歳の差なんて
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第十三章
第十三章
こうして二人はまた会うことになった。しかしそこに来たのは二人ではなかった。待ち合わせのあのイタリアンレストランの中で奈緒はやって来た美香の隣にいる人を見て思わず声をあげてしまった。カンツォーネが流れる賑やかな雰囲気の店の中で思わず声をあげそうになった。
「嘘、まさか」
「あのね、奈緒」
美香がまず奈緒に声をかけてきた。
「色々考えたけれど私」
「そうなんです」
こう答える先生であった。
「二人でお話するより三人の方がいいと思いまして」
「だからなんですか」
「はい」
あの静かな微笑みで奈緒に対して頷いてきた。
「そうです。駄目でしょうか」
「いえ」
しかし彼女はここでは首を横に振ったがそれは拒否のそれではなかった。
「どうぞ。私も先生とお話したいと思っていました」
「そうだったのですか」
「はい、できればでした」
静かに答える奈緒だった。
「ですが。まさかここでなんて」
「予想外だったのですね」6
「その通りです。けれど」
話を続ける奈緒は今度は美香に顔を向けた。
「先生は新川のことをどう思っていますか」
「新川のことをですか」
「私は美香って呼んでいますけれど」
話が少し他人行儀になっていた。やはり先生とはいえ他人も交えているのであえて気をつけているのである。奈緒もそうした気遣いができるのだった。
「彼女のことを。どう」
「新川さんは素晴らしい方です」
にこりと笑って奈緒に答えてきた。
「本当に。心の清らかな方です」
「一途です」
まずは彼女をこう評した。
「それに嘘はつきません」
「それはもうわかっています」
ここでも静かに微笑んでいた。
「心が清らかな方ですよね」
「その通りです。それは保障します」
「そうです。ですが」
「ですが?」
「新川・・・・・・いえ美香でいいですよね」
直接先生に対して問うのだった。
「美香で。いいですよね」
「美香さんで、ですか」
「そうです」
奈緒の言葉が緊張で強張っている。美香は緊張した顔で美香のその顔を見ている。二人は今は互いを見ていないがそれでも互いを強く意識しているのだった。
「美香でいいのですね」
「何度も御会いしました」
ここでも微笑んでいる先生だった。
「何度も。そして」
「美香を御覧になられたのですね」
「ええ。そのうえでです」
「そうですか」
「美香さんとは確かに歳は離れています」
このことは彼もよくわかっているのだった。年齢のことはだ。
「ですがそれでも」
「好きなのですね」
「好きなのですか」
「はい」
先生はここでは緊張した顔になっていた。
「そうです。本当に」
「わかりました」
先生の言葉を聞いて真剣な面持ちで頷く奈緒だった。
「美香の気持ちもわかっていますか?」
「ええ」
また頷く先生だった。
「それはもう。御聞きしています」
「そうでしたか」
「娘もまたそれは知っています」
先生はこのことも話すのだった。
「それも」
「わかりました」
奈緒はまた先生の言葉を受けた。
「先生のお気持ちも事情も」
「駄目かしら」
ここでやっと美香が口を開いた。少し上目遣いになっているのがいささか弱気に見える。その弱気さが普段の美香と全く違っていた。
「私と先生じゃ。やっぱり」
「あのね、美香」
だがここで奈緒は。落ち着いた顔でその美香に対して言うのだった。
「言ったわよね」
「何を?」
「私は。美香の友達だって」
「ええ」
「親友だったわよね」
このことをあえて話すのだった。ここで。
「それは言ったわね」
「ええ、言ったわ」
「だからよ。私は美香が好き」
「私のことを・・・・・・」
「美香も私のことが好きなのよね」
「そうよ」
二人の気持ちは同じだった。しかしだった。そこにあるのは友情だった。二人の心からの友情がそこにあるのだった。
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