戦国異伝
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第百七十二話 戦を振り返りその十
「竹千代とは長い付き合い、それに徳川家は織田家の盟友じゃ」
「盟友ならですか」
「そう恩義に感じることはですか」
「水臭いわ」
笑ってこう言ったのだった、毛利と服部に。
「当然のことじゃからな」
「当然ですか」
「このことは」
「うむ」
こう笑顔で応えての言葉だった。
「困っていれば何時でもじゃ」
「金を出されますか」
「それを」
「金は大したものではない」
こう言った信長だった。
「信に比べればな」
「だからですか」
「徳川殿が困っておられればですか」
「何時でも出されますか」
「あれだけの金を」
「あれ位の金今の当家にはどうということはないわ」
千五十万石だ、堺や都、奈良も持ち多くの栄えている町が領内にある。しかも金山や銀山も領内にある。それではというのだ。
「だからな」
「徳川殿をお助けする為に」
「あれだけの金は」
「何時でも出すわ、そういうことじゃ」
こう言うのだった。
「竹千代は見捨てぬわ」
「では徳川殿には」
「この度のことは」
「伝えずともようがな」
それでもというのだった。
「そう思っておるわ」
「左様ですか」
「ではこのことはこれで終わりですな」
「うむ、竹千代には今は休んでもらう」
次の上杉との戦はいいというのだ。
「我等で戦うぞ」
「上杉とですな」
「越後の龍と」
「さて、負けぬことを考え様」
信長は笑って述べた。
「権六達にしてもな」
「その権六殿ですが」
ここで森が信長に言ってきた。池田と共に織田家の本軍を信長を助けて率いている彼が言ってきたのである。
「そのご気性を考えますと」
「戦うな」
「はい、そうされるかと」
「権六は織田家で一番の攻め上手じゃ」
ここでこう言った信長だった、柴田のことを。
「その攻めはそうそう適う者はおらぬ」
「しかしですな」
「この度は相手が悪い」
上杉謙信だからだというのだ。
「あの者はそうは勝てぬ」
「流石にですか」
「武田でも相当な痛手を負ったのじゃ」
川中島でのことだ、あの時武田は危うく多くの将兵を失うところだった。
「あれだけの者達を送ったが」
「それでもですか」
「勝てぬ」
謙信相手には、というのだ。
「相手が悪過ぎるわ」
「では殿」
森は信長の言葉に怪訝な顔になり彼に再び問うた。
「権六殿達は」
「いや、敗れはしてもな」
「それでもですか」
「あ奴は死なぬ」
それはないというのだ。
「先に向かわせた者は誰もな」
「死にませぬか」
「安心せよ、あの者達はそうは死なぬ」
柴田達への信頼も述べた信長だった。
「そしてあそこには猿夜叉もおる」
「あの方もですな」
「あ奴は危機にこそ強い」
それが長政の特徴だ、彼は姉川の時もそうだったが危機にこそその力を存分に発揮する男なのだ。だからこそだった。
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