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新米提督お仕事日記

作者:ぜおぅ
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ろく。

 
前書き
新米提督が着任しました。
ふるぼっこ。 

 

「あの、司令官さん」
「………………」
「司令官さん?」
「──────」
「オイ聞けボンクラ」
「ぅぐぇふッ!」
 光の速さで唸る電ちゃんの右拳が我が鳩尾にクリーンヒット。容赦のかけらも見当たらない急所突きにわたくし転倒待ったなし。
「もうっ、なんなのですかさっきから。電が帰って来てからずっとダンマリとはいい度胸ですね。ボンクラだアホだバカだ使えなさそーだクズだ内陸に帰れウスノロと思ってはいましたが、まさか人の話を聞く耳まで壊れているのですか? 電、出来そこないの世話なんかしたくないのですよ? ぷんぷんっ」
「ちょ、ちょっと待って電ちゃん……どう考えてもそれっぽっちの擬音でその罵倒の嵐と上官への暴行は清算できない……」
「けっ、何が上官ですか、任命されたての新米ぺーぺーが。役職がちっとくらい上って程度で電と対等に話せると思ったら大間違いなのですよ。いいから立つのです、いい歳の大人が情けない。こんな少女の一撃で膝突くなんて恥も恥なのですよ」
「艦娘の君がそれを言う!? 言っちゃう!?」
 がばりと立ち上がって怒鳴ってみるも完全に馬耳東風である。電ちゃんは何の過失もありゃしないとばかりにへらへら笑っていた。完全にナメられてるっていうか見下されてますわこれ。っていうか何? なんか電ちゃんさっきまでとキャラ違くない?
「言ってみればランナーズハイです。命を懸けて戦うのです、気分も躰も高揚しようってものなのです」
「そんなものかなぁ」
 いまいち納得がいかないような気がしなくもないが、実際に命を賭して戦線に立ったのは彼女である。経験した事もない人間がとやかく言うのもおかしかろう。
「けど暴力はヤメテ。一応提督なんだから私」
「言葉の暴力は?」
「……できるだけ軽めでお願いします」
「なのですなのです」
 そのぐらいなら従ってやろう、とばかりに鷹揚に頷く電様。なにこの図。
「それは電が今この鎮守府で一番強くて司令官さんが一番弱っちいからなのです。悔しかったら威厳とか信頼とかその他もろもろ向上させて威風堂々してください」
「ぐうの音も出ねぇ……」
 もしも他にちゃんとした軍人の一人でもいたら今の会話(暴力含む)だけでかなりの大事になるところなのだけれど、幸い私たち二人しかこの場には存在していない。私の裁量で、これらは全てコミュニケーションの一環として片づけられる。
 ───というか、こんな事で電ちゃんに何らかの責が行くようなら絶対私の首から上が消えてなくなる。ヘタしたら全身粉微塵である。だってこの子つえーもん。物理的に。さっき見た敵艦への砲撃が、いつ私を撃ち滅ぼしてもおかしくないんだもん。正直チビりそう。
「はわわ、大丈夫なのですか司令官さん、冴えないツラがもっと冴えなくなってきているのです。目指すはブラックホールとかダークマターとかその辺なのですか?」
「誰のせいだと……いや、うん。色々言いたいけど言わない」
「まぁ聞きたくもないんでどうでもいいですけど。……さて、ではそろそろお夕飯でも食べに行くのです。電お腹減ったのです」
「電ちゃんてさ、もしかして私の事キライ?」
「説明した通り、この鎮守府には軍人は司令官さんしかいないのですが、電のようにそれ以外の方がいらっしゃったりします。さっきは深海棲艦のせいで案内しそびれましたので、今から案内するのです。付いてきてください」
「あ、スルー? スルーですね? そろそろ私泣いてもいいと思うの電ちゃん。───って、あ、ちょっと待ってちょっと待って。この体勢ってもしかして」
「もしかしなくてももしかするのです。司令官さんたらただでさえトロくさいのに歩くのまで遅いんですからお話になりません。電は空腹なので足早に行きますよ」
「あ、やっぱり? うぐぇっ」
 目の前の電ちゃんがその手を閃かすと同時に視界が回転し、私の体が宙に舞ったのを悟った。さっき見覚えたばかりの天井が目の前に広がる。次いで、背中に襲いくる電撃じみた激痛に情けない声をあげてしまう。が、当然彼女はおかまいなし。とんでも速度で司令官室を後にする。
「それじゃ出発なのでーす」
「あいだだだだあちちちちち電ちゃん電ちゃん背中熱いあっつい摩擦で熱い痛い熱い痛い熱いぃぃい!」
「どーおせみんなーMになるー、Mにーなーるー♪」
 なんだかご機嫌な電ちゃんの声に、戦慄を覚えざるを得ない私であった。 
 

 
後書き
☆電ちゃん一口メモ★

 無駄にシリアスなツラしてた理由がなんとなく読めました。
 さてはさっき質問しそこねた『艦娘』の資料でも読んだのでしょう。そのくらいで電たちの事を分かったつもりになられても心底迷惑でしかないのですが、まぁ、ある程度気遣いの出来る人間だという評価はしておくのです。
 
 ……前任者に比べれば、まぁ、少しはマシなのですかね。
 どうせこの人も、そう遠くない内に自害でもするのでしょうから、期待はしないでおきますが。
 
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