問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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力と対価
一輝は樹からずるずると滑るように地面に倒れた。
自分に相手の注意が向いている間は気を張っていたので樹にもたれかかったままだったのだが、湖札が放った矢によって注意が逸れてからは、一瞬で全身から力が抜けてしまっている。
そんな状態でもそれからは目をそらさず、湖札が黄金の矢を放って戦っているのを見ているのだが、一輝はあまり湖札が有利だと判断できずにいた。
確かに、湖札の矢は当たったところを霧散させている。それでも、それの存在が削られているようには感じられなかったのだ。正確にいえば、削られたそばから元に戻っている。
どうして存在そのものを削られているのに戻るのか、一輝には分からない。
それに一つの存在理由があり、その存在理由ゆえに湖札が女神に与えられた力では倒しきれないことなど、一輝に知るすべはないのだ。
だがそれでも、直感的に湖札はいくらやってもとどめを刺せないと、理解していた。
「・・・・・・このままじゃ、ダメだ・・・」
一輝はそう言いながら全身に力を込め、立ち上がろうとするもののそれはかなわずに再び倒れる。
先ほど攻撃された関係で既に一輝の体はボロボロ。諸事情により生きてこそいるものの、普通の人間なら死んでいて当然と言っていい状態なのだ。
「同族の気配を感じてきてみれば・・・なんじゃ、生まれたてか。』
そして、そんな状況の一輝の横に何かが現れた。
「この世界にも飽いておったところに見つけたから、暇つぶしになるかと思うてきてみれば・・・あれはダメじゃのう。失敗作の中でも失敗作じゃ。』
それは今湖札が戦っているのと似た存在。しかし、それとは違って経験の様なものを感じ取れる。
「じゃがまあ、面白い物は見つけられた。おんし、名を何と言う?』
一輝の目の前にしゃがんだそれは、一輝にそう問いかける。
一輝はそれを見て、生を感じ取った。いくら手を打っても消えることのない、永久の生を。
そして同時に、死を感じ取った。近くにいるだけで命の灯が消えてしまうような、虚無の生を。
さらには・・・それの形を、視ることができなかった。正確に言えば形はなかったが、そこにいることだけははっきりと分かった。
「・・・鬼道、一輝。」
一輝はそれに対して、何も考えずにそう答えた。
少しでも言い淀んでしまえば生を吸い取られ、灯を消されてしまうように感じて。
「一輝、か。よき名じゃ。そして、強い魂を感じる。おんしの成長を見るというのも、老いぼれが過ごすにはよきスパイスとなるやもしれん。』
そういうと、それは一輝に向けて手を差し伸べた。
「一輝よ。おんし、力が欲しくはないか?』
「力・・・?」
「うむ、力だ。幸いにもおんしはあの血を引く者のようじゃし、都合も良い。』
そこで一度言葉を切り、内容を告げる。
「全ての敵を打倒しうる圧倒的な力。極めれば世界の理すらも打倒できる力が、欲しくはないかのう?』
「・・・それがあれば、あれを倒すことも出来る?」
一輝はそう言いながら、湖札が戦っている物を指差す。
「出来るであろうな。あれは生まれたばかり、それも失敗作じゃ。それを屠ることなど、容易いであろう。・・・ただし、奥義は習得できなくなるやもしれん。』
「奥義が・・・?」
「うむ。この力は、ありとあらゆる障害を打ち破る力となろう。さすれば、奥義も必要なくなるものだ。』
必要ない物は、会得できまい?それはそう言って、選択を迫る。
「・・・それでも、その力がないとあれは倒せないんだよね?」
「今の一輝の力では、まず間違いなく倒せぬ。あの小娘と力を合わせたところで、その事実は変わらんであろう。』
「それでも、その力があれば倒せるの?」
「何度も言っておるであろう。あの程度、倒せぬ道理はない。』
その言葉で、一輝の心は決した。
「なら、いいよ。その力を俺にちょうだい。」
「よいのだな?』
「うん。そんなことで二人とも生き残れるなら、それでいい。」
「ほう・・・当然ながら、対価もいただく。生命力を使うごとに徴収させてもらおうかのう。何、しっかりと睡眠をとれば戻る程度じゃ。』
「別にいいよ。それくらいなら、くれてやる。」
最後の確認は、
「これは契約じゃ。ワシがおんしに封印されて力を与える代わりに、使うたびに対価を徴収する力を授ける。これはおんしら人間から見ても、一族から見ても悪となる所業じゃぞ。』
「・・・別にいいよ。守りたい者も守れないなら、俺は悪でいい。・・・俺は、外道だ。」
一輝の心は、ここで決まった。
正しき道をたどっては大切な人も守れないなら、自分は悪でいい。
悪ですらなせぬことがあるのなら、自分は外道でいい。
「よき覚悟だ!より一層、楽しみになったぞ!』
そう言いながらそれは一輝に触れ、自ら一輝の檻の入口を開いて封印される。
そしてその瞬間、一輝の中に新たな力が生まれた。
そして、一輝はそれの使い方を本能的に理解して・・・空気を操り、湖札が戦っているそれに対して、ぶつける。
「・・・・・・・・・』
それはその攻撃を喰らって一輝の存在を思い出したのか、一輝の方を視て・・・驚いた、ように見えた。
まず間違いなく立ち上がることも出来なかったはずの一輝は、樹に手をついて立ちああり・・・そのまま、二本の脚で自立した。
外から見ても分からないが、折れていたアバラの全ては限定的に増加した万有引力によってつながれ、脚の骨も同じ方法によってつながったので、自力で立っている。
さらに言えば、叩きのめされていたことによって弱っていた魂すら、魂そのものを操り修復されている。
死寸前であったその生命が完全に復活しているのだ。驚かない方が、無理である。湖札も同様に驚きを示していたのだが、それどころではないと気丈に弓を構えた。
そして、湖札は注意が逸れた隙に矢を放ち、何かをしようとしていたのを霧散させて・・・次の瞬間、一輝がそこをさらに抉った。
湖札のように何かを使ったのではなく、怪しい翠に輝く光を纏った手で殴っただけ。その攻撃は確かにそれの存在を削って・・・そこが治ることは、なかった。
一輝はそこで光に叩かれ、距離を取らされたが重力を強化することで飛距離は伸びず、過ぎに地面に足がついた。
一輝はそこで手を横に伸ばして・・・手の中に、翠に輝く禍々しい大鎌が現れる。
「・・・・・・!?』
大鎌を見てそれは驚きの・・・いや、恐怖の気配を漂わせたが、一輝はそれを気にせずに近づく。
そして、それは恐怖から本能的に逃げようとしたが・・・一輝が逃がすことはなく、大鎌をふるう。
大鎌はそれを傷つけはしなかったが、その代わりに魂に直接攻撃をした。
さらに一輝は、大鎌で追撃をする。一度切られて飛ぶことも出来ず、地に落ちたところを・・・上から叩きつけるように、大鎌で斬った。
その攻撃でそれはようやく息絶えて・・・魂を両断され、一輝と湖札の中に封印された。
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一輝と湖札の二人がそれを倒してから数分後、青い光を見て異変に気付いた星夜が慌てて駆け付けると、一輝と湖札の二人が倒れているのを発見した。
そして、二人を見て星夜はすぐに気付いた。二人が一族の役目をなしてしまったことに。
一輝が成してしまったのは、まだ何とかなる。本家の息子なのだから、自分の監視下に置いておくことができる。だが、湖札は違う。どうしようかと悩んでいるところに・・・彼に式神から、贄殿家の二人の死体を発見したという知らせを聞いた。
そして、二人をどうするのか。それが決定した。
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「う~ん・・・ここは?」
一輝は目を覚まし、布団から何のぎこちなさもなく立ち上がった。
そして上を向いて天井を見て、腰を回して周りを見てから状況を把握した。
「そっか・・・俺、集まりの最中に寝ちゃったんだ。」
思い出してみると、最後の部分の記憶は集まりでの食事が終わったところだ。お腹がいっぱいになって眠くなったのだろう、と理解した。
そう判断すると立ちあがって、一つ背伸びをしてから部屋を出ようとして・・・襖を開けたら、そこにいた少女とぶつかった。
一つ下くらいの少女。はて、この子は誰だったか・・・と、その子が上を向いて顔を見ると、すぐに分かった。
「あ・・・お兄ちゃん、起きたんだ?集まり、もうそろそろ初代様へのあいさつをやるから起こして来いって。」
うん、そうだ。妹だ。五年前に妹になって、自分は兄になった。
何でわからなかったのだろう、と一輝は心の中で首を傾げたが、
「ああ。おはよう、湖札。」
いつも通りに。
記憶の中で自分が呼んでいるのと同じ呼び方をした。
これが、二人の出会いであり、兄妹となった経緯。
一族の集まりの次の日、二人は登録上正式な兄妹に、事実としては義兄妹となった。
ありもしない過去の記憶を、星夜が植え付けて。
なかったはずの力は、元から持っていたという記憶を持たせて。
幼き身には強大すぎる力には、封印をかけられて。
そうして・・・二人は、兄妹となった。
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