志乃と話そう!』だなんて考え出したら、誰が見ても気持ち悪い。俺だって嫌だよ、そんなの。

 でも、今と前では話が違う。俺達は協力して一つの物を作り上げるという目的があるのだ。

 俺はあの日から、行動で示そうと志乃をカラオケに誘ったり、マイクを探したりしていたのだが、あいつは俺の行動を特に気にせず、ずっと部屋に籠もっていた。あいつが自分の部屋で何をしているのかは点で検討が付かない。強いて言える事なら、深夜にピアノを弾いている事ぐらいだ。

 ちなみに、カラオケに誘った時は無視された。仕方なく一人で行ったが調子が狂い、一度七〇点という俺崩壊な点数が表示されたのを機に店を出た。

 また、この超休暇を利用してマイクを探しまくったのだが、どこに行っても売っていなかった。一件だけそのマイクを取り扱っている店があったのだが、俺が行った前日に誰かが買ったらしい。それを聞いた時は軽いショックを受け、家に帰って茫然としていた。

 これらをまとめると、俺はこの大事な休みを自分でぶち壊し、全く有意義な生活を送れなかったわけである。

 明日からは学校。これだけの時間があれば、今頃動画作りの準備も捗っていただろうに。そう考えるだけで、胸が張り裂けそうになる。

 それでも、俺は諦める事は出来ない。今日はゴールデンウィーク最終日の午前。まだ時間はある。ネットでググって少しでも多くの店見つけて、マイクを購入してやる。

 少しでも前に進めるなら、県を越えてでもな。

 *****

 どうして素直になれないんだろう。どうして強く当たっちゃうんだろう。

 考えても分からない。ただムカムカする。でも、それは違う。兄貴は悪くない。全部、兄貴の隣にいた女狐がいけないんだから。

 でも、私の言動から、態度から、行動から、本当の想いとは正反対に転がってしまう。何故か兄貴に対して怒った口調をしてしまう。

 私はそれを、メールで五十嵐さんに聞いてみた。すると、直後に返信が返ってきて読んでみた。

 『それはきっとやきもち焼いてるんだよ!』 

 こうしてはっきり言われると何だか恥ずかしい。でも、そうなのかもと思う。

私は昔、兄貴が好きだった。でも、私のせいで関係が崩れて、その後はそれでも仕方ない、これが結果なんだって割り切ってた。

けど、兄貴は壊れた。私が失敗した時以上に壊れた。

 今思うと、私は本当にズルい人間なんだと思う。だって、兄貴が小さな挫折をして、それを『兄貴を矯正する』なんて名目で利用して再び関わったんだから。真正面からぶつからずに、きっかけを待ったの。

 でも、そのおかげで兄貴と普通に話せるようになった。少しずつ兄貴は過去のしがらみから解放されて、新しい目標を作る事が出来た。あっちは私のおかげだと思ってるんだろうけど、私は手助けしただけだしね。

 今の兄貴は、昔の兄貴に戻って来てる。これまでの兄貴はどこか焦ってて、不安げで見てるこっちが危ないなって感じる程だった。怪我した時なんて、人生が終わったような落胆の顔してたし。

 けど今は変わった。唯一昔と異なるのは、素の笑顔を浮かべているところかな。私が小学生の頃の兄貴は、どこか影のある笑顔だったのを覚えてる。なんか、辛そうにしてた。

 でも、だからこそ。だからこそ、今兄貴に甘えちゃいけない。ここで兄貴に無理な負担を掛けちゃいけない。

 分かってる。私が怒り続けると兄貴も元気が無くなることぐらい。このゴールデンウィーク、私が機嫌悪くて部屋から出なくても、兄貴はカラオケに誘ってくれたり、一人でマイクを探しに飛んで行ってた。謝って許されないなら、行動して認めてもらうしかないってことを、兄貴は知ってるんだ。

 そこまで理解しておいて、いまだに駄々をこねてる自分が情けない。兄貴に構ってほしいと思ってる自分が許せない。

 確かに、兄貴は自分が成すべき事がありながら、本山由実の猛攻に気圧されて振り回された。兄貴の性格だから、この前私に警告されて今度はちゃんと断れた筈。それでも断り切れない何かがあった。多分、あの腹黒女は、兄貴の弱点か何かを突いて無理矢理行かせたんだと思う。兄貴が否定する事が出来ない状態なんて、それぐらいしか無い。

 そもそも、あの女は何で兄貴に付きまとうの?まさか、自分に対して振り向いてくれないからとかいうビッチ臭漂うイカれた考えじゃないよね?

 どちらにせよ、今の私はこれまでと対応が違い過ぎる。五十嵐さんの通りなら、私はやきもちを焼いてる。だから、こんなにも正直になれない。

 明日は学校だ。朝から兄貴とは一緒なのに、私はどこまでバカなんだろう。

 きっと、また冷たい態度取って兄貴を困らせてしまうんだ。

 ……あ、でも一つだけ方法がある。

 これも兄貴を困らせる事だけど、これなら別に困ってくれて構わないかな。それに、本山由実に対する牽制にもなるかも。

 まぁ、私がちゃんと兄貴に向き合えたらの話だけど。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧