ソードアート・オンライン -Need For Bullet-
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-Bullet1-(対戦車)銃使いの少女
「はっ……はっ……はっ……っ!」
赤い死の線が走る少女の身体を貫く
脚に力を込め、一気に目の前にあった瓦礫の影に飛び込む
一瞬の後に先程まで身体があったところをいくつもの弾丸が通り過ぎ、足に衝撃を感じた。
「ああ!もう!」
瓦礫の影から銃だけを出して撃つが、カンッカンッと弾かれる虚しい音が響く。
「まずい……どうしよう……」
――――――――――――――――――
「ここか……」
ボクはとある依頼で鋼鉄の廃墟……というより荒野に落ちた宇宙船の前に来ている。
まあ、来たからには中に入るわけだが……
「大きいよこの船……どっから入るのさぁ!」
推定全長500mほどの船体のどこにも入り口が見つからないのだ。数カ所外殻が破れているところはあるが中からまるで補修されたかのようになっていて入ることができない。
しかも、周りには警備のものか無人兵器がウロウロとしている。
唐突に赤い弾道予測線が視界を埋め尽くす。
「ヤバッ!」
サッと身体をかがめ近くの岩の影に転げ込む。
先程まで身体があったところをビームが通り過ぎ、姿を隠した岩にも突き刺さる。幸い岩を貫通するほどの威力は無いようだ。
こちらのメインアームはシモノフSKS
無人兵器の相手をするならビーム系の武装がいいのだが生憎手持ちにない。
「距離300……抜けないよね……」
無駄に装甲の厚いここの歩行型無人兵器はこの距離ではダメージは殆ど通らないだろう。弱点を狙うにしても遠い。
どうする……
そうだ。ダメージが通らないならダメージが通る距離まで近づけばいいのだ。
幸いな事に、ここは岩場が点在する。うまくいけば近づける。
SKSを肩にかけ、腰に吊ってあるホルスターからベレッタM93Rを抜く。
セレクターをセフティからバーストへと切り替える。
「よし……やっ!」
次の岩に向けて飛び出す。
当然、視界は予測線で赤く染まる。
それを前転するように転がって回避。さらに、発射点へ向かってM93Rを撃つ。
3発づつ発砲されるそれを続けざまにトリガーを引きフルオート並みの速さでばらまく。
9mm弾では装甲を貫く事はできないが、牽制と着弾による照準ブレを起こす事はできる。
岩の影に飛び込むと同時にベルトに挟んでいる弾倉へと手を伸ばす。それと同時にまだ弾の残っている弾倉を落とすと、新しい弾倉と入れ替える。
落とした弾倉をベルトにさしつつ、先ほどと同じような要領で次の岩へと飛ぶ。
ふと見ると、敵は止まって攻撃するのをやめてこちらへと近づいてきていた。
ありがたい。わざわざこちらから近づく手間が省けた。
M93Rをホルスターへしまい、SKSを構える。
セフティを解除し、スリングを左腕に巻きつける。こうする事で銃を安定させる事ができるのだ。
えいっと一気に岩影から飛び出る。転げるように敵の攻撃を回避しそのまま膝たちの体制で構える。
ビーム系の速射武器はほとんどの場合でクーリングタイム、チャージタイムが生じる。一瞬なら止まっても問題ない。
すぅ……と息を吸い込み、照準を敵の弱点へと合わせる。
はぁ……と息を吐き、引き金を絞る。
照準が安定した瞬間を見極めて引く。
ダンッダンッダンッ!
3発の弾丸は歩行型無人兵器の脚部関節と、武器マウント基部に吸い込まれていった。
動けなくすれば、あんなものはただの的に過ぎない。
SKSを構えたままゆっくりと無人兵器に近づく。
無人兵器はなんとか動こうとモーターを動かすが、空回りする音しかしなかった。
装甲の隙間に狙いを定め、さらに2発。
無人兵器は沈黙した。
「さっきの発砲音で気づかれたよね……」
早く中に入らないと……
こいつは数を残しておきたいけど、入れないんじゃ始まらない。
補修されたようなところに近づくとコンコンと叩いてみる。
「うん……いける。」
ガシャリと背負っていたカバンを下ろし、そこから小さめのコンビニ弁当くらいの大きさの粘土のような物を数個取り出す。
敵に見つかりませんように。
周囲を警戒しつつ、それを補修された外壁へと円型に並べて貼りけていく。そして貼り終わったそれに機械をサクサクと差していく。
「よしっと……」
少し離れた所にある岩場に隠れ、携帯電話ほどのスイッチを取り出す。
電源を入れると、ピッと貼り付けた物―C4爆薬につけられた起爆装置のスイッチも反応する。
安全ロックを解除……スイッチを握り込む。
ボンッ!という爆発音とともに、爆薬を貼り付けた形にそって壁が内側に倒れる。
ようやく中に入ることができそうだ。
砂煙が晴れるのをまち穴へと近づくと、暗いが中まで行けることがわかった。
「さーとっととブツを回収して帰ろ!」
頭にかけていた暗視ゴーグルをつけるとSKSを構えつつ中へと進んでいった。
依頼はこの船の中にある指定させた物品を回収すること。
それは直ぐに見つかった。
しかし、それを取り上げた瞬間けたたましい警報が鳴り響く。
どこからともなく、ガシャガシャと先の無人兵器と同じ歩行音が響いてくる。金属の内壁に反響してその数はわからない。
「ヤバッ!早く逃げなきゃ!」
脱兎のごとくブツの入ったラグビーボールほどのケースを持って駆け出す。
しかし、いくつかの角を曲がったところで例の無人兵器を発見した。
幸いなことにこっちは見つかってないみたいだけど……
そろりそろりと後退し、別の道へ…‥だけどあの通路は多分使えない……他の場所から出ないと……
さっき手に入れたデータによると、これは強襲揚陸艦らしい……
下の甲板にいけば出れるかも……
ガシャガシャという歩行音にビクビクしながらゆっくりと梯子を下っていく。
突然広い場所にでた。いくつかのコンテナや車両が並んでいる。
「車両甲板……かな……」
コンテナの影に隠れながら……そーっと中を見渡す。
どうやら敵影はなさそう……
「車がある…‥よし……あれで……」
「動くな。」
ッ!動き出そうとした姿勢のまま、まるで石化でもしたように固まる。
ウソ……気配も音も感じなかったのに……
「なんだ……ミウラか……脅かすなよ」
低い男の声の殺気がやわらぎ、銃口が下るのを感じた。
「アコード!いきなり後ろに立って銃口突きつけてそれはないんじゃないかな!」
振り返ると、そこにはM870持って、ベレッタM93Rを下げた男―アコードが立っていた。
「すまん。敵のNPCかと思ってな。」
「はぁそういやそっちは回収できた?」
「ああ、で脱出しようと思って……エアロック開けようとしたらミスっちまってな。警報がなっちまった。」
はぁ……とため息混じりにそう言うが、ため息をつきたいのはこっちだ。
どれだけ死にかけたと……
「アホ!ボクを殺す気?!」
「いやぁすまんすまん。」
ドォォン!
土煙とともに壁が崩れ落ちる。
その向こうからは、もう聞き慣れてしまったガシャガシャという音が……
「走れ!!」
二人共一気に駆け出す。崩れかけた船は隠れる場所には困らないが、同時に逃走も難しい。
何本もの予測線が身体を貫く。
一気に瓦礫の影まで飛び込むと、無数のビームと弾丸が襲ってきた。
「じ、実弾持ちまで?!うあっ!!」
少しはみ出していたのだろう。左足に銃弾が直撃し吹き飛ぶ。
「あ、足が……」
これでは移動もままならない。
「おい!大丈夫か!」
向こうのコンテナの影から男が心配そうな顔を覗かせる。
「無理。足がやられた!」
首を振りながら答える。
「ああ?ったく……てかミウラ、フィールド発生機はどうした!」
「…………忘れちゃった♪」
フィールド発生機があればビーム系のダメージは半減できるのだが……うっかり忘れてきてしまった。
「はぁ?!」
そう言うとアコードはコンテナのさらに後ろへと走っていく……
やがて、見えなくなった。
その代わりにガシャガシャという足音は大きくなっていく。
「ああ!もう!」
瓦礫の影から銃だけを出して撃つが、カンッカンッと弾かれる虚しい音が響く。
「まずい……どうしよう……」
ポーチからクリップに填められた弾丸を取り出し、弾切れになった銃に詰める。
「はぁ……報酬のいいクエスト選んだらこれかぁ……穴開きチーズにされて終わりかなぁ…‥」
まあこれは現実ではない。ゲームだ。数年前に開発されたフルダイブ技術をつかったVRゲーム『ガンゲイルオンライン』。それがこの世界の名だ。ジャンルとしてはVRMMOFPSらしい。舞台は最終戦争後の荒れ果てた遠い未来の地球。まあ詳しいことはグーグル先生に聞いてほしい。
ゲームといえど死にたくはない。だが片足がない状態ではどうしようもない。こっちは、セミオート式の小銃しかないのだ。ただでさえ不利なこの状況を打開することは不可能だ。
ついに足音が止まる。ふっと頭上から影がさした。
頭を上げるとそこにはところどころ錆びた無人兵器がこちらに銃口を向けていた。
「頭ぁ下げろぉ!!!!」
怒号に咄嗟に身を伏せる。
轟音が響き金属が悲鳴を上げる音とともに頭上の影が吹き飛ぶ。
ガンガンガンガンガンッ!
連続して響く轟音とともに周りの無人兵器が駆逐されていくのを感じた。
「おい。大丈夫か?」
「なんとか……ね……」
瓦礫をよじ登るようになんとか立ち上がる。
片足がないと結構辛い……
遠くから何か軋むような音が聞こえる。
「肩かしてやる。ハラスメントコールするなよ。」
アコードに肩をかりてようやく歩くことができる。
「ありがとう。」
「いいって。とっとと脱出しよう。」
先程の戦闘の流れ弾があたってできたのか、壁の一部が崩れていた。アコードに支えられながら何とかそこへ身体を押し込む。
と、不意に何かが軋むような音が大きくなった。
ギギギ……ミシ……バキンッ!
何かが折れる音がしたと思った次の瞬間、とてつもない轟音を立てて天井が崩れてきた。
風圧で身体が壁の穴から転げ落ちる。
「イタタ……なんなのさぁ……きゃっ!」
左足が無いのを忘れてバランスを崩し、また地面に転がってしまった。
「何やってんだよ。大丈夫か?」
またアコードに助けられながら船の外壁を伝い立ち上がり、先程転げ落ちた穴を覗き込む
「ごめんね。ったく……いったいなにさ。もう……」
土煙が立ち昇り、さらに中は少しくらいからよく見えない。
……何か……いる……
大きい影がガラガラと瓦礫をその身体から落としながら動く……
ふと目があってしまった……
その……大きな身体が微かな光の中に浮かび上がる。
まるで巨大な……トカゲのような……
「い……いやぁぁぁ!!!」
「っ!!」
ボクが悲鳴を上げると同時にアコードがボクを肩に担ぐ。
そして、近くの岩陰に隠してあった車へと猛ダッシュする。
バゴン!とさっきまでいた穴の近くの壁が外に大きく歪む。
「アコード!急いで!来る!!」
「わかってる!!」
ポイッと車の助手席に放り込まれる。
アコードが運転席に飛び込むのと、壁が内側から吹き飛ぶのはほぼ同時だった。
壁の中からゆっくりと巨大な影が這い出てくる。それはトカゲと言うよりむしろ、巨大なカメレオンのようだった。
車―チャージャーのV8エンジンが唸りをあげ、一気に岩陰から飛び出す。アクセルを床まで踏み込み、もうもうと土煙を上げながら一瞬のうちに巨大カメレオン型のボスを引き離す。
かと、思いきやカメレオンはそのLCACほどの図体に似合わない速度で追いかけてきた。
「もっと飛ばして!追いつかれるよ!!」
「わかってる!!くっそ……反則だろあの速さ……車じゃなきゃ死んでたぞ……」
アコードが巧みなハンドル捌きで点在する岩と時折後から飛んでくるボスの舌を回避しながらさらに車を加速させる。しかし、差はほとんど離れない。
このままじゃ殺られる……
シートを倒し後部座席に載せていたストレージボックスにアクセスする。
「おい!ミウラ!何する気だ!」
「このままじゃ殺られるよ!迎撃しなきゃ!」
M93Rで後ろの窓を撃ちぬく。
ダッシュボードに背中を預け先程ボックスから出した銃を選択する。
全長2mを超える大型のライフル。PTRD1941―ソ連製の対戦車ライフルだ。
シートに銃身を乗せ安定させ、薬室に銃弾を押し込む。
狙撃用のスコープなんて覗く必要がないほどにボスの身体は迫っていた。
トリガーを引く。薬室に弾薬を押し込んで槓捍を押す。トリガーを引く。
予測円に全体が入っているから狙いを絞る必要はない。それに、激しく揺れる車内では狙いを絞るのは困難だ。
当たるたびにボスモンスターが呻くからダメは入ってる……弾が尽きるのが先か……こいつが倒れるのが先か……
というか、こいつ2~3人用まではミッションに出てくる敵じゃないでしょ!バランスおかしいよ!
「くっそぉ……てかこいつのHP多すぎるよ!」
この前のクエストで使って残弾が少ない。今回、こんなボスが来るなんて思わなかったから補給は後回しにしてたのだ。
「どうしよ…………」
突然、爆発とともにボスモンスターの身体が揺らぐ。
「RPG?!……まさか!」
『ヒャッホー!!姉御ォ!助けに来たぜ!!』
『おらやっちまえ!!!』
『『おらぁぁぁ』』
次々とピックアップトラックやSUVが現れる。
雨あられと銃弾やロケット弾、ビームがボスモンスターに浴びさられ、流石のボスもよろめきその足をゆるめる。
「あいつら……」
ったく……っとアコードがハンドルを握りながらやれやれと首をふる。
「まったく……って姉御って呼び方ヤメロ!」
ピックアップに乗った仲間達は聞く耳をもたず、足を止めたボスモンスターの周りをぐるりぐるりと回りながら攻撃を与えている。
「聴いてないし……アコード!ボク達も行くよ!」
「おう!」
車を停止すると同時に助手席から飛び出てPTRD1941を車から引っこ抜くと、ボスモンスターを狙える岩場まで駆け出した。
「頼もしいね……ほんと……」
対戦車ライフルを抱えて走っていくミウラとボスモンスターを囲み、絶え間ない銃撃を加えてる仲間達を見ながら呟く。
ミウラと俺で立ち上げたこのスコードロンは総勢16人だが、稼ぎでは他の30人以上の中規模のスコードロンと比べてもトップクラスに入る。
自動車を用いた高起動戦術がうちの特徴で、その分沢山稼げるが燃料代も考えると最終的な利益はそこまで多くない。
まあ、それでも全員分の接続料を払って有り余るくらいあるが
ミウラは数少ない女性プレイヤーでそれ目当てにこのスコードロンに入った奴もいるが、あいつの教育……の成果で変な事をする奴はいない。おかげで姉御とか呼んでいる奴もいるが……
さてと……俺も行くか……
後部座席のストレージボックスからMG3を選択し、装備する。
ボンネットの上にバイポッドを展開し、フルオートで銃弾を叩き込む。
この人数で叩いてる事もあって、ボスのHPはガリガリ削れていく。2段あったHPゲージは既にレッドゾーンまで達した。
RPGなんかもどんどん撃ち込んでいるから、弾代が凄そうだな……
『あと一息!全員一斉射撃!!!』
ミウラが無線にそう叫んだ時、ボスモンスターのギロリとした目がミウラをとらえる。
ミウラのしまったという声が一瞬聴こえた気がした。
ボスモンスターはその舌を目にも止まらない速さで50mくらい離れたミウラが隠れていた岩に叩きつける。岩は一瞬で砕け散り、ミウラの身体がぽーんと空中に放り投げられる。
『いやぁぁぁぁぁぁぁ!!』
ゴキュリ…………
皆が呆然と眺める中、その音とともにミウラの身体はボスの腹の中へと消えた。
一瞬後にボスにはこれまでに無いような量の銃弾が叩き込まれ、四散した。
『…………』
「……あー……迎えに行くか……」
後書き
対戦車ライフルっていいっすよねぇ……
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