魔法薬を好きなように
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第3話 俺って一応人間だよな
昼食はやはり『アルヴィーズの食堂』にて、モンモランシーの横に座って食事をしていたが、だいたい食べ終わり、まわりの話を聞きながら、デザートが来るのを待っているところだ。
そうしているとモンモランシーが、まわりと話をしていないで、とある方角を向いているので、その視線の先を見ると、制服をキザったらしい恰好に変更している男子生徒がいる。そのそばに数人集まっているところへ、茶色いマントをした少女が何か話しかけているところだ。
聞こえてきた「ミス・モンモランシー」という単語で、モンモランシ―がぴくっと、反応している。しばらく、成り行きをみていると、キザな制服の男子生徒は先ほどの女子生徒に、見事な平手打ちをくらっていた。その瞬間、モンモランシ―が立ち上がったので、おっ、修羅場になるかと思ったら、先ほどの女子生徒は、立ち去っていって、かわりにモンモランシ―が近くによっているが、ここからだと、相手のキザな服装の男子生徒の話は聞こえるが、モンモランシ―の言葉は聞こえづらい。
ただし、その行動だけはしっかり見えた。テーブルの上に置かれたワインのビンをつかんで、そのビンの中身をキザな服装の男子生徒に頭からかけていた。お見事。
モンモランシ―は「うそつき」とひとこと言って、そのまま『アルヴィーズの食堂』の出口に向かっているので、どうするか逡巡したが、結局はモンモランシ―のあとを追いかけることにした。
先ほどのキザな制服をきた男子生徒のそばを通りすぎるところで、ルイズの使い魔にいちゃもんをつけはじめていたようだが、ギーシュというのか。トリステインの女性貴族のプライドは高いから、多分、元カレってところになるんだろうと思いつつ通りすぎた。
モンモランシ―は『アルヴィーズの食堂』を出たあと、少々歩く速度が速くなっている。俺はその後ろを少し離れながらついて行ったら、女子寮の自室に入っていったのをみとどけて、昨日あったばかりのモンモランシーにかける言葉もというか、かけることさえ良いことなのか判断できずに、女子寮と男子寮をつなぐフロアの椅子に腰をかけることにした。
さて、落ち着いて考えると、知り合ったばかりでプライドの高い女性貴族へ、下手な声掛けは無用の長物。部屋からでてくるのを、階段のあたりでも待っているかと向かうと、ちょうどルイズたちがきた。誰かがけがをしているようだが、この魔法学院で? っと思いながら、通過するのを見ていると、ルイズが泣きながら、怪我で気を失っているであろう使い魔の少年を、他の女子生徒に運んでもらっているところだった。なんで、あんな怪我なんかしているんだと不思議には思ったが、こっちもモンモランシーが気にかかるので、どういう意味をもっているのかまでは、気が回らなかった。
さて、授業開始の5分前になろうとしたところで、モンモランシーが部屋からでてきた。
顔をみると化粧でごまかしてはいるが、眼が赤くなっているのと、まぶたもはれている。自分の魔法では治しきれなかったのだろう。
「モンモランシー。ちょっと30秒ほど俺に時間をくれないかな?」
「何?」
俺はそれには直接答えず、彼女へ向かって治癒の呪文をかける。彼女も自覚があったのだろうか、何も言わずに黙って受け入れていた。
「もういいよ」
「そう」
そう言って、二股をかけられていただろうことを、自分から振ったというふうにでも内心をすりかえているのだろうが、休むよりましと、プライドの高いところをみせているのだろう。
教室についたところで、モンモランシーと席につくと教室の雰囲気が、朝とだいぶ違っている。何やら、ギーシュがルイズの使い魔、平民に決闘で負けたとの噂でもちきりだ。
先ほどのルイズの使い魔の状態からいって、ギーシュはゴーレム使いか。それを倒すとは、メイジ殺しの使い手だったともいえるが、具体的なことはよくわからんな。個人的に興味はあるが、隣に座っているモンモランシーの手前、積極的に聞きにいくこともできず、少々もやもやとするなぁ。
授業が終わって、夕食の時刻までは自由となった。
とりあえずは、寝泊りさせてもらっている来客用の部屋には、アミアン家からの手紙が届いていたので中を見てみると、書かれていた内容は大まかにいって3点。
・使い魔になることは確実なので、その方面で話をモンモランシ伯爵家と話は進める
・魔法学院には、男子寮の手配をしておく
・必要な実験用具なんかは、首都トリスタニアにある家へとりに来い
ついでに、可能だったら、主人となったモンモランシ伯爵家の娘も顔をみたいって、こっちは男爵家で、モンモランシーは伯爵家の娘か。家の格の違いからいって、顔をたてているんだろうなぁ。
ついでにモンモランシ家の家族構成とかも書かれている。モンモランシ―は長女であるが弟は二人いるとのことで、モンモランシーがどこに嫁ぐことがはっきりしないと、しばらくはモンモランシ家の衛兵でもおこなうの、って感じだろう。自分の人生中々思い通りにいかないものだ。
結婚もそのあとになるだろうから、適当に遊べる相手でも見つけるのがよかろう。当然のことながら魔法学院の外でだが、今までの相手とは、魔法衛士隊の騎士見習いということから、俺の将来性を見越してつきあっていた部分もあるかもしれないから、このあたりはまずはあてにしないことだな。って、よく考えれば相手はほとんどが既婚者だったから、あまり深く考えないで、独身だったあの娘だけはきちんと連絡をとるか。どうやって、連絡をとるかってのは、一度明日にでも伝書ふくろうでも使うか。
夕食の時刻までまだ少しあるので、魔法学院の中を歩ける範囲でまわってみると、地下に風呂場がある。そういえば、兄貴も言っていたなと思い出し、今日は風呂にでも入るかといったところで、夕食の時間がせまってきているのに気が付いた。俺はまた『アルヴィーズの食堂』の出入り口でまっていると、モンモランシ―がきたので、後ろをついていく心構えをしていたら、モンモランシーが目の前でとまって「ジャック。食事のあと、小一時間ぐらいしたら私の部屋まできて」というと食堂の中へ入っていった。俺は一瞬ぽかんとしてたが、彼氏がいなくなったから、魔法薬の研究か、それとも俺と遊ぶ気でもとかも考えたが、それはさすがになかろうと思い、おいかけるようにモンモランシ―の後についていった。
食事の時には、まわりの声は大きくはなくとも、昼食後のギーシュとルイズの使い魔の話題が聞こえてくる。最初はルイズの使い魔がギーシュの7体のワルキューレ、ゴーレムの名前だと思うが、それになぐられっぱなしだったのに、ギーシュの作った剣を握ったら、目にもとまらない速さで、ワルキューレを倒して、ギーシュに剣をつきだしたって。こういうのは誇張が入るものだから、ワルキューレを1対か2対をたおしてから、それでギーシュに剣を突き出して負けをみとめさせたか、2対ぐらいづつたおしていっては、ゴーレムがもっていた武器を奪って最後にギーシュへ剣を突き出したってところだろう。
まあ、階段でみた怪我からかんがえると、後者の方が可能性は高そうだけどなぁ。
これらの噂話に、モンモランシ―はにこやかに返答しているが、内心はどうなんだろうね。気にかけておくべきか、そうでなくてもよいかは、食事のあとに行くモンモランシ―の部屋であった時に、なるようにしかならないだろう。
食堂をモンモランシ―より早く出て、俺はひとっ風呂あびていったん部屋にもどってから、モンモランシ―の部屋に向かった。多分違うだろうが、夜に部屋へと入るお誘いがあったので、下着の洗濯も完璧だ。もともと固定化をかけてあるから、汚れや臭いも付きにくいが、簡単に水洗いをしてから、水系統の魔法で脱水をしておしまいと。こんな時、水系統のメイジが多かった家に生まれてよかったと思うときはないぜ。なんか小さな幸せ気分だな。
俺が食堂をでてから一時間ちょっと過ぎ。モンモランシ―の部屋に入るには良い時間だろうと、部屋のドアをノックした。中からは「誰?」ときかれたので、「ジャックです。モンモランシ―」と答えると、「入っていいわよ」ということなので、そのまま中に入ったところで、制服姿のモンモランシ―がテーブルについていた。テーブルにはワインのビンはあるが、あまり高そうにみえないってことは、飲み水かわりのワインかな。
テーブルの反対側の席を指示されたので、そこに座るとモンモランシ―から、ワイングラスにワインをそそがれて、
「昨日はいったん、ことわったけれど、魔法薬の実験を一緒に行うのはよろしいかしら?」
ああ、ギーシュの件がなくなったから、彼氏と間違えられても、とりあえずは問題ないと考えているんだな。卒業までに、また彼氏を作った時に、どうなるかまでは思考がまわっていないのだろうが、モンモランシ―の恋愛事情にあまりたちいるの必要もないと考えて
「ええ、喜んで一緒に行わせてください」
「それはよかったわ。それで相談なんだけど、今度の虚無の曜日から、トリスタニアへの化粧品店の往復をつきあってもらうのと、薬草集めに協力して」
「トリスタニアに行くのは構わないのですが、薬草集めは、今度の虚無の曜日ではなくて、その次からではいけませか?」
「あら? なぜかしら」
「ご存じのとおり、魔法衛士隊で騎士見習いをしていましたから、住んでいたのもトリスタニアで、父と兄と一緒だったんですよ。それで、俺の実験道具は扱いきれないとのことで、かたずけにこいと手紙がきてましてですねぇ」
「それならしかたがないわね。行くのは荷物があるから一緒にきてもらえるとありがたいけれど、化粧品店へよったあとはわかれましょう」
「できたら、俺の父にもあっていただけませんか? 父がどういう貴族に使い魔と召喚されたのか、挨拶をさせていただきたいと、手紙には書いてあるのですよ。まあ、できればの話ですが」
少しばかりモンモランシ―は考えてから
「挨拶をするのは時間があえば、よってあげるわね。ただ、挨拶だけよ」
「そうですね。そんなものでよいかと思います。あと、興味があれば、実験室も覗いてみませんか? 全部はさすがに魔法学院にもってこれなさそうですので」
「そんなに多いの?」
「多いというより、今となっては入手がしづらい魔法装置なんかもあるので、魔法学院でなくて、自領の倉庫に送り返すつもりなんでしょう。俺自身が長男だったら、それをもってこれたかもしれませんが、次男ですからね」
「わかったわ」
「それでは今度の虚無の曜日というと明後日ですよね。明日、もしくは今日このあとはどうしますか?」
「そうね。ここで実験している内容でもみていくかしら」
「いいですね。ワインを飲んでからでも」
そのあとは、どちらかというと、お互いの水系統の魔法薬の知識の確認をしながら飲んでいるという感じになって、ワインがきれたところで、
「よければ、そろそろ、説明していくわね」
「ええ、香水はわかりますが、あとはここからだとよくわからなかったので、お願いします」
立ちながら簡単に説明していくモンモランシ―の話をきいて、一角をさけているのに気が付いた。
「こちらはなんですか?」
「えー、そのー、そう。薬草を乾燥させたりしているのよ」
まあ、たしかにそうだけど、異彩をはなっているビン類がある。まわりのや薬草とかをみてピンときた俺は、
「避妊薬ですね」
「……私が使っているわけじゃないわよ」
横を向いて答えている。俺が作れる魔法薬の中で類似のものを思い出し、モンモランシ―に
「上級貴族の未婚女性にとって、もっと興味をひく魔法薬を紹介しましょうか?」
俺のおしりからは、先が三角で真っ黒いしっぽがゆれていたかもしれない。
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