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戦国異伝

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第百七十一話 三河口の戦いその九

「よいな」
「そして先陣をですな」
「務めよ。しかし」
「しかし、ですか」
「相手は上杉謙信じゃ」
 軍神と称される彼だからだというのだ。
「そうやすやすと勝てる相手ではない」
「だからですか」
「無理はするな、五万の兵で勝てる相手ではない」
「では殿が来られてから」
「逃げよ」
 そうせよというのだ。
「下手をすると死ぬぞ」
「だからですか」
「御主達が死んでもらっては困る」
「それ故に」
「よいか、上杉の軍勢が来たら逃げよ」
 戦うよりもというのだ。
「加賀でこれまで確かな領地にしておる場所を守れればよい」
「加賀のですか」
「手取川の南には進ませるな」
 具体的にはその川を渡らせるなというのだ。
「わかったのう」
「はい、さすれば」
「そういうことじゃ、ではな」
「わかり申した」
 こうしてだった、織田家の名のある諸将が早馬で越前に向かった。馬を駆けさせ馬の駅で乗り換えていってだった。
 彼等は越前に向かう、そしてだった。
 信長も岐阜と尾張への備えとして五万の兵を率い残り十万の兵を率いて越前、加賀に向かった。その中で。
 飛騨者達が戻ってきた、彼等はというと。
「ふむ、御主達全員無事か」
「ああ、この通りな」
「我等は皆無事でござる」
 煉獄と拳が答えてきた。
「この通りぴんぴんしてるぜ」
「ご安心よ」
「それならよい、よくぞ生きて帰ってきた」
 信長は彼等に顔を綻ばせて言った。
「まあ死ぬとは思っていなかったがな」
「それは何よりだよ」
 風が笑って応える。
「信じてくれてるんだね」
「うむ」
 その通りだとだ、信長も笑って答える。
「御主達ならな」
「有り難いね、それでだね」
「戻ってきて早速じゃがな」
 こう言ってだった。
「今度は北陸じゃ」
「上杉だな」
 からくりが言う。
「あの家か、次の相手は」
「左様、今度は上杉謙信じゃ」
 この男と戦うというのだ。
「そうなる」
「じゃああたし達も行くね」
 風は笑顔で信長に応えた。
「すぐにね」
「御主達は山を越えて権六達より先に加賀に入れ」
 向かうのはその国だというのだ。
「よいな、上杉とはあの国で戦になる」
「既に久助は加賀に向かって発った」
 甲賀者を使う滝川はとだ、信長の傍らにいる池田が述べた。
「御主達も急いでくれ」
「それでは」
「我等も」
「上杉との戦の後でゆっくり休むのじゃ」
 今はそれが出来ないがとだ、信長は飛騨者達にこうも話した。 
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