戦国異伝
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第百七十一話 三河口の戦いその十
「今暫く休まず頼むぞ」
「こ、これ位何でもない」
ここでこう言ったのはあや取りだった。
「と、殿は気にしないで欲しい」
「そう言ってくれるか、ではな」
「そ、それでは」
あや取りが応えてだ、そしてだった。
飛騨者達は信長の下に戻ってすぐに加賀に発った、そしてだった。
信長もだ、十万の兵を率いて加賀に向かう。その左右にいるのは池田と森、毛利と服部だった。その他には松永がいるが他の主だった将達は既に加賀に向かっている。
その中でだ、松永は飄々とした顔で己の家臣達にこう言った。
「この戦は引き分けじゃな」
「ですな、織田家も武田家も」
「どちらも」
「兵の数では織田家の方が上でしたが」
「兵の強さは武田家が上でした」
松永の家臣達は冷静に述べていく。
「将帥の質は互角」
「数は将帥も織田家の方が上でしたが」
「あの者が頑張ったわ」
ここで松永が話に出したのは彼だった。
「真田幸村、あの者がな」
「まこと恐ろしい者でしたな」
「まさに一騎当千でした」
「戦の采配も見事でした」
「非の打ちどころがありませぬ」
「あれだけの男がいるとは」
「天下一の漢じゃ」
松永もだ、幸村をこう評したのだった。
「あの者はな」
「まさか前田慶次と一騎打ちを演じるとは」
「それも互角に」
これだけでも驚くべきことだった、慶次はその武芸では織田家でも右に出る者はいないからだ。彼の叔父の前田や可児でようやく太刀打ち出来るといったところだ。
「恐るべき者」
「あれであの若さとは」
「やがてどうなるかわかりませぬ」
「天下の動きをも左右しかねません」
「そうじゃな。しかし慶次殿じゃが」
ここで彼のことも言う松永だった、その顔は今も飄々としている。
「楽しそうじゃったが」
「確か慶次殿はあの者と顔見知りでしたな」
「都で会っておりますな」
「うむ、そうらしいな」
このことは彼等も知っている、慶次と幸村は都で出雲の阿国を交えて楽しく談笑している。その時のことをここで話すのだ。
「どうやらな」
「それで楽しく槍を交えていた」
「そういうことでしょうか」
「そうであろうな。何百合と打ち合ったが」
それで決着はつかなかった、これは井伊と彼の一騎打ちでもだ。
「実に楽しそうじゃった」
「あれこそ戦人ですか」
「そういうことですか」
「うむ、そうなる」
まさにそうだとだ、松永は己の家臣達の言葉に頷いて答えた。
「あれこそな」
「殿、それでなのですが」
ここでだ、家臣の一人が松永に鋭い目になり言ってきた。
「真田幸村も」
「我等の驚異となるか」
「あの者の気は陽ですな」
「むしろ陽しかないわ」
幸村には陰がないというのだ、その気が。
「あの御仁はな」
「では」
「いや、あれだけの武芸の持ち主じゃ」
だからだとだ、ここでこう言った松永だった。
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