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歳の差なんて

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第十章


第十章

「何かね、私最近ね」
「先生とよく会ってるそうね」
 奈緒の方からこの話を返してきた。喫茶店で話をしている。洒落たイギリス風の喫茶店で凝ったことにかかっている音楽もイギリスやアイルランドの民謡だ。二人はその音楽を聴きながら向かい合って話をしている。奈緒はクレープを食べながら美香の話を聞いている。
「そう聞いているけれど」
「聞いていたの」
「ええ、少しね」
 こう話す奈緒だった。
「小柄な女の子が先生と時々会っているって聞いたから」
「小柄っていうだけでわかったの?」
「勘でね」
 また美香に答える。
「わかったのよ。ひょっとしてってね」
「鋭いわね、相変わらず」
「こういうことは得意なのよ」
 クレープとその中にあるバナナとアイスクリームを食べながら美香に告げる。
「勘には自信あるから」
「まさかとは思ったけれど」
「それはいいのよ」
 まずそれはいいとするのだった。
「けれどね」
「けれど?」
「あんた、これからも先生と会っていくのよね」
「ええ、多分ね」
 このことに少しぼんやりとしたものだがそれでも返事をする美香だった。
「悪い人じゃないし」
「それで何処までいったの?」
 奈緒はぶしつけにかつ単刀直入に彼女に尋ねてきた。
「もう。何処までいったの?」
「何処までって?」
「だから。キスとかはしたの?」
 本当に単刀直入にこのことを尋ねてきたのだった。
「あんた。どうなの?」
「キスって。そんなのは」
「まだなの」
「そんなところまでは全然いってないわよ」
 困惑した顔で答える美香だった。
「だって。お話とかするだけだし」
「今はそんなところなのね」
 ここまで話を聞いて納得した顔で頷く奈緒であった。
「何だ、まだ全然なのね」
「ええ、そうよ」
「とりあえずは。引き返せる範囲ね」
 奈緒は美香の話を聞いてこう結論付けたのだった。
「それを聞いて安心したわ」
「安心したの」
「相手は先生よ」
 奈緒の目が鋭いものになった。クレープの甘さは今はない。
「先生。わかってるわよね」
「それはわかってるわよ」
「歳、かなり離れてるわよ」
 今度は咎める目になっている。
「十何歳もね。普通のカップルじゃないわよ」
「カップルって」
「付き合えばの話よ。そうなればそうなるわよね」
「確かに」
「確かにじゃなくて」
 また咎める目を見せる奈緒だった。
「いいの?このまま付き合っていって」
「別に深い仲じゃなくて」
「今はいいわよ」
 今度は今は、という言葉だった。
「今はね。けれどこれからは」
「それを言われると」
「また聞くわよ」
 またしてもぶしつけに問う奈緒だった。
「先生のことはどう思ってるの」
「正直に言えってこと?」
「その通り」
 逃げるのは許さないといった口調だった。
「その通りよ。そこはどうなの?」
「そう言われると」
「怒ったりどうとかはしないから」
 このことを保障してみせた。
「そこは安心して」
「絶対なのね」
「女に二言はないわ」
 これまでになく強い断言だった。
「絶対にね」
「わかったわ。じゃあ」
 奈緒のその言葉を聞いて意を決した顔になる奈緒だった。
「それじゃあね」
「どうなの?」
「今はそこまではいってないわ」
 本当に正直に述べた美香だった。
「それはね」
「ないの」
「今は、だけれど」
 ここで顔を下に向ける美香だった。
「何かこのままいったら本当に好きになりそう。凄くいい人だから」
「そうなの。やっぱりね」
「好きになったら駄目かしら」
「だから。年齢が違うわよ」
 奈緒が言うのはここでもこのことだった。
「あんたはまだ十八、それで先生は」
「三十代も後半でしかも子供さんまでおられるのね」
「本気で付き合う相手としては辛いものがあるわよ」
 また言う奈緒だった。
「それはわかるわよね」
「ううん、確かに」
「それでもいいの?」
 奈緒の顔が少し前に出て来ていた。
「付き合うとなると。それでも」
「それは」
「よく考えなさい」
 また言う奈緒だった。
「よくね。普通の相手じゃないのよ」
「そうなの」
「歳が離れていればそれだけ」 
 またここを強調してきた。
「問題が出るのよ。本人だけの問題じゃないから」
「私だけの問題じゃない」
「そうなのよ。本当によく考えなさい」
 忠告になっていた。
「よくね」
「・・・・・・ええ」
「このことは本当に言っておくから」
 言葉がさらに釘を刺すものになった。
 
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